第11話 クラウディア・シルフィード
リンたちが狩りをしているところへやってきた、クラウディア・シルフィードと名乗る軍服の少女。
霧に包まれた危険地帯の真っただ中で、女の子3人が顔を合わせるという奇妙な光景になっている。
「えっと……クラウディア、さん?」
「さんは付けなくてもいいわよ。
たぶん、同じくらいの歳でしょ。私は中2だけど」
「じゃあ、みんな同じですね」
「服装はバラバラだけどね……」
リンはゲームの女性キャラのような可愛いコスチューム。
ステラは魔女、クラウディアは軍服と、まるで統一感がない。
しかし、身長や体型にそれほど差はなかった。
ステラがけっこう『大きい』以外は、みんな順調に成長しているJCといった感じだ。
「あたしはリン、こっちはステラ。
それで、クラウディアは私たちに何か用?」
「まず聞きたいんだけど……
この画像に写ってるの、あなたたちでしょ?」
「あっ! それは前にステラのルームで戦ったときの!」
クラウディアが空間に表示させた画像には、ド派手な戦いの様子が写されていた。
片や機械装甲を身にまとった三頭最終形態のワイバーン。
もう片方は悪夢を具現化したような漆黒の宇宙ワイバーン。
2体の飛竜が壮絶な決闘で激突し、それぞれを操るのは中学生の女の子。
その画像はリンの兄であるユウが観戦しながら撮ったものであり、SNSにアップしたところ、世界中から大きな反響を得たらしい。
「この沼地でも、かなり荒稼ぎしてるみたいね。
あなたたち、ちょっとした有名人よ」
「えっ、そうなの!?」
「まあ……目立ちますからね。
スピノとか連れて歩いてましたし」
ステラは何となく察しているようだが、リンはまったくの無自覚だった。
自分のような、始めて2週間も経たない新人が注目を浴びるとは、夢にも思わなかったのである。
「それで……少なくとも、ここで稼げるほどの実力者と見込んで2人に話があるの。
私はこのミッドガルドに、幻のカードがあると踏んで探索を続けてきた。
まだ誰にも見つかっていない、★5――ウルトラレアカードをね」
「幻のウルトラレア!」
ラヴィアンローズの公式から存在を明かされていながらも、いまだに所有者がいない★5。
誰も持っていないため、どんなカードなのか、どうすれば手に入るのかなど、全てが謎のままウワサだけが流れている。
リンも兄から聞いただけであり、詳しいことはまったく分かっていなかった。
と、クラウディアの話に思うところがあったのか、ステラは三角帽子をクイッと上げて応じる。
「たしかにウルトラレアを隠すなら、このミッドガルドだろうと言われています。
私としても興味深い話です。
ここは危険なので、場所を変えて話しませんか?」
「ええ、構わないわ」
「ところで、気になったんだけど……クラウディアは1人だよね。
こんな場所まで、どうやって来たの?」
「もちろん、モンスターを蹴散らして来たのよ。
前進しなさい! 【ゴリアテ】!」
クラウディアが指をパチンと鳴らすと、沼の水面にわずかな波紋が生まれた。
それは大きな波となり、やがて、地響きを立てるほどの振動へと変わっていく。
大地を激しく揺らし、深い霧をかき分けながら、クラウディアの背後にいた大型のユニットが姿を現した。
それはあまりにも有名で、しかし、このラヴィアンローズでは意外な存在。
「え……ユニット? あれがユニットなの!?」
驚きのあまり、リンは口を開けて唖然とする。
それには首も、頭もない。
前進しているが、手足はない。
血も、心臓も、脳ですら必要ない。
Cards―――――――――――――
【 ゴリアテ MkIII 】
クラス:レア★★★ タイプ:機械
攻撃1500/防御2600
効果:このユニットがガードしたとき、自プレイヤーへの貫通ダメージを無効化する。
スタックバースト【多重空間装甲】:永続:このユニットがガードしたとき、相手の攻撃力を半分にしてダメージ計算を行う。
――――――――――――――――――
「せ……戦車だーーーーーーっ!!」
頭の代わりに、ウィィィンと音を立てて向きを変える砲塔。
足の代わりに、キュラキュラと大地を踏むキャタピラ。
これもまた、ラヴィアンローズにおいては正式なユニットとして扱われていた。
「うわ、固っっった!
貫通ダメージ無効で、バーストしたらこっちの攻撃半減!?」
「本来の意味どおりでの『タンク』ですか。
他にも何か使ってるはずですけど、あれがいるだけでも正面からモンスターと戦えますね。
軍服なので、もしかしたらと思っていたのですが……
おそらく、あの子はミリタリー系のカードを使うようです」
実際にリンが【アルテミス】に装備させたカードにも、アサルトライフルなどの銃火器が混ざっていた。
しかし、まさか戦車が出てくるとは思っていなかったため、その迫力に圧倒される。
この世界は、本当に何でもありなのだ。
が、しかし――
得意げにフフンと胸を張るクラウディアの後ろで、【ゴリアテ】はその巨体を大きく傾けた。
車体の半分が沼に落ちてしまい、泥の中でキャタピラが空回りしている。
こうなってしまうと装甲が重すぎるため上がることができず、戦車は沼に沈んでいくことになる。
「あああーーーーっ!?
やっぱり、沼はダメだった?
ごめん! ごめんね、【ゴリアテ】えええええええっ!!」
泥にハマッて動けなくなった重戦車。
さっきまでのミステリアスな威厳が吹き飛び、慌てふためく軍服少女の姿に、リンたちは一気に素の顔へと戻されたのだった。




