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第22話 最後の1ピース その1

「さぁ~、よっといで~!」


 それぞれの大冒険と成長があってから3日後、リンは単独で火山を訪れていた。

 プレイヤーが来ないであろう奥地まで進み、周囲に誰もいないことを入念に確認すると、広い大地の真ん中で【ゲキリン軟膏】を使用する。

 カレーに似ているといわれる独特の香りが広がり、すぐさま引き寄せられた大型恐竜がドスドスと足音を立てながら駆け寄ってきた。


Enemy―――――――――――――

【 ブラックバーニング・アロサウルス 】

 クラス:レア★★★ タイプ:竜

 攻撃7500/HP4500/敏捷80

 効果:このモンスターの攻撃がガード宣言されたとき、自身のレアリティ未満のユニット1体に対して追加で攻撃宣言できる。

 スタックバースト【爆炎吼(ディノ・フレア)】:瞬間:このモンスターの【基礎攻撃力】と同数のダメージをユニット1体に与える。

――――――――――――――――――


 かつてジュラ紀の地上を支配していた王者、アロサウルスの群れ。

 火山に棲むことで全身が黒色化し、燃える石炭のように輝く赤い模様と、背中から吹き出る炎が特徴的な竜タイプの★3モンスターだ。

 すさまじい迫力で駆けてくる肉食恐竜たちの姿は、もはや生きた心地がしない自然界の暴力。


「ゴァアアアーーーーーーーーッ!!」

「オオオオオォォーーーーーーーーッ!!」


 群れをなしてリンに襲いかかろうとしたアロサウルスだが、1匹の水棲恐竜が壁となって立ちふさがる。

 ジュラ紀から1億年後の白亜紀に誕生した体長15mの超大型生物。

 ワニに似た4足歩行の恐竜で、水辺においては最強を誇っていた時代の覇者。


Cards―――――――――――――

【 パワード・スピノサウルス 】

 クラス:レア★★★ タイプ:水棲

 攻撃2000/防御2000/敏捷120

 効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。

 スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。

――――――――――――――――――


 お互いが存在しない時代に、それぞれ王であった者同士がVRの世界で出会う。

 リンのルーム内でも、目があった瞬間に縄張り争いの大ゲンカを始めたが、ここはダメージが発生するミッドガルド。


 アロサウルスたちは先手必勝とばかりに、次々と火炎球を吐いてきた。

 バトルも行っていないのに、問答無用で叩きつけてくる7500の大ダメージ。スタックバースト【爆炎吼(ディノ・フレア)】。

 これもかなりの初見殺しであり、耐えられるようにデッキを組んでいなければ、一瞬にしてユニットを失うことになる。


 スピノサウルスを襲った火炎球は、まるでナパームのように爆炎を発生させながら着弾。

 しかし、炎と黒煙が風に吹かれて消えたとき、そこには何食わぬ顔で水辺の王者が立っていた。


 そして――その後ろから守護神のように現れる【アルテミス】。

 彼女が与える強化効果によって、スピノサウルスのステータスは攻撃2万、防御1万という驚異的な数値に達している。


 数々のカードを駆使して瞬間火力を生み出すのがステラ。

 同じく戦略を立てて防衛に徹するのがクラウディア。

 この2人に比べると、リンの戦いかたは単純明快。

 【ラヴァ・ディノス】のバトル前9000ダメージですら耐え、圧倒的なステータスで上から殴り倒す。


 蹂躙、一方的な蹂躙。

 1ターンに1体ずつ、スピノサウルスで野生モンスターを処理していくだけ。

 やがて戦いが終わったとき、リンは目標にしていたアロサウルスの獲得を成し遂げていた。


「よしっ、アロさん追加でゲット!

 クラウディアがテントを置いててくれて助かったよ。

 このところ、ずっと火山に来てるみたいだけど……何やってるんだろ?」


「ムゥムー!」


 【ゲキリン軟膏】に反応した野生の【ムゥムー】が、スピノサウルスの足元でゲシゲシと頭突きを繰り返している。

 いずれ軟膏の効果が切れれば去っていくので放置しつつ、リンは友人たちのことを思い浮かべた。


 セレスティナは悪魔ユニットを手に入れ、ステラやクラウディア、ソニアも毎日のように遠方へ出かけている。

 そして、魔導書庫で出会った2人と、彼らと共に帰国した前回の覇者たち。

 その全員がジュニアカップに出場して、リンのライバルとなるはずだ。


「あたしも、できる限り準備しなきゃ……もう1枚、アロさんを捕まえるよ!」


 ユニットを引き連れ、火山で狩りを続けるリン。

 モンスターを呼び寄せる方法を知ったおかげで、その効率は飛躍的に上がっていた。



 ■ ■ ■



「うぅ~~~~~~ん……」


 さらに数日後、リンはマイルームの卓上にカードを並べて(うな)る。

 デビュー戦となった『ファイターズ・サバイバル』以降、この数ヶ月で彼女の手持ちは見違えるように充実した。


 まずは水棲、メインアタッカーとなる【パワード・スピノサウルス】が3枚。

 ユニット効果を打ち消すクラゲ【ポイズンヒドロ】に、ガードを固める相手に有効なカジキマグロ【スパイラル・マーリン】と、★2も良い感じで整っている。


 それと並行して密かに集めていたのが竜、メインアタッカーは【ブラックバーニング・アロサウルス】3枚。

 強力なバフをかける【プリンセス・ドレイク】に、竜タイプを呼び寄せる【レイヴン・ワイバーン】、人型ユニットを乗せられる【リンドブルム】。

 成長するまで時間が掛かるが、強力なユニットになりうる【ブリード・ワイバーン】。


 そして、非常に悩ましいのがそれ以外。リンを導く★4スーパーレア、月の女神【アルテミス】。

 攻撃力で防御できるウサギ【アルミラージ】に、【エクシード・ユニオン】で装備させたい数々の★1たち。


「こうして並べてみると、たしかに強くなった……強くはなったんだけど……

 全部のカードをデッキに入れたら、逆に弱くなっちゃうよね。スピノ親分に来てほしいのに、ワイバーンを引いちゃったりして」


 ラヴィアンローズのデッキは下限40枚、上限60枚。

 卓上に並べたカードを全て入れることも可能だが、それでは戦略がめちゃくちゃになる。


 リンが『ファイターズ・サバイバル』で3位に輝いたのも、デッキに入れられるユニットが少なかったからだ。

 事実、決勝トーナメントでは毎度のようにスピノサウルスで戦っていた。

 それは当時の彼女が他のアタッカーを持っていなかったからであり、それゆえ特定のカードを引きやすい構成になっていたのだ。


 TCGの界隈では、このことを『回転』と呼ぶ。

 クラウディアがそうであるように、コンセプトがしっかりしているデッキは”回しやすい”。

 どのユニットで戦い、何を装備させ、どんなプロジェクトやカウンターを使うのかが計画的に調整されている。


「あたしが水棲を使うことはバレてるから、対策を取られるかもしれない。

 でも、竜はギルドのメンバーしか知らない秘密兵器。大会で使うなら、断然こっちだよね。

 【アルテミス】は絶対に外せないとして、竜と【エクシード・ユニオン】……う~ん、もうちょっと何か欲しいなぁ」


 すでに十分強いのだが、ギルドのメンバーや帰国組を知るリンには、まだ何かが足りないように思えた。

 優勝したいというより、どう考えても強者(つわもの)ぞろいな面々を相手に、自分の全力をぶつけてみたいのだ。


「例のアレ、好きなリンクカードと交換できるチケットは……まあ、だいたい使い道が決まったけど。

 やっぱり、ユニットなんだよね。欲しいのは」


 もう1体、竜デッキに入れられるような何かが欲しい。

 方針を決めたリンは、とりあえず現時点で使いやすい水棲をまとめて、ミッドガルドへ向かうことにした。

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