第26話 鉄血の七翼
「よう、みんな! DJ・ジャックの緊急生配信だ!
ついに成し遂げたヤツが出たんだってよ、この日本ワールドで!
何かって? 配信を見に来たなら、みんなもう知ってるだろ?
あの最強モンスター、水晶洞窟の竜が倒されたって話だ!
しかも、やったのは例の中高生グループで――」
「見て! 戻ってきたわよ!」
「おおっと、待ってた甲斐があったな。この配信を見てる視聴者もラッキーだぜ。
ネームド狩りを果たした英雄さまのお帰りだ!」
その日、ミッドガルドの村には数多くのプレイヤーが押し寄せていた。
この機を逃すまいと配信する者や、英雄の帰還をひと目でも見ようとするギャラリーで大混雑。
そこに歩いてきたのは、若き7名の少年少女であった。
全員が未成年どころか、小学生まで所属しているティーンエイジャーたち。
【鉄血の翼】に所属する面々は皆、その手に黄金色の鱗を抱えている。
Tips――――――――――――――
【 竜王の金鱗 】
ネームドモンスター【赤晶巨竜”ズユューナク”】の鱗。
恐れることなく竜に挑み、見事に討伐した英雄の証。
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「マジかよ……あれがネームドを倒した証拠なのか?」
「きれいな鱗だけど、【ズユューナク】って金色じゃなかったよね?」
「本気を出すと金色になるんだってさ。どうにも信じられない話だが……」
ヒソヒソと語りあうプレイヤーたちは知らない。
赤い水晶をまとった姿は第1形態に過ぎず、その下に黄金色の鱗があることを。
【鉄血の翼】の面々が――特にリンやステラの火力が異様なため麻痺しがちだが、普通なら第1形態のHPを半分ほど削るのが関の山だ。
それゆえ、真の姿である第2形態がSNSに上がったときは、まさに大騒ぎであった。
本当に倒したのかどうかを確かめる術はなく、いまだに信じきっていない者もいる。
だが、そんな中で――
「はいはい、ちょっとごめんなのだ。道を開けて通してね~」
「あれ? コンタローだ!」
首に赤いスカーフを巻いたキツネのマスコット、コンタローがフワフワと飛んでくる。
いつもはイベント会場にいるため、ミッドガルドで見るのは初めてのことだった。
コンタローはリンたちの前までやってくると、黄金色の鱗を見てうなずく。
「ああ~、またキミたちかと言いたいんだけど、諸君ならやってくれるような気もしていたのだ。
もちろん、運営でも記録されてるし、不正行為がなかったかバトルデータの検証もしてみた。
その結果――」
どこからともなく取り出したクラッカーをパァンと鳴らし、メガホンで拡声したコンタロー。
彼は運営の端末として、決定的なひと言を告げる。
「おめでとぉ~! キミたち7人は、日本ワールドで初めてネームドモンスターを倒すことに成功したのだ~!
不正などは一切なし。彼らが持っている鱗も、間違いなく本物なのだ」
その言葉を発端に、プレイヤーたちの驚愕はピークに達した。
先日の交換交流会でも見たように、コンタローは運営として重要な役割を担うバーチャルAIである。
そんな彼のお墨付きが出た以上、もはや疑いようのない真実。
驚愕は祝福へと変わり、割れんばかりの拍手が降り注ぐ。
「すでにコンソールから受け取ってるかもしれないけど、ネームドを倒したものには【称号】が贈られるのだ。
その名も『討名者』!
これを期に1体といわず、どんどん倒してみてほしいのだ」
「無茶言わないでよーっ!」
頑張って倒したネームドだが、ドロップアイテムは微妙なものだった。
いくつかの赤いペット・クリスタルに、金色の鱗、あとはクエスト達成によるポイント報酬。
ポイントは合計9万ほどになったので美味しかったが、7人が全力を尽くして得た成果としては物足りない。
もっとも、『討名者』の栄誉は何にも代えがたいだろう。
リンはこれで3つ目の称号を得ることになる。
クラウディアが言ったように、まるで勲章をたくさん付けている軍人のようだ。
かくして【鉄血の翼】に所属する者たちは、日本ワールドに名を刻むほどの偉業を達成。
これまで以上に注目される存在として、最前線を歩き続けるのだった。
■ ■ ■
「本日のゲストは人気沸騰中の若手プレイヤー集団、【鉄血の翼】のリーダーとして名を馳せておられる、クラウディア・シルフィードさんにお越しいただきました」
「ごきげんよう、皆様。お招きいただき感謝します」
「いえいえ、こちらこそ。本当にお若いですね。
さっそくですが、ラヴィアンローズの界隈で話題になっている件。
かのネームドモンスターを倒したという偉業についてお聞きしたいと思います。
なぜ戦うことになったんですか?」
「そもそもは、ウチのメンバー……まあ、普段から色々と派手なことをする子なので、あえて名前は出しませんが。
その子の提案で討伐に挑戦してみようという流れになりました」
「なるほど、あの方ですね……
では、前もって入念な下調べや準備をして挑んだのでしょうか?」
「もちろん、ネームドには何も効かないという前提でデッキを組みました。
ただ、初めての挑戦だったので未知の部分が多くて……まったく予想していなかった事態にも直面しました。
それでも討伐に成功したのは、全員が違うタイプのプレイヤーだったからです。
攻撃を担当する者、防御を担当する者、サポートが得意な者。
そんな多様性のひとつひとつが、勝利につながったのだと思います」
「ぬあああああ~~~~っ!! 何ですの、この番組!?
そんな優等生ばかり映してないで、リンさまの麗しいご勇姿を出しなさいよぉ!」
相変わらずリンの写真やグッズが並べられたルームの中、セーラは空間に投影された映像に向かって叫ぶ。
番組のゲストとして呼ばれたクラウディアは、とても中学生とは思えないほど落ち着いた口調で語り続けていた。
その様子を見ながら、メイドのテレーズは静かに所見を述べる。
「さすがに今回の件は、戦術指揮を執ったとされるクラウディアさまの活躍が大きいかと」
「でしょうけどね。きっとリンさまなら、おひとりでも互角に戦ったに違いありませんわ。
こうして、こうして、こんなふうに!」
言いながら左手にリンを模したぬいぐるみを、右手にはデフォルメされた【ズユューナク】のぬいぐるみを持ち、セーラは両者をぶつけあう。
ぬいぐるみに施されているのは、ファンの間で『リンスタイル』と呼ばれる衣装だ。
誰でも簡単に入手できる『初級冒険者の服』と、村で買える片手剣の二刀流。
圧倒的な力を持ちながらも初心を忘れず、冒険者として戦う姿が話題を呼んでいる。
リンに憧れる若い女の子は、そのスタイルを真似ているらしい。
もちろんセーラも乗じてみたが、2本の剣が予想以上に重かったため断念した。
「ところで、テレーズ。わたくしたちが主催する予定の『リンさま非公式ファンクラブ』は、どうなっているのかしら?」
「はい、サークルの申請は無事に通りました」
Tips――――――――――――――
【 サークル 】
同じ趣向のプレイヤーたちがコミュニケーションを取るための同好会。
探検隊と違い、人数制限や特別な効果はない。
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現実世界のように、ここでもサークル活動を行うことができる。
プレイヤーたちは色々な趣向を持っているため、同好の場を設けることでパイプラインをつなげているのだ。
動物や昆虫ユニットの愛好会、ガーデニング職人の交流場、釣り人たちの集まりなど、目的と規模は多岐にわたる。
「おーーーっほっほっほっ、これでリンさまのファンが集まってくるはず!
でも、何だか妙な気分ですわね……わたくしのリンさまが、わたくしだけのものではなくなってしまうような……」
「分かります。それが同担拒否というものです、お嬢さま」
「同担……? まあ、よろしくてよ。サークルのトップはわたくしですもの。
ジュニアカップまでに、大応援団を作ってみせますわ!
待っていてくださいませ~、リンさま~!」
本人の知らぬところで、着々と進行するリンへの信仰心。
若きプレイヤーたちが火花を散らす、年に一度の大舞台――ジュニアカップの開催が、いよいよ迫りつつあった。
以上で9章の完結となります。お読みいただき、ありがとうございました!
例によって例のごとく、手直しと作者のお休み期間を挟んで、次回は10章に入ります。
以降、詳細は活動報告にて!




