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第14話 フィッシング・カーニバル その1

「そうなんですよ。コーディさんは少し変わってますけど、悪い人じゃないんです」


 この日の放課後、真宮(まみや)涼美(すずみ)寺田(てらだ)すみれはハンバーガーショップに来ていた。

 2人とも『やわらかステーキバーガー』などという、普段は手が出せないような高い商品を食べながら談笑している。


「でも、この話をしたらサクヤ先輩は怒ってたね」


「あの2人は、いつもケンカばかりしてるんです。

 仲が悪いというより、お互いにゆずれないライバル同士で……

 サクヤさんも公式大会でコーディさんに負けたことがありますし」


「サクヤ先輩が負けたの!?

 うわぁ……やっぱり、只者(ただもの)じゃなかったんだ」


 なぜか次々と強い人に会って、大抵の場合は気に入られる。

 『マスター』という肩書きが引き寄せているのか、それともプレイヤーとしての体質なのか。

 いずれにせよ、コーデリアとは今後も交流がありそうだ。


「さてと、コラボカードの受け取りは……あった!」


 その後、いつものようにログインしたリンは、コンソールを操作してキャンペーン報酬を受け取る。


Cards―――――――――――――

【 やわらかステーキバーガー 】

 クラス:アンコモン★★ カウンターカード

 効果:1ターンの間、目標のユニット1体に攻撃+400。

 このカードはデッキに1枚しか入れられない。

――――――――――――――――――


 リアル世界との連動コラボ企画。わざわざ高いハンバーガーを食べていたのは、このためであった。

 『やわらかステーキバーガー』を注文して食べることで、ゲーム内で限定カードが手に入る。

 効果は★1【パワースレイヴ】の上位版。こういった特殊なカードはトレード不可なため、開催期間を逃さずに手に入れておくしかない。


「さ~て、今日はどうしよっかな?

 やっぱり、情報集めは村の中がいいよね」


 昨日に引き続き、この日もリンは単独行動であった。

 オオカミの子供が回復するには数日かかるらしく、今は何をしても良い状態。


 村の中を見て回ると、さっそく怪しい人物が広場で踊っている。

 『開催中』と書かれた看板を持ち、周囲から浮くほど派手な格好をしたピエロだ。


「開催中~! 本日、イベント開催中~!」


「イベントって、何をやってるんですか?」


「今日は2ヶ月に1回しかない釣り大会フィッシング・カーニバル

 優勝賞品は好きなボックスひとつ!

 さあ、さあ、あなたもエントリーしてみませんか?」


「釣り大会!? やるやる、エントリーします!」


「それでは、現地まで送ってさしあげましょう。

 他に用事はないですか? キッチンの火は止めてきましたね?」


 道化師らしく、おどけるような仕草で語りかけてくるピエロ。

 テレポートしますかという選択肢が表示されたので、リンは迷わず『Yes』を選ぶ。


「それでは、1名さまご案内~! あ、ポンッ!」


 ピエロが手の平からポンッと白いハトを出すと、リンの視界も真っ白に染まる。

 (まぶ)しいのは一瞬のことで、再び視界が戻る頃には目的地にテレポートしていた。


 鼻をくすぐる潮の香りに、打ち寄せる波。

 ここがどこなのかは分からないが、砂浜や磯が広がる絶好の海釣りポイントだ。

 すでに多くの参加者が集まっており、受付らしき場所にはスーツ姿の女性が立っている。


「あっ、ウェンズデーさんだ! お久しぶり~!」


「は~い、どうも~! ラヴィアンローズのイベント担当AI、ウェンズデーです。

 今日はここで小規模レクリエーション、釣り大会フィッシング・カーニバルが開催されます。

 説明を聞きますか?」


「お願いします」


「ルールはとても簡単、制限時間内にたくさん釣った人の勝ちです。

 魚介類は大きさによって1点から3点。

 モンスターは星の数に応じて10点、20点、30点となっております。

 ちなみにモンスターは釣り上げた時点で加算されますので、捕まえても逃しても点数は変わりません。

 今の説明を、もう一度聞きますか?」


「いいえ! もう結構です」


 選択を間違えずに力強く拒否したリン。

 ここでうっかり『はい』などと答えてしまったら、まったく同じ説明を最初から聞かされることになる。

 その後にエントリーのやり取りがあり、無事に参加登録が終わった。


「それでは、イベント開始までお待ちください。

 モンスターを釣り上げることもあるので、今のうちに戦いの準備をしておくといいですよ。

 ただ、気象や地形に影響を与えるカードの使用は、他の方のご迷惑になるのでお控えくださいね」


「戦いの準備か……けっこう人がいるし、あんまり派手なことはできないなぁ。

 とりあえず、アタッカーは親分で決まりっ! ユニット召喚!」


「オオオオオーーーーーッ!」


 雄叫びを上げて現れた超大型の【パワード・スピノサウルス】。

 その姿はかなり目立ち、イベント会場にリンがいることを知らしめた。

 周囲の注目を浴びることは避けられないので、とりあえず【ネレイス】に【ストームブリンガー】を持たせる程度で(とど)めておく。

 それでも攻撃力10300、防御力6300という異様な数値を叩き出し、参加者たちは一斉に震え上がった。


 と――そんな中で近付いてきた巨大な影。

 もう1体のスピノサウルスを引き連れ、見覚えのある人物が言葉をかけてくる。


「やあ、リン。相変わらずスピノが好きなんだね」


「カインさん! やっぱり、スピノなんだ~」


 整った顔立ちの青年、『(あお)の貴公子』カイン・フォーマルハウトは、釣り人らしくジャケットを着た姿で笑みを浮かべた。

 かつて『ファイターズ・サバイバル』で上位12名に並び、スタジアムでの第1試合を飾った相手だ。

 偶然にも再び両雄がスピノサウルスを連れた状態で向かいあい、あのときの戦いを彷彿(ほうふつ)とさせる。


「まあ、僕の場合は水棲特効のユニットがいるから、戦うときにはそっちを使うんだけど。

 それにしても、あのときに見たカード……きれいに重なると、こうなるのか」


 感心したようにリンのスピノサウルスを見上げる貴公子。

 ミッドガルドと違って、対人戦の決闘(デュエル)では理想的な展開などできない。

 彼と対戦したときには【ストームブリンガー】を早々に破壊され、【ネレイス】を出す余裕もなかったのだ。


「あれから、ずいぶんと活躍しているみたいじゃないか。

 今は『終末剣(エンド・ブリンガー)のリン』と呼んだほうがいいかな?」


「いや~、立派すぎる称号をもらって名前負けしちゃってるし、普通にリンでいいよ。

 カインさんも釣り大会に出るの?」


「ああ、もちろん。僕は何度も優勝してる常連だからね」


「へえ~っ、そんなに釣りが上手だったんだ」


「上手というか、これのおかげさ」


 そう言って、カインは釣り竿を取り出して見せる。

 ファンタジーな雰囲気のミッドガルドに、どうしてそんなものがあるんだとツッコミたくなるようなカーボン樹脂の竿。


Tips――――――――――――――

【 マスターロッド 】

 最新の技術で作られた、とても良い釣り竿。

 ミッドガルドでの釣果が上昇し、釣れたモンスターを倒したときの気絶率が一段階下がる。

――――――――――――――――――


「釣りには自信があるんだ。この竿がある限り、滅多なことでは負けないよ」


「なるほど……あたしたちって、とことん”被る”みたいだね」


「何っ!?」


 不敵な笑みを浮かべてリンが取り出したのは、彼と全く同じ【マスターロッド】であった。

 同じ竿と同じユニット、そして希少な『マスター』の肩書きを持つ2人。

 カインは表情を変えて動揺したが、やがてニヤリと笑いながら宣戦を布告する。


「ははは、キミって子は……いいだろう、今回は釣りで勝負しようじゃないか。

 『(あお)の貴公子』の名にかけて、決して手加減はしない!」


「OK、あたしは初参加だけど負けないよ!

 どっちがたくさん釣れるか勝負だね」


 かくして、再びライバル同士の全面対決が勃発した。

 プレイヤーたちの(いこ)いであるレクリエーションにおいて、2人はまったく別次元の戦いを繰り広げることになる。

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