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第17話 選ばれし者たち その3

「ウチのギルドには優秀なプレイヤーが集まっているけれど、たった6人しかいない小規模な場所なの。

 だから、私はあなたが欲しい。もちろん、この賭けを受けるかどうかは任意だけれど」


「【鉄血の翼】ですか、名は存じております。

 今、日本ワールドで特に勢いのあるギルドのひとつ。

 先月の大会でスタジアム入りを果たした12名のうち、3名が【鉄血の翼】に所属。

 そして、それぞれが運命に選ばれた『マスター』」


「ずいぶんと詳しいわね」


「これだけ稀有な条件がそろえば、無名でいるほうが難しいと思いますよ」


 セレスティナの言葉に、クラウディアは『まったくだ』と心中で苦笑する。

 元はミッドガルドを探索するための集まりだったが、今や新進気鋭のギルドとして注目を浴びまくり、雑誌にも載るほどの有名人だ。


「頼んでもいないのに、派手な広告塔になってくれるメンバーが2人ほどいるのよ。

 今回のイベントでも、かなり暴れまわっているみたい。

 さっきのコンボを見る限り、あなたも相当稼いでいるようだけど」


 アンデッド付与からの強制浄化という、回避が難しいコンボ。

 それを周囲100mに対して行い続ければ、サクヤに匹敵するほどの戦果を上げられるだろう。

 このセレスティナというメイドも、個性的かつ優秀なプレイヤーであることは間違いない。


「さて、時間制限があることだし、準備させてもらうわね。

 私からも見せてあげるわ――ユニット召喚、【ダイダロス】!」


 わずか数分の間に、2回目の★4ユニット召喚演出。

 先ほどのブラッドムーンとは違う形で周囲を赤く染め、高らかに鳴り響く出撃サイレン。

 樹木が茂る森ですらお構いなしに突き破って、地下から巨大な格納庫が現れた。

 やがて、ビルのようなサイズの扉が機械音と共に開き、先ほど契約者の手札に戻ったユニットが歩み出てくる。


 ゴリラを思わせる4足歩行の機動要塞。

 腕組みしながら不敵に笑う少女と、その背後で再び出撃した【要塞(ギガンティック)巨兵(・フォートレス)ダイダロス】。

 日本ワールドに名を轟かせる『(はがね)のクラウディア』が、意趣返しとばかりに圧倒的な存在感を見せつけた。


「プロジェクトカード、【多層防御戦術】」


Cards―――――――――――――

【 多層防御戦術 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:3ターンの間、フィールド上にいるユニット全てに防御+500。

――――――――――――――――――


 そして、すぐさまプロジェクトを発動。

 シンプルだが3ターンも持続し、あらゆるユニットの防御力を引き上げる。

 対戦相手や野生モンスターにも効いてしまうが、自分から攻撃しない【ダイダロス】なら無視できるデメリットだ。


「じゃ、始めましょうか」


 自信とカリスマ性に満ちた軍服少女の姿を、セレスティナは正面から見据えていた。

 【ピースフル・フィールド】が使用されてから、まもなく60秒。

 封じられていた攻撃が可能になるため、ここからが本番なのだが――


「失礼ですが……私は先ほど、カードの効果で周囲にいた12名のプレイヤーを倒しました。

 その報酬として使用済みのカードを全て復活させます。

 プロジェクトカード、【増殖するゾンビ・ウイルス】!」


 【ヴラド・ドラクル】を介し、またしても撒き散らされたアンデッド化ウイルス。

 数分前とまったく同じ展開が繰り返され、セレスティナは必殺の一撃を放つべく身構える。


「提示された賭けの条件、お受けましょう。

 ですが、誰も倒していないあなたは使用済みのカードを戻せないはず。

 ユニットを安全に回収する手段など、それほど多くはありません。

 準備はよろしいですか? 【最上位神域鎮魂歌ファイナル・レクイエム】!」


 決着を付けるべく、再び強制浄化コンボを発動させるメイド。

 しかし――その目に映ったのは、カウンターを使うこともなく立っているだけのクラウディア。


 これが決まってしまえば負けるというのに、何かがおかしい。

 カードの使用を躊躇させるための虚勢(ブラフ)かもしれないが、あまりにも落ち着きすぎている。


 結果的に【最上位神域鎮魂歌ファイナル・レクイエム】は正常に発動し、1秒、2秒と少しずつ時計の針が進み始めた。

 だが、来るべき瞬間がこない。

 普通であれば【ダイダロス】が消え去って勝利を掴んでいるはずなのに、その瞬間が一向に訪れない。


「ど、どうして……なぜ、プロジェクトが効いていないのですか!」


「ふふふ、2回目だからよ。

 初見では驚いたけれど、見慣れてしまえば回避するのは簡単なこと」


「回避? あなたはユニットを出して、防御を高めただけです。

 それを見た上で私は動いたのに、いったい、どのタイミングで回避など……」


「さぁて、この謎があなたに解けるかしら? 推理力に自信はある?」


「………………」


 ぞわぞわと湧き上がる焦りを抑え、セレスティナは改めて状況を見直す。

 【ヴラド・ドラクル】に何かをされた様子はないし、カードを使用したときにカウンターは飛んでこなかった。

 効果が持続している【多層防御戦術】も、ただ防御力を上げているだけ。

 となれば、疑うべき場所はひとつしかない。


「なっ!? 【ダイダロス】が……アンデッド化していない!?」


 こんなに巨大で威圧感のある要塞ユニットを見落とすはずはない。

 間違いなく【ダイダロス】はそこにそびえ立っているし、アンデッド化のカードは正常に発動した。


 だが、この超大型ユニットが持っているのは【タイプ:機械】のみ。

 これでは浄化が空振りするのも当然だ。


「ありえません! アンデッド化を防ぐようなカードは、一切使っていなかったはずです!」


「そうね、使わなかったわ」


「では、いったいどうやって回避を……」


「ふ……ふふふふふ、あははははははっ!

 あなた、センスと度胸はかなりのものだけど、少し正直すぎるみたいね。

 常識に囚われていたら、このトリックを見破ることはできないわよ」


 そう言いながら、クラウディアは1枚のカードを取り出して見せた。

 彼女の手札にあったもの。

 それは間違いなく、★4スーパーレアのユニットカード。


「に……2枚目の【ダイダロス】が手札に!?」


「残念ながら、★4を2枚も持っているプレイヤーは地球上に10人もいないし、私はそれに含まれない。

 それじゃ、答え合わせね。どこであなたのカードを回避したのか教えてあげる」


 不敵に笑うクラウディアの背後で、巨大な機動要塞がバラバラになって崩れていく。

 敗北したときの粒子化とは違い、そこに立っていた”張りぼて”が壊れるような演出だ。


 それこそが種明かしの答え。

 まったく予想していなかった展開に、メイドは両目を見開いて絶句する。


「最初からよ――私はこの場に、【ダイダロス】を召喚していなかったの」

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