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第12話 モンスター研究所 その3

「♪その昔 聖なる山の頂きで

 天地創造の父は 迷える子供たちに言いました

 全ての命を私は見ている 全ての命は神の名において愛されるのだ

 いつの日も慈悲深き心を忘れず この世を愛で満たしなさい」


「ギャオオオオン!!」


 歌の最中に響いたのは、【アズラエル】に切り裂かれたオオカミの断末魔。

 さながらミュージカル劇のように、コーデリアは賛美歌を口ずさみながらモンスターを排除していく。


 しかも、意味不明なほど歌が上手い。

 下手なら聞き流せばよいのだが、つい聞き入ってしまうほど歌唱力があるせいで無視できない。

 なにゆえ天の神は、彼女に歌の才能まで与えてしまったのか。


「それにしても、大会で優勝した後にチュートリアルなんて前代未聞ですねぇ」


「あはは……完全に見落としてました」


「そういうことなら、ちょっと耳寄りな情報なんですけど。

 村にいるブロックくんとミスティちゃん。

 実はあの2人にもプロテクトが適応されていて、コンプライアンス的にNGなことができないようになってるんですよ」


「いや、普通はそうでしょ。まさか試したんですか?」


「試さなかったんですか?

 あんなに無防備な少年少女が目の前にいたのに」


 最悪だ。コーデリアとの会話は終始こんな感じである。

 ちょっと耳寄りな情報とやらも、まったく役に立たない。

 こういう人が悪いことをしないように、プロテクトという機能があるのだろう。


 そんな話をしている間にも、【ネレイス】がキノコを発見して教えてくれた。

 地面に落ちた石のような見た目をしており、教えてもらわなければ気付かないほど岩石っぽい。


Tips――――――――――――――

【 ガンセキタケ 】

 岩のように硬質化したハードなキノコ。

 そのままでは食べられないので、かつおぶしのように削ってダシを取る。

――――――――――――――――――


「キノコなのに固いとか、ものすごく違和感があるんだけど……

 博士は研究用って言ってたし、キノコなら何でもいっか」


「リンちゃん、こっちにもありますよ」


「おお~、ありがとうございます。

 ……って、何これ?」


 コーデリアが教えてくれたキノコは、先ほどと違って柔らかそうな見た目だ。

 しかし、宇宙生物でも襲ってくるのかと思うほどドロドロ。

 いわゆる”なめこ”なのだが、垂れ落ちるくらい粘液に覆われた状態で生えている。


Tips――――――――――――――

【 ねっとりなめこ 】

 かなり粘性が強いキノコ。ねばりがすごい。

 料理の他、潤滑剤に使うこともある。

――――――――――――――――――


「うえぇ……こんなの絶対に触りたくない。採集キットを使おう」


「あら、もったいない。私はこのキノコが大好きなのですが。

 もちろん、色々な意味で。そう、色々な意味で」


 フヒヒと笑いながら顔を赤らめているコーデリア。

 リンはあえてツッコミを入れず、金属製のトングでなめこを挟んでビンに密閉する。

 死の谷や火山などの局地を経験してきただけに、今では毒があるような植物や鉱石でも採取できるようになっていた。


「初心者向けのクエストなのに、手際が初心者じゃありませんね」


「みんなと一緒にいろんな場所に行って、慣れましたから。

 サクヤ先輩とかステラも、色々と教えてくれましたし」


「あ、それはいいかもです」


「ですよね~。やっぱり、みんなで探検すると――」


「そこではなく、サクヤさんのことを先輩って呼びましたよね? ねっ?

 私も同じくらいの歳なんですけど、呼んでくれないんですかぁ~?」


「えぇ~……分かりましたよ、コーディ先輩。これでいいです?」


「いいですねえ! とても(はかどり)ります!」


「何がですか」


 祈るようなポーズで両手を組み合わせるコーデリアは、先輩と呼ばれて満面の笑みを浮かべた。

 おかしな人じゃなければ可愛げがあるだけに、とても残念な感じがする。


 そうして、あれこれと会話しながらキノコを探している最中に――


「キャイイイイイン!」


 森の空気をつんざくように、少し離れた場所から動物の悲鳴が聞こえてくる。

 誰かがオオカミでも倒したのかと思ったが、どうも様子が違うらしい。


「い、今の声……何?」


「おそらく、突発クエストだと思います」


「突発クエスト?」


「このキノコ狩りは、人から依頼を受けるタイプのクエストです。

 それとは別に、特定の条件を満たすと自然に発生するものがあるんですよ。

 さっきの声は……なるほど、”アレ”ですね」


 コーデリアは発生した突発クエストが何なのか知っているようだが、それ以上は口出しをしなかった。

 クラウディアやサクヤがそうであるように、彼女にもプレイヤーとしての心得があるらしい。


 ナビが選択肢を表示してくれるわけでもなく、今回は自分でルートを決めなければいけないようだ。

 リンはキノコを探し続けてもいいし、声がしたほうへ行ってもいい。


「分かりました。あっちに行ってみましょう」


「ふふふ、それは……楽しみですねぇ。

 ただのキノコ狩りで終わらせるには、もったいない日です」


 悲鳴の先に何があるのか分かっている先輩は、ニコニコと笑いながら後方に陣取った。

 ついてはくるものの、クエストの進行はリンに任せるようだ。


 キノコ狩りを中断して、けもの道を進んでいく2人。

 やがてリンが目にしたのは、嵐でも来たのかと思うほど荒らされた樹木だった。


「なにこれ? 森がめちゃくちゃになってる!」


「リンちゃんが驚くことですか?

 モンスターの群れごと森の一部を焼き払ったと、噂で聞きましたけど」


「誰がそんな噂してるの!?

 ま、まあ……焼いちゃったのは言い訳できないけど」


「クゥウウン……」


 ふと足元から聞こえてきた弱々しい声。先ほどの悲鳴の主なのだろう。

 荒らされた樹木の間には、傷ついたオオカミの子供が1匹横たわっていた。


「えっ!? やだ、どうしよう……ひどいケガ!」


Tips――――――――――――――

【 傷ついたオオカミの子供 】

 危険な状態だが、まだ息はある。

 モンスターに詳しい人物なら、ケガを治してくれるかもしれない。

――――――――――――――――――


「モンスターに詳しい人物……そっか、サイラス博士!

 コーディ先輩、ごめん。この子を研究所まで連れて行かなきゃ」


「いいですよ、リンちゃんの好きなようにしてください」


「ええと……ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。

 今すぐ連れてってあげるから」


「クゥゥ……」


 リンはオオカミの子供をそっと抱き上げ、すぐさま村へと引き返すことにした。

 しかし、この突発クエストはそれだけでは終わらない。


 森をめちゃくちゃに荒らし、オオカミを傷つけた犯人。

 何者かがメキメキと樹木をなぎ倒しながら、リンたちの前へと姿を現したのだった。

これまでのルールやカード効果に関して、大掛かりな整備を行いました。

詳しくは活動報告にまとめてあります。

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