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第16話 フィッシング・カーニバル その3

「んん~、美味しいね~」


「きゅい~!」


 セレスティナが持たせてくれた料理はサンドイッチのセットだった。

 戦いを終え、海を見ながら取る食事は実に美味しい。

 付き合いの長いユニットたちが一緒にいれば、なおさら充実感が高まる。


 可愛らしくタマゴサンドを頬張る【ネレイス】。

 スピノサウルスにはおやつにもならないが、巨大な口にチキンナゲットを投げ入れると食べてくれる。


「今、どれくらい稼いだのかな?」


 自分の獲得点やランキングなどは、コンソールから見ることができるようだ。

 現在、リンは合計75点で2位。

 やはり1位はカインで、すでに91点も稼いでいる。


「ええっ? カインさんと20点くらい差が付いちゃってる!

 まあ……こうして休憩なんてしてるからだけど。

 まだまだ取り返せるよね! 完全回復したし、頑張ろ~!」


「きゅきゅ~っ!」


 料理の効果をあなどっていたが、食べるだけでライフが4000まで回復するというのは実にありがたい。

 再び釣り竿を手に挑戦を始めるリン。

 基本的には普通の魚介類や、★1の魚で点数を稼いでいくことになる。


 色とりどりの水棲ユニットが釣れたおかげで、ルームのサンゴ礁も賑やかになるだろう。

 針を外すときに悪戦苦闘したが、タコが釣れたのでタコ焼きパーティーもやってみたい。


 そんな感じで釣果はとても良いはずなのに、1位を走るカインとの差はまったく縮まらなかった。

 かなりのペースで釣っているのだが、じわじわと逃げ切りコースに駒を進められている。


「カインさん、強いなぁ~。

 たしか【トリトン】でバトルすれば、ほとんどの水棲が一撃なんだっけ」


Cards―――――――――――――

【 海神王子トリトン 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神

 攻撃2400/防御2800

 効果:このユニットとバトルを行った【タイプ:水棲】は結果に関わらず破棄され、このカードの所有者への貫通ダメージも無効化される。

 スタックバースト【無双海域】:永続:上記効果に【タイプ:人間】と【タイプ:悪魔】を加える。

――――――――――――――――――


 かつて対戦したとき、カインが最後の切り札として召喚した★4スーパーレア。

 あれを使ってモンスターを処理できるなら、点数を稼ぐのも楽になるだろう。


 実はこの大会イベント、釣り上げたモンスターからは逃げられる仕様になっている。

 しかし、先ほどのカジキのように捕獲(インプリント)できる可能性もあるため、それを捨ててまで効率を求めるのはもったいない。

 特に成長中のリンには、1枚でも多くのカードが必要なのだ。


「んっ? あれ? んんん~~~~っ!」


 そんなことを考えながら釣っていると、急にリールが動かなくなってしまった。

 いわゆる根がかり。釣り界隈では『地球を釣った』とも言う。

 海底の岩などに針が引っかかって外れなくなり、力ずくで引き抜こうとすると竿を痛めることになる。


「も~、こんなときにトラブルなんて!

 VRの世界だし、糸を切っちゃってもゴミにはならないと思うけど……

 そうだ! たしかアレがあったんだよね」


 このとき、中学生のリンは恐ろしく非常識な手段を思いついた。

 コンソールを操作して着替えのシステムを起動。

 全身を首まで覆うウェットスーツに、ゴム製の足ヒレ、酸素ボンベ、水中ゴーグル。

 商売上手な店員に負けて買ってしまったスキューバ一式に身を包み、自分の手で海底の針を外しに行くという暴挙に出る。


「ちょっと行ってくるから、【ネレイス】ちゃんはこれ持ってて」


「きゅい」


 釣り竿を【ネレイス】に預け、自分は糸をたどりながら海中へダイブ。

 このミッドガルドでは、プレイヤーが呼吸不可な状態になると30秒後に【酸欠】のバッドステータスに陥り、毎秒200ずつ継続ダメージを受ける。

 さらに深い水域では行動力が低下、水の冷たさと圧力によって継続ダメージが乗算で増す。


 しかし、それを一発で解決してくれるのがスキューバ衣装だ。

 リンが着ているのは高級品なため、現実世界では人間が耐えられないような深さまで潜ることができる。


 もっとも、ここは沿岸なのでそれほど深くはない。

 かなり岸から離れても水深は8m程度で、太陽の光が海底まで届いていた。


「ゴボゴボ……ミッドガルドの海って、こうなってたんだ~。

 思ってたより、ずっときれい!」


 さすがにサンゴ礁ほどではないが、ファンタジー世界の海は手つかずの自然そのもの。

 魚たちが優雅に泳ぎ、底のほうでは海藻やイソギンチャクが揺らめいている。

 それらを眺めながら潜っていくと、やがて海底の砂地が見えてきた。


「あれ? 引っかかるところなんて、何もなさそうだけど……」


 ピンと張った釣り糸は、まっすぐ砂に向かって伸びている。

 これなら引っかかることなどありえないのだが、糸の先端は砂の中に埋もれていた。


 それを手に取り、ぐいっと引っ張ってみるリン。

 すると――


 砂の中で身を隠していた何者かの目が開く。

 2つ、3つ、4つと眼球が増え、合計8つの巨大な目がリンの姿を捉えた。


「!!!???」


 このとき、リンの脳裏に浮かんだのは『熱砂(ヴァーミリオン)のフレア』が使役するノコギリエイ。

 あれと同じように砂に潜れる魚がいたとすれば、針を飲み込んだ状態で隠れていたという説明がつく。


 しかし、目の前で動き出した生物は、まるで大きさが違っていた。

 あのエイも8mほどある巨大魚だったが、まったく比較にならない。

 洞窟の入口かと思うほど大きくて暗い空間が開き、小魚でも襲うかのように人間をひと飲みにしてしまう。


 ――が、それよりも一瞬早く、リンは横から突っ込んできた巨大生物の口に咥えられた。


「…………親分っ!」


 砂の中にいた何者かが食らいつく直前、いつの間にか追いかけてきていたスピノサウルスが主人を救い出す。

 恐竜の口内にいるというのも、これはこれで恐ろしいはずだが、さらなる危機が後方で(うごめ)いていた。

 獲物を横取りされたと思ったのか、先ほどの生物が海底から追いかけてきたのだ。


 岸辺まで泳ぎ着いたスピノサウルスは、放り投げるようにリンを吐き出す。

 陸上でスキューバ衣装を着ていると動きにくいため、すぐさま冒険者の服に着替えて振り返ると――


 まず視界に入ったのは、主人を守るように立ちはだかるスピノサウルスの背中。

 そして、その巨体――全長15mの恐竜すらも超えるサイズで、水面を隆起させながら伸び上がった怪魚。


 リンは、その魚をなんとなく知っている。

 『左がヒラメ、右がカレイ』という法則に従うなら、おそらくはヒラメだ。

 しかし、大きさは20m以上。なぜか8個もある丸い眼球に、カエルのような手足。

 頭部を斜めに裂いた奇怪な口が咆哮し、大気をビリビリと震わせる。


「グギャオオオオオオーーーーーッ!!」


Enemy―――――――――――――

【 デスヒラメ 】

 クラス:レア★★★ タイプ:水棲

 攻撃7200/HP8400/敏捷30

 効果:このモンスターが受けるダメージは全て半減される。

 スタックバースト【高精度擬態】:瞬間:ターン終了まで、あらゆるダメージと破棄効果を受けない。

――――――――――――――――――


「な……なんじゃこりゃあああーーーーーーっ!?」


 これが根がかりの正体。

 リンが釣ったのは地球ではなく、途方もなく巨大な海の怪物だったのだ。

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