第17話 炎熱の試練 その2
全身を燃やしながら突っ込んできた不死鳥の先制攻撃。
【オボロカヅチ】の効果で半減されながらも3600ダメージに至る強撃を、使い捨てのリンクカードと引き換えに受け流す。
装備したばかりの【フォース・フィールド】は、一瞬にしてガラスのように砕け散ってしまった。
「よ~し、わたしのターンです!」
損失は想定の範囲内。ここからはソニアが攻めに転じる。
しかし、問題は不死鳥が持つ永遠の命だ。
単純に攻撃しただけでは、どんなに頑張っても倒し切ることができない。
「ここからが腕の見せどころ!
いでよ、空軍が誇りし第2のしもべ! 【キラージョー】!」
「ギキィイイーーーーーッ!」
Cards―――――――――――――
【 キラージョー 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:機械/水棲/飛行
攻撃1700/防御1500/敏捷90
効果:このユニットが受けるダメージは常に500軽減される。
スタックバースト【シャーク・カノン】:瞬間:バトル終了まで、このユニットの攻撃に防御ステータスを加算する。
――――――――――――――――――
ソニアが召喚した2体目のユニットは、全身が金属で構成されたメカシャーク。
陸・海・空の全てで使える便利なユニットで、火力も出せるアタッカーだ。
機械ユニットの使い手として、このサメのことはクラウディアもよく知っている。
「【キラージョー】……タイプが統合されて、ユニットの効果が変わったカードのひとつね」
「Exactly!!
5周年のときに新たな権能を手に入れたのです」
元々のタイプは【機械】のみで、『このユニットは【タイプ:水棲】および【タイプ:飛行】として扱うことができる』という効果になっていた。
しかし、最近になって複数のタイプを持つハイブリッド型が現れたため、旧式のユニットもバランスを取るべくタイプを統合。
リンが扱う【ネレイス】を始めとする数種類のユニットに、新たな能力が与えられたのだ。
「防御性能がアップして、ますます使いやすくなった【キラージョー】!
今から、少し変わった使いかたをお見せするです」
「なるほど、あなたの作戦を見せてもらうわ」
「はっ、ご覧あれ! まずは1枚目、ひそかに仕入れておいた三ツ星カード!
【マルチ・トランスポーター】を発動!」
Cards―――――――――――――
【 マルチ・トランスポーター 】
クラス:レア★★★ プロジェクトカード
効果:【タイプ:機械】のユニット1体を選んで発動。永続効果。
対象のユニットが装備したリンクカードを、同じ【タイプ】のユニット1体に移すことができる。
相手がすでにリンクカードを装備している場合は無効。
移し替えたリンクカードは、ターン終了時に元のユニットへ戻される。
――――――――――――――――――
このタイミングでソニアが取り出したのは、リンクカードを輸送するための1枚。
本来は機械デッキで使うものであり、強力な装備品で攻撃宣言した後、他の機械ユニットにも装備を移動させて使い回すことができる。
リンクカードを移し替えるカードとしては、★2アンコモンに【極秘輸送任務】があるが、あちらは一度きり。
それに対し、こちらは移し替えた装備品が戻ってくる上に、永続効果で何度でも移せる。
ただし、輸送相手とのタイプが一致していなければいけないため、結局は機械デッキでの攻勢に使うのが一般的だ。
「ずいぶんとまた、トリッキーなカードを持ってきたわね」
「ふふふ……普通の決闘ではそうですが、ミッドガルドでは無限の可能性を秘めた新兵器!
なぜ、このカードを選んだのか。お姉さまなら気付くと思うのです」
「…………? もしかして……でも、まさか……!
この記述のとおりなら、野生モンスターにも無理やり装備を移せる!?」
「Exactly!!」
文面をよく読むと『同じ【タイプ】のユニット1体に移すことができる』と書いてある。
自分のユニットにしか使えない場合は『自プレイヤーが所有する』と明記されるため、このカードは誰に対しても効果を及ぼす。
たとえ、それが対戦相手のユニットや、ミッドガルドの野生モンスターだったとしても。
「ちゃんと移動するのかは、すでに実験済みです!
それでは不死鳥捕獲大作戦、【キラージョー】に【遊泳水柱】を装備!」
Cards―――――――――――――
【 遊泳水柱 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:このカードを装備している【タイプ:水棲】のユニットは、効果とスタックバーストを無効化されない。
【タイプ:水棲】以外が装備した場合、効果とスタックバーストを全て失う。
――――――――――――――――――
どこからともなく水柱が吹き上がり、【キラージョー】の全身を液体で包み込んだ。
原理は不明だが、水族館の巨大水槽のごとく円柱状になった水柱が維持され、その内部でユニットが泳げるようになっている。
それは灼熱の火山でも例外ではなく、突如としてサメの水槽が出現した。
そのまま使えば、水棲ユニットを守るためのカード。
しかし、今は相手の効果を封印させるための手段になる。
「ふはははははっ! 不死鳥は飛行タイプ、【キラージョー】は飛行と機械を両立したユニット!
機械でしか発動しない【マルチ・トランスポーター】!
同じ【タイプ】にしか装備品を移せない制約!
全ての条件をクリアした今、我が作戦は山のごとく不動の――
あ、あれ? マントが……マントがバサッてしないとポーズが決まらない……」
涼しい服装にしてしまったことを、ソニアは少しだけ後悔した。
しかし、ここまで来ればチェックメイトは目前に迫っている。
「とにかく! 【マルチ・トランスポーター】の効果で装備品を移動!
相手はもちろん、【イモータル・フェニックス】!」
「グェエエエエエエエエーーーーーーッ!!」
次の瞬間、滅多に見られないであろう壮絶な光景が広がった。
自分からは決して水中に入らない不死鳥が、巨大水槽の中で溺れているのである。
その体から無限に発生する熱により、周囲の水は瞬時に沸騰。
大量の水蒸気を放出しながらも、水槽は完全にモンスターを捕らえていた。
【イモータル・フェニックス】は水棲モンスターではないため、ペナルティを受けて効果とスタックバーストが消失。
これからターン終了まで、HPが無限ではなくなる。
「まさか、不死鳥を水に沈めるなんて……とんでもない使いかたするわね」
「この三ツ星プロジェクト、【マルチ・トランスポーター】は交換交流会で手に入れたのですが、トレード相手にも言われたのです。
こんな難しいカードを子供が使いこなせるのかと」
「実際、そのプロジェクトは制約が厳しすぎるし、単純にリンクカードを移すだけなら【極秘輸送任務】でもいいはずよ。
プレイヤーの間でも、良い評価を得ているとは言いがたいけど……
野生モンスターにも装備品を移せると気付いたのは、いつ?」
「会場でカードを見せてもらったときです」
「(交換交流会で見せられて、その場で気付いてフェニックス捕獲のためにトレードしたの!?
ラヴィアンローズの攻略情報を扱う界隈では、【マルチ・トランスポーター】はほとんど評価されていないはず。
その真価を自分の力で見出して……私の戦車ですら宙に浮かせて利用する作戦を、ひとりで立てた……)」
強者として名を知られているクラウディアですら、背すじにゾクッとしたものを感じてしまう。
彼女自身も小学生のときからラヴィアンローズを始め、オルブライトという師の下で幾人ものプレイヤーを震え上がらせてきたのだが――
いつしか周囲に与えた戦慄を、今は自分が感じるようになっていた。
リンという破天荒な問題児に加えて、同じ血を引く妹まで急激に成長しているのだ。何も感じないほうがおかしい。
「さて、不死とはいえ水の中では苦しいだろうし、楽にしてやるのです。
ここが使いどき! 黄金色のブランクカードを発動!
【オボロカヅチ】で攻撃宣言! 続いて【キラージョー】のスタックバースト!」
「ウルォオオオオーーーーーッ!!」
燃え盛る火山の中、大量の水に拘束された【イモータル・フェニックス】に、容赦なく雷撃が襲いかかる。
飛行特攻を持つ【オボロカヅチ】の効果でステータス半減。
そして最後のとどめを刺すために、【キラージョー】が口内の主砲でエネルギーを収縮した。
「無限の命を持つフェニックスよ!
今こそ我が軍門に降り、共に天空の覇者を目指すのだ!
お姉さまの前で言うのは恐れ多いのですが――【シャーク・カノン】、撃て!」
直後、水槽ごと貫いたレーザービームの閃光。
効果を封印された【イモータル・フェニックス】は撃ち抜かれ、水中で力を失って気絶する。
装備者を失った【遊泳水柱】が消えると同時に、不死鳥はカードへと姿を変えてソニアの手元に移動した。
Cards―――――――――――――
【 イモータル・フェニックス 】
クラス:レア★★★ タイプ:飛行
攻撃2400/防御2200/敏捷150
効果:このユニットはバトル以外のダメージやカードの効果で破棄されない。
スタックバースト【無限燃焼】:永続:このユニットは全てのダメージを受けない。
――――――――――――――――――
ラヴィアンローズに存在するユニットの中でも、最大級の生存力に特化した効果。
不死者であるヴァンパイア【ヴラド・ドラクル】と同等か、それ以上。
バトル以外では破棄されず、スタックバーストが決まってしまえば、もはやフィールドから除去する手段がない。
捕獲したときのように効果やバーストを無効化しない限り、不死鳥は無限の命で燃え続ける。
「うおおおおおおーーーーーーっ!!
これが……これが幻の三ツ星ユニット! 夢にまで見た不死鳥が、とうとう我が手に!」
「おめでとう、これであなたも一人前ね。
今日からはライバルとして扱うわよ。自分の妹であろうと関係なく――」
「うわあああああっ、お姉さま!!
見てほしいのです、この美しく燃えるようなカードイラストを!
代々我が家に伝えし家宝にしましょう!」
「ちょっ、聞きなさい、人の話を!」
興奮して大はしゃぎするソニアは、やはり小学生のままだった。
しかし、その才能と成長は認めざるをえない。
日本ワールドでも、ほとんど所有者がいないとされる【イモータル・フェニックス】を持つ者が、新たに誕生したのだから。




