第3話 ソロプレイ始めました その3
「わぉおお~~~ん!」
「キュイイーーーー…………」
HPが200しかない【ハチドリル】を倒すのは容易い。
モフモフの手から放たれた肉球パンチによって、小鳥のモンスターは一撃で吹き飛ばされた。
「はぁ~、他の子も用意しといてよかった……ありがとう、コボルドちゃん!」
「わふっ!」
Cards―――――――――――――
【 タイニーコボルド 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃400/防御200/敏捷60
効果:このユニットがバトルによって破棄されたとき、相手プレイヤーに防御力と同数のダメージを与える。
スタックバースト【鉱脈への導き】:瞬間:デッキからカードを1枚ドローする。
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柔らかい体毛に包まれ、犬の姿をした半獣半人の幼女【タイニーコボルド】。
3枠目の予備としてデッキに入れておいたのだが、思わぬところで役に立ってくれた。
なお、実は倒せなくてもイベントは進行する。
一定以上のターンが経過すると【ハチドリル】は逃げていく仕様になっているので、植物ユニットしか持っていない初心者でも行き詰まることはない。
そういった攻略情報をまったく調べていないリンは、とりあえず物理的な手段で解決した。
「なかなか、やるじゃないか!
ミッドガルドでは、今みたいな感じでモンスターと戦うんだ」
「接敵されると逃げられなくなっちゃうから、危険な相手には近付かないでね。
どうしても逃げたい場合は、このカードを使ってみて」
「それじゃ、ここからが旅のスタート地点だ!
改めて、ようこそミッドガルドへ」
Notice――――――――――――
【 報酬が配布されました! 】
・カード5枚入りパック 2袋
・クエストポイント 100pt
・カウンターカード【エスケープ・スモッグ】
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ブロックとミスティの会話が終わると、コンソールにクエスト達成の通知が入る。
とりあえず、最初はデッキ構築とバトルについて学ぶ回だったらしい。
「うわ~、5枚入りパック! 懐かしいな~!
見たことがないカードも報酬に入ってるけど……」
Cards―――――――――――――
【 エスケープ・スモッグ 】
クラス:コモン★ カウンターカード
効果:通常の決闘では使用できない。
このカードを使用したプレイヤーは戦闘から離脱することができる。
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「へぇ~、こんなモノもあるんだ!
どうしようもなくなった場合の切り札って感じかな」
【エスケープ・スモッグ】はクエスト達成でしか得られない、いわゆる配布カードだ。
その1枚にクラウディアが苦汁を舐めさせられたことなど、リンは知るよしもない。
今となっては懐かしい5枚入りパックも、【ブリード・ワイバーン】や【アルテミス】を引いた思い出の品。
こうしてクエスト報酬として得るのが主な入手方法になっている。
「【ハチドリル】が出てきたときは、どうなることかと思ったけど……
カードをいっぱいもらえておいしいね。もっと早くやっておくんだったよ」
報酬を受け取ると、すぐに『はじめてのミッドガルド 2』を始めるかどうかの選択肢が表示される。
無論、リンが選んだのは『Yes』だ。
「やあ、戦いかたは分かったかな?
今度はモンスターの捕獲にチャレンジしてもらうぞ!」
「バトルで倒すと、たまにモンスターが気絶することがあるの。
そのときにブランクカードを使うと、あなたの仲間になってくれるのよ」
「ただし、捕まえる権利があるのは倒した本人だけだ。
放っておくと気絶したモンスターは消えちゃうから、チャンスがあったら見逃すなよ」
「はい、ブランクカードを少しあげるわ。
足りなくなったらショップで買えるから、必ず持ち歩いて冒険してね」
そして、リンの所持アイテムにブランクカードが3枚追加される。
いかにもチュートリアルらしい流れだ。今度はこれを使って、初心者に捕獲を体験させるのだろう。
「それじゃ、さっそく何か捕まえてきてくれ」
「私たちは、ここで待ってるからね」
「了解っ! そういえば、このへんのモンスターはあんまり捕まえてなかったな~」
その場から1歩も動かず、ずっと待ち続けているNPCたちには違和感をおぼえるが、ここはゲームの世界なのだと割り切るしかない。
リンは【アルルーナ】と【タイニーコボルド】を引き連れて、平原エリアで捕獲対象を探す。
「あ、そうだ。コボルドちゃんにリンクカードを持たせなきゃ。
ん~……これでいいかな」
Cards―――――――――――――
【 ミノタウロスの手斧 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:このカードを装備したユニットに攻撃+600。
バトルを行うたびに、相手ユニットの防御力は200ずつ永続的に減少する。
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5ヶ月ほどプレイしてきたおかげで、手持ちのリンクカードも質が良くなっている。
今回使用したのは、簡単に攻撃力を盛ることができる★2アンコモン。見た目は手斧なのだが、本来の持ち主がミノタウロスなせいか異様な大きさだ。
まるで戦斧のように重厚な武器を、小柄な【タイニーコボルド】は軽々と持ち上げてしまう。
「わぉおお~う!」
「相変わらず、力持ちだね~!
コボルドちゃんにも【エクシード・ユニオン】で違うタイプをくっつけたら面白そう。
水棲とか、飛行とか……逆にコボルドちゃんの悪魔タイプを他の子に付けたら、どうなっちゃうんだろ?」
【アルルーナ】に竜タイプを付けただけで、この変わり様なのだ。
様々な強化効果をもたらす以外にも、見た目の変化という点で【エクシード・ユニオン】は画期的な装備である。
「そうなると、やっぱり媒体にする★1の選択肢は多いほうが……
おおっと! あそこに何かいるよ!」
見通しが良い平原には草花が咲いており、先ほどの【ハチドリル】などが飛び交っている。
リンが見つけたのも、そんな昆虫モンスターの1匹。
紫色の美しい羽を広げ、花から花へと舞うように移動するチョウであった。
Enemy―――――――――――――
【 パピヨン 】
クラス:コモン★ タイプ:昆虫
攻撃100/HP200/敏捷70
効果:このモンスターが受けるダメージは常に2倍になる。
スタックバースト【春の訪れ】:永続:【タイプ:植物】のユニット全てに攻撃+300を付与する。
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「う……う~ん? 自分が受けるダメージが2倍?
スタックバーストはともかく、この効果ってデメリットしかないような……」
ほとんど最弱に近いステータスに、あろうことか被ダメージ2倍。
戦闘にはまったく向いていないが、ルームに放しておけば観賞用のペットになりそうだ。
思えばステラのルームを訪れたときも、魔女の森を色とりどりのチョウが飛んでいた。
「とりあえず、この子でいっか。【アルルーナ】ちゃん!」
「ぷぃいいっ!」
160という圧倒的な敏捷ステータスで先手を取り、薔薇のようにトゲが付いたツタで一閃。
パァンと痛そうな音が響き、【パピヨン】は一撃で地面に落下する。
「よ~し、気絶したよ!
ブランクカードを使って……捕獲完了!」
ユニットカードになった後も、【パピヨン】の性能はまったく変わらない。
自分の被ダメージを増やすことに意味はあるのだろうかと考えながら、リンはNPCたちのところへ戻っていった。
「無事に捕獲できたみたいだな。おめでとう!」
「捕まえたばかりの子は、いっぺんデッキを組み直さないと召喚できないから気をつけてね。
もう少しブランクカードをあげるから、モンスターを捕まえてデッキを強化するといいわよ」
「俺たちは、この先の森で待ってるからな。
平原とは違って危険なヤツらが多い場所だ。しっかり準備してから来いよ」
Notice――――――――――――
【 報酬が配布されました! 】
・カード5枚入りパック 2袋
・クエストポイント 200pt
・ブランクカード 8枚
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クエストが終わるなり、ブロックとミスティは急に駆け出して姿を消してしまった。
この平原でのチュートリアルは終わり、舞台は森へと移るようだ。
こうして少しずつ先に進んで、いつかは村にたどり着くのだろう。
「さっきのと合わせてブランクカードが10枚も増えたのは、ありがたいね。
次は森だって。パックを開けながら進んじゃお~っと」
配布された5枚入りパックから出るカードなど、★2アンコモンを引ければ十分に当たりだと言われている。
しかし、このチュートリアルを受けている初心者には貴重な戦力になるはずだ。
意外としっかり設定されているクエストを体験し、リンは心の底からもったいなさを感じていた。
「もっと早くチュートリアルに気付いてたら、あたしのデッキは少し変わってたかもね。
もちろん、今の子たちも大好きだけど」
他に選択肢がなかったからこそ、【アルルーナ】や【タイニーコボルド】と巡り会えたのかもしれない。
初期に比べたら見違えるほど強くなったユニットたちを引き連れ、リンは森に向かって足を進めていく。




