表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/297

第26話 鉄血の七翼

「よう、みんな! DJ・ジャックの緊急生配信だ!

 ついに成し遂げたヤツが出たんだってよ、この日本ワールドで!

 何かって? 配信を見に来たなら、みんなもう知ってるだろ?

 あの最強モンスター、水晶洞窟(クリスタルケイブ)の竜が倒されたって話だ!

 しかも、やったのは例の中高生グループで――」


「見て! 戻ってきたわよ!」


「おおっと、待ってた甲斐があったな。この配信を見てる視聴者もラッキーだぜ。

 ネームド狩りを果たした英雄さまのお帰りだ!」


 その日、ミッドガルドの村には数多くのプレイヤーが押し寄せていた。

 この機を逃すまいと配信する者や、英雄の帰還をひと目でも見ようとするギャラリーで大混雑。

 そこに歩いてきたのは、若き7名の少年少女であった。


 全員が未成年どころか、小学生まで所属しているティーンエイジャーたち。

 【鉄血の翼】に所属する面々は皆、その手に黄金色の鱗を抱えている。


Tips――――――――――――――

【 竜王の金鱗 】

 ネームドモンスター【赤晶巨竜”ズユューナク”】の鱗。

 恐れることなく竜に挑み、見事に討伐した英雄の証。 

――――――――――――――――――


「マジかよ……あれがネームドを倒した証拠なのか?」

「きれいな鱗だけど、【ズユューナク】って金色じゃなかったよね?」

「本気を出すと金色になるんだってさ。どうにも信じられない話だが……」


 ヒソヒソと語りあうプレイヤーたちは知らない。

 赤い水晶をまとった姿は第1形態に過ぎず、その下に黄金色の鱗があることを。

 【鉄血の翼】の面々が――特にリンやステラの火力が異様なため麻痺しがちだが、普通なら第1形態のHPを半分ほど削るのが関の山だ。


 それゆえ、真の姿である第2形態がSNSに上がったときは、まさに大騒ぎであった。

 本当に倒したのかどうかを確かめる(すべ)はなく、いまだに信じきっていない者もいる。

 だが、そんな中で――


「はいはい、ちょっとごめんなのだ。道を開けて通してね~」


「あれ? コンタローだ!」


 首に赤いスカーフを巻いたキツネのマスコット、コンタローがフワフワと飛んでくる。

 いつもはイベント会場にいるため、ミッドガルドで見るのは初めてのことだった。


 コンタローはリンたちの前までやってくると、黄金色の鱗を見てうなずく。


「ああ~、またキミたちかと言いたいんだけど、諸君ならやってくれるような気もしていたのだ。

 もちろん、運営(こっち)でも記録されてるし、不正行為がなかったかバトルデータの検証もしてみた。

 その結果――」


 どこからともなく取り出したクラッカーをパァンと鳴らし、メガホンで拡声したコンタロー。

 彼は運営の端末として、決定的なひと言を告げる。


「おめでとぉ~! キミたち7人は、日本ワールドで初めてネームドモンスターを倒すことに成功したのだ~!

 不正などは一切なし。彼らが持っている鱗も、間違いなく本物なのだ」


 その言葉を発端に、プレイヤーたちの驚愕はピークに達した。

 先日の交換交流会でも見たように、コンタローは運営として重要な役割を担うバーチャルAIである。

 そんな彼のお墨付きが出た以上、もはや疑いようのない真実。

 驚愕は祝福へと変わり、割れんばかりの拍手が降り注ぐ。


「すでにコンソールから受け取ってるかもしれないけど、ネームドを倒したものには【称号】が贈られるのだ。

 その名も『討名者(ネームド・ハンター)』!

 これを期に1体といわず、どんどん倒してみてほしいのだ」


「無茶言わないでよーっ!」


 頑張って倒したネームドだが、ドロップアイテムは微妙なものだった。

 いくつかの赤いペット・クリスタルに、金色の鱗、あとはクエスト達成によるポイント報酬。

 ポイントは合計9万ほどになったので美味しかったが、7人が全力を尽くして得た成果としては物足りない。


 もっとも、『討名者(ネームド・ハンター)』の栄誉は何にも代えがたいだろう。

 リンはこれで3つ目の称号を得ることになる。

 クラウディアが言ったように、まるで勲章をたくさん付けている軍人のようだ。


 かくして【鉄血の翼】に所属する者たちは、日本ワールドに名を刻むほどの偉業を達成。

 これまで以上に注目される存在として、最前線を歩き続けるのだった。



 ■ ■ ■



「本日のゲストは人気沸騰中の若手プレイヤー集団、【鉄血の翼】のリーダーとして名を馳せておられる、クラウディア・シルフィードさんにお越しいただきました」


「ごきげんよう、皆様。お招きいただき感謝します」


「いえいえ、こちらこそ。本当にお若いですね。

 さっそくですが、ラヴィアンローズの界隈で話題になっている件。

 かのネームドモンスターを倒したという偉業についてお聞きしたいと思います。

 なぜ戦うことになったんですか?」


「そもそもは、ウチのメンバー……まあ、普段から色々と派手なことをする子なので、あえて名前は出しませんが。

 その子の提案で討伐に挑戦してみようという流れになりました」


「なるほど、あの方ですね……

 では、前もって入念な下調べや準備をして挑んだのでしょうか?」


「もちろん、ネームドには何も効かないという前提でデッキを組みました。

 ただ、初めての挑戦だったので未知の部分が多くて……まったく予想していなかった事態にも直面しました。

 それでも討伐に成功したのは、全員が違うタイプのプレイヤーだったからです。

 攻撃を担当する者、防御を担当する者、サポートが得意な者。

 そんな多様性のひとつひとつが、勝利につながったのだと思います」


「ぬあああああ~~~~っ!! 何ですの、この番組!?

 そんな優等生ばかり映してないで、リンさまの(うるわ)しいご勇姿を出しなさいよぉ!」


 相変わらずリンの写真やグッズが並べられたルームの中、セーラは空間に投影された映像に向かって叫ぶ。

 番組のゲストとして呼ばれたクラウディアは、とても中学生とは思えないほど落ち着いた口調で語り続けていた。

 その様子を見ながら、メイドのテレーズは静かに所見を述べる。


「さすがに今回の件は、戦術指揮を執ったとされるクラウディアさまの活躍が大きいかと」


「でしょうけどね。きっとリンさまなら、おひとりでも互角に戦ったに違いありませんわ。

 こうして、こうして、こんなふうに!」


 言いながら左手にリンを模したぬいぐるみを、右手にはデフォルメされた【ズユューナク】のぬいぐるみを持ち、セーラは両者をぶつけあう。


 ぬいぐるみに(ほどこ)されているのは、ファンの間で『リンスタイル』と呼ばれる衣装だ。

 誰でも簡単に入手できる『初級冒険者の服』と、村で買える片手剣(ブロードソード)の二刀流。

 圧倒的な力を持ちながらも初心を忘れず、冒険者として戦う姿が話題を呼んでいる。


 リンに憧れる若い女の子は、そのスタイルを真似ているらしい。

 もちろんセーラも乗じてみたが、2本の剣が予想以上に重かったため断念した。


「ところで、テレーズ。わたくしたちが主催する予定の『リンさま非公式ファンクラブ』は、どうなっているのかしら?」


「はい、サークルの申請は無事に通りました」


Tips――――――――――――――

【 サークル 】

 同じ趣向のプレイヤーたちがコミュニケーションを取るための同好会。

 探検隊(エクスペディション)と違い、人数制限や特別な効果はない。

――――――――――――――――――


 現実世界のように、ここでもサークル活動を行うことができる。

 プレイヤーたちは色々な趣向を持っているため、同好の場を設けることでパイプラインをつなげているのだ。

 動物や昆虫ユニットの愛好会、ガーデニング職人の交流場、釣り人たちの集まりなど、目的と規模は多岐にわたる。


「おーーーっほっほっほっ、これでリンさまのファンが集まってくるはず!

 でも、何だか妙な気分ですわね……わたくしのリンさまが、わたくしだけのものではなくなってしまうような……」


「分かります。それが同担拒否というものです、お嬢さま」


「同担……? まあ、よろしくてよ。サークルのトップはわたくしですもの。

 ジュニアカップまでに、大応援団を作ってみせますわ!

 待っていてくださいませ~、リンさま~!」


 本人の知らぬところで、着々と進行するリンへの信仰心。

 若きプレイヤーたちが火花を散らす、年に一度の大舞台――ジュニアカップの開催が、いよいよ迫りつつあった。

以上で9章の完結となります。お読みいただき、ありがとうございました!

例によって例のごとく、手直しと作者のお休み期間を挟んで、次回は10章に入ります。


以降、詳細は活動報告にて!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん・・・。 さすがに、この超絶難易度モンスターの討伐報酬にしてはショボすぎるような・・・。 クエスト達成のポイント報酬も3つのうち二つはもう別のネームドを倒しても手に入らないわけだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ