第3話 ミッドガルド初挑戦 その3
ミッドガルドの入り口である平原を進むと、やがて左右を樹木が囲んでいく。
道はしっかりと作られ、林を切り拓いた街道といった感じだが、このあたりから少しずつモンスターが強くなっていく。
牙をむいて襲いかかってくるのは、180cmほどもある大型のオオカミ。
それらを1体ずつ引きつけ、ユウとステラが応戦していた。
「ガードだ【ヘビーナイト】、持ちこたえろ!
【好戦的なエルフ】で反撃!」
「フンガーーーーーーッ!」
重装戦士が防御を担当し、筋肉ムキムキのエルフが殴りつける。
ユニットを3体まで扱えるミッドガルドでは、これが基本的な戦術だ。
マッチョな拳がオオカミに直撃し、その体を光の粒子に変えて吹き飛ばすと、ユウは満足げに斜めの角度で『フッ』とポーズを決めた。
「リンがくれた【超重鋼タワーシールド】、やっぱり使い勝手がいいぜ」
「こっちも終わりましたよ。
見てください、ドロップ品です!」
「おお~、ワンカードパックじゃないか!
いいなぁ、俺も少しは稼ぎたいんだが」
ステラが見せてきたのは、カードがランダムで1枚だけ入ったパック。
ドロップ率は低いが、ポイントを使わなくてもカードが手に入るため、戦い続ければ多少の稼ぎになる。
ベテランなだけあって、さすがにステラの戦いは安定していた。
見た目が邪悪なことにさえ触れなければ、宇宙ワニガメは攻防ともに優秀だ。
何らかの方法で敵の攻撃力が上回っても、彼女なら簡単にはやられない。
「さて、あっちのほうは……」
「あはは……派手にやってますね」
まともな戦いかたをしている2人は、半ば呆れたような顔でリンのほうへと目を向けた。
「わはぁああ~、可愛い~~~!」
Enemy―――――――――――――
【 アルミラージ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:動物
攻撃3200/HP1800
効果:このユニットは攻撃ステータスでガードすることができる。
スタックバースト【殺人兎】:永続:プレイヤーに貫通ダメージを与えるとき、攻撃ステータスの半分を加算する。
――――――――――――――――――
ハイテンションなリンと対峙しているのは、このあたりでも特に強いモンスター。
頭に1本の角が生えたウサギだが、アンコモンのレアリティ補正によってステータスは2倍。
さらに強力なガード能力や貫通攻撃の強化を持っているため、可愛い見た目ながらも『初心者殺し』と恐れられている。
が、しかし――
「よ~し! この子を倒すよ、【アルテミス】!」
「了解です。マスター」
対するリンのユニットは、★4スーパーレアの女神。
そのままではステータス差で負けてしまうが、リンクカードを無限に装備できるという無二の能力を持つ。
そこで、まず最初に装備したのが【バイオニック・アーマー】。
これによって、サイバーな女神はさらに機械化され、戦闘ロボットのような科学兵器を身にまとっていた。
顔の上半分はバイザーに覆われて見えなくなったが、美人がこれをやると超かっこいいのでポイントが高い。
そして、【アルテミス】の能力を反映する『マルチプル・リンクビット』の効果により、装備された武器や盾などがビットとして彼女の周囲に浮かぶ。
その数たるや、1つや2つといった生やさしいものではない。
まるで魚群のように女神を守るビットの数々は、以下のように構成されていた。
【バイオニック・アーマー】 防御+500(装備解除されたターンに攻撃+500)
【汎用アタッチメント・ブレード】 攻撃+300
【名刀『菊一文字』】 攻撃+500、防御-100
【アサルトライフル『MA517』】 攻撃+400
【ダマスカスシールド】 防御+300
【アイアンナックル】 攻撃+300
【聖職者の錫杖】 攻撃+100、防御+300
【守りの剣】 攻撃+200、防御+200
【ドワーフの大斧】 攻撃+400
【ソードブレイカー】 攻撃+200(ガードした相手のリンクカードを破棄)
【対戦車狙撃砲】 攻撃+700(ターン終了直前にしか攻撃できなくなる)
【転換型バリアフォース】 攻撃-200、防御+500
ごちゃごちゃと大量にくっついているのは、初心者のリンが持ちうる低レアリティなカード。
しかし、ちりも積もれば何とやら。
全て合算すると攻撃5500、防御4300。
【ブリード・ワイバーン】の三頭最終形態すら、上から殴り倒す女神様が完成していた。
「持ち込める15枚のカード中、12枚が装備品って……
よく考えたんだか、考えてないんだか」
「とてもシンプルな戦略ですけど、強いですね。
ぜひとも決闘で戦ってみたいです」
なにやら好戦的な言葉が口から出るステラ。
その視線の先では、果敢に突っ込んでいった【アルミラージ】が、あっけなく弾き返されていた。
「いっくよー! 【アルテミス】、攻撃宣言!」
女神が光を具現化させた弓矢を放つと、12個のビットが一斉に襲いかかる。
ウサギは防御能力を発動させて必死に身を守ろうとしたが、圧倒的な数字の暴力で粉砕された。
すさまじい爆発が起こり、巻き上げられた小石の雨がパラパラと降り注ぐ。
立ち込める土煙が晴れると、林の街道にできていたのは小さなクレーター。
ウサギ1匹に対しては、もはや過剰な火力だ。
「あっ! ウサギさんが気絶した!
えっと、ブランクカード……ブランクカード!」
先ほどのハチドリのように、ウサギは光った状態で消えずに残っていた。
あの爆発の中で、よく五体満足に残っていたものだと疑問に思うところだが、深く考えてはいけない。
リンが慌ててブランクカードをかざすと、新しく【アルミラージ】のカードが生成された。
レアリティ補正が消えたようで、攻撃1600と防御900に半減したが、それでも優秀なユニットだ。
「やったぁ~! ウサちゃん、捕獲完了!」
「おめでとうございます。
可愛くて強力なユニットですね。
アンコモンは気絶しにくいので運がいいですよ」
「幸先がいいね!
じゃあ、さっそく呼び出して……あれ?
カードから出てこないんだけど」
「ミッドガルドは持ち込めるカードの数が決まってるだろ?
ここで手に入れたものは、いったん外に出ないと使えないんだ」
「そっか、延々と捕まえたユニットを出せたらまずいんだね。
それにしても、可愛いウサちゃん……この子もウチの島で飼いたいなぁ。
ああ~、どんどん目標が増えていきそう」
「デッキに入れて使うなら、スタックバーストのぶんも欲しいですよね」
「それもそうだね!
ウサちゃん、他にいないかな~?
痛くないように1発で仕留めてあげるから出ておいで~」
言いながら、リンは魚群のようにビットを引き連れた女神を従え、林の街道を進んでいった。
アンコモン程度のモンスターでは相手にならず、バトルが行われた場所に次々とクレーターができていく。
「【アルテミス】って……月と狩猟の女神ですよね」
「ああ……まさにウサギ狩りだな、乱獲だ」
あれだけの物量作戦を行えるのは【アルテミス】の特権なので、ちょっとうらやましいと思う2人であった。