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第6話 過去の自分を超えるために

「わ、私が先攻ですか……じゃあ、ドローは無しで」


 顔と髪こそ違うが、それ以外はリンとそっくりなルーシア。

 とんでもない規模のファンクラブができていることなど、当の本人はまったく知らない。


「それでは、やらせていただきます! ユニット召喚!」


Cards―――――――――――――

【 アルミラージ 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:動物

 攻撃1600/防御900

 効果:このユニットは攻撃ステータスでガードすることができる。

 スタックバースト【殺人兎(ヴォーパルバニー)】:永続:プレイヤーに貫通ダメージを与えるとき、攻撃ステータスの半分を加算する。

――――――――――――――――――


「キィイーーーーーッ!」


 現れたのは、ミッドガルドの森に生息する角ウサギ。

 初心者にとっては強敵ながらも、最初の相棒になってくれる野生モンスターだ。


 ユニットとしては珍しくないのだが、相手はリンの姿を模したプレイヤー。

 初手に【アルミラージ】を出した以上、次の行動も決まっている。


「リンクカードを装備、【ストームブリンガー】!」


Cards―――――――――――――

【 破滅の剣『ストームブリンガー』 】

 クラス:レア★★★ リンクカード

 効果:装備されたユニットに攻撃力+X。Xはユニットを所有するプレイヤーのライフに等しい。

 攻撃宣言をした瞬間、このカードは破棄され、所持プレイヤーはXに等しいダメージを受ける。

――――――――――――――――――


 ポイント交換で誰でも手に入れられる★3リンクカード。

 デメリットで攻撃できなくなってしまうが、【アルミラージ】は攻撃力でガードできるため、いきなり5600もの壁が立ちふさがる。


 カード資産が少ない初心者でもできる、お手軽なコンボ。

 リンが『ファイターズ・サバイバル』などでお披露目して以降、それまで人気がなかった【ストームブリンガー】の需要が上がっているとショップの店員は語っていた。


「おお~っ」


 自分の戦いかたをコピーした動きに、リンは思わず拍手してしまう。

 対するルーシアはご本人の前でやり遂げた達成感から、ますますテンションが高まっていった。


「これでターンエンドです!」


「じゃあ、あたしのターン! ドロー!」


 強敵を相手にしたときは即座に破られてしまったが、こうして使われてみると『ウサギ盾コンボ』は非常に固い。

 開始直後から5600でガードしてくる壁など、中途半端に★3を出しただけでは破れない。


「(なるほど……これが対戦相手から見た、あたしの姿ってことか)」


 その姿は、まさに鏡写し。

 自身の手札とフィールドを確認したリンは、意思表明をするかのように語りかける。


「なんていうか……ありがとうね。

 ルーシアちゃんを見てると、少し前までの自分を見せられてるみたい」


「そ、そう言っていただけると、うれし……いえ、恐縮です!」


「もう半年前になるかな。どうにか捕まえたウサギちゃんと、他に手段がなかったからポイント交換でゲットした魔剣。

 それがカインさんと戦ったとき最初の手札にあって、咄嗟に思いついたコンボなんだよね。

 ほんとに必死だった。計画性なんて全然ない、とにかく持ってるカードを詰め込んだデッキなのに、有名な人たちと戦うことになっちゃって」


「それでも結果を残せてる時点で、すごいと思いますよ!?」


「あはは、たまたまだよ。

 でも、だからこそ乗り越えなくちゃいけない。

 本気で勝つって……強いプレイヤーになりたいって決めたから。

 悪いけど、ルーシアちゃん! ここであたし自身に負けることはできない! 本気でいくよ!」


「はい! どこからでも来てくださいっ!」


 今以上に強くなりたい。

 そう思うリンの前に、自分とよく似たプレイヤーが現れたのは偶然なのか、運命か。


 しっかりと構築するようになったリンのデッキに、【アルミラージ】は入っていない。

 しかし、『ウサギ盾コンボ』を突き破ることは可能だ。新しく作り上げた、ドラゴンデッキの力を借りれば。


「じゃあ、いくよ……ユニット召喚! 【リンドブルム】!」


Cards―――――――――――――

【 リンドブルム 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:竜

 攻撃1800/防御1400

 効果:召喚されたとき、このユニットに【小型】かつ【人型】のユニット1体を、手札から騎乗させることが可能。

 装備品ではなく個別のユニットとして扱われ、騎乗する側の召喚は別枠扱いになる。

 スタックバースト【騎乗戦闘】:永続:騎乗しているユニットの【基礎ステータス】を自身に加算する。

――――――――――――――――――


「ギュエォオオオーーーーーーン!」


 大きく翼を広げた中型の飛竜、翼長は約9m。

 召喚した時点で手綱や鞍などが着いており、人型のユニットを乗せることができる。


「リンさまが竜タイプのカードを!?」


「驚くのは、まだ早いよ。【リンドブルム】の効果発動!

 この子は手札にある人型のユニットを乗せられるんだけど……タイプは指定されてない!」


「え? それはつまり……」


「そう、こんなこともできるってわけ!

 本気でいくって言ったでしょ――最強のカードを見せてあげるよ!」


 リンが1枚のカードを天に(かか)げると、昼間だったコロシアムは夜へと塗り替えられていく。

 陽光から月光へ。黄金色の満月が夜空に輝き、フィールドを幻想的に染め上げる。


 その光輪に向かって、先程の飛竜が高度を上げた。

 乗れるサイズに限られるが、【リンドブルム】を使えば一気に2体のユニットを召喚できる。


「オオオオオオオオオーーーーーーン!」


 満月を背に咆哮しながら翼を広げる飛竜。

 その姿だけでも十分に美しかったが、やがて竜は煌々(こうこう)と輝く女神を乗せて降りてきた。

 特殊な形で召喚された★4スーパーレア。

 リンが持つ最強にして唯一の女神が、【リンドブルム】の背に乗って登場する。


Cards―――――――――――――

【 月機(ルナティック)武神(・ウェポン)アルテミス 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神

 攻撃2600/防御2600

 効果:リンクカードを何枚でも装備できる。

 スタックバースト【(ハイパー)次元(ディメンジョン)射撃(シュート)】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。

――――――――――――――――――


「は……はは……ひ……ははは……っ」


 ★4固有の召喚演出が終わり、昼へと戻っていくコロシアム。

 あまりの神々しさ、そしてリン本人に★4ユニットを見せてもらえたという奇跡に、ルーシアは声にならない声で打ち震える。


「ぶっつけ本番だったけど、こうして【アルテミス】を別枠で呼べるのは便利だね。

 まだまだいくよっ! プロジェクトカード、【ドラゴニック・ファントム】!」


Cards―――――――――――――

【 ドラゴニック・ファントム 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:自プレイヤーのフィールドにいる★2以上の【タイプ:竜】ユニット1体を選択して発動。

 同種同名のユニットカード1枚をデッキからドローする。

 このカードはデッキに1枚しか入れられず、いかなる方法でも再利用できない。

――――――――――――――――――


 種族的に優遇された竜タイプには、強力なカードが何枚かある。

 これも、そのうちのひとつ。

 ★2以上の竜限定だが、同種同名のカードを1回だけデッキから引き出すことができる。


「目標は、もちろん【リンドブルム】!

 引き寄せたカードでスタックバースト【騎乗戦闘】を発動!

 この子に【アルテミス】の【基礎ステータス】、攻防2600を加算するよ!」


「!!!???」


「さらに仕上げ! 【リンドブルム】に【ヴァリアブル・ウェポン】を装備!

 これで強化効果が2倍になって、最初の攻撃だけ7000ダメージ!」


「ま、まさか……【アルミラージ】の盾を1ターンで超えてきた!?

 リンクカードに対策を取ったわけでも、ユニットの能力を封じたわけでもなく……単純な数字の積み重ねだけで、上から!」


 もはや、ルーシアの両足はガクガクと震え、あふれ出る涙が視界を歪めた。

 ファンにとっては最高の瞬間。最大級のサービス。

 リンは宣言どおり、彼女自身が使っていた『ウサギ盾コンボ』を乗り越えたのである。


 しかも、驚くほど柔軟な発想力だ。

 選ばれし者だけが持つ★4の【アルテミス】ですら、今は★2ユニットを強化させるための要素でしかない。

 わざわざ女神を呼んだのは、可能な限り【リンドブルム】を強化するため。本命は竜のほうだった。


「いっくよーーーーー!! 【リンドブルム】、攻撃宣言!」


「うわわわ、【アルミラージ】でガード!

 カウンターカード発動! 【ワールウィンド】!」


「…………え?」


Cards―――――――――――――

【 ワールウィンド 】

 クラス:アンコモン★★ カウンターカード

 効果:自プレイヤーのユニット1体を手札に戻し、行われていたバトルを強制終了させる。

 その後、使用者は手札に戻したユニットの【基礎攻撃力】と同数のダメージを受ける。

 リンクカードや他のユニットなどが付随していた場合、それらも全て手札に戻すことができる。

――――――――――――――――――


 突然のことに、リンは固まってしまった。

 ものすごく見覚えがあるカードが発動し、飛竜に襲われかけたウサギが竜巻で空に舞い上がる。

 【アルミラージ】はルーシアに向かって落下すると、そのお腹を彼女の顔面に直撃させた。


「うぎゅううっ!!」


「ルーシア選手、残りライフ2400」


「い、いや~、あたしもウサギちゃんを竜巻で回収したことあるけどさ。

 さすがに★2は反動が痛いんじゃない?」


「えへへ……受けるのは200ダメージの差ですし、ユニットがやられちゃうよりはいいかなって。

 それに、リンさまならこうすると思いましたから」


「はぁ……ほんとに自分の決闘(デュエル)を見てるみたい」


 実際のところ、先攻にとっては5枚しかない手札なので、破棄させずに回収するのは戦略的に”あり”だ。

 特に以前のリンなら、そこから【物資取引(トランザクション)】で他のカードに入れ替えていただろう。


「あなたはきっと、いいプレイヤーになるよ。

 でも、ひとつ残念なお知らせ。

 【リンドブルム】の攻撃は空振りになっちゃったけど、まだ【アルテミス】が残ってるんだよね」


「へ……?」


「次の攻撃宣言、いいかな?」


 見上げれば、そこには宙を舞う飛竜。

 【リンドブルム】を駆る女神は機械弓(コンパウンド・ボウ)に光の矢をつがえ、地上の獲物に狙いを定めていた。

 融合や装備扱いではなく、別枠として召喚されているため個々に動ける。それが飛竜の強みだ。


 2600ものダメージが直撃すれば敗北は確定。

 しかし、それは間違いなく最高のご褒美でもある。

 ルーシアは降参(サレンダー)することなく、両腕を広げて高らかに叫んだ。


「よろしくお願いしまぁあああああああああああああす!!!」


 それが『リンさま非公式ファンクラブ』会員ナンバー215番、ルーシアの見事な散りざまであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 推しが全力で屠ってくれたとか最高の負け方だよね。むしろ、勝ち組まである。
[一言] 見事なワンターンキル、ワザマエ!
[良い点] 見事な散り様。ファンの鏡ですね。
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