第11話 みんなで戦果報告
「おっつかれさま~!」
初日の3回戦が終わった後、リンは満面の笑顔でいつものコテージにやってきた。
他のメンバーも次々と集まり、テーブルを囲んで戦果報告が始まる。
「あたしはねー、めっちゃ頑張った! 3試合で1328人も倒したよ!」
「「「「「1328人!?」」」」」
異様な数字を聞かされ、メンバーたちの顔が驚愕に染まる。
リンは楽しげにデッキ構成と戦略を語ったが、経験者たちは頭を抱えるばかりであった。
「なるほど、完全にバトルを捨てて特化したのね。
デュエル・ウォーズで【全世界終末戦争】を使った人は他にもいるけど、普通はそこまでいかないのよ」
「バトル以外のダメージを受けないとか、そもそもプロジェクトが効かないユニットもいますからね。
そういう相手は、どうしていたんですか?」
「みんな【アルテミス】がレールガンで撃ってくれたから大丈夫」
「「「「「ああぁ~~~……」」」」」
状況を察して納得する一同。
リンも気付いていない副次効果なのだが、複数のリンクカードを重ねると、他のプレイヤーから見た【アルテミス】は情報量が多すぎて正確に認識できない。
よって、知らずにカウンターを使うという事故が多発する。
このイベントで月の女神は5桁に及ぶダメージの出力源と、対カウンターカード用の砲台と、絶対回避の盾を兼任していた。
リンクカードを何枚でも装備できるという特性は、使い方次第でバランスブレイカーになりかねないのだ。
「火力を確保しつつ、レールガンを持たせて、さらに自分だけは最終兵器の効果を受けない。
単独でそんなことができるユニットは……そうね、【アルテミス】くらいだわ」
「まさにリン殿ご自身が、ボスモンスターみたいなギミックの塊なのです」
「二つ名が『千人殺し』とか『殺戮者』になるのも、時間の問題だな」
「ええ~っ? これ以上、物騒な二つ名は困るよ!
あたしはただ、ポイントが欲しいだけなのに」
「そないに稼いで、何か欲しいものでもあるん?」
「うん……ウチのルームって、海はきれいだけど全部ただの水たまりだから。
今回の報酬できれいなサンゴ礁とかお魚を買って、好きなときにスキューバできたらいいなって」
「そんな理由で1000人以上も吹き飛ばしたのかよ……」
「ま、まあ……ポイントはいくらあっても足りないですし、ルームを自分好みにするのも、今後のモチベーションになりますから」
動機はともかく、ギルドどころかワールド全域でもリンの撃破数はぶっちぎりである。
【鉄血の翼】の中で次点に続いたのは、やはり制圧力の高いサクヤであった。
「今回は完全に抜かされてもうたわ~。うちは837人や」
「いやいやいや、十分におかしいって! 普通は3桁すらいかないんだぞ!」
「【全世界終末戦争】と【九尾の狐】。
やっぱり、広範囲に影響するカードがあると違いますね」
「わたしも広範囲だったのですが、いまいち上手くいかなかったのです。
グリフォンを出して飛行ユニット以外を全部弱体化させた結果、そこにいた全員から狙われて……」
「あ~、そっか。そんなことをしたら目立っちゃうよね」
「うぐぐ……迷彩服をキメておきながら、目立って狙われるという大失態!
結局、【オボロカヅチ】で飛行と水棲を倒していく作戦にシフトしたであります」
「それが一番無難だし、やりやすいと思うぞ。
俺も同じように、自分が有利になる昆虫や植物を選んで戦ってたからな」
ユウとソニアは、それぞれ特定のタイプに対して有利になるユニットの使い手。
狙われないようにこっそりと移動し、戦いやすい相手に挑むのが効率的だとソニアは学んだ。
「クラウディアはどうだった? 使ってたのは【ダイダロス】だよね?
【愚かなる突撃命令】で、周りの人をいっぺんに引き寄せたら強いと思うんだけど」
Cards―――――――――――――
【 愚かなる突撃命令 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:次の自プレイヤーのターン開始時まで、全てのユニットは必ずアタック宣言しなければならない。
ユニットが複数いる場合、レアリティの低いものから順に攻撃する。
――――――――――――――――――
「たしかに、あれを使えば範囲内にいる全てのユニットが私に向かってくるわ。
でも、1体ずつバトルしなければいけないから時間が掛かるし、ユニットの効果を消す【ポイズンヒドロ】みたいな相手がいると強く出られないのよ」
「ああ~、どうしてもバトルになるから、考えることが多いのかぁ」
「普通はバトルするんだよ!」
「あはは……戦場で直接ぶつかりあうのも、それはそれでイベントの醍醐味ですからね」
「で、ステラはどないやったん? ここに来たときから、えらいうれしそうやないか」
「そ、そうですか?」
皆で語りあう中、最後まで戦果を伏せていたステラ。
楽しそうにしていたのは確かだが、彼女は普段から笑顔でいることが多いので、その変化に気付いた者は少なかった。
付き合いの長いサクヤは見抜いたらしく、促されたステラは控えめながらもハッキリとした口調で語る。
「えっと……撃破数はそれほどでもないんですけど、【エルダーズ】のリーダー。
アリサさんと偶然同じエリアだったので、戦いを挑んで勝ちました」
「「「「「おおおおお~~~~~っ!!」」」」」
「あのアリサに勝ったんだ!」
「マジかよ、大金星じゃないか!」
「お姉さまですら太刀打ちできなかった邪竜の使い手を屠るとは!
ひそかに弔い合戦の機会をうかがっていたのですが、先を越されてしまいましたな」
「まだ生きてるから、弔わないでちょうだい。
それにしても……おめでとう、と言うのは野暮ったいかしら。
次にステラと戦うことになったら、どうなるのか分からないわね」
ステラの報告は、ギルド内のパワーバランスを大きく揺さぶった。
特に中心となっているJC3人組は、仲こそ良好だがライバル同士。まさに三つ巴である。
どこで誰と戦ってもおかしくない状況は、成長期の彼女たちに更なる影響を与えるだろう。
「戦果としては、そんなところです。有名な人を倒しても、ポイントは変わりませんからね」
「みんな順調で何よりだわ。この調子で引き続き頑張りましょう。
開催中はデッキの組み換えが不可だし、リンとサクヤの戦略がバレたとしても、今回はメタを張られないはずよ」
「メタとは何です?」
「TCG用語で『メタゲーム』っちゅう駆け引きやな。
たとえば最初に世界チャンピオンが決まったとき、騎士デッキがめっちゃ流行ったんやけど。
そのデッキに勝つために、みんなどうしたと思う?」
「えっと、騎士デッキは人間タイプだから、有利になるようなカードでデッキを組んで……
ああ~、なるほど! そういうのをメタっていうんだね」
「対策を講じることの総称だな。
ミッドガルドの野生モンスターにも多い【動物】とか【水棲】は、集めやすくてデッキも組みやすい。
その代わり、対抗手段になるようなカードも多くてメタを張られやすいんだ」
「ふむふむ、つまり【オボロカヅチ】は飛行と水棲に対するメタというわけですな」
カードゲームでは常に何らかのカードが流行っている『環境』と、それに対する『メタ』が株式市場のように流動する。
レアが手に入りにくいラヴィアンローズにおいても、それは常識のひとつであった。
「デッキを組むときのタイプ選びは、とても重要ですよ。
リンとソニアちゃんは、そろそろタイプについて詳しく知ったほうがいい時期ですね」
「タイプかぁ……実際、このゲームって何種類のタイプがあるんだろ?」
「ちょっと待っててください。クラウディア、壁を借りてもいいですか?」
「ええ、戦果報告が終わったところだし、残りの時間で勉強会を開きましょうか」
そうしてステラは壁の近くに立ち、そこに真っ白なスクリーンを貼り付ける。
コンソールの画面を投射しているらしく、彼女が手元で文字を打ち込むと、リアルタイムでスクリーンに反映された。
ステラが書き込んでいったのは、ラヴィアンローズに実装されているタイプの数々。
かくして戦果報告に続き、ユニットについての勉強会が始まる。




