第23話 キング・オブ・スカーレット その3
Enemy―――――――――――――
【 赤晶巨竜”ズユューナク” 】
クラス:??? タイプ:竜
攻撃92000/HP113000/敏捷50
効果:このモンスターが受けたステータスの低下は、上昇効果に変換される。
スタックバースト【???】
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ネームドモンスター。
それは広大なミッドガルド各地に存在する最強最大の生物。
ある者は高速で空を飛ぶドラゴンであり、ある者は溶岩の中を泳ぐクジラであった。
そして、地底に口を開けた巨大トンネルの奥から、1歩、また1歩と進んでくる洞窟の主。
最初に赤い水晶のような角が見え、続いて竜らしく威厳に満ちた顔が、そして10tトラックですら玩具に見えるほどの巨躯が姿を現す。
これが水晶洞窟を支配する【赤晶巨竜”ズユューナク”】。
最下層には【スカーレット・ドレイク】という翼のない竜種が棲んでいるが、体の大きさがまるで違う。
もしも、ここが現実世界の日本であれば、自衛隊と戦っているような大怪獣だ。
「グボォオオオオオオオーーーーーッ!」
目の前に人間たちが立ちはだかっているのを見た【ズユューナク】は、金管楽器のチューバのような低い音で――
しかし、トンネル全体を震わせるほどの大音量で咆哮する。
ビリビリと駆け抜ける音波と、視覚を端から端まで埋め尽くす超巨大生物の威圧感。
それらにまったく動じることなく、クラウディアは戦いの先陣を切った。
「敏捷ステータスのアップデートには感謝するしかないわね。
先手を取って、一気に削り切る! 【千年帝国の圧政】!」
Cards―――――――――――――
【 千年帝国の圧政 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、全てのユニットは★1つにつき攻撃+300を得る。
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レアリティが高いユニットほど攻撃力が上がり、低いものほど恩恵を受けられないという格差の圧政。
しかしながら、ここに集った軍勢はいずれも★3以上。
特にリンは【アルテミス】による増幅機関を経由してスピノサウルスに乗るため、すさまじい上昇効果になる。
最大8人で戦える特殊なバトルだが、ミッドガルドのルール上、自分が所有していないユニットを『指定する』ことはできない。
よって、支援を行う場合はこのように『目標を指定せず、フィールド全域に効果を及ぼすカード』を使ってサポートする。
「攻撃開始! まずはリンから!」
「了解! 親分、いっけえーーーーっ!!」
「オオオオオーーーーーーーッ!!」
初撃に選ばれたのはスピノサウルス。白亜紀を制覇した全長15mの恐竜ですら、トカゲがワニに向かっていくほどの圧倒的な体格差だ。
しかし、月の女神から与えられたステータスの上昇効果によって、その火力は過去最大級。
26700という数字の暴力で、ネームド以外のほとんどを上から叩き潰すことができる。
「ボォオオオオオーーーーッ!!」
「ウガァアアアアアーーーーーッ!!」
そして、宣戦布告をするかのように激突した両者。
かつては恐竜たちを薙ぎ倒していたであろう、強烈なぶちかまし。
スピノサウルスのタックルが、壁のような【ズユューナク】の巨体をわずかに押し返す。
「次! セレス!」
「かしこまりました」
「おおっと、そういうことなら待ってくれ。
俺から1枚切らせてもらうぜ――プロジェクトカード発動!
【ハンティング・ハイロウ】!」
Cards―――――――――――――
【 ハンティング・ハイロウ 】
クラス:レア★★★ プロジェクトカード
効果:ターン終了まで、特定の【タイプ】に対してダメージ上昇の効果を発揮した場合のみ有効。
与えるダメージの最終値が2倍になる。
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ビシッと派手にポーズを取りながら発動させた兄の姿を、リンは正直ダサいと感じてしまった。
しかし、その1枚は彼が初めて披露する★3レア。
特効効果が発動した場合のみ、与ダメージを2倍に増幅させる。
「これでセレスちゃんの火力は跳ね上がるはずだ!
思いっきり、やっていいぜ!」
「ご支援、ありがとうございます。それでは攻撃宣言っ!」
竜特効の能力とリンクカードで固めた魔斃王【ベオウルフ】。
その手に【ドラゴンスレイヤー】を携えて、伝説の剣士が勇猛に斬りかかっていく。
クラウディアとユウのサポートも加わった結果、最終的なダメージは14600もの威力。
大きな水晶塊が砕け散り、轟音を立てながら竜の体から落ちてきた。
「『足手まといにならないように』ねぇ……あの子、ギルドに入ったばかりなんだけど」
「次は俺が続いていいか?」
「ええ、今日は調子が良さそうじゃない」
「妹にばかり活躍されちゃ、たまらないからな!
まずは【バスタービートル】にリンクカードを装備!」
Cards―――――――――――――
【 生態科学外骨格 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:【タイプ:昆虫】のユニットに装備されている場合のみ、攻撃と防御+800。
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ユウが扱うカブトムシのユニットを、黒光りする人工的な外骨格が覆っていく。
昆虫の体にも装着できるように設計された、科学的なパワードアーマーだ。
「【バスタービートル】は相手が植物のときだけ、特効が発動してダメージが2倍になる。
だが――スタックバースト発動! 【グレートホーン】!」
「ギキィーーーーーーッ!!」
角を振りかざしながら、【バスタービートル】は両目を赤く光らせた。
このターンに限り、相手のタイプを無視して特効を発動させることができる。
本来の2倍効果に加えて、【ハンティング・ハイロウ】でさらに倍増。
「見とけよ、リン! これが俺の本気、どんな相手でも4倍特効!
【バスタービートル】、いっけええーーーーーーっ!!」
【生態科学外骨格】に覆われた姿で飛び立ち、赤晶竜の体を切り裂くように薙ぎ払うカブトムシ。
ガリガリと派手な音を立てながら、竜の体から細かい水晶の破片が飛び散る。
「うわ~、15600ダメージって……兄貴もあんな数字出せるんだ」
「いうて、あのお兄ちゃんも【鉄血の翼】やからな。
支援のタイミングも、ばっちりやったし」
このギルドに所属する者は、いずれも向上心の強いプレイヤーばかり。
数ヶ月かけて少しずつ昆虫デッキを整えてきたユウも、妹を驚かせるほどの瞬間火力を備えていた。
しかも自分だけではなく、しっかりとセレスティナの火力まで上げている。
「(今のコンボは普通の決闘でも使いやすい……ウチの兄貴、意外と厄介な相手になるかも)」
リンが視線を向けると、兄は親指を立ててニヤリと笑っていた。
ギルドのメンバーは仲間であり、どこで戦うか分からないライバルでもある。
ゆえに、リンは新しいドラゴンデッキではなく、手の内がバレているスピノサウルスで来たのだ。
兎にも角にも、これで3人が攻撃して合計56900ダメージ。
11万もあった【ズユューナク】の膨大なHPが半分まで削られ、体を覆う水晶にヒビが入っている。
「そろそろ、ステラが動いてもいいわね」
「分かりました……すみません、リン。
私のほうが先に使うことになってしまって」
「うらやましいけど、それはステラの特権だからね」
「私にとっては★4を持ってるみんなのほうが、うらやましいんですよ?」
リンとステラが笑顔で語りあっている様子を見ながら、新入りのセレスティナは注意深く思考した。
かなり派手なユニットの展開になっているが、実際のところリンの構成は分かりやすい。
しかし、あのステラという魔女は奥底がしれないのだ。
★4をコピーしたという時点で、もはや驚異としては十分すぎる。
そして――その畏怖は、考えうる限り最大の形で発現することになった。
「では、いきます……【ダークネス・ゲンガー】をスタックバースト!
コピーした【アルテミス】の能力を発動!」
「な……っ!?」
自身も【マスター】であるがゆえに、セレスティナはよく知っている。
★4は強力なカードだが、あまりにも希少なためバーストが発動することはない。
だがしかし、その不可能が――これまでの常識が目の前でひっくり返されようとしていた。
「認識完了。制御リミッター解除、無限射撃プロトコルを展開」
一部の高位人型ユニットだけに設定された人語のセリフすらもコピーし、宵闇の女神は空中に舞い上がった。
【アルテミス】に装備されたリンクカードは、彼女の周囲を自立飛行するビットに取り付けられている。
そのビット全てが光の矢へと姿を変え、女神の足元にずらりと並べられた。
それらの中から1本を拾い上げて、機械じかけの金属弓につがえる闇の【アルテミス】。
持ち主のリンですら使うことがなかった最強の技。
装備品を1つ破棄するたびに、何度でも攻撃宣言を可能にする究極奥義。
「【ダークネス・ゲンガー】、これより連続攻撃を開始します!
【超次元射撃】ーーーーーーッ!!」




