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第1話 ミッドガルド初挑戦 その1

 ラヴィアンローズの冒険エリア『ミッドガルド』。

 そこには野生化したユニットが徘徊(はいかい)し、モンスターとなってプレイヤーたちを待ち受ける。


 ミッドガルドとは北欧神話に登場する地名で、神や巨人などが住まう9つの世界のうち、人間が住む世界。

 忠実にファンタジーを再現したような大地に立つ3人は、さながら旅に出る若者のようだった。


「うわ~、広~い!

 本当に冒険の始まりって感じじゃない!」


「迷子になったら大変だから、気をつけろよ」


「その場合はメッセージを送って連絡、ですね」


 スタート地点は平原だが、見るからに(けわ)しそうな森や山脈が遠目に見えていた。

 MMORPGではさほど珍しくない光景であっても、全てが初体験なリンはキラキラと目を輝かせて大自然を眺める。


 なお、ユウは黒い皮のズボンとジャケット、リンはブレザー風の可愛い服、ステラは三角帽子の魔女と、まったく見た目の統一感がない。

 その中でも特に目立つ姿のステラは、熟練者として新人への説明を行っていた。


「デッキとブランクカードは大丈夫ですか?」


「うん、ちゃんと準備してきた!」


「やってみないと分からないことが多いので、私が実践してみますね。

 まずはユニット召喚っ!」


Cards―――――――――――――

【 ジャイアント・スナッパー 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃300/防御1700

 効果:このユニットの防御はステータスの低下を受けない。

 スタックバースト【食らいつき】:瞬間:ターン終了まで、攻撃と防御の数値を入れ替える。

――――――――――――――――――


「ガフゥウウッ!」


 カードバトルのときと同様に魔法陣からユニットを呼び出すステラ。

 4mはあろうかという大型のワニガメが、ズシンと地響きを立てながら現れる。


「私のルームでも説明したように、こうしてユニットは出しっぱなしになります。

 人間の代わりに戦ってくれるパートナーなので、仲良くしてあげてくださいね」


 そう言いながらステラが頭を撫でると、ワニガメはうれしそうに目を閉じた。


「え~っ、触って撫でられるの!?

 それなら【ブリード・ワイバーン】連れてくるんだった!」


「持ち込めるユニットは3体までなので、慎重に考えたほうがいいかもしれません。

 触りたいなら、ペットにしても同じことはできますし」


「ちなみに、先に言っておくけどな。

 人型のユニットに変なことをしようとしても、できないようにプロテクトが――」


「するかバカ! 変態!

 先にって何だ、先にって!」


 からかう兄と怒る妹、そのやり取りにクスクスと笑うステラ。

 見た目の統一感はまったくないが、冒険の仲間としては良い雰囲気の3人組だった。


 ……と、ステラが何かに気付いて、花の咲く樹木に指をさす。


「リン! あれを見てください」


「え? あの鳥はたしか、初心者講習会(チュートリアル)で見た気がする!」


Enemy―――――――――――――

【 ハチドリル 】

 クラス:コモン★ タイプ:飛行

 攻撃200/HP200

 効果:このユニットは【タイプ:植物】からのダメージを受けない。

 スタックバースト【蜂鳥の群れ】:永続:攻撃と防御の『基礎ステータス』が2倍になる。

――――――――――――――――――


 ブブブブと音を鳴らして羽ばたいているのは、クチバシの代わりにドリルが付いたハチドリ。

 リンがこの世界に来たとき、初めて見たユニットだ。

 現在は野生化しているようで、花から花へと蜜を求めるように飛んでいる。


「さっそく、あれと戦ってみますね。

 バトルのとき、こっち側は必ず1人です」


「協力って、できないの?」


「他のプレイヤーに対して使うカードは、基本的に妨害だからな。

 一応、モンスターの数が多いときに引き受けて分散させることはできる」


「この場所ではカードの受け渡しもできないので、気をつけてくださいね。

 じゃあ、戦闘を始めます」


 ステラが【ジャイアント・スナッパー】を引き連れて向かっていくと、気付いたハチドリが応戦する。

 明らかに体格差が違う相手だが、相手は恐れを知らないようだ。


「先攻と後攻はランダムで決まります。

 今回は私のほうが後攻です。★1が相手なら問題ありません!」


 先攻となったモンスター側から行動開始。

 ハチドリはドリルで攻撃してきたが、重甲なカメには傷ひとつ付かない。


 これくらいの相手なら余裕なのだろう。

 バトルを進行させながらも、ステラはリンへの解説を続けていた。


「ここではドローの概念がなく、持ち込んだカードを好きなように使えます。

 ただし、使い終わったカードはミッドガルドから出るまで復活しません」


「できるだけ温存しないとカードが尽きるし、出し惜しみしてたら使わないまま負けることになる。

 さじ加減が難しいんだが、真剣に迷ってるときほど楽しいんだよなぁ」


 腕組みしながら語るユウの表情も明るい。

 2人の先輩は冒険エリアをやり込んでいるようだった。


「気をつけないとユニットが倒されちゃいますし、貫通ダメージも受けます。

 ライフは決闘(デュエル)と同じく4000。

 全てのユニットかライフがなくなると、強制的に帰還させられて冒険は終了です。

 ミッドガルドに入れるのは1日に1回限りなので注意してください」


「1日に1回だけかぁ……だから、ポーションとかで生き延びることが大事なんだね」


 決闘(デュエル)と同じカードを使いながらも、まったく違うルールで遊ぶエリア。

 新たに学ぶことが多いので、リンは2人の言葉をしっかりと頭に刻み込んでいく。


「今度は私のターンですね。

 野生モンスターは防御ステータスがそのまま体力になっています。

 【ジャイアント・スナッパー】、お願い!」


「ガフゥウウッ!」


 その重そうな巨体からは考えられないほど素早く距離を詰め、ワニガメはトゲだらけの甲羅でタックルを仕掛ける。

 ハチドリの体力200に対し、ワニガメの攻撃力は300。

 弾き飛ばされたハチドリは一撃で倒れ、光の粒子になって消えていった。


「おお~、一方的だったね。

 ここにいるモンスターって……もしかして、弱い?」


「まだ入り口の付近ですからね。

 この平原は初心者向けで、一番簡単なエリアです」


「とはいえ、油断は大敵だ。あれを見てみろ」


「うええええっ、まだたくさんいる!?」


 バトルの音を聞きつけたのか、今度は3体の【ハチドリル】が群れをなして向かってきた。

 その全てを【ジャイアント・スナッパー】が引き受ける。


「モンスターは最大3体までの群れになることがあります。

 ここで重要なのが、敵もスタックバーストを使えるということ。

 群れにいる仲間の数だけ、バーストを発動した状態で襲ってきます」


「え~と、じゃあ……あれは3体全部が2回バーストしてる状態でいいのかな?」


「正解です。【ハチドリル】のバースト効果により、1体あたり攻防800。

 こうなると、けっこうしぶといですよ。

 なので――ーユニット召喚!」


Cards―――――――――――――

【 土星猫(サタンキャット) 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔

 攻撃1000/防御1000

 効果:このユニットは他のユニットに融合させることができる。融合するとリンクカードと同様にステータスが加算されるが、攻撃されたときの貫通ダメージが2倍になる。

 スタックバースト【侵略者】:永続:このユニットは【タイプ:動物】からのダメージを受けない。融合していても発動可。

――――――――――――――――――


「「出たぁーーーーーーっ!!」」


 ユニットが現れた瞬間、兄妹は同時に(おのの)いた。

 そして、宇宙ネコが出てきた以上、次に起こることも決まっている。


「【土星猫(サタンキャット)】、【ジャイアント・スナッパー】と融合!」


「ニャオン!」


 ネコはワニガメの大きな体に飛びつき、ズブズブと潜っていってしまう。

 そして始まったのは、兄妹に植え付けられたトラウマの再来。


 ワニガメの体はビキビキと音を立てて変異し、この世のものとは思えない化け物へと姿を変えた。

 ワイバーンの場合は両目が退化したが、今回はどういうわけか目が左右に3つずつ、計6個もある。

 トゲだらけだった甲羅は金属鉱石のように硬度を増し、下あごが中央から真っ二つに裂ける。


 こんな生物は地球上にはいない。神話にも出てこない。

 この世界の禁忌に触れ、人としての倫理に反したマッドな実験から生まれてしまった生物兵器という例えが、おそらく一番近いだろう。


「ホキャアアアアアアアーーーーッ!!」


 宇宙ワニガメと化した【ジャイアント・スナッパー】は、夢に出てきそうな甲高(かんだか)い声で咆哮した。

 こんな邪悪な生物と戦わされるのは、小さなハチドリ3体。


 もはや、どっちがモンスターなのかとツッコミたくなる真宮兄妹であった。

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