第10話 タッグを組んでみました その4
「おい、知ってるか?
最近かなりヤバイ女の子たちがいるらしいぞ」
「ああ……★4スーパーレアを2体も使ってるんだろ?
それで沼のほうに行って狩りをしてるとか」
「沼って、マジかよ?
どう考えても、女の子が行く場所じゃねーぞ」
ミッドガルドには、当然ながらリンたち以外にもプレイヤーがいる。
彼らが話題にしているのは、このところ入り口から沼のあたりに現れるという、奇怪な少女たちの目撃談だ。
「強そうなユニットを引き連れて、怖がりもせずに霧の中へ入っていくんだってさ。
そして、その子たちが現れるときは、予兆みたいに少しの間だけ空が夜になる」
「ウワサによると、中高生くらいの可愛い2人組らしいぜ。
フレンドになってくれないかなぁ?」
「いやいや、さすがに話の尾ひれが付きすぎなんじゃ――」
と、プレイヤーたちがそんな話をしている真っ最中に、ミッドガルドの空が夜へと反転した。
それは1分と経たないうちに昼へと戻り、彼らは蒼白になった顔を見合わせる。
「ウソだろ、おい……まさか……!」
「街道を見ろ! 堂々と真ん中を歩いてるぞ!」
そして、彼らが見たのは異様なオーラを放つ集団だった。
ウワサどおり、プレイヤーはJCと思わしき少女の2人組。
その後に続くのは、ガチガチの武装で身を固めた★4スーパーレアの女神。しかも、白と黒のカラーリングで2体。
そして、全身に包帯を巻いた長身の悪魔。
さらには、沼の驚異として恐れられているスピノサウルスまで引き連れていた。
少女たちは何やら楽しそうに談笑しながら、草原の街道を林へと向かって歩いていく。
流されていた過激な情報を、そのまま具現化したかのような集団を前に、プレイヤーたちは足がすくんで動けなかった。
「お、おい……フレンドを申し込むなら今だぞ……」
「いや……話しかけられねえよ、あんなの」
話に尾ひれが付いていたのではない。
そんな必要もないくらい、常識外れな化け物の集団が通ったのだと彼らが自覚するのは、少女たちが見えなくなった後だった。
■ ■ ■
「グオオオォォォ……ン」
また1体、氷の上に巨体が倒れる。
リンとステラが沼で狩りを始めてから6日目。
ひたすら恐竜を乱獲し、2人はかなりの戦果を上げていた。
特にうれしいのが、強力なユニットであるスピノサウルスの捕獲。
これはステラが手に入れたもので、彼女のほうが戦力的に多くのスピノを相手にできるぶん、入手率も相対的に高かった。
そして、この日――ついにリンにも、喜びの瞬間がやってきたのだ。
「あああ~~っ、スピノが光ってる!
うわわわわ、ブランクカード、ブランクカード!」
「リン、落ち着いて!
すぐには消えないから大丈夫です」
慌てながらもリンがブランクカードをかざすと、倒れていたスピノサウルスが吸い込まれ、ユニットカードとして生まれ変わる。
Cards―――――――――――――
【 パワード・スピノサウルス 】
クラス:レア★★★ タイプ:水棲
攻撃2000/防御2000
効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。
スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。
――――――――――――――――――
「や、やったぁああ~~~!
初めての★3レアカード、捕獲完了!」
「おめでとうございます!
この沼に通った甲斐がありましたね」
「うんうん!
緑ばかりだけど、クリスタルもけっこう落ちたし。
ところで、やっぱりスタックバーストの効果が変わってるね」
「フィールドに水がなくても発動できて、しかも、効果を他のユニットに分け与えられます。
水棲デッキを組むと強そうです」
ステータスは3分の1に落ちたものの、攻防2000がいきなり出てくるだけでも強い。
しかも、相手のリンクカードを破壊する効果はそのまま。
スタックバーストは汎用性が向上し、スピノサウルス自身も【タイプ:水棲】なので強化効果を受ける。
「いえ~い、これで戦力大幅アップ~!
とりあえず1週間くらいここに通ったけど、これからどうする?
スタックバーストのぶんも捕まえたほうがいいかな?」
「リンにお任せします。
今、一番やりたいこととか、欲しいものは何ですか?」
「そうだね~、やっぱり緑以上のクリスタルかな。
【アルミラージ】ちゃん、すごく頑張ってくれたし。
アンコモンをペットにできるのって、青いクリスタルなんでしょ」
「キュ~」
リンは角ウサギのほっぺたをプニプニしながら、頑張ってくれたユニットを可愛がる。
強力なスピノサウルスが手に入ったのも、この子のおかげなのだ。
「なるほど、青や赤のクリスタルですか。
そうなると、この沼では難しいかもしれません。
私が手に入れたときには、もっと奥のほうで――」
「ふふふふ! 話は聞かせてもらったわ!」
「「誰!?」」
他のプレイヤーが恐れて近寄らない危険な沼。
しかし、深い霧の中から聞こえたのは、間違いなく第三者である人間の声。
やがて、ゴツゴツとブーツを鳴らしながら現れたのは1人の少女だった。
年齢はリンたちに近く、全身が完全なミリタリースタイル。
深い緑色の軍服に、翼を広げたドラゴンのエンブレムが輝く軍帽。
美しい金髪を片手でサラッと払いながら、少女は自信に満ちた声で名乗った。
「はじめまして、私はクラウディア・シルフィード。
人は私への畏怖を込めて、『鋼のクラウディア』と呼ぶわ」
「ぐ……軍の人が来た……!」
魔女の次は軍人。
何でもありなラヴィアンローズの中で、リンはまたしても奇妙な出会いを果たしたのだった。




