第2話 ミッドガルド初挑戦 その2
恐ろしい怪物に変異した【ジャイアント・スナッパー】の周りを、3体の【ハチドリル】が飛び回る。
ハチドリたちは果敢に立ち向かったが、こんな化け物を相手に長続きするはずもなく、1ターンに1体ずつ暴力的に葬られていった。
「ホキャオオオーーーーッ!」
宇宙ワニガメの雄叫びは、耳をふさぎたくなるような不気味さである。
やがて、波刃剣のような形をした尻尾が容赦なく叩きつけられ、最後のハチドリも力尽きた。
こんな悪夢のようなユニットを使役しながらも、バトルを終えたステラは可愛らしくニコッと微笑む。
「はいっ、勝利です」
「やっぱ極悪すぎるって……土星猫」
「あ! リン、見てください!
まだ【ハチドリル】が消えずに残ってます」
「ほんとだ~。キラキラ光ってるね」
他のハチドリはすぐに消えてしまったが、最後に倒された個体は気絶した状態で残っていた。
まるで消滅の瞬間がスロー再生されているかのように、時間をかけて少しずつ消えていく。
「このまま放っておくと、消えてしまうのですが――
なんと、『ブランクカード』を使うと自分のカードにできるんです!」
「へぇ~、このタイミングで使うんだ!
ブランクって、何も書いてないカードのことだよね?」
「そうです。さっそく使ってみましょう」
ステラが取り出した1枚のカードには絵柄がなく、文字も書いていなかった。
Tips――――――――――――――
【 ブランクカード 】
ミッドガルドでモンスターを倒すと、まれに気絶した状態で3分間その場に残る。
このときにブランクカードを使用すると、ユニットカードとして取得することが可能。
取得する権利があるのは倒したプレイヤー本人のみ。
通常のカードと同じように使用できるが、トレードは不可。
――――――――――――――――――
「3分で消えてしまうので、欲しいと思ったら即決です。
ブランクカード発動!」
ステラが空白だらけのカードをかざすと、ハチドリは光の粒子になって吸い込まれる。
そして、新たな【ハチドリル】のカードとして絵柄や文字が刻み込まれた。
これもカードゲームの常識をくつがえす新技術。
その場でカードが発行されるという、VRならではの仕様だ。
「こうしてモンスターをカードにすることを、『インプリント』っていうんです。
【ハチドリル】、捕獲完了!」
「わぁ~、すっご~い!
ここにいるモンスターって、みんなカードにできるの?」
「ああ、できるぞ。
そもそも、このゲームはユニットがいないと何もできない。
そこでたくさんのユニットを手に入れられるように、2周年記念でオープンしたのがミッドガルドだ」
「なるほどね。
あたしもいろんなカードが欲しいし、ドローする効果ばかりでデッキを組むと、ハイランダーと戦ったときヤバイって分かったからさ~。
ここで新しいユニットを捕まえて、デッキを組み直してみようかな」
「それがいいと思います。
始めたばかりなら、毎日来ても足りないくらいですよ」
「これもこれで沼が深いからな」
このゲームにはパックを購入する以外にも、カードを手に入れる方法がいくつかある。
特にミッドガルドの場合、モンスターの姿や能力を見てから入手することが可能だ。
何が出るのか分からないパック開封とは違い、狙ったものを得られるという点が画期的だった。
「じゃあ、ガンガン捕まえよ~!
もしかして、レアモンスターとかもいたりする?」
「いるんだが、ひとつ問題があってな……
レアリティ補正っていうんだが」
Tips――――――――――――――
【 レアリティ補正 】
ミッドガルドの野生モンスターは、レアリティごとに以下の補正を受ける。
★コモン:補正なし
★★アンコモン:基礎ステータス2倍、気絶する確率が少し低下
★★★レア:基礎ステータス3倍、気絶する確率が大きく低下
――――――――――――――――――
「ステータス3倍!?
ただでさえ、レアカードは強いのに……」
「そもそも、レアがいる場所まで行くのが難しい。
こんな入り口付近じゃ出てこないんだ。
大半のプレイヤーはアンコモンを相手にするだけでも精一杯だし、レアと会うころには手札が尽きてたりする」
「ミッドガルドが実装されてから2年以上経ってますけど、いまだに未探索のエリアが多いんですよね」
「なるほど……簡単そうに見えたけど、先に進むと難しいってことか~」
ゲーム用語でいうところの『PVP』が決闘なら、こちらは『PVE』。
似ているようだが、人間を相手にするのと、モンスターを相手にするのとでは戦略性が違う。
とことん極めようとすると、このミッドガルドも沼の深いコンテンツである。
「まあ、まずはコモンやアンコモンを捕まえるところからだな。
確率は低いが、ドロップアイテムを落とすこともある」
「リンが欲しがってるペットアイテムが出る場合もありますよ」
「そう、それそれ! そのために来たんだよね!
よ~し、あたしも戦う準備しよっと」
意気込んだリンは、デッキの中からユニットカードを取り出した。
それは彼女が所有している唯一の高レアカード。
「ユニット召喚! 【アルテミス】、力を貸して!」
召喚を宣言した直後、ユウとの戦いと同様に空が満月の夜へと塗り替わり、サイバーな衣服に身を包んだ月の女神が降りてくる。
見る者の度肝を抜く召喚演出は、このミッドガルドにおいても変わらなかった。
2回目の拝顔になるリンとユウの兄妹はもちろん、3人の中で最も経験を積んできたステラですら驚愕する。
「これが★4スーパーレア……【アルテミス】ですか!」
Cards―――――――――――――
【 月機武神アルテミス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神
攻撃2600/防御2600
効果:リンクカードを何枚でも装備できる。
スタックバースト【超次元射撃】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。
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人間界であるミッドガルドに降り立っても、銀髪の女神は美しかった。
サイバーな武装も相まって、他のユニットとは明らかな格の違いを感じる。
「あのさ、ステラ。
さっきから【土星猫】が、ずっとカメにくっついたままだよね。
リンクカードって装備したら外れないの?」
「はい。効果が永続のものは、ユニットが倒されるかカードに戻すまで続きます」
「じゃあ、思いっきり強くできるね!
リンクカードいっぱい持ってきたんだ~、まずはこれ!」
シュパッと音が鳴るほど勢いよくリンが取り出したのは、他の2人にも見覚えのある装備品。
「【バイオニック・アーマー】、装着!」




