第11話 モンスター研究所 その2
「さ~て、久しぶりにメインアタッカーをやってもらうよ!
ユニット召喚、【パワード・スピノサウルス】!」
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【 パワード・スピノサウルス 】
クラス:レア★★★ タイプ:水棲
攻撃2000/防御2000/敏捷120
効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。
スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。
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「オオオオオーーーーーーーーッ!」
再び森までやってきたリンは、彼女が信頼するアタッカーの1体を繰り出す。
かつて『ファイターズ・サバイバル』でリンを日本3位に導き、しばらくルームで疲れを癒やしていた水辺の王者。
数々の強敵と渡りあってきた歴戦のユニットが、約2ヶ月半ぶりに復活を遂げた。
特徴的な帆を背中に立て、全長15mに達する超大型生物。
異様に敏捷力が高いが、これはスピノサウルスが極めて巨体であるため。
仮に同じ速度だったとしても、ワニが1歩進むのと、恐竜が1歩進むのではまったく幅が違うのだ。
「親分、よろしく~! すっかり元気になったみたいだね」
「ガロロロッ」
「わっ! ちょ、ちょっと待って……潰れる!
恐竜にじゃれつかれたら死ぬから!」
リンに鼻先をすり付けてきたスピノサウルスだが、人間にとっては巨大な岩が迫ってくるようなもの。
うっかり足で踏まれただけでも、大半の生物が即死する。
「ふぅ……さてと、【アルルーナ】ちゃんを竜巻で戻したのは幸いだったね。
まだ使える【エクシード・ユニオン】をレダさんに装備させるよ!
媒体にするのは、【ネレイス】ちゃん!」
「ぴゅ~い?」
最終兵器を放ったときに【ワールウィンド】で回収していたため、装備品は再利用が可能だった。
すでに【ネレイス】は出ているが、スタックバースト用のカードを媒体として使用する。
人間に加えて、神と水棲という3種類のタイプを有することになったレダは、その外見を大きく変えていった。
髪が流水のように腰の下まで伸び、体には魚のヒレを思わせる装飾品が付く。
勇猛な剣士から、美麗な水の精霊へ。
耳もヒレを思わせる形状になり、二刀流の剣が水属性を帯びて群青色に輝いた。
「うわぁ~! 元々きれいだったけど、海のお姫さまみたいになったね!」
「………………」
姿が変わったレダは、無言のまま不思議そうに自分の体を見ている。
まるで、足を得た代わりに声を失ってしまった人魚姫のようだ。
「それじゃ、どれだけ数字を出せるか試してみよっか。
スピノ親分、2回スタックバースト!
レダさんには追加で【ストームブリンガー】を装備!」
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【 破滅の剣『ストームブリンガー』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されたユニットに攻撃力+X。Xはユニットを所有するプレイヤーのライフに等しい。
攻撃宣言をした瞬間、このカードは破棄され、所持プレイヤーはXに等しいダメージを受ける。
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今やリンの象徴となった破滅の魔剣。
自分の意志で動くインテリジェンスソードであり、刀身の眼球で敵を探しながら空中に浮かぶ。
合計3刀流になったレダには、リンの残りライフ4000が丸ごと上乗せされた。
スピノサウルスの効果も乗るため、【魔法双剣士 レダ・オンスロート】の最終的なステータスは★2の域をはるかに超える。
タイプは人間・神・水棲の3種。攻撃力7900、防御力3600。
敏捷も変動しているが、これには意味がない。レダ本人はバトルを行わないからだ。
「最後の仕上げ! 媒体になってる【ネレイス】ちゃんをスタックバースト!」
極限まで高めたレダのステータスを、スピノサウルスに乗せてコンボ完成。
強化効果を乗せ終えたとき、そこに立っていたのは攻撃力11900、防御力7600、敏捷120というバケモノ。
レダのスタックバーストにより、2回までは相手のバースト効果を打ち消し可能。
ついでに攻防2300の【ネレイス】も補助要員として控えている。
これが2ヶ月半をかけて、リンが鍛え上げてきた戦力。
レダの部分を【アルテミス】に変えれば、ステータス20000超えも夢ではない。
「まあ……まあ、まあ、まあ、まあ、なんと素晴らしいのでしょう!」
と――そう叫んだのはリンではなかった。
誰もいないだろうと思っていた森の中に、ひとりの女性が姿を現す。
「えっ、見られた!? ぐ、ぬぬぬぬ……剣が抜けないっ!」
咄嗟に腰の双剣を抜こうとしたが、女子中学生の腕力で即座に抜けるはずがない。
相手の女性には敵意がないようで、何やら恍惚の表情でスピノサウルスを見上げている。
「なるほど、これが『終末剣のリン』。
森のほうで大爆発があったという噂を聞きつけて、もしかしたらと思って来たのですが。
実際に会ってみると想像以上ですねぇ!
この限界まで極まった数字……ふひ、ふひひっ……見ているだけで達してしまいそうです!」
「あ、あの~……あなたは?」
「これは申し遅れました。私はコーデリア。
親しい人からはコーディと呼ばれています」
「はあ……」
「あれ? サクヤさんやステラちゃんから何も聞いてませんか?」
「いいえ、何も」
「んなっ!? この私を紹介していないだなんて!
きっと、そういう……んふっ……そういうプレイなんですね、サクヤさぁん!」
ショックを受けながらも顔を赤らめ、クネクネと身をよじるコーデリア。
かなり改造されたシスター服に身を包み、腰下はミニスカートに黒のタイツ、首には大型犬の首輪を付けているという独特の出で立ちだ。
『ファイターズ・サバイバル』に出場していたため試合を見ていないリンは、彼女のことをまったく知らない。
「えっと……サクヤさんたちと知り合いなんですか?」
「そうです。サクヤさんがステラちゃんのお父さんなら、私はお母さんのようなもの。
きゃっ、未婚どころか未成年なのに子持ちになっちゃいました」
「なるほど……それにしても、まいったなぁ。
人にバレても大丈夫なカードばかりですけど、大会前に見られちゃうなんて」
「ということは、隠し持っている”何か”があるんですね?
あるんですねぇ、まだまだ秘密が? んんん~?」
「ああ、いやいやいや、ないです! これが全力全開です!」
「ご安心を。別にバラすつもりはありませんし、これをネタに脅して薄い本みたいに迫ったりもしません。
ステラちゃんたちのお友達なら、私にとってもお友達。
それに、私が崇めるのは神さまだけではなく、数字の信奉者でもあるんです。
ステータスこそ絶対正義! 数字は大きければ大きいほどいい! そうでしょう?」
「は……はあ……」
両手を腰に当てて、シスター服の上からでも分かるほど無闇やたらに大きな胸を張るコーデリア。
何が入ってるんだ、あれは。バレーボールか。
「リンちゃんが隠したがっているモノばかり見ても不公平ですからねぇ。私のも見せてあげましょう。
おいでませ、【アズラエル】!」
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【 死天使・アズラエル 】
クラス:レア★★★ タイプ:神
攻撃2200/防御1600/敏捷70
効果:このユニットが対戦相手のユニットをバトルで倒したとき、プレイヤーのライフを300回復させる。4000以上にはならない。
スタックバースト【生死一体】:永続:自プレイヤーの所有ユニットを1体選んで破棄し、ステータスの【基礎値】を得て加算する。
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呼びかけに応じて、森の中に隠れていたユニットが姿を現す。
天使と名が付いているが、その翼はカラスのように真っ黒。
ペストマスクと呼ばれる奇妙な仮面で頭部を覆い、手には血を滴らせる戦鎌。
驚くべきはそのステータスで、なんと攻撃力が10000を超えている。
野生モンスターを倒すたびに主人を回復させるという点でも、かなり優秀なユニットだ。
「すご~い! めちゃくちゃ強い子ですね!」
「この子にはスタックバーストを2回使って、2体の★3を食べさせてあるんです。
それでも【魔導書『ネクロノミコン』】の効果込みで、あなたの恐竜には少し届きません。
なんということでしょう、この『クラッシャー・コーディ』が攻撃力で負けてしまうなんて!」
リンの数字もおかしいが、コーデリアも相当なもの。
他のユニットのステータスを上乗せするという点では、両者ともに似た戦略である。
結果として、この場に集ったのは攻撃力5桁のユニットが2体。初心者が見たら卒倒しそうな過剰戦力だ。
「それで、リンちゃんの目的は何です?
難易度が高い場所に行ってモンスター探し?
それとも、噂の★4モンスターとの対決ですかぁ?」
「え……えっと……キノコ狩りです」
「キノコ狩りぃいい!? 攻撃力11900のユニットを使ってキノコ狩り!?
うひひひ、神さま! なんて罪深いのでしょう!」
驚きながらも胸の前で手を組み、コーデリアは焦点が合っていない目で愉悦に浸る。
とんでもない人に会ってしまったと思いつつ、リンは目的のキノコを探し始めたのだった。
2022/05/20 レダに3枚目のリンクカードを付けてしまうミスがあったため、正しい描写と数字に置き換えました。




