第15話 選ばれし者たち その1
「いけぇええええーーーーーっ!!」
同時刻、夜の森林エリア。
運営が用意した地形の中でも極めて視界が悪く、移動や戦闘に影響を及ぼす難所である。
奇襲には適しているのだが、そんな暗い森の中で真正面から突っ込んでいくユニットが1体。
全身にプレートメイルを着込んだ騎士が、武装した軍馬に乗って駆けていく。
十分にスピードを乗せた突撃は、騎士が持つ馬上槍の攻撃力を高めた。
が、しかし――
「【パワーシールド】」
Cards―――――――――――――
【 パワーシールド 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、目標のユニット1体がバトルで受けるダメージを1000軽減する。
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その鋭い槍も、相手が鋼鉄では傷ひとつ付けられない。コォオオオンと甲高い音を立てながら、火花と共に騎士の槍が弾き返される。
無謀にも騎士が突撃していったのは、巨大な金属の柱。
否、その柱ですら4足歩行で突き進む機動要塞の足でしかなかった。
「逃げずに向かってきたことは褒めてあげるわ。
でも、これで終わりね。衝撃反射神器装甲!」
「うわぁあああああーーーーーっ!!」
森に響く断末魔。機動要塞が輝き、騎士を使役していたプレイヤーを衝撃波で吹き飛ばす。
主人の後に続くかのように、粒子化して消えていく軍馬と騎士。
対する要塞の使役者は無傷のまま。
多数のユニットが入り乱れるイベントにおいても、彼女はまったくダメージを受けていなかった。
「ふぅ……ひとりずつ倒していると、時間が掛かってしまうわね。
やっぱり、私には向いていないイベントだわ」
そう言いながら、『鋼』の二つ名を冠するクラウディアは、森の木々よりも高くそびえ立つ相棒を見上げる。
ラヴィアンローズの世界において、最も高い防御力を備えた★4スーパーレア。
全高20mに達し、宵闇の中でパーツを輝かせている【ダイダロス】は、この視界の悪いエリアで非常に目立つ。
Cards―――――――――――――
【 要塞巨兵ダイダロス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:機械
攻撃800/防御3400/敏捷20
効果:ガードしたときのみ発動。このユニットの防御が相手ユニットの攻撃を上回っていた場合、差の数値をダメージに変換して相手プレイヤーに与える。
スタックバースト【惑星破壊砲】:瞬間:このユニットの攻撃に防御ステータスを加算する。
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生野菜でも砕くかのごとく、森の樹木ですら簡単になぎ倒してしまう超大型ユニット。
半端な攻撃力で挑んだが最後、先ほどのプレイヤーのように反射ダメージで消し飛ばされてしまう。
森の中で輝く巨大要塞は、周囲の者たちからもよく見える。
どう考えても強敵でしかない【ダイダロス】を視認したプレイヤーが取る行動は3つ。
無謀にも向かってくるか、敵わないと判断して逃げ出すか、ある程度の距離を保ちつつ様子見をするか。
「【動物】ユニット3体、おそらくは【人間】が2体、あそこにいるのは……【水棲】かしら?」
体温感知機能付きの双眼鏡を手にしたクラウディアには、夜の森林であろうと問題はない。
機械越しに映し出されるシルエットから、おおよそのタイプを特定して把握。それが向かってくるのかどうかを見極めながら待ち構えるだけでよい。
双眼鏡は高い性能を誇り、特殊な迷彩服で身を隠しているプレイヤーですら見抜くことができる。
今のところ、様子見をしているであろうプレイヤーが周囲に数名ほど潜伏中。
関わらないほうが良いと判断したのか、ユニットと共に去っていく賢明な者が1名。
そして――ユニットを連れていない状態で、まっすぐこちらに向かって歩いてくる者が1名。
「…………?」
クラウディアは警戒を強めながら、その人物を幾度も見返した。
宵闇の中ですら見通すことができる双眼鏡だが、何らかの効果で認識を阻害しているユニットは感知不可。
ラヴィアンローズにおいて『カードの効果』は非常に強く、プレイヤーが持つアイテムでは太刀打ちできない。
例を上げると迷彩服はアイテム同士なので見抜けるが、カードの効果である【スニーキング】は看破できないのだ。
やがて、クラウディア自身の目でも視認できる距離まで歩み寄ってきたのは、1人の少女であった。
顔立ちは整い、腰まで伸びたロングヘアも丁寧に手入れされている。
男性であれば目で追ってしまうような美少女なのだが、彼女が着ているのは白と黒を基調にしたメイド服。
ここはプレイヤー同士が潰しあう戦場だ。
夜の森林地帯を、ひとりのメイドがユニットも連れずに歩いているのは、さすがに不自然すぎる。
「こんばんは、いい夜ですね」
「ええ、そうね。森の散歩には、うってつけだわ――ここが戦場じゃなければ」
【ダイダロス】が放つ機械的な光を背に受けているため、相手から見ればクラウディアの姿は逆光で覆われている。
そんな状態で軍服姿の少女が立っているというのに、まったく畏怖することもなく、スカートを両手で持ち上げて一礼するメイド。
クラウディアは彼女を囮にして奇襲を仕掛けてくる者がいないか警戒したが、今はメイドの姿しか認識できない。
彼女は巨大な要塞ユニットを見上げた後、落ち着いた口調で挨拶を続ける。
若年の少女らしく、小鳥がさえずるような可愛らしい声だ。
「『鋼のクラウディア』さま、ですね?
私はセレスティナと申します」
「ご丁寧に、どうも。クラウディアよ。
二つ名や称号は持っていないのかしら?」
「あいにく、実績がないものでして……そもそも、それほど名のあるプレイヤーなら、すでにご存知なのでは?」
「たしかにね……それで、わざわざ挨拶に来たわけじゃないでしょう?」
「はい。実はですね、今回初めてイベントに参加したのですが、とても順調でして。
名のあるプレイヤーの方とも、こうしてお会いできたので、対戦をお願いできないかと」
「対戦って……あなたは初心者じゃなさそうだけど、少し礼儀を弁えすぎじゃないかしら?
背後からいきなり襲いかかっても、文句を言われないイベントなのよ」
「存じております。ここは戦場ですからね。
ただ、今回は特別に敬意を払いたかったのです。
私にとっては初めて――この世界に選ばれた者、『マスター』同士のご挨拶ですので」
「!?」
その一言でクラウディアは納得した。
常識の範疇を超えるほど、卓越した幸運の持ち主だけが所有する★4スーパーレア。
奇跡的な1枚を持つ者同士の接触は、とても特別な瞬間なのだ。
クラウディア自身、リンと接触するときには同じように出向いて挨拶をした。
ユニットを連れていないのも、『マスター』の目でしっかりと見て欲しいからだろう。召喚演出も含めて、何もかも。
「そう……分かるわ……あなたの気持ちは、とてもよく分かる。
最近、また日本ワールドで★4を引き当てた人が現れたと聞いているけれど」
「よく調べておられますね。おそらく私のことです。
みなさんの仲間入りをしたばかりなので恐縮ですが」
「いいわよ、見せてもらうわ。あなたのすべてを」
メイドは静かに一礼すると、少し下がって距離を保つように対峙する。
★4を持つ者にしか分からない高揚感。特別な2人が出会ったのだという喜び。
【ダイダロス】を従えて腕組みしながら、クラウディアはしっかりと相手を見つめる。
「それでは、失礼いたします――ユニット召喚」




