第8話 タッグを組んでみました その2
「……あざとい」
【土星猫】と融合した黒い【アルテミス】を見たリンの第一声は、それだった。
まず、いつもの奇怪な宇宙生物にならなかったのは良しとしよう。
黒い配色ではあるが、月の女神はクールビューティーな姿を、ほぼ原型のまま保っている。
しかし――
「にゃあ」
「言葉までネコになってるし……」
褐色の肌をした無表情な美人さんがネコの耳と尻尾を生やし、にゃーにゃー言っているのだ。
これはまずい。非常にあざとい。
この場にバカ兄貴がいなくてよかったと、リンは心からそう思った。
「それにしても……う~ん……」
前回と同じく、オリジナルであるリンの女神には【バイオニック・アーマー】の機械装甲が取り付けられていた。
バイザーで隠された目元がかっこよく、全体的に未来派なデザインである。
しかし、黒い女神のほうを見てみると、色の違いを抜きにしても可愛い。
そう、ネコ耳の女神様は可愛いのだ。
「可愛い【アルテミス】も、ありかな……うん。
そういう感じの装備品、探してみたら見つかるかも」
女神様はいつも戦いばかりで無表情だから、可愛く着飾ってみるのも良いのではないかと。
そんな思いつきを胸に、とりあえず持ち込んだ装備品を取り出すリンであった。
その後、2人でそれぞれの女神に多量のリンクカードを装備させていく。
今回の作戦は『防御全振り』。
スピノサウルスを何体も相手にすることを想定し、ガチガチのタンクを作り上げる。
「ふぅ~、どうにか目標の8000に届いたよ。
防御だけ上げるっていうのも大変だね」
「こっちも終わりました。防御力は合計10900です」
「げっ、5桁までいったの!?」
「さすがに持ってるリンクカードの質が……ですね。
【土星猫】との融合だけでも3600ですし」
「うぅ~、あたしも強い装備が欲しい!」
なけなしのカードをかき集めたリンと違い、見るからに効果が高そうな装備品を付けているステラの女神。
こればかりはプレイ期間の差だから仕方ないのだが、リンにはまだまだリソースが足りない。
そんな感じでタンクを作り上げた後、2人はアタッカーを用意した。
スピノサウルスを倒すにあたり、足りない攻撃力を他のユニットで補うのだ。
「ユニット召喚! 【アルミラージ】!」
Cards―――――――――――――
【 アルミラージ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:動物
攻撃1600/防御900
効果:このユニットは攻撃ステータスでガードすることができる。
スタックバースト【殺人兎】:永続:プレイヤーに貫通ダメージを与えるとき、攻撃ステータスの半分を加算する。
――――――――――――――――――
「わはぁ~、かっわいい~!
この子だけでも十分戦えそう。これからよろしくねっ」
「キュッ」
リンが用意したのは、ミッドガルドで捕獲した角ウサギ。
攻撃力でガードできるため、実質的なステータスは攻防1600。
【アルテミス】の火力補助を担当してもらうのだが、月の女神とウサギのペアは、とてもシナジーを感じる組み合わせだ。
残念ながらスタックバーストの効果はプレイヤーが対象なので、野生モンスターには効かない。
「じゃあ、私のほうも。
ユニット召喚! 【レライエ】!」
Cards―――――――――――――
【 レライエ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔
攻撃1700/防御600
効果:このユニットとバトルを行った相手は、次の相手ターン終了時に同数の攻撃ダメージを再び受ける。
スタックバースト【2本撃ち】:瞬間:バトル終了まで、2体のユニットに向かって攻撃できる。
――――――――――――――――――
「フヒヒヒヒヒヒ」
ステラの魔法陣から現れたのは、ソロモン72柱に名を連ねる大公爵。
異様に手足が長く、死体のような青い肌をした人型ユニットが両手にボウガンを構えている。
全身に汚れた包帯がグルグルと巻かれ、両目まで覆い隠されているのだが、周囲の様子はハッキリと見えているらしい。
フヒヒヒヒと笑う声が、何とも不気味だ。
「うわ~、相変わらず怖いユニット使ってるし……」
「怖くはないですよ。
こう見えて、しっかりと仕事をしてくれますから」
「いや、性能の話じゃなくてね……
その効果、ちょっと変わった感じだけど」
「カードのモデルになった『悪魔レライエ』が使う腐食の矢です。
【タクティカル・ディフェンス】みたいに、瞬間的に防御力が上がるカードがありますよね。
この子は、そういった効果の裏をかいて時間差で2回目のダメージを与えるんです」
【レライエ】からの攻撃を防いでも、次の自分のターン終了時に再びダメージを受ける。いわゆる死の宣告だ。
カウンターやスタックバーストといった、一時的な効果のカードで回避するなら、2枚使わないと逃げ切れない。
「うひゃ~、その場しのぎで耐えても追撃が来るなんて。
ほんとにいろんなカードがあるよね、このゲーム」
「普通に戦うと相手の防御力が上回ったりして、使いどころが難しいのですが……
野生モンスターにはダメージが直撃するので、攻撃の効果は実質2倍!
ミッドガルドの冒険がすごく楽になりますよ」
「へぇ~、いいなぁ~!」
「アンコモンなので分けてあげられますけど。
ここを出た後、トレードします?」
「フヒヒヒヒヒヒヒ」
長身のゾンビみたいな悪魔が、不気味に笑いながら見下ろしてくる。
たしかに能力は優秀だ。
スタックバーストもできれば、複数のモンスターに腐食の矢を撃ち込めるだろう。
だが、リンは『見た目も気にする派』だった。
「う、う~ん……とりあえず、あたしは今の手持ちでいいかな。
攻撃力は300しかないけど、この子を連れてきたよ!
出ておいで、【ブリード・ワイバーン】!」
「ピャァ~ッ!」
リンがカードから出したユニットに、ステラは指先で帽子を上げて目を丸くする。
「連れてきたんですか!
前にも言ったように、ここでは育たないのですが……」
「あはは……どうしても、この子と一緒に歩きたくなっちゃって。
カエル相手なら戦えるし、防御は【アルテミス】が担当してくれるからね」
「ピャウ! ピャ~ウ!」
「あれ? どうしたの?」
ワイバーンの子供はパタパタと翼で飛び、リンを導くかのように方向を示す。
そちらへ進んでみると、黄色い果実を付けた樹木が生えていた。
「わぁ~、果物だ!」
Tips――――――――――――――
【 イエローペアー 】
芳醇な甘い味がする梨。
草食動物をはじめ、色々なペットが好んで食べる。
――――――――――――――――――
「そういえば、言うのを忘れてました。
ペット化したユニットを連れて歩くと、アイテムがある場所を教えてくれたりするんです。
その子がいる意味は十分にありますよ」
「すごいじゃない! それを早く言ってよぉ~!
草食動物も食べるっていうことは、ウサちゃんも梨が好きなの?」
「キュキュ~!」
【アルミラージ】は答えるかのようにピョンピョン跳ねた。
殺人兎などという物騒な能力を持っているが、このウサギもペットにできそうなユニットだ。
「そっか~、ウチの子にしてあげたいけど、アンコモンのペット化って大変そうだね」
「そのために狩るんじゃないですか?
稼げそうなスピノサウルスを」
「うん! スピノが仲間になってくれたら、アタッカーとしても心強そうだし。
とりあえず、この果物は確保っと」
VRの世界において、食材の収穫は簡単だ。
指先で触れるだけで粒子になって消え、データとして所有アイテム欄に収納される。
もちろん、消費期限などない永久保管。
やがて、果物を収穫した一行は、ユニットをぞろぞろと引き連れて沼へと向かった。
いよいよ恐竜狩りが始まるのだ。




