第2話 機械じかけのワンダーランド
「え……えええええ~~~~!?」
仮想空間に入った直後、涼美――リンの口から出たのは驚愕の声。
そこに広がっていたのは、テーマパークのような世界だった。
体は自室のベッドで寝ているはずなのに、意識だけワンダーランドに放り出された状態。
ラヴィアンローズの世界は大きな町を中心に広がり、いくつかの区画に分かれているようだ。
町には遊園地のように観覧車やメリーゴーラウンド、お化け屋敷、ジェットコースターなどがある。
「こ、これ……どこに兄貴がいるの?」
そこらじゅう、人、人、人だらけ。
まさに遊園地の賑わいぶりだが、奇妙なことに来場者の服装がみんな違う。
ある者は忍者のように覆面をかぶり、ある者は軍服で銃を抱えて歩き、おそろいの衣装で記念撮影をする女性たちの集団もいた。
「みんな、変な格好……コスプレっていうのかな?」
「いらっしゃ~い、はじめましてなのだ~!」
「うわわっ、なんか出てきた!」
あっけに取られていたリンの前にボフンッと煙が立ち、小さなマスコットキャラが現れた。
首に真っ赤なスカーフを巻いたキツネが、空中に浮かんだ状態で座っている。
「ボクはラヴィアンローズの日本ワールドを担当しているマスコット、コンタローなのだ。
以後お見知りおきを、なのだ~!」
「へぇ~、よくできてる。本当に生きてるみたい!」
「初めてログインしたキミ、何か聞きたいことはあるかな~?」
「えっと、あたしのお兄ちゃん――真宮勇治に会いたいんだけど」
「あわわわわ! この世界で本名っぽい名前を口に出されては困るのだ!
今はボクたちしかいないけど、誰かに聞かれたら個人特定とかされちゃうのだ」
「あ、ああ! ごめんなさい!」
「それで、そのお兄ちゃんはフレンド登録してあるのだ?
バイザー本体のアカウントも参照できるのだ」
「う~ん……あたしのバイザー、使ってなかったからフレンドがいなくて」
「それじゃあ、申し訳ないけどセキュリティの都合で個人情報は教えられないのだ。
どうしても会いたいなら、ログアウトしてご本人と連絡を取るといいのだ」
「うぅ……そうなるかぁ」
自分が勇治の家族であるという証明ができない以上、個人情報の保護が優先されるのは当然だ。
会うべき兄に何も言わないままログインしてしまい、VRの世界が想像以上に広大だった。
失敗の原因は色々と思い当たる。
「じゃあ、ログアウトしてから兄貴と話して……
う~ん、それはそれで面倒なことになりそうだなぁ。嫌がるだろうし」
「とりあえず、初めてのお客様には初心者講習会への参加をおすすめしているのだ。
初回限定のプレゼントが、いっぱいもらえるのだ」
「いや、遊びに来たわけじゃないんだけど」
「何か急ぎの用があるのだ?」
「だーかーらー!
その用事が、お兄ちゃんと会いたいっていう……ああ~、もう!」
会話がループしそうになり、頭を抱え始めたリンの選択肢は3つ。
とりあえずログアウトして兄に説明し、事前にフレンド登録や待ち合わせの相談をする。
これは面倒くさい。超面倒くさい。
兄のことだから絶対に文句を言ってくるはずだし、応じてもらえる保証もない。
2つ目の選択肢は『投げ出す』。
全部なかったことにして、兄には会えませんでしたと親に報告する。
はい、簡単。とても平和。
と、そこまで考えて――彼女が選んだのは3つ目の道だった。
「まあ……せっかく来たんだし、VRの世界を見ていこうかな」
悩むのは後にして、とりあえず楽しんでしまおうという選択。
別に急ぎの用事ではないし、どうせ兄は同じ家の中にいるのだから、そのうち解決策が見つかるかもしれない。
「じゃあ、ボクがサポートするね。
腕の装置からコンソールを開くと、初心者講習っていうのが光っているのだ」
「腕の装置? ええっ、いつの間に!?」
知らない間に、サイバーなデザインの腕輪が左の手首で光っていた。
VRによる再現度が高すぎて混乱するが、これは自分の体であっても、本当の体ではないのだ。
腕輪に触れてスイッチを入れると、目の前の空間に操作パネルが浮かび上がった。
コンタローの言葉どおり、『初心者講習を受けよう!』という文字が点滅している。
「それを押せば、講習の会場にワープするのだ。
この世界はと~っても広いから、歩いていくよりもワープをおすすめするのだ」
「それじゃあ、行ってみるね」
「バイバ~イ! 行ってらっしゃいなのだ~」
そして、時系列は冒頭のプロローグへ。
ワープした先で始まった初心者講習会で、リンはこの世界の洗礼を浴びることになるのだった。
ということで、初回は一挙に2話までの投稿になりました。
初めての小説投稿ですので、よろしくおねがいします!
VRの世界でカードバトルという、未来の世界で実現してそうな(しててほしい)ゲームを自分なりに考えたので、頑張って書いていこうと思います。
ゲームのルールなどは後でまとめて書く回を予定していますので、とりあえずVRの世界に迷い込んだ涼美ちゃんのドタバタをお楽しみください!