第21話 深き森の魔女 その6
【 リン 】 ライフ:100
ブリード・ワイバーン《成長2回/バースト2回》
攻撃4800/防御4800(+500)
装備:バイオニック・アーマー
【 ステラ 】 ライフ:1800
ダークネス・ゲンガー《成長2回》
攻撃1200(+2800)/防御1200(+1000)
装備:魔導書『ネクロノミコン』
土星猫《ダークネス・ゲンガーと融合中》
攻撃1000/防御1000
ステラの猛攻をしのぎ、リンの攻撃も有効打にならず、睨みあいが続く中で一時中断。
どうやらステラはプレイングミスをしていたようだが、経験の浅いリンには何がダメだったのか検討もつかない。
「ねえ、兄貴。
ステラはああ言ってるけど、何か心当たりはある?」
「う~ん、そうだな。
これは俺の勝負じゃないから直接答えを言うのは控えるが……
もしも、ステラのミスがなければ、お前はこのターンで負けていたはずだ」
「そういうことなら、今すぐにでも負けそうなんですけど?
残りライフ100なんですけど!」
「今はフィールドで防御力5300のユニットが壁になってくれてるだろ?
まあ、実はそれがヒントなんだが。
このターン、お前のワイバーンを倒せるカードがあったんだよ。
そして、それはもう過去形だ」
「ん……?
そんな手段があった……過去形で……?」
リンはステラの行動を最初から思い返してみた。
ワイバーンと宇宙ネコを合体させて、強力なアタッカーを確保。
さらに貫通ダメージの上乗せ効果を持つ小悪魔を召喚し、ライフを操作することで威力を最大限に高める。
どれを取っても見事な作戦だったはずだが――
「あ、分かったかも!
このターンに【同族殺しの大罪】があると、あたしにはどうにもならない。
そういうことでしょ?」
「正解です。
あのときに使わず、ここまで温存していればチェックメイトでした」
前のターン、リンのワイバーンは完全体ではなく、防御力2400。
攻撃力3400に達した宇宙ワイバーンなら、【同族殺しの大罪】がなくても余裕で倒せたはずだ。
とはいえ、リンがワイバーンでガードすると貫通ダメージが大幅に減る。
よって一撃必殺の圏内から外れ、1ターンで仕留めることができなくなる。
だから【同族殺しの大罪】を使って圧力をかけ、【ガラクタコロガシ】でガードするように誘導したのだ。
しかし、その作戦が失敗してしまうと三頭ワイバーンが成長し、リンの陣営に防御5300の壁が完成する。
そうなった場合の『プランB』を、ステラは用意していなかった。
「リンが私の攻撃を耐えたのは、完全に予想外でした。
相手の手札を警戒する。
それはカードゲームをプレイする上で、常に気をつけるべきこと。
本当は、そうしなければいけなかったんですが……」
「でも、気持ちは分かるぞ。
ステラちゃんは、リンに勝ちたかったんじゃない。
ライフ4000のリンを一撃で仕留めたかったんだよな」
「そのとおりです……焦らなくても勝てたはずなのに。
一撃で倒すことを優先してしまって、次のターンに温存するという考えを欠いていました」
リンが何らかの手段で生き延びることを予測していれば、ステラは勝っていた。
兄が言っていた『一瞬のミスが後で大きく響く』という言葉は、本当にそのとおりだったのだ。
ハッと気付かされたリンは、慌ててステラをフォローする。
「えっと……こう言ったら失礼かもしれないけど。
すごく勉強になるよ!
たった1枚のカードを使ったかどうかで、ここまで変わるなんてさ。
言われたって分からない。実際に見てみなくちゃ分からないことだもん」
「そうですか……
こうしてミスを打ち明けたのは、経験が浅いリンに知ってほしかったからです。
私自身に対しても、普段はしないミスをした戒めということで」
「普段はしないのに、どうして今日はやっちゃったの?」
「それは……えっと、その……!
知ってる人と戦うのは初めてで……うれしくなって、つい……」
言いながら恥ずかしくなったのか、ステラは三角帽子のつばで顔を隠す。
その反応にきょとんとしていたリンだったが、やがて胸の中にうれしさが湧き上がる。
ステラは――寺田すみれは、いつもどおりだった。
この仮想空間で人が変わってしまったのではないかと思うこともあったが、ただ楽しんでいただけなのだ。
失敗もすれば、恥ずかしがったりもする。
姿こそ森の魔女だが、間違いなくリンが知っているクラスメイトの少女であった。
「あたしもうれしいよ。
兄貴の言葉を借りるけど、この広いラヴィアンローズの中で奇跡的に会えたんだもんね。
ステラに比べたら、あたしなんて初心者そのものだと思う。
だから、教えて! この世界とカードゲームのこと!」
「……はいっ」
帽子の下から顔を見せたステラは、いつも教室で会う彼女と同じように笑っていた。
これまでも会話したり、一緒に昼食を食べたりしてきたが、もっと仲良くなれるかもしれない。
兄とステラからは、学ぶべきことがたくさんあるのだから。
「えっと……それで、今はそっちのターンだけど」
「あ、はい。私は終了です」
「それじゃあ、あたしのターン。ドロー!
そして、手札からユニットを召喚っ!」
Cards―――――――――――――
【 トロピカルバード 】
クラス:コモン★ タイプ:飛行
攻撃300/防御100
効果:このユニットは【タイプ:人間】からのダメージを受けない。
後攻効果:召喚されたとき、自プレイヤーのデッキの中から★1のユニットを1枚手札に加える。
スタックバースト【ブレイクスルー】:永続:このユニットのアタックは【タイプ:人間】でガードできない。
――――――――――――――――――
「クェーーーーーッ!」
「え……?」
「は……?」
いきなり現れた南国の鳥に、ステラと兄は困惑した。
【ダークネス・ゲンガー】のタイプは竜になっているため、【タイプ:人間】に対する効果は通用しない。
また、リンは先攻なので後攻効果も発動しない。
つまり、この終盤に何の効果もない★1コモンを召喚したのだ。
2体の巨大なワイバーンが争っている中、場違いなほど小さな鳥がパタパタと飛んでいる。
「これで決着を付けるよ、ステラ!
【ブリード・ワイバーン】、今度こそ全力で攻撃宣言!」
先ほどと同じく、パーツを発光させながら口内で熱エネルギーを収縮させる三頭ワイバーン。
今度は邪魔をする小悪魔もいない。
直撃すれば宇宙ワイバーンを撃破できるはず――なのだが。
「【ダークネス・ゲンガー】でガード!
手札からカードを発動! 【カウンターリフレクション】!」
Cards―――――――――――――
【 カウンターリフレクション 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:相手プレイヤーが使用を宣言、または破棄したカウンターカードを指定し、対象と同じ効果のカードとして発動する。
――――――――――――――――――
「★3レアのカウンターカード!?
って、またデッキがコピーされてるし!」
「この戦いでカウンターカードが使われたのは1回だけ。
コピーするのは、リンの【タクティカル・ディフェンス】です!」
「えええーーーーっ!?」
ステラが宣言すると、宇宙ワイバーンはバサッと両翼で身を包み、完全な防御態勢に入った。
攻撃の増減効果を防御へと変換する【タクティカル・ディフェンス】によって、その体はメキメキと硬質化する。
【ブリード・ワイバーン】の成長はカードに元々書かれている『基礎ステータス』が増加していくため、これは影響を受けない。
よって、防御ステータスに反映されるのは【魔導書『ネクロノミコン』】による強化。
さらに【土星猫】との融合で上昇したステータス、こちらは元から防御も上がっている。
その結果――最終的に叩き出された防御力は5000。
「そっちだって十分固いよぉ!」
「リン! 今だ、キャストオフ!」
「は……?」
「横にユニットを出したってことは、あれを持ってるんだろ?
いいから、使うときはキャストオフって言ぇええっ!」
「なに熱くなって叫んでんの、バカ兄貴!
まあ、持ってるけどね。
これが最後の手札――カウンターカード、【極秘輸送任務】!!」
Cards―――――――――――――
【 極秘輸送任務 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:自プレイヤーが装備しているリンクカード1枚を、他の自プレイヤー所有ユニットに移し替える。
――――――――――――――――――
とっておきの1枚に、ステラは驚愕しながら全てを察した。
なぜ【トロピカルバード】を召喚したのか。その理由を知ったときには、もう遅い。
「他のユニットにリンクカードを移し替える……
まさか、そのために小型のユニットを!?」
「そう、そのために呼んだ鳥なの。
移す装備品はもちろん、ワイバーンの鎧だよっ!」
この瞬間、運命の天秤はリンのほうへと傾いた。
最後の最後まで手札に眠っていたカウンターカード、【極秘輸送任務】を高らかに掲げて宣言する。
「【バイオニック・アーマー】、キャストオフ!!」
そう叫んだ直後、三頭ワイバーンの体を包んでいた装甲がバラバラに弾け飛んでパージされ、特殊効果を発動させた。
【バイオニック・アーマー】はユニットから取り外されたとき、1ターンだけ攻撃力を500高める。
装甲の下から現れたワイバーンは6つの目を黄金色に輝かせ、バチバチと電流のようなものを身にまとっていた。
この竜による破壊の一撃は、もはや誰にも止められない。
「これが、あたしのぉおおお!
ファイナルアタックだぁああああああーーーっ!!」
そして3つの口から放たれた最大火力の真っ赤なレーザー。
光線に電流が加わったことで攻撃力5300に達し、あらゆるものを焼き払いながらステラのフィールドを直撃。
「キシャァアアアアアーーーー……!!」
防御態勢を取っていた宇宙ワイバーンは、壮絶なエネルギーの奔流に翼を押し広げられ、叫び声を上げながら光の中に消えていく。
それでも足りないとばかりに、三頭ワイバーンは敵の陣地を完全に焼き尽くした。
ただ唯一、対戦者であるステラだけを残して。
『ステラ、残りライフ1200』
【土星猫】を融合させていたデメリットにより、ステラへの貫通ダメージは2倍。
300が600に増えた程度だが、それ以上に宇宙ワイバーンを仕留めたことのほうが大きい。
「よぉ~し、やったぁ!」
「くっ……はぁあ……本当に想像以上です。
こんな手段が残っていたなんて。
私もまだまだ勉強不足ですね……」
ステラの手札は尽き、フィールドにはユニットもない。
全てのカードを注いでもリンを仕留められず、攻撃を防ぐことさえできなかった。
あのとき【同族殺しの大罪】さえ使わなければ、こうはならなかったはずだ。
しかし、苦境に立たされたステラは三角帽子の位置を直し、この世界に来てくれた好敵手を歓迎する。
今は自身のミスよりも、相手の健闘を認めるべきだと察したのだ。
「え~と……勢いでファイナルアタックとか言っちゃったけど、倒しきれてないよね。
じゃあ、【トロピカルバード】で――って!
なんかすごい姿になってる!?」
ワイバーンから装甲を受け継いだ南国の鳥は、全身がメカになっていた。
カラフルな羽根も機械化され、翼を広げたまま戦闘機のようにホバリングしている。
「QUEEEEEEEE」
「鳴き声まで機械になっちゃった……
よ、よ~し! このメカバードで攻撃……」
「リン、待ってください」
相手側のフィールドで、ただ1人静かに。
生き残って立つステラは、持っていた杖を下ろしながら苦笑した。
「手札もないし、ユニットもいなくなりました。
そちらの軍勢に対して、この状態から立て直すのは無理です。
ふふっ……今回は私の負け。降参します」
『対戦相手が降参しました。
バトルモード終了――勝者、リン』
降参、それはラヴィアンローズにおけるルールのひとつ。
明らかな劣勢に追い込まれてしまった場合、負けを認めて対戦を終了させることができる。
そのルールを知らないリンが、状況を把握して勝利に喜んだのは数秒後のことだった。




