第16話 炎熱の試練 その1
他のメンバーが新たな出会いや冒険に励んでいる頃、クラウディアとソニアの姉妹は火山に来ていた。
休憩所にテントを設置した2人は、噴煙が昇る火山を見つめて語りあう。
「ようやく、アレに挑む覚悟ができたのかしら?」
「然りであります!
ただ、かの不死鳥に辿り着くまでの試練を越えるため、お姉さまに助力していただきたく!」
中二病な上に元気が良すぎる妹と、常に頭を悩ませている姉。
何だかんだ言っても仲はよく、今回は行動を共にしていた。
暑い火山なためか、クラウディアはタンクトップにミリタリーベスト。
ソニアも普段はバサバサなびかせているマントを外し、半袖のアウトドアシャツで来ている。
これでも熱気は防ぎきれないので、探索するときはポーションが欠かせない。
「私も火山に用があったし、直接戦うところまでは送ってあげるわ。
でも、あなたが狙っている【イモータル・フェニックス】は噴火の最中にしか降りてこない。
どうやって近付くつもりなの?」
「無論、策は考えてあります。そのために来てもらったのが、お姉さま!」
「いくら私でも、噴火までは防げないわよ」
「いえ、防げるものはあるのです。
まずは、大きな機械のユニットを召喚してもらって――」
■ ■ ■
様々な地形が広がるミッドガルドの中でも、火山地帯は極めて難易度が高い。
ただでさえ危険なほど高温。さらには、そこらじゅうから硫黄や毒性のガスが吹き出ているエリア。
最も恐ろしいのは周期的に起こる噴火だ。少しずつ火口に近付きながら待機していると、やがて地鳴りと共に火山が活発化した。
現実世界で起こる噴火と違い、災害の原因になっているのは1匹のネームドモンスター。
溶岩の中を泳ぐクジラ【溶岩巨鯨”カイゼンボルグ”】が火口まで浮上し、息継ぎをするたびに噴火が発生する。
まさに潮吹きのごとく打ち上げられたマグマは、空中で固まって落下。9999の固定ダメージを伴う火山弾となって、エリア一帯に降り注ぐ。
そのうちの1発が、炎の尾を引きながら戦車に向かっていった。
クラウディアが扱う代表的な防御型ユニット、【ゴリアテ】である。
Cards―――――――――――――
【 ゴリアテ MkIII 】
クラス:レア★★★ タイプ:機械
攻撃1500/防御2600/敏捷20
効果:このユニットがガードしたとき、自プレイヤーへの貫通ダメージを無効化する。
スタックバースト【多重空間装甲】:永続:このユニットがガードしたとき、相手の攻撃力を半分にしてダメージ計算を行う。
――――――――――――――――――
当然ながら、そのままでは一瞬でスクラップ。
いくら鉄壁の★3といえども、【ゴリアテ】単体では9999ダメージに耐えられない。
しかし、すさまじい衝撃と高温の火山弾を受けたにも関わらず、戦車はまったくの無傷。
よく見れば普段と様子が違い、キャタピラの回転で走行しているわけではない。
【ゴリアテ】を動かしているのは宇宙船用のジェットエンジン。
装備されたリンクカードによって、戦車は低空飛行でホバリングしながら進んでいた。
Cards―――――――――――――
【 航宙型新式機関バーニア 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:【タイプ:機械】のみ装備可能。このカードを装備したユニットに【タイプ:飛行】を追加する。
該当のユニットはバトル以外のダメージを受けなくなり、さらに他のリンクカードを1枚追加で装備できる。
――――――――――――――――――
それはサクヤが引き当て、クラウディアが交渉の末にトレードした1枚。
リンの最終兵器に対抗するべく仕入れておいたものだが、妹の要望で想定外の使いかたをすることになった。
バトル以外のダメージを完全に防ぐため、火山弾に対しては無敵。
ただし、ミッドガルドのルール上、プレイヤーは飛行するユニットに乗ることができない。
そこでソニアが編み出した策は、浮いている戦車の下に潜り込むという奇抜な作戦だった。
降り注ぐ火山弾は【ゴリアテ】に当って消滅するため、真下は安全地帯になるのだ。
「ワレ作戦ニ成功セリ! 予想どおり、いけたであります!」
「まったく、聞いたこともないわよ! 戦車を傘にするなんて!」
浮いている戦車の真下に張り付き、妹を後ろに乗せたクラウディアはオフロードバイクで疾走する。
再び轟音が響いて火山弾が直撃したが、相変わらずノーダメージ。
ソニアの発想力は、時として意外な結果をもたらす。
クラウディアやサクヤ、そしてリンが有名すぎるため、世間のプレイヤーは知らないのだ。
かの【赤晶巨竜”ズユューナク”】を倒したメンバーの中で、最も奇作に長けて敵を翻弄したのは、小学生のソニアだということを。
「あなた、そのうちリンみたいな型破りのプレイヤーになるわよ!」
「お褒めに預かり光栄であります!」
「褒めてるわけじゃなくて、どちらかといえば心配なんだけど――いたわ! 3時の方向!」
「おお~! 我が求めし紅蓮の不死鳥!
ついに、今こそ! 宿命の戦いが始まるのです!」
キラキラと美しい火の粉を散らしながら、炎に包まれた鳥が上空から降りてくる。
初めて見たときには諦めるしかなかった幻の★3モンスター。
あまりの入手難易度ゆえに、持っているプレイヤーがほとんどいないとされる激レアな不死鳥。
Enemy―――――――――――――
【 イモータル・フェニックス 】
クラス:レア★★★ タイプ:飛行
攻撃7200/HP6600/敏捷150
効果:このモンスターはHPがゼロにならない。
スタックバースト【無限燃焼】:瞬間:このモンスターのHPを2倍にし、最大値まで回復させる。
――――――――――――――――――
常に燃えているため姿は目立つが、不死鳥は上空を飛び続けている。
しかし、ごく限られた時間のみ――具体的には火山が噴火している間だけ、地上に降りてくるのだ。
巨大な溶岩クジラによって火口からあふれ、川のように流れ落ちるマグマ。
クラウディアがバイクを加速させて灼熱の川を跳び越えると、その先に不死鳥の姿が見える。
まさに水浴びをするかのごとく、高温のマグマに身を浸す【イモータル・フェニックス】。
ソニアはバイクの後ろに乗った状態でカードを手に取り、戦うためのユニットを召喚した。
「光よ 闇よ 真理よ 栄光よ
虚ろなる世界の盟約に従い 今こそ封印より解き放たん
ユニット召喚――いでよ、【オボロカヅチ】!」
Cards―――――――――――――
【 オボロカヅチ 】
クラス:レア★★★ タイプ:飛行
攻撃1700/防御2500/敏捷100
効果:このユニットとバトルした瞬間、【タイプ:水棲】と【タイプ:飛行】のユニットは、ターン終了まで攻撃と防御が半分になる。
スタックバースト【朧雷鳴閃】:瞬間:このユニットは1回の攻撃宣言で、相手のユニット全てに攻撃できる。
――――――――――――――――――
「ウルオオオオオーーーーーッ!」
もはやソニアの代名詞。雷雲を固めたかのような正体不明の怪物が、バチバチと放電しながら翼を広げる。
不死鳥と対峙できる距離まで突き進むと、バイクは急停車。
クラウディアは【ゴリアテ】を盾にして火山弾を処理し、辺り一帯の安全を確保してくれた。
「私のサービスはここまでよ。あとは自分で何とかしなさい」
「感謝感激であります! 幻の不死鳥よ、いざ尋常に勝負!
リンクカード、【フォース・フィールド】!」
Cards―――――――――――――
【 フォース・フィールド 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装備されているユニットが攻撃をガードした場合のみ防御+1500。
1回でもバトルを行うと、その後、このカードは破棄される。
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使い捨てだが、強力なバリアが【オボロカヅチ】を包み込む。
マグマを浴びていた不死鳥は敵の存在に気付くと、逃げることなく先制攻撃を仕掛けてきた。
敏捷150を活かした高速飛行。燃え盛る翼で羽ばたき、恐ろしいほどのスピードで急降下。
まるで火の玉が突っ込んでくるかのような、豪快な一撃だ。
「ギュケオオオオーーーーーン!!」
「【オボロカヅチ】でガード! このためのリンクカードです!」
「ウオオオォーーーーーーッ!!」
雷のエネルギーを蓄えて迎え撃つ【オボロカヅチ】。
周囲にはマグマの川が流れ、空からは即死ダメージの火山弾。
並みのプレイヤーでは来ることすら叶わない局地で、ついに開戦の狼煙が上がったのだった。




