表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/297

第23話 VR生活も始めました

「わぁ~! 懐かしいですね、この感じ!」


 ルームに招待されたステラは、いつもの魔女姿で室内を眺めた。

 何も知らないまま、独房のようなマイルームに来て違和感を覚えるのは、このゲームの初心者が通る道らしい。


 とにかく、窓とベッドと椅子しかない無音の空間を何とかしたい。

 立派な魔女の館を持つステラが来てくれたのは、本当に頼もしい限りだ。


「とりあえず、ステラの家みたいにね。

 こう、いい感じのルームを作りたいんだけど」


「あはは……大雑把ですね。

 あの家には、かなりポイントをつぎ込んでますよ。

 いい感じになるかどうかは、リンの予算にもよります」


「予算は、え~と……

 服とかパックを買ったけど、まだ8000ポイントくらい残ってるかな」


「すごいですね!

 話には聞いてましたけど、『マスター』の称号でそんなに報酬が……

 それくらいあれば、ある程度は希望どおりになると思います」


「希望どおり……希望かぁ……

 そもそも、どんなお部屋にするのかも決めてなくて」


「じゃあ、外から決めてみましょうか。

 私のルームも森の雰囲気に合わせて設計したんです」


「なるほど、家の外ね!

 ここから外に出られるだけでも、ぜんぜん違うと思う」


 開かない窓から青空を眺めるだけの部屋は、すぐにでも改築するべきだ。

 ステラの協力を得ながら、リンはルームの作成に熱中した。


 わざわざショップに行かなくても、その場で家具を買えるし、置くだけで建築や地形の変更を行える。

 現実とは違ったリフォームは中毒性が高く、これも深い沼であることを(にお)わせていた。



 ■ ■ ■



「それで、こんな感じになったわけか。

 さすがに経験者がいると違うな~!」


 やがて、遅れてやってきた兄のユウは、短時間で完成した妹のルームに驚かされる。


 リンが外観に選んだのは『タートルアイランド』という地形。

 南国にありそうな孤島だが、非常に陸地の面積が狭い。

 どうにか家を1軒だけ建てられそうな砂浜が、かろうじて水面から出ている程度の島だ。


 その砂浜に風通しの良いログハウスが建っていて、ちょっとしたリゾート気分を味わえる。

 いつでも海の家にいるような、さわやかさと開放感にあふれたルームだ。


「なんと、これだけ買っても2000ポイント!」


「ははは……服のほうが、よっぽど高いんだな」


「タートルアイランドとログハウス。

 どっちも値段の割にはコストパフォーマンスがいいんです」


 合流した3人は、できたばかりのログハウスから南国の海を(なが)めていた。

 不思議なことに外観を変えると潮風が吹き、波の音や砂浜の香りまで感じられるのだ。


「知ってるか?

 ラヴィアンローズを作ってる会社はアメリカにあるんだが、スタッフはみんな日本のアニメやゲームが好きらしい。

 この島も、とあるアニメで主人公が修行した場所を元にしてるんだ」


「へぇ~、それが元ネタなんだ。

 でも、実際に住んだらすごく不便だよね。

 お店どころか電気とかネット回線もなさそうだし」


「ふふっ、高波が来ただけで流されちゃいますよね」


「ちなみに、家具にも★3までのレアリティがあって、★2までは自由に扱える。

 他のプレイヤーへのプレゼントは、だいたい家具ってのが相場だな」


「あ、そうでした。

 せっかくなので、リンに何かあげますね」


「えっ? な、なんか悪いね、手伝ってもらったのに」


決闘(デュエル)のときも言いましたけど、同じクラスのフレンドは初めてなんです。

 これからは、こっちの世界でもよろしくということで。

 はいっ、私からのプレゼント」


 リンのコンソールに通知があり、ステラから贈り物が届いていた。

 喜んで受け取ったリンだが、その頭にはすぐに疑問符(クエスチョンマーク)が浮かぶ。


「ありがと~! ……って、花の種?」


「この島に合いそうな、赤いハイビスカスの種です。好きな場所に植えられますよ。

 ルームの植物は枯れたりしないんですけど、そのままでは成長することもありません。

 人の手で育ててあげたときに成長が進むっていう感じです」


「へぇ~、VRって本当に便利だね!」


「がっつりと園芸をやりたい人から、とりあえず置いておきたい人まで需要を満たせるからな。

 3代目のチャンピオンなんて園芸にハマりすぎて、ルームが植物園みたいになってるらしいぞ」


「初めての女性チャンピオン、植物デッキを使う【千花(クイーン・)女王(オブ・ガーデン)】ですね。

 この世界にある植物系のカードと家具を全部持っているそうです」


「全部とか言われても、いまいちピンとこないけど……

 チャンピオンって、それぞれ何か極めたような人たちなんだね。騎士とか魔術とか」


「頂点まで極めなきゃ、なれないんだろうなぁ。

 さてと……せっかくだし、俺もリンに家具を送りつけてみるか」


「くれるならもらうけど、変なものをよこさないでよ?」


 兄のことだから、不要な家具を押し付けてくるかもしれない。

 そう思って眉をひそめるリンだったが、意外にも実用的なプレゼントが贈られてきた。


「これは……『フォトデータ加工セット』?」


「お前はデュエルのときに写真撮影してるだろ。

 それを部屋に飾ったり、アルバムにまとめたりできる家具だ」


「えぇ……兄貴なのに、なんか普通……怖い……」


「なんで普通のものを送ったのに怖がられるんだよ!

 いらないなら返せ!」


「ダ~メ! もう、もらっちゃったも~ん!

 ふふふ……ありがとっ」


 兄に対して、ありがとうなんて言ったのは、いつ以来のことだろう。

 そんな疑問が頭に浮かんだが、とりあえず、この日はルームをいじるだけで時間が過ぎてしまった。


 やがて、潮騒が聞こえるログハウスの壁に飾られたのは、2枚の写真。

 1枚には月の女神や動物たち、もう1枚には3つの頭を持つ巨大なワイバーンが映っている。

 勝利後の記念撮影なのだが、どちらにも【トロピカルバード】がいるのは笑ってしまう。


 リンは、まだまだ初心者だ。

 兄には力押しで勝ったし、ステラの場合は相手のミスが大きかった。

 写真を見ると楽しい気分になれるが、自力で勝ちを得たという誇りはまだ薄い。


 ――強くなりたい。

 純粋にそう願うリンの冒険と戦いは、まだ始まったばかりだった。

というわけで、第1章の完結となります。

ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました!


諸用のため3~4日ほどお休みを頂きますが、次回からは新章『ミッドガルド冒険編』が始まります。

カードを応用した新しいバトルと冒険になるので、引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ