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第15話 フィッシング・カーニバル その2

「ちょうど、チュートリアルでブランクカードを10枚もらったし、サンゴ礁に泳がせておくペットが欲しかったんだよね」


 いい感じの岩場に陣取ったリンは、水平線を眺めながら釣り竿を構える。

 こういった釣りでは位置取りが重要だ。

 他のプレイヤーも岩場にやってきたが、リンとスピノサウルスの姿を見るなり、あれはダメだと避けて通っていく。


『あー、あー、本日は釣り大会フィッシング・カーニバルへのご参加、誠にありがとうございま~す!

 イベント開始の時刻になりました。きれいな海ですけど、直接飛び込んでモンスターを倒しても、点数にはならないので注意してくださいね~』


「あ……やっぱダメなんだ、それ」


『それでは――フィッシング、開始です!』


 会場にウェンズデーの声が響き、プレイヤーたちは一斉に釣り始める。

 リンが使用しているのは、先ほどカインと見せあった【マスターロッド】。

 海岸の砂から鍵を掘り出し、特定の場所で使用すると手に入るユニークアイテムだ。


 付与されている効果は非常に強力で、単純に釣れやすくなるだけではなく、モンスターが気絶する確率を引き上げてくれる。

 ★1なら確実に気絶、★2でも簡単に手に入るため、このイベントは水棲ユニットを増やす絶好の機会。


「よっと! この魚は……小さいから1点かぁ。

 まあ、数をこなせば何とかなるでしょ!」


 最もよく釣れるのは、モンスターではない普通の魚だ。

 リンが【マスターロッド】を手に入れたときと違い、今は魚介類を釣っても料理に使える。

 ギルドの冷蔵庫に入れておけば、セレスティナが喜んでくれるだろう。


「よ~し、★1が釣れた! 親分!」


「ゴアアッ!」


 派手な色をした魚のモンスターを釣り上げ、スピノサウルスが一撃で処理。

 敏捷120で上から叩きつける5桁のダメージは、★1に対してオーバーキルも(はなは)だしい。

 気絶して海上に浮かんだモンスターにブランクカードを使用し、順調に捕獲(インプリント)を完了する。


 そうして、モンスターを捕獲すること数匹。

 基本的に★1は弱いので観賞用だが、中にはこんな変わり者もいた。


Cards―――――――――――――

【 メタル・ロブスター 】

 クラス:コモン★ タイプ:水棲/マテリアル

 攻撃200/防御400/敏捷40

 効果:バトルしたとき、相手ユニットの攻撃ステータス強化を無効にする。

 スタックバースト【攻防反転】:永続:このユニットの攻撃力と防御力を入れ替える。強化および弱体化は転移しない。

――――――――――――――――――


 どういうわけか、金属のように硬質な殻で覆われたエビ。

 ギラリと光っていて、ちょっとかっこいい。

 スライムとは正反対の固さだが、鉱物扱いらしくマテリアルのタイプを持っている。


 効果やスタックバーストがとても便利で、【エクシード・ユニオン】の媒体にすると面白そうだ。

 特に攻撃と防御のステータス反転は有用なため、どこかで使い道があるだろう。


『大会本部よりお知らせです。

 このイベント中、参加者の皆様はライフが尽きるとリタイア扱いになってしまいます。

 参加賞はイベント終了時に配布されますが、あまりモンスターを深追いしないようにご注意を……』


「ぎゃああああーーーーーっ!!」


『あ、そんな放送をしている間にも、ひとり退場してしまいました。

 海のモンスターはけっこう強いので、危なくなったら逃げてくださいね~』


 なんて危険な釣り大会なのだろう。とんでもなく物騒な注意喚起が、ウェンズデーの明るい声で響き渡る。

 釣った魚に襲われてリタイアするなど、現実世界では滅多にありえないのだが。


「なんだか大変なことになってるみたい。

 ウチには親分がいるし、負けることなんてないと思うけど――

 うわわわわわわっ、すごい引きが来たよ! 大物だぁああ!」


 【マスターロッド】のカーボンがきしみ、凄まじい勢いで釣り糸が引っ張られる。

 体ごと海中に持っていかれそうになったリンを、慌てて【ネレイス】が支えてくれた。


「ぴゅいいい~~~!」


「ありがとう! ぐぬぬぬぬ……ほんとに大きいよ、これ!

 親分もバトルの準備しといて!」


「ガロロロッ」


 これまでの★1モンスターなど比較にならないパワフルな引き。

 現実なら大人の男性が全力を振り絞って、1時間ほどかけて釣るような大物だ。

 【マスターロッド】でなければ、へし折られていてもおかしくない。


 少しずつリールを巻き上げていくと、やがて海上に鋭い槍のようなものが見えた。

 魚の中でも特に攻撃的な武器を持つファイター。海に挑む釣り人の憧れ、巨大なカジキマグロである。


Enemy―――――――――――――

【 スパイラル・マーリン 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃3200/HP1800/敏捷160

 効果:このモンスターはバトル相手の防御力を無視できる。

 スタックバースト【海の槍使い】:瞬間:このモンスターは攻撃ステータスでガードすることができる。

――――――――――――――――――


 海中最速の魚、時速100km以上を誇るといわれるバショウカジキ。

 特徴的な美しい背びれは海中で広がり、速度を維持したまま急旋回を可能にする。

 まさに地球が生み出した戦闘兵器。ミサイルのような機動力で襲われたが最後、ほとんどの獲物は逃げ切ることなどできない。


「おおおお~~~っ! きれいだし、めっちゃ強そう!

 でも……あの能力、あたしもヤバいよね?」


 海上まで引き上げられたカジキは降参することもなく、槍のように鋭利な鼻先をリンに向けてきた。

 全長約4m、人間の2倍以上もある体躯で抵抗するため、釣り上げたあとで死傷する漁師も少なくないという。


 すぐさまスピノサウルスが対峙したが、恐るべきはガード無視の攻撃能力。

 さらには圧倒的なスピードで先手を取り、ほぼ確実にプレイヤーを強襲する。


「大丈夫、あたしが受けるから親分は反撃して!」


 これが★3ならバランスが崩壊しかねない強さなのだが、幸いにも★2なため受けきれる。

 (ふん)と呼ばれる鼻先の槍で薙ぎ払ってきた一撃は、3200ダメージをそのままリンに与えた。


「うああああああっ!! くううっ……攻撃……宣言っ!」


「オオオオーーーーーーッ!!」


 初撃を耐えてしまえば、あとはスピノサウルスのターン。

 飛びかかってきた大魚を横から殴りつけ、ドォオオンと水しぶきが上がるほどの勢いで海面に叩き返す。

 パワーとスピードで暴れ回った【スパイラル・マーリン】も、さすがに力尽きて巨体を浮かび上がらせてきた。


「ふぅ……はぁ……やった、気絶してる!」


 波間に(ただよ)うカジキにブランクカードを使うと、吸い込まれてユニットへと変化していく。

 カードに描かれているのは、海中で槍を振り上げる勇猛な姿。


Cards―――――――――――――

【 スパイラル・マーリン 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃1600/防御900/敏捷160

 効果:このユニットが攻撃したとき、ターン終了までバトル相手の防御力を半減させる。

 後攻効果:召喚したとき、このカードの所有者はデッキから【タイプ:水棲】のユニットをランダムで1枚引く。

 スタックバースト【海の槍使い】:瞬間:このユニットは攻撃ステータスでガードすることができる。

――――――――――――――――――


「うん! さすがに防御無視じゃなくなったけど、いいね、いいね!」


 ユニットになったことで能力が変化し、ターン終了まで継続する防御半減効果を得た。

 速さを活かして一撃を叩き込み、相手の防御を削ったところでメインアタッカーが続くような連携コンボが可能だ。

 さらには後攻効果も便利で、耐久面もスタックバーストで補える。

 ★2アンコモンとしては、総じて優秀なユニットといえるだろう。


「はぁ~、大物だったけど、1匹釣るだけでクタクタだよ……

 ライフも残り800だし……そうだ、こういうときのお弁当だよね!」


 昨日、セレスティナが作ってくれた高級ランチボックスは、まだ手を付けずに残してある。

 リアルでハンバーガーを食べてきたというのに、VRの世界でも弁当を広げ始めたリン。


 だがしかし、釣りのときに海で食べる弁当は格別なのだ。

 激戦を制したところで、リンは少し休んで体勢を整え直すことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後攻だと、カジキとイワシで面白い動きが出来そう。 イワシでイワシを交換しつつ、カジキを召喚して、カジキで取り寄せた海産物を召喚とか?
[良い点] ドラゴンデッキだけじゃなくて水棲デッキも着実に強化されていきますねぇ。 [気になる点] このカジキは相手に使われると守備力高いの二体いないと攻撃防げなくてくっそ面倒なやつ。でも自分で使うと…
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