第9話 タッグを組んでみました その3
「【アルミラージ】、攻撃宣言!」
「キュキュッ!」
ビシッと指をさすリンの宣言に従い、ウサギは頭の角を前方に向けて突進した。
必殺の一撃は大きな毒ガエルの【デンドロバティス】を仕留め、その体を光の粒子へと変える。
「【ブリード・ワイバーン】も、攻撃いってみよ~!」
「ピャァアーーーッ!」
小さいながらもストーブのように胸を赤熱させた幼年期のワイバーンは、口から高温の火球を吐き出す。
それも毒ガエルに直撃して爆散させ、最後の1体を葬った。
「うっ……ゲホッ、ゴホッ……毒が!
み、みんなよく頑張ったね~」
「キュキュ~」
「ピャア~」
【デンドロバティス】の効果で毒ダメージを受けながらも、リンは可愛いユニットたちをねぎらう。
1ターンに3体のユニットで攻撃できると、増えまくる毒ガエルへの対処は非常に楽だ。
この沼には、複数のアタッカーを連れてくるのが正解なのだろう。
ステラは【土星猫】でユニットを1枠使っているため、攻撃できるのは2体。
しかし、リンよりも先にバトルを終わらせて待っていた。
「こっちも終わりましたよ。
1体、気絶した状態で残ってますけど」
「あ、ほんとだ。
ブランクカード使わないの?」
「【デンドロバティス】は、もう3枚持ってるんです。
ここで捕獲したカードはトレード不可なので、デッキに組める3枚以上は無駄になっちゃうんですよ」
「ああ~、そっか……
じゃあ、消えるまでほったらかし?
もったいないなぁ、お肉とかにできたらいいのに」
「さすがにモンスターを食材にするのは、ちょっと……毒ガエルですし。
でも、そのワイバーンなら何か取ってくるかもしれません。
1つの地形で1回だけ、ペットに【物資収集】をさせることができるんです」
「そんなこともできるんだ!
じゃあ、ワイバーンちゃん、物資収集してみて!」
「ピャァ~!」
命じられたワイバーンは霧の中へと飛んでいき、やがて、両足で何かを掴んで戻ってくる。
重そうな獲物を持ってフラフラと運ぶ姿が、たまらなく可愛らしい。
Tips――――――――――――――
【 ミッドガルド沼シジミ 】
ぎっしりと身が詰まった大きな貝。
煮てよし、焼いてよし、蒸しても美味しい万能食材。
――――――――――――――――――
「貝を取ってきたんだ~!
はぁあ~、いい子だね、頑張ったね~!」
食材を受け取ったリンは、ワイバーンを目いっぱい褒めてあげた。
役に立ってくれることよりも、役に立とうと頑張ってくれたことのほうがうれしいと感じるのは、もはや親バカに近いものがある。
しかし、そんなほのぼのした光景も、ステラが出した指示によって一瞬で崩壊した。
「じゃあ、私もやってみましょうか。
【土星猫】、物資収集!」
「にゃあ」
「…………は?」
一瞬、何が起こったのか分からなくなり、リンの表情は凍りついた。
そう、たしかに宇宙ネコも魔女のペットだ。
物資収集を命じれば、何か取ってくることができるだろう。
しかし、今のネコは融合した状態。
結果として『にゃあ』と返事をしながら霧の中に入っていったのは、ネコ耳を生やした女神様だった。
「うっそでしょ!?
そんな……【アルテミス】が……!」
「半分はウチのネコですし、残りの半分も【ダークネス・ゲンガー】なので、女神の姿は借りてるだけですよ」
「いや、そういう問題じゃないよね!?
姿だけとはいえ、あたしにとって【アルテミス】は本当に強くて、かっこよくて、きれいで……こう、神聖な……」
「あ、戻ってきました」
まるで、飼いネコがご主人様に向かってそうするように。
尻尾をフリフリさせながら帰ってきた闇夜の女神は、口に獲物を咥えていた。
Tips――――――――――――――
【 グレート・マッカチン 】
沼のレア食材。高級料理に使われる天然のザリガニ。
腕のいい料理人の手にかかれば、尻尾までパリッと食べられるらしい。
――――――――――――――――――
「あたしの女神様がああああああああっ!!」
「やりました、レア食材です! いい子ですね~」
「なぁ~お」
絶叫するリンなどいないかのように、活きのいいザリガニを咥えた闇夜の女神は、褒められて喜んでいた。
ほんの10分も経たないうちに、リンの中で女神の神聖なイメージが崩れ去ったのは言うまでもない。
■ ■ ■
そんな感じで沼を探索していると、ついに目当ての恐竜がやってきた。
背中に大きな帆を立て、強者の威圧感を振りまきながら、2体のスピノサウルスが霧の中から姿を表す。
「来たよ! 2体いるからスタックバーストを使ってくる!」
「大丈夫、対策は用意してあります。
プロジェクトカード発動! 【アイシクル・フィールド】!」
Cards―――――――――――――
【 アイシクル・フィールド 】
クラス:コモン★ プロジェクトカード
効果:解除するまで永続。地形を氷結させ、一部のユニットに影響を及ぼす。
――――――――――――――――――
バトルに入る前から、ステラがプロジェクトカードを仕掛けた。
まるで魔法のように冷風が吹き荒れ、2人がいる付近の地面を氷で覆い尽くす。
「相手のスタックバーストは、水に触れていないと効果がありません。
凍っている場所におびき寄せれば、何体で来てもステータスは同じです」
「ほんとに魔女みたい! ステラ、頼りになる~!」
「とりあえず、1体ずつでいいですか?」
「OK! 手前のほうを引き受けるよ!」
リンとステラによる擬似的なタッグバトル。
強敵を分散させることで自軍の負担を減らしつつ、各個撃破を可能にする戦略だ。
それぞれにタンクと化した女神がいるため、1体ずつなら安全に対処できる。
「グァオオオオオーーーーーッ!」
「向こうの先攻かぁ……【アルテミス】、ガード!
その後は全員で反撃だよ!」
強烈な一撃によって女神のビットが弾け飛んだが、ユニット3体による反撃で一気に相手の体力を削る。
特にワイバーンとウサギは何も装備していないので、スピノサウルスに破壊される心配がない。
この2体を中心に攻撃し、女神の装備品をひとつでも多く残しておく。
パターンさえ確立してしまえば、決着は早かった。
3体で総攻撃した次のターン、スピノサウルスの残りHPは1500。
「これでおしまい! 【アルミラージ】で攻撃!」
「キュキュ~!」
全長15mに達する大型恐竜に向かって、1m足らずの角ウサギがダイブした。
あまりにも違いすぎる体格差をくつがえし、角で刺されたスピノサウルスの巨体が傾く。
「オオオオォォォ……ン」
「お……おおっと!?
そっか、沼が凍ってるから大丈夫なんだ」
氷の上でドシャアアッと倒れるスピノサウルス。
前回のように泥水の雨が降ることはなく、リンは安堵の息をつく。
やがて、ステラのほうからも同じ音が聞こえてきた。
「リン、大丈夫ですか?」
「うん、さすがにステラは放っておいても勝つね。
ドロップアイテムは、どう?」
「残念ながら、今回は何もなさそうです。
でも、勝てるということは――」
「そうだね、この調子でガンガン倒せる!
2人で組めば無敵じゃないかな!」
相手のスタックバーストを妨害し、対スピノサウルスに特化したデッキで狩る。
無論、女神が分身したからこそできる作戦なので、他のユニットでは真似できない。
【アルテミス】をコピーできる【ダークネス・ゲンガー】の存在も不可欠だ。
2人のデッキでそれぞれ主軸を務めていたカードは今、事前に設計された歯車のように噛みあっていた。




