第20話 最終結果発表 その1
「いや~、もうずっと走りっぱなし。
『ど~ん』しては走って、『ど~ん』しては走って、それだけでイベント終わっちゃった」
「その『ど~ん』が物騒すぎるんだよ、お前は……」
3日間のイベント期間、全12試合が終了した翌日。
【鉄血の翼】の面々はいつものコテージに集まり、最終結果報告の放送を待っていた。
「結局、楽できた試合なんて2日目の砂漠だけだったなぁ」
「その話も、聞けば聞くほど物騒だけれど」
今回のイベントにおいて、プレイヤーはユニットに騎乗できないようになっていた。
移動速度が人間の比ではないユニットもいるため、カードの効果範囲である100mからの離脱や、普通は行けないような安全地帯からの攻撃など、バランスを大きく崩してしまうからだ。
騎乗があまりにも便利すぎると、人間が乗れるユニットかどうかで価値や使用率も変わってしまう。
だが、ロープなどで引っ張ってもらい、普通より早く動くことに関しては規制されていない。
『熱砂のフレア』が使役するノコギリエイにロープを結び、それを掴んだリンたちがボードに乗るだけで、砂漠のマリンスポーツが始まってしまった。
あとはもう、逃げ回る民衆を高速で追いかけて、固まっているところに最終兵器を『ど~ん』するだけ。
倒しきれなかった相手や、逃げ惑って無防備になっている者には、容赦なくフレアが地中から襲いかかる。
まるでイワシの群れを巨大なクジラが飲み込み、散り散りになったところでマグロが突っ込んでいくかのごとく。
あまりにも一方的な展開になったことをリンから聞かされた面々は、その日、砂漠エリアに配置されたプレイヤーたちへ黙祷を捧げた。
「紅の女傑、フレア殿と出会って共闘するとは!
本当にどこで運命の糸がつながるのか、分からないものですな。
わたしは……無様にも敵前逃亡だったのですが」
「大団長に戦いを挑むなんて、それこそ愚かなことよ。ソニアの判断は正しかったわ」
「せやけど、戦ってみたい気持ちは分かるで。
あのおっさんを倒せば実質、日本ワールド最強やからな」
「ああ、分かる……俺もそうだが、スタジアムで戦うことができなかったプレイヤーだって大勢いるんだ。
もしも、オルブライトさんに挑むチャンスがあったとしたら、勝てないと分かっていても立ち向かうだろうな」
「まあ、結果的にソニアちゃんは上手にポイントを稼げるようになったわけですし、逃げる選択も大事だったと思いますよ」
ソニアの追い上げはすさまじく、3日目の撃破数は200人を超えていた。
1日あたり3桁に達することすら難しいイベントの中、小学生がたったひとりで成し遂げた快挙である。
強者ぞろいの【鉄血の翼】においても第3位の戦績だ。
と、そこでコテージの壁に設置されたモニターに、運営からの告知映像が流れた。
画面に映っているのは、いつもと同じくウェンズデーとコンタローの司会者コンビ。
「みなさ~ん! 『デュエル・ウォーズ III』へのご参加、お疲れ様でした~!」
「24ヶ所も用意したにも関わらず、どのエリアも満員御礼。
プレイヤーのみんなが積極的に参加してくれた3日間、運営一同を代表して感謝するのだ~!」
「今回は、と~~~ってもポイントが美味しいイベントでしたからね。
順調に稼ぐことができた方は、そのポイントを足がかりにして。
残念ながら、そうではなかった方も次回に向けて頑張りましょう!
さて……みなさん、気になっているかと思いますが」
「お待ちかねの結果発表! 合計撃破数の上位3名に、追加報酬をプレゼントなのだ~!
先月の『ファイターズ・サバイバル』ほどの規模ではないので、少し控えめになっちゃうけれど。
たくさん倒して頑張ったプレイヤーに、素敵なものを用意してあるのだ」
「それでは、まずは第3位!
撃破数3095人――【エルダーズ】所属のアリサ選手です!」
「「「「「「えええええ~~~~~っ!?」」」」」」
放送を見ていた6人は、同時に驚愕の声を上げた。
そのギルドとプレイヤー名を知らない者はいない。間違いなく、”あのアリサ”である。
「初日にステラちゃんが倒したはずだろ……それでも3000って」
「あの【ニーズヘッグ】に黒い炎を付けたまま、連れ歩いてるような状態でしたからね。
ほんの一瞬でも近付いてしまったら、アリサさんにポイントが入ります」
「回収効率がヤバすぎるのです……」
「これでうちは圏外や~。ま、稼げたからええか」
敗北による退場というハンディキャップを背負いながらも、大会の上位ランクに食い込んできたアリサ。
サクヤも奮闘していたが、さすがに撃破数3000には届かなかったため表彰されることはない。
ただし――それでも上位10名には、しっかりと彼女の名前が刻まれている。
「アリサ選手には追加で10万ポイントと銅のトロフィー、そして、好きなボックス1箱の引換券を進呈するのだ!」
「おめでとうございま~す!
3000に達してる時点ですごいんですけど、まだまだ上がいるんですよ。
続いて第2位、撃破数3108人――無所属、セレスティナ選手!」
ガタンッと音を立てて、クラウディアが椅子から立ち上がる。
色々と因縁があるアリサとは違い、その名前を知っているのは彼女だけ。
驚きながらもクラウディアはすぐに納得し、2人が出会った夜のことを回顧した。
「そう……結果につながっているなら、あなたの選択には意味があったのね」
「知り合いか?」
「ええ、まあ……2日目に会って、”挨拶を交わした”程度だけれど。
とても優秀なプレイヤーよ。逃した魚は大きいとは、よく言ったものね」
2位と3位のポイント差は僅か13人。
もしも、セレスティナを仕留めてしまっていたら、ランキングに影響を及ぼしていただろう。
手に入らなかったのは惜しいが、倒さなかったからこそ彼女は2位の栄誉を授かっている。
なお、かのメイドを勧誘して取り逃がしたことは、まだメンバーに伝えていない。
クラウディアにとっては、あまり知られたくない失敗の記憶。
追いかけて勧誘するにせよ、それはおそらく自分自身で決着を付けるべきことだ。
「ところで、あとは1位の発表なんだが……」
「もう決まってますよね。3位が発表されたときから、本人は固まっちゃってますけど」
「前の大会でも、表彰式ではガチガチになっとったからなぁ。ほれ、しゃんとせぇ!」
「ふぇええっ!? で、でも、これって……!」
隣りに座っていたサクヤに背中をぺしぺしと叩かれ、リンはようやく口から声を出す。
初日の時点で1000人を超えていた上に、2日目は砂漠でフレアと組んで荒稼ぎ。
2位が発表された時点で、もはや残る順位はひとつしかない。
「セレスティナ選手には追加で20万ポイントと銀のトロフィー、そして、好きなボックス2箱の引換券を進呈するのだ!」
「おめでとうございま~す!
さて、ついに1位の発表なのですが……色々と大変なことになりました。
撃破数はラヴィアンローズの全ワールドを含めて過去最多の4721人!
見事に世界記録を更新してしまったのは、先月の大会でも活躍した中学生の女の子――【鉄血の翼】所属のリン選手です!」
「「「「「おめでとう~!!」」」」」
スタジアムのような大歓声は浴びなかったが、メンバーたちから惜しみない拍手が送られる。
今回の大会で、リンはついに世界最高の記録保持者になってしまった。
「リン選手が例のカードを放ったことは、『ファイターズ・サバイバル』でも記憶に新しいのですが……」
「12試合の間にリン選手が放った【全世界終末戦争】の回数は、なんと98回!
これも間違いなく最高記録、同じプロジェクトカードを使い続けた回数としてもダントツなのだ。
もちろん普通に撃っただけじゃ、こんな数字にはならないはず。
素晴らしい工夫やカードの組み合わせに、運営側の偉い人も『そうきたか~』と感心するほどだったのだ」
「偉い人まで関心しちゃったんですか!
まだまだ成長中のリン選手ですからね、今後も躍進して頂きたいところです」
「リン選手には追加で30万ポイントと金のトロフィー。
あとはこれまで2回あった『デュエル・ウォーズ』と同じように、優勝者には戦いぶりを反映するような称号とアイテムをあげるんだけど……
まずは称号! リン選手に授与されるのは唯一無二の『終末剣』!」
「エンド……ブリンガー?」
あまりのことに呆然となったリンは、その言葉を復唱してみる。
【全世界終末戦争】と、その圧倒的な火力を生み出した【ストーム・ブリンガー】を組み合わせた称号だ。
実際のところ、開幕直後からリンが最終兵器を使うには、いきなり4000も攻撃力を上げる魔剣の存在が不可欠。
界隈では人気がなかったポイント交換カードが、ついにリンの代名詞となった瞬間である。
「めちゃくちゃかっこいいのですーーーー!!」
「良かったじゃないか、リン! うらやましすぎるぞ!」
「これで『大物殺し』を返上できますね」
「え……えええぇ……」
メンバーたちが興奮する中、当の本人は困惑するばかり。
★4の所有者である『マスター』に続き、非常に名誉のある称号を授けられた。
さらに画面の向こうでは、驚愕の発表が続いている。
オルブライトがそうであったように、優勝者には豪華な賞品が与えられるのだ。




