第3話 魔導書庫へのいざない その2
「わたくし、とある書庫を管理している者ですが……
本の魔力が強すぎて勝手に動き出したり、封印されていた悪魔が抜け出したりするんです。
書庫の安定を保つために、ご協力していただけませんか?」
ゆったりとしたローブを羽織い、眼鏡をかけた女性司書のNPCは困り顔でそう言った。
今まではいなかったはずだが、チュートリアルを終えたことでリンにも見えるようになっている。
「本が動くのはともかく、封印されたものが抜け出すってまずくない?」
「事態は深刻なようですね。書庫に向かいましょう」
クエストを受けて司書に話しかけると、ワープするかどうかを尋ねられた。
無論、そのために来たので『Yes』を選択する。
すぐさまワープが始まり、2人の視界が真っ白に染まった直後――
眼前に広がったのは、ファンタジー世界らしい巨大な書庫。
蔵書を蓄えた古めかしい本棚が並び、その列が延々と奥まで続いている。
さすがにスピノサウルスが暴れられるほどではないが、この場所だけでもダンジョン並みの広さがありそうだ。
「うわ~、すっご~い! これ全部、本なの!?」
「たしかにステラさまが好みそうな場所ですね」
「うん、分かる。いかにも魔女がいそうだし、メイドさんの雰囲気にも合ってるよ」
「そうでしょうか……?」
リンに褒められたセレスティナは、自身の姿と周囲の様子を見比べた。
魔導書庫にメイドがいるというだけで、アンティークな感じが際立っている。
ひとしきり記念撮影などを終えたところで、2人は戦う準備を整え始めた。
「ユニット召喚! 今回はレダさんにお願いするよ!」
Cards―――――――――――――
【 魔法双剣士 レダ・オンスロート 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:人間
攻撃1600/防御1300/敏捷80
効果:リンクカードを2枚装備できる。
スタックバースト【バーストカウンター】:瞬間:ターン終了まで、目標のユニット1体のスタックバーストを無効化する。
――――――――――――――――――
褐色の肌と鋭い双眸の女剣士、【レダ・オンスロート】が召喚される。
チュートリアルでスライムを倒すために調達した【タイプ:人間】のユニットだ。
カード名にもあるとおり、左右の手に持った2本の魔法剣がトレードマーク。
しかし、今回は意外な武器に取り替えてしまう。
「それじゃ、リンクカードを装備っと」
Cards―――――――――――――
【 ST-21 サブマシンガン 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:【タイプ:人間】にのみ装備可能。装備されているユニットに攻撃+400。
攻撃ステータスを半分にすることで、フィールド上の相手ユニット全てに攻撃できる。
――――――――――――――――――
なんと、現代兵器のマシンガンである。
全体攻撃がどれほど便利なのかは、ソニアの【オボロカヅチ】で実証済み。
自分も使ってみようと考えたリンは、新しいリンクカードを試してみた。
しかし、マシンガンはデメリットとして攻撃力が半減する。
射程範囲は広がるのだが、このままでは少々使いにくい。
「ふふふ~、攻撃力が下がっちゃうけど、レダさんなら”これ”ができるんだよね。
もう1枚のリンクカードを装備!」
Cards―――――――――――――
【 コンバットスーツ 】
クラス:コモン★ リンクカード
効果:【タイプ:人間】にのみ装備可能。
装備されているユニットは攻撃ステータスの低下効果を受けない。
――――――――――――――――――
特殊工作員のような、全身にフィットした防護スーツを着込んだレダ。
本来なら下がってしまう攻撃力も、他のリンクカードで打ち消せるのが彼女の強みといえる。
黒いコンバットスーツ、サブマシンガン、黒と紫が混じった髪に褐色の肌。
もはや魔法剣士ではなく、異国の軍事エージェントを思わせる姿だ。
「いいよ、いいよ~! レダさん、かっこいい!」
「面白い組み合わせですね。勉強になります」
「あはは……いろんなカードが10ボックスぶんも増えたからね……」
「私も人間タイプなのですが、今回は特化型で――ユニット召喚!」
Cards―――――――――――――
【 魔斃王 ベオウルフ 】
クラス:レア★★★ タイプ:人間
攻撃2300/防御1600/敏捷70
効果:【タイプ:動物】、【タイプ:竜】、【タイプ:悪魔】、【タイプ:アンデッド】に対して与えるダメージに、自身の防御力を加算する。
スタックバースト【ヘオロットの英雄】:永続:1ターンに1回、バトルで発生した貫通ダメージを無効化する。
――――――――――――――――――
セレスティナが召喚したのは、リンからゆずってもらった★3レア。
魔人や魔女、ドラゴンなどのモンスターを斃してきた伝説の英雄だ。
一部のタイプに対する特攻効果が強力で、かの赤晶竜に15000ほどの大ダメージを叩き込んだのは記憶に新しい。
「リンクカードを装備! 【センチネル・シールド】と、その効果で【ホーリーブレイド】!」
Cards―――――――――――――
【 センチネル・シールド 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されているユニットに防御+500。
【タイプ:人間】が装備した場合は効果が2倍になり、もう1枚追加でリンクカードを装備できる。
【 ホーリーブレイド 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装備されたユニットに攻撃+400。
【タイプ:悪魔】および【タイプ:アンデッド】とバトルしたとき、追加で攻撃+600。
――――――――――――――――――
浮遊する2枚の盾が防御壁となり、さらに聖なる剣を携えた魔物ハンター。
邪悪なものを打ち倒す『悪魔とアンデッド絶対殺す王』が、ここに完成する。
「この場所には、悪魔タイプが出現するそうです。
野生モンスターとして現れることは少ないので、希少な狩り場になるかと」
「なるほど、それで特化させたんだね。
こうして見ると、人間タイプって専用のカードが多いな~」
「それが優遇されているといわれる所以ですが、人間にしか使えないカードはデメリットでもあります。
他のタイプを強化する余裕がなくなりますので」
「あ~、たしかに。人間タイプを極めようとすると、それ以外はスカスカになりそう。
クラウディア……よく機械ユニットだけを使ってられるなぁ」
「あの方を見れば見るほど、才能に驚かされます。
特に集団戦での戦闘指揮は、観察眼と判断力、情報分析力。
なにより統率を執る者としての責任感がなければ務まりません」
「分かってきたでしょ? ウチのリーダーは、世界で一番すごいんだから」
言いながら微笑むリンの表情に、一切の迷いがないことをセレスティナは見抜いていた。
リーダーだけではなく、友人としても全幅の信頼を寄せているのだろう。
毎日のように顔を合わせているとはいえ、リンたちが出会ったのは半年前だという。
どれほど濃い時間と心のつながりを共有すれば、短期間でここまで深い信頼を得られるのだろうか。
「私としても、興味深いです……このギルドは」
「セレスさんも、すぐに馴染むよ。変わった人も多いけど――
って、ああっ! あれ見て、何か飛んでる!」
リンが指さす方向を見ると、なにやら深い紫色の光を帯びたものが浮遊している。
それこそが書庫に巣食う悪魔モンスターの1体、邪悪な力を持つ妖精であった。
Enemy―――――――――――――
【 ボイド・フェアリー 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃300/HP200/敏捷60
効果:このモンスターは必ず最初に行動する。
スタックバースト【イレイズ・マジック】:瞬間:目標のカウンターカード1枚を無効化して破棄する。
――――――――――――――――――
見た目は小さくて可愛らしい妖精だが、あまり友好的とはいえない。
オオムラサキを思わせる美しい蝶の羽で飛び、青い肌が怪しさを増長させている。
神、悪魔、竜の3タイプはBIG3と呼ばれており、野生モンスターの数は少ないらしい。
セレスティナが言うように、ここは貴重な狩り場になりそうだ。
「カウンターの破棄か~、あの子いいね!」
「捕獲しますか?」
「もちろん! 向こうが先攻を取るみたいだけど、★1なら平気平気。
おーい、どこからでもかかってこーい!」
リンが声をかけると、妖精はパタパタと飛びながら近寄ってくる。
そして、戦闘開始。相手は直接攻撃するのではなく、そこにあった本棚に手を置いて魔力を放った。
すると――重厚な本棚がスライドして動き、他の棚も連動するかのように位置を変えていく。
「え? え……ええええっ!?」
あっという間に本棚が道を塞いで、リンたちを取り囲んでしまった。
これが魔導書庫の厄介なギミック。蔵書がぎっしりと詰まった本棚が壁となり、侵入者を迷路へと閉じ込めてしまう。
何も知らずに入り込んだリンは、さっそく魔の洗礼を浴びたのだった。




