プロローグ
「さて、今日はリンにとって初めてのミッドガルドになるわけですが。
事前にルールの確認と、デッキの調整です」
「は~い!」
ラヴィアンローズの世界でフレンドになったリン、ユウ、ステラの3人は、魔女の館でテーブルを囲みながら会話していた。
この日は3人とも早めにログインし、いよいよミッドガルドへの挑戦が始まる。
ステラと笑顔を交わしあうリンは、もはや待ちきれないという感じで浮足立っていた。
そんな彼女が危なっかしく見えたのか、経験者の2人は事前に打ち合わせる場を設けたのだ。
「ミッドガルドでは、特殊なルールでカードバトルをします。
リンはもう、コンソールのデータから説明文を読みましたか?」
「うん、ばっちり読んだ!」
Tips――――――――――――――
【 ミッドガルド特殊ルール 】
冒険エリアとなるミッドガルドでは、専用のデッキを使って野生モンスターと戦う。
ユニットの持ち込みは3体まで。
ユニットを含めた計15枚のカードを駆使し、プレイヤーのライフが尽きるまで戦い続けられる。
通常のルールと同じくライフは4000。
スタックバーストに使用するユニット以外、同種同名のカードは持ち込み不可。
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「同じカードをデッキに入れちゃダメだけど、スタックバーストのぶんならいいんだよね。
もちろん、【ブリード・ワイバーン】は3枚とも入ってるよ」
「あ~、やっぱりか……残念なお知らせだが、リン。
ターンが進むと成長するタイプのユニットは制限を受けて、ミッドガルドでは成長できないんだ」
「ええ~っ、いつまで経っても小さいままなの?
それはそれで可愛いけど……」
「決闘と違って、召喚したユニットを出しっぱなしにして冒険するんです。
ワイバーン以外にも、ターンが進めば進むほど強くなるカードがあって」
「たとえば『1ターンごとに攻撃と防御が100増加する』っていうユニット。
そいつを出しっぱなしにしておくと、そのうちステータスが数千とか数万になってゲームバランスが崩壊する」
「あ……あぁ……なるほど」
2人の説明に、リンはしぶしぶ納得する。
たしかに★1のユニットを1体持ち込むだけで攻防4800が完成したら、他のカードの存在意義がなくなりかねない。
残念ながら【ブリード・ワイバーン】は今回、お留守番のようだ。
「逆に制限が緩和されたカードもありますよ。
リンに渡したいものがあるので、適当なカードを1枚用意して、私とトレードしてもらえませんか?」
「うん、いいけど……本当に適当なものしかないよ?」
「ふふっ、始めたばかりじゃ仕方ないですよね」
リンは非常に希少なスーパーレアの持ち主だが、他のプレイヤーが主力にしているような★3レアは1枚も所有していない。
コモンやアンコモンですら、まだ知らないカードだらけだ。
とりあえずステラの言葉に従い、余っていたカードをトレードに出すリン。
相手側から送られてきたのは、前の対戦で見たことがあるプロジェクトカードだった。
「あ、【マンドラゴラ・ポーション】!」
ライフを回復するカードだよね」
「そうです。
相手よりもライフが低くなければ使えないのですが、ミッドガルドではその制限がなくなります」
「こうした回復の手段を用意しておくのも重要だぞ。
RPGでいうところのヒールとか傷薬だからな」
「ありがと~、危なくなったら使わせてもらうね!」
こうして良き先輩たちからアドバイスをもらい、リンは冒険用にデッキを組み直した。
いよいよ出発ということになり、各自が意気込んで椅子から立ち上がる。
と、そこに――尻尾を揺らしながら、ものすごく見覚えのあるネコが歩いてきた。
「ニャ~オ」
「げっ! 【土星猫】!」
「分かるぞ、妹よ。
こいつの正体を知ったら、そういう反応になるよな」
一見、可愛らしいネコの姿をしているが、他の生き物に寄生する危険な侵略者。
この宇宙生物が何をしたのか見てしまったリンは、思わず反射的に後ずさる。
「さあ、お出かけですよ~」
「ニャオン!」
ステラが【土星猫】のカードを取り出すと、ネコは光り輝いて吸い込まれ、そこに描かれている絵柄になった。
「それも連れて行くんだ……」
「もちろん、この子はもう私の家族同然ですから」
ニコッと笑ってカードを手にするステラ。
ペットにするほど気に入っているようだし、使い込んで愛着も湧いたのだろう。
宇宙ネコという存在自体、もはや魔術どころか軽くホラーなのだが。
それでも、森に住む魔女とネコ。
21世紀のバーチャル空間においても、古の伝統は変わらなかった。
お待たせしました。ミッドガルド冒険編の始まりです!




