第10話 モンスター研究所 その1
「この村まで来たということは、キミも色々な野生モンスターを目にしただろう?
彼らの生態は実にユニークで興味深い。
ここにいる子たちは、全て私のペットでね。
ただ捕まえるだけではなく、クリスタルというものを使って、より仲良くなっているんだ」
男性らしくも優しい口調で、気さくに語りかけてくるサイラス博士。
ここで『ペット・クリスタルについて聞きますか?』という選択肢が表示される。
リンはすでに知っているのだが、少し迷った後で『Yes』を選んだ。
イケメンのイケボが聞けそうだったからだ。
「ミッドガルドではユニットの【クラス】ごとに、緑・青・赤のクリスタルが存在するんだ。
それを使うことでペットに変化して、キミのルームで飼うことができる。
捕まえた野生モンスターでも、パックから出たカードでも、ペットになるかどうかに違いはない。
そうだ! これをあげるから、キミのユニットをペットにして私に見せてくれないか?」
「あっ、緑のクリスタル! ありがとうございま~す!」
★1や★2のモンスターと戦って捕獲し、ここでペットについて学ぶという流れ。
チュートリアルは終わっているのだが、なかなか親切に誘導してくれている。
「デッキの中にいるユニットは……それじゃあ、この子を見せてあげよっかな。
出ておいで、【ネレイス】ちゃん!」
Cards―――――――――――――
【 ネレイス 】
クラス:コモン★ タイプ:神/水棲
攻撃300/防御300/敏捷100
効果:水中にいるとき、バトル相手に与えるダメージが2倍になる。
スタックバースト【海原への導き】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニット1体に、このユニットのステータスを加算する。
――――――――――――――――――
「ぴゅーい!」
イルカのような声を上げ、半人半魚の幼女が元気よくカードから飛び出した。
クラウディアが仕入れた情報は確かだったようで、『【タイプ:○○】としても扱える』というユニットは全てハイブリッド化されている。
神の一族である【ネレイス】は、水棲と神を両立させつつ新しい能力を得た。
水中限定で強くなるという効果であり、【エクシード・ユニオン】で付与することも可能。
かなり強力になったのだが、プロジェクトカードで雨を振らせた程度では発動しないらしい。
「おお~、これは素晴らしい! 元気だし、よく懐いているね。
なるほど……キミは今までに42種類の野生モンスターと戦い、13種類のカードをペットにしているのか」
「そんなことも分かっちゃうんですか?」
「ペットをたくさん作るためには、クリスタルが必要になる。
たまに強いモンスターが持っていたりするけど、効率が悪いし倒すのも難しい。
でも、心配はいらないよ。村のすぐ近くに、クリスタルを採取できる洞窟があるからね」
「(あ……みんなで行った水晶洞窟のことだ。懐かしいな~)」
「場所はここだ。深いところに行けば行くほど、良いクリスタルがある。
危険なモンスターもたくさんいるから、最初は無理をせずに浅いところで採取するといい」
会話が終わるとウィンドウが開き、村周辺の地図情報と目的地のマークが表示された。
これはミッションではなく、あくまでも情報提供だ。
リンは水晶洞窟に行ってもいいし、他の場所を探検してもいい。
「クリスタルかぁ……けっこう使っちゃったから、欲しいといえば欲しいんだけど。
でも、それならコボルドちゃんと一緒のほうがいいよね。
どうせなら、レダさんもペットにしておきたいし……って、大丈夫なのかな、それ!?
人間をペットにするって、倫理的にまずくない?」
人型のユニットもペット扱いになってしまうのだが、そこはあまり深く考えないほうが良いというのが暗黙の了解である。
いずれにせよ、自由になったリンは行き先を考えなければいけない。
「今日はまだ時間があるし、これで終わりっていうのもな~。
サイラス博士、他に情報とかないですか?」
「やあ、キミじゃないか! 元気でやってるかい?」
改めて話しかけると、会ったばかりのような反応を示すサイラス。
先ほどの会話で区切りがついていたらしく、新しい会話のパートに入ったようだ。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね」
「リンです」
「リンくんか、憶えておこう。
ところで、少し時間はあるかい? 私の研究を手伝ってほしいんだ」
「おお~、それです。そういう展開が欲しかったんですよ」
Quest―――――――――――――
【 森のキノコ採取 】
新しいクエストを開始しますか?
・Yes
・No
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ラヴィアンローズを始めて約5ヶ月、ようやくリンはチュートリアルを卒業し、初めてのクエストを受理することになった。
選択したのは、もちろん『Yes』だ。
「ありがとう! 森の植生を調べるために、キノコを5種類ほど取ってきてほしい。
同じものではなく、種類はバラバラで頼むよ」
「ずいぶん簡単な内容ですけど……分かりました!
森から出てきたり、また森に戻ったりして、今日は忙しいね」
「ぴゅい?」
急に話しかけられた【ネレイス】は、可愛らしく首をかしげる。
普通は1日でやるものではなく、初心者が森を中心にクエストを進めるのもセオリーどおり。
結局、森まで戻ることになったリンは、キノコ探しを始めたのだった。




