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第2話 ソロプレイ始めました その2

「う……ううう…………うがぁうううう~~~っ!!」


 【エクシード・ユニオン】によって竜タイプを付与された【アルルーナ】は、これまで一度も上げたことがない勇ましい声で咆哮した。

 体から大小の鋭いトゲが突き出し、背中で2対の大きな葉が翼のように広がる。

 後方に伸びた2本のツタは揺らめきながら尻尾を形成。頭部にもドラゴンフルーツの実を思わせる赤と緑のカラフルな角が生えた。


 そして――なんと、背中の大きな葉を羽ばたかせて【アルルーナ】が空中に浮かび上がる。

 これが植物とワイバーンを組み合わせた姿。

 普通なら絶対に飛ばないであろう地生のモンスターに、大空への翼が与えられたのだ。


「ぷぁあううう~っ!」


「わあ~っ、飛べるようになるんだ!

 女の子と植物とワイバーンを、足して3で割った感じかな?

 このままでも強そうだけど、【ブリード・ワイバーン】を2回スタックバーストしておくね」


 ワイバーンの特性である成長の効果で、攻撃と防御を大幅に強化。

 残念ながら成長自体は共有されないが、ミッドガルドでは1200、通常のデュエルなら最大4800もステータスを盛ることができる。

 さらにはワイバーンの高い敏捷も乗るため、多くのバトルで先手を取れるようになった。


 ファンタジー世界にいそうでいない、竜と融合したアルラウネ。

 その最終的なステータスは攻撃1400、防御1600、敏捷160と★2アンコモン並みの性能だ。

 いざとなったら【アルルーナ】自身のスタックバーストで敵の攻撃力を下げるという保険もある。


「よ~し! これで目が覚めたでしょ?」


「ぷぃいいいいっ」


「やる気満々だね~。このあたりのモンスターなら楽勝だと思うし、さっそくチュートリアルを始めてみよっか。

 えっと……コンソールに開始ボタンがあるのかな?」


 左手の腕輪からコンソールを開いて操作してみると、『ミッドガルドのチュートリアルを始める(推奨)』という項目が見つかった。

 わりと見つけやすい位置にあったのだが、今の今まで完全に無視していたようだ。


「じゃあ、チュートリアル……開始っと!」


Quest―――――――――――――

【 はじめてのミッドガルド 1 】

 チュートリアルイベントを開始しますか?

  ・Yes

  ・No

――――――――――――――――――


「あ、なんかウィンドウが出てきた。『Yes』を選べばいいんだね」


 とてもゲームらしい選択肢が表示され、いよいよチュートリアルのイベントが始まる。

 選んだ直後は何も起こらなかったが、ふと背後から人が声をかけてきた。


「あら、新しい冒険者さんかしら?」


「やあ、ミッドガルドにようこそ!」


 振り向いてみると、そこにはソニアと同じくらいの少年少女が2人。

 ファンタジー風の衣服を着ており、どちらも明るく活発そうな見た目だ。

 顔立ちは整っているが美形というほどでもなく、大衆向けを意識した当たり障りのないキャラクターである。


「あなたのお名前は?」


「あたしはリン」


「リンか、はじめましてだな。俺はブロック」


「私はミスティよ」


「ブロックくんとミスティちゃん……いかにも、外国っぽい感じの名前だね」


 どうやら、この2人はチュートリアルを始めると登場するNPCのようだ。

 ラヴィアンローズの製作元はアメリカなため、名前もあちらのお国っぽさがある。


「いきなり広い場所に来てビックリしたでしょ?

 ここはミッドガルド、私たちは森の向こうにある村に住んでるの」


「このあたりは安全なほうだけど、ミッドガルドには危険なモンスターがいっぱいいるんだ。

 最低でも戦うためのユニットカードと、装備させるリンクカードは用意しといたほうがいいぜ。

 もちろん、プロジェクトカードやカウンターカードも使えるから、それらをデッキに入れても構わない」


「でも、ユニット以外のカードは同じものを1枚ずつしか持ち込めないの。

 ユニットも3種類までで、全部合わせて15枚が上限だから、よく考えてデッキを組んでね」

 今の説明、もう1回聞きたい?」


「えっ? じゃあ……せっかくだから、もう1回」


「このあたりは安全なほうだけど、ミッドガルドには危険なモンスターがいっぱいいるんだ。

 最低でも戦うためのユニットカードと、装備させるリンクカードは用意しといたほうがいいぜ。

 もちろん、プロジェクトカードやカウンターカードも使えるから、それらをデッキに入れても構わない」


「でも、ユニット以外のカードは同じものを1枚ずつしか持ち込めないの。

 ユニットも3種類までで、全部合わせて15枚が上限だから、よく考えてデッキを組んでね。

 今の説明、もう1回聞きたい?」


「いや、もういいって!」


 一言一句、間違えることなく完璧に繰り返したブロックとミスティ。

 ゲームではよくあるNPCの会話だが、視覚がリアルなVRでやると違和感が際立つ。


「とにかく、人間がひとりで歩いてたら危険な世界なんだ。さっそくユニットを召喚して戦う準備をしてくれ。

 このミッドガルの中では、なんと――」


「召喚したユニットが、あなたと一緒に歩いて冒険してくれるのよ!

 お気に入りの子を仲間にして、はるか遠い山や海まで旅ができるの」


「その代わり、キミ自身はモンスターと戦えないから注意してくれ。

 決闘(デュエル)と同じように4000のライフポイントを持ってるけど、それが尽きたら明日まで探索できなくなるんだ」


「ちょっと待っててね……はいっ、あなたに特別な『おまじない』をかけてあげたわ。

 ミッドガルドに入れるのは、本当は1日に1回だけ。

 でも、チュートリアルを受けている間は、特別に何度でも出たり入ったりできるわよ。

 敵に倒されても大丈夫だから、あきらめずに頑張ってみてね」


「(う~ん……2人とも丁寧に説明してくれるなぁ。

 あたしが初めて来たときは、兄貴とステラが代わりに教えてくれたんだよね)」


 NPCのセリフを聞きながら、リンは数ヶ月前のことを思い返していた。

 この広大なミッドガルドを訪れ、VRのすごさを知ったときの感動。

 手持ちのカードが少ない中、【アルテミス】にコモンやアンコモンの装備品を山ほど付けて戦った日々。

 今や日本ワールドの若手筆頭と呼ばれるリンにも、初々(ういうい)しい駆け出しの時期があったのだ。


「ここまでの説明、もう1回しようか?」


「えっ? ああ、いやいや大丈夫! 話を進めて!」


「それじゃあ、さっそくキミのユニットを召喚してみてくれ」


「どんな子とお友達なのかな~? 見るのが楽しみ!

 召喚できたら、私たちに話しかけてね」


「ん……んん~~?」


 状況が理解できていないリンは、隣りでバサバサと飛んでいる【アルルーナ】を見ながら首をかしげる。

 召喚しろと言われたが、リンのユニットは目の前にいるはずだ。

 その姿が見えていないかのように、ブロックとミスティは並んで立っている。


「えっと……召喚なら、とっくにできてるんだけど」


「おお~、それがキミのユニットか!」


「まあ、素敵な子! 良いパートナーね!」


 たった今、初めて気付きましたと言わんばかりに反応する2人。

 これがゲームの仕様だと分かっていても、違和感に慣れるまでは時間が掛かりそうだ。


「じゃあ、その子の戦いっぷりを見せてもらおうか」


「あっちからモンスターが襲ってくるわ! 戦闘が始まるわよ!」


「OK! やっと【アルルーナ】ちゃんを活躍させてあげられるね。

 このへんの★1モンスターなら、すぐに片付けちゃうよ」


「ぷぁうううっ!」


 いよいよバトルということで意気込む主従。

 普段は寝てばかりの【アルルーナ】も、竜の力を得たことで闘争心がみなぎっているようだ。


 この手のゲームは、小手調べに弱いモンスターと戦うところから始まる。

 実際に襲ってきたのは平原でよく見かける小型の★1だ。

 翼を高速で羽ばたかせ、何の冗談なのかクチバシがドリルになったハチドリ。


「キュイイイイーーーーッ!」


Enemy―――――――――――――

【 ハチドリル 】

 クラス:コモン★ タイプ:飛行

 攻撃200/HP200/敏捷90

 効果:このモンスターは【タイプ:植物】からのダメージを受けない。

 スタックバースト【蜂鳥の群れ】:永続:攻撃と防御の【基礎ステータス】が2倍になる。

――――――――――――――――――


「な~んだ、【ハチドリル】かぁ。こうして見るのは久しぶりだね。

 たしか、このモンスターの効果は…………」


 余裕の表情で相手のステータスを確認したリンは、そのまま動きが固まってしまった。

 【タイプ:植物】からのダメージを受けない、と書いてある。

 何度見直しても、そう書いてある。

 そして、【アルルーナ】のタイプは――


「あ……ああああああ~~~~~~っ!!

 ウソでしょ? 絶対ダメなヤツじゃん、これ!

 えっと、タイプが2つある場合でも、どっちかが引っかかると適応されるんだっけ?」


「さあ、キミのバトルを見せてくれ!」


「その子なら、きっと勝てるはずよ!」


「無理だってば! メタが刺さっちゃってるんだよ、【アルルーナ】ちゃんに!

 ああ、そっか……これがメタなのかぁ……なるほど」


「ぷぁううぅ~」


 やる気に満ちていた【アルルーナ】の葉っぱが、しなしなと力を失っていく。

 【タイプ:竜】の部分だけでダメージを与えられるような、器用な戦いかたはできない。植物である限り【ハチドリル】の効果が適応されてしまうのだ。


 お互いに向かいあったまま、絶対に勝てなくなってしまった両者。

 リンはさっそく、チュートリアルの初戦から洗礼を浴びる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これチュートリアル中なら出入り自由って割りと悪用できるのでは? 行けるエリアが制限されてたりするのかな?
[一言] まさかの事故で草生える
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