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第6話 ワイバーンを飼いたくて

「はぁ~、やっぱり自分の家は落ち着く~」


 さわやかな潮騒が聞こえるログハウス。

 ミッドガルドから帰還したリンは、自分のルームで戦利品を取り出して眺めていた。

 透き通った緑色のクリスタルは美しく、飾っておくだけでも見栄えしそうだ。


「念願の【ペット・クリスタル】ですね。

 それにしても、本当に沼まで行ってたなんて」


 リンのルームには現在、ステラだけが来ている。

 兄は用事があるらしいので、今回は2人でペットの誕生を見守ることにした。


「まあ、運が良かった……かな。

 ギリギリどうにかなった感じ」


「普通はスピノサウルスに会った時点で終わりですよ。

 装備を壊されながら殴って倒したと聞いたときには耳を疑いました」


「ほんと、あれはヤバイよね!

 あんな恐竜が何体もいる場所、通り抜けられるの?」


「そもそも、あそこは行き止まりです。

 あの沼はゲームでいうところの罠ポイントで、道が途切れてるんですよ。

 なので、用がない限りは行きません。

 運が悪いと、スピノサウルスがスタックバーストした状態で3体出てきて。

 それはつまり、装備を無効化する攻撃力8000のユニットに、3回攻撃されるわけで……」


「た……たしかに、それは避けて通るよね。

 でも、ステラだったら戦えたりしない?」


「あくまでもスピノ3体と戦うことだけ考えるなら……

 持ち込んだカードを駆使すれば、2ターンくらいは耐えられるかもしれません。

 勝てる見込みは、ほぼゼロです」


「うへぇ……あたしって、かなり運が良かったんだ。

 こうしてアイテムもゲットできたし」


 まさに初見殺しの罠だったのだが、命からがらクリスタルを拾って帰ることができた。

 冒険の成果を感慨深く見つめながら、リンは【ブリード・ワイバーン】のカードを取り出す。


「それじゃあ、さっそくペットを作ってみようか!」


「いよいよですね。

 そのまま、クリスタルをカードに乗せて使います」


「こうかな? うわっ、吸い込まれちゃった!」


 ワイバーンのカードに緑色のクリスタルを乗せると、それは光を発しながら溶け込んでしまった。

 アイテムが失われた代わりに、コンソールには『召喚可能になりました』と表示が出る。


「これでカードから出せるようになったんだね。

 じゃあ、【ブリード・ワイバーン】! 召喚!」


 呼び出してみると、カードから光の粒子が現れてユニットを形成し、まだ幼い【ブリード・ワイバーン】が空中で翼を広げる。

 そこまでは決闘(デュエル)と同じなのだが、ワイバーンの子供はパタパタと飛びながらリンに近付き、純粋そうな瞳で見つめてきた。


「ピヤァ~!」


「わぁ~っ、できた~!

 さ、触っても大丈夫かな……?」


 すさまじい迫力の最終形態になるとは思えないほど、小さくて可愛いワイバーンの子供。

 その頭を撫でてみると、くすぐったそうに目を閉じて声を上げる。


「ピャウゥ~ッ」


「うわ、か、かわ……っ!

 ヤバ……可愛すぎだよ、これ!

 かわっ、可愛いいいいいい~~~~~!!」


「ふふふ、他の言葉が出てこなくなっちゃいましたね」


 ワイバーンの体を抱いてみると、外側は鱗でひんやり、内側は熱せられたように高温。

 特に胸のあたりは自動販売機から取り出したばかりの缶コーヒーくらい熱い。

 VRでは火傷をするほどの熱がフィードバックされないため、『意外と体温が高い』くらいにしか感じないが、炎のブレスを吐くのが納得できるほど高温だった。


 小さな竜はリンに(なつ)いたらしく、抱かれても嫌がることなく腕の中に収まっている。

 こうしてスキンシップを取れば取るほど、カードへの愛着が深まるのだ。


「んん~、よちよち、今日からウチの子でちゅよ~。

 こんな子、リアルじゃ飼えないよね。

 ワイバーンが欲しいなんて親に言ったところで、理解してもらえないだろうし」


「理解できたら、逆にすごいと思います……

 そもそも、ペットショップに売ってないですよね。ワイバーン」


「そういえば、ご飯って食べるの?」


「食べなくても大丈夫ですけど、食べさせることはできますよ。

 ミッドガルドで食材が手に入るんです。

 何を食べるのかはペットによるので、コンソールで確認してみてください」


「どれどれ……うわ、けっこう色々書いてある」


Pets――――――――――――――

【 ブリード・ワイバーン 】

 人間の手で品種改良され、懐きやすくなった飛竜種。

 巨大に成長するため、飼うのはとても大変である。

 突然変異で首が3つに増えた例もあり、どこまで強くなるのかは飼い主次第。

 好物は生肉、硫黄、石炭。おやつとして果実も食べる。

――――――――――――――――――


「硫黄? 石炭!?

 これもう、食材じゃなくて石だよね?」


「あはは……ドラゴンの仲間ですからね。

 鉱石は火山にあるので、取りに行くのは大変ですよ」


「うえぇ……火山なんて、見たこともないのに。

 ステラ、手伝って~!」


「いいですよ。人手が欲しいときには、遠慮なく言ってください。

 今は色々やりたい時期だと思うので、お手伝いします」


「ありがと~! やっぱり、持つべきものは友達だね!」


 ワイバーンを抱いたリンは、協力者の存在に安堵(あんど)する。

 初めてログインしたときには何も分からなかったが、兄と友人に教えてもらったおかげで、こうしてルームやペットを手に入れたのだ。

 自分だけでソロプレイをしていたら、ここまでハマらなかったかもしれない。


 と――そのとき、唐突に。

 彼女の脳内で、ひとつのアイディアが浮かび上がる。


「ねえ、ステラ。手伝ってくれる件だけどさ。

 ちょっと……ううん、かなりすごいことを思いついちゃった」


「すごいこと、ですか。

 リンが言うと本当にすごそうですけど」


「うん、マジすっごい作戦!

 しかも、たぶんステラにしか頼めない」


 ニコニコと笑うリンは、いたずらを思いついた子供のようだった。

 しかし、その自由すぎる発想力は、一種の才能ではないかとステラは感じ始めている。

 実際に作戦の内容を言う直前、リンはとんでもないことを提案してきた。


「ってなわけで――明日、沼に行かない?」

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