第4話 はじめての戦場 その1
交換交流会から数日後、ついに運営からイベントの詳細が発表された。
いつものコテージに集まった6人は、さっそく概要をチェックしながら作戦会議を始める。
Notice―――――――――――
【 デュエル・ウォーズ III 大会ルール 】
広大なバトルエリアで戦う多人数PVP。
プレイヤーであれば出場条件は無し。
限られた手札とユニットを駆使し、生き残りをかけて競いあう。
・日程
開催期間は3日間。1試合1時間とし、1日に3試合ずつ、全9試合を行う。
24ヶ所のエリアがあり、プレイヤーは1試合ごとにランダムで各エリアに配置される。
・デッキ
特殊なデッキを使用、持ち込めるカードの総数は20枚。
スタックバースト用のユニットカード以外、同種同名のカードは1枚まで。
イベント期間中のデッキ組み換えは不可。
試合開始時に任意の5枚を初期手札として所持し、相手プレイヤーを1人倒すたびにデッキから新たなカードを1枚ドローするか、使用済みになったカード1枚を復活させることができる。
スタックバーストを行う場合のみ、デッキから直接カードを引き出して使うことが可能。
・バトル
通常の決闘とは異なり、ユニットは1体までしかフィールドに召喚できない。
ユニットが破棄された時点で敗退。プレイヤーは通常どおり4000のライフポイントを持っており、これが尽きても敗退となる。
撃破報酬は1人につき100ポイント。敗退した場合でも次の試合には参加が可能。
ユニット同士のバトルになった場合、今大会より【敏捷】ステータスの高いほうが先に攻撃するが、不意打ちは可能。
1ターンは60秒に換算、カード効果が届く距離は100mまで。ユニットへの騎乗は全エリアにおいて不可。
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「3回目のデュエル・ウォーズだけど、前回とほとんど変わらないわ。
ユニットに【敏捷】が追加されたから、その点だけは注意ね」
「なんか、ずいぶん変わったルールだよね。
エリアっていう広い場所に集められて、そこにいる全員と戦う感じで合ってる?」
「合ってます。本当に戦場みたいな乱戦になるんですよ」
「へぇ~、行動の順番はどうなるの?」
「ないわ」
「……え? ないって、どういうこと?」
「順番の概念があったら、多人数戦が成立せえへんからなぁ。
10人くらいがゴチャゴチャ集まっとるときに、『今は誰のターン』とか把握しきれんやろ?」
「攻撃もプロジェクトも、基本的にはやったもん勝ちだ。
いつもと違ってリアルタイムな戦いができるから、かなり人気が高いイベントなんだぜ」
リーダーのクラウディアを中心に、経験者のメンバーたちが情報を出しあう。
去年始めたユウも第2回に参加したらしく、未経験者はリンとソニアのみ。
「ふむふむ……おおよそ把握したのですが、お姉さま!
これは、わたしたち向けのイベントなのでは!?」
「まあ……否定も肯定もしないわ」
「うぉおおおおおお~~~~~~~!!
契約せし相棒と共に戦場を駆け、数多の敵と火花を散らす!
こういう戦いがやりたかったのです! ありがとう運営、ありがとう世界!」
クラウディアとソニアは、軍服や兵器などを好んで使うミリタリー派。
興奮して椅子の上でポーズを取ったソニアは、すぐさま姉に命じられて座り直す。
「それにしても、出せるユニットは1体か……たくさんの人が何体も出してたら、ぎゅうぎゅうになっちゃうもんね。
はぁ~、プリンセスちゃんで強化したアロサウルスで戦いたかったなぁ」
「わたしは、さっそくグリフォンが役に立ちそうです。
相手が飛行で対抗してきた場合は、オボロカヅチに交代!」
「ああ~、いいな~! どっちも便利そう!」
ソニアが持つ【エアリアル・グリフォン】は飛行ユニット以外に強く、【オボロカヅチ】は飛行と水棲に対して特効が刺さる。
この2体だけでも、多人数戦では有利に立ち回れるはずだ。
「あたしは、そういう広範囲に強いユニットいないからなぁ。
持ち込めるデッキも、ほとんどハイランダーの20枚だし、けっこう制限がきついよね」
「カードを使いすぎると補給が追いつかなくなって詰むからな。
できるだけ温存したいんだが、そもそも補給を得るためには勝たなきゃいけない。
序盤の立ち回りがすごく難しいぞ」
「逆に補給が整うと、めっちゃおもろいんよ~。
カードが尽きて息切れしとる相手は、ええカモやしなぁ」
「うへぇ……そうならないように気をつけよう」
「私たちは6人だし、24ヶ所もエリアがあるから、同じ場所に配置される確率は低いわね。
試合中に会うことはなさそうだけど、それぞれ全力を尽くして頑張りましょう」
「「「「「おお~~~~~っ!!」」」」」
クラウディアが話をまとめたところで、イベント前のミーティングは終了。
【鉄血の翼】のメンバーたちは、熟考と計算を重ねたデッキを手に戦場へと挑んでいく。
そして、さらに数日後――幕開けとなるイベント初日がやってきたのだった。
■ ■ ■
「は~い! みなさん、こんにちは~!
私は各種イベントの進行を担当するヒューマノイドAI、ウェンズデーです!」
「あ、どうも。お久しぶりです」
『ファイターズ・サバイバル』の予選と同じように、各プレイヤーは個別の場所に飛ばされた。
ひたすら青くて何もないサイバー空間に転送されたリンは、いつもどおりハイテンションなイベント司会と再会する。
目の前にはデジタル時計が表示され、すでにカウントダウンが始まっていた。
「本日は『デュエル・ウォーズ III』の初日、これより第1試合を始めます。
まずは、初期の手札となる5枚を使って準備してください。
表示されているカウントがゼロになった瞬間、みなさんはどこかのエリアへ転送されて、即座に戦うことになります。
ここで準備したものは、転送先でも引き継ぎが可能です」
「ああ、エリアに入る前に準備しておくんですね。
ってことは、本当にいきなり戦場で大乱戦かぁ~……
まずはユニット召喚! 今回の主役は――【アルテミス】!」
Cards―――――――――――――
【 月機武神アルテミス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神
攻撃2600/防御2600/敏捷80
効果:リンクカードを何枚でも装備できる。
スタックバースト【超次元射撃】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。
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そこが何もないサイバー空間であろうと、月機の女神はリンの前へと降りてくる。
機械式のコンパウンドボウを手にした未来的なデザインの神族。リンが持つ最強にして最高の★4スーパーレアだ。
プログラムで決められた定型文ではあるが、高位の人型ユニットは人語を話すことができる。
「参りましょう、マスター」
「うん、よろしく! これから3日間、一緒に頑張ろうね!
それじゃあ、次はリンクカードを装備。【エクシード・ユニオン】!」
Cards―――――――――――――
【 エクシード・ユニオン 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:このカードを装備させるとき、使用者のデッキの中から★1ユニット1枚を選択して媒体にする。
媒体となるユニットの【基礎ステータス】を強化効果として付与。これには【敏捷】も含める。
さらにタイプとユニット効果を矛盾しない限り付与し、可能であればスタックバーストも発動できる。
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続いて発動させたのは、リンに無限の可能性を与えるカード。
先日の交流会で探してみたのだが、まだ十分に出回っていないらしく、残念ながら出品しているプレイヤーはいなかった。
「ウェンズデーさん、デッキの中から選ぶ効果の場合は、最初の手札に持ってなくてもいいですよね?」
「はい、『デッキの中から選択』と書いてありますので、残り15枚の中から引き出すことができます」
「よぉーし、1枚浮いた!
それじゃあ、媒体にするのは――【渓谷チンチラ】!」
Cards―――――――――――――
【 渓谷チンチラ 】
クラス:コモン★ タイプ:動物
攻撃200/防御200/敏捷100
効果:このユニットはプロジェクトカードの効果を受けない。
スタックバースト【緊急回避】:瞬間:このユニットが受けた攻撃を1回だけ無効化する。
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「タイプチェンジを認識、モード『ビースト』へと移行します」
【エクシード・ユニオン】の媒体として選択された★1ユニットが、【アルテミス】に能力と動物タイプを追加する。
オオカミを思わせる銀色の耳と尻尾が生え、サイバーな衣装は獣の毛皮に変化。
満月が良く似合いそうな、狩猟の女神ができあがった。
「まだまだ、ここからが本番だよ! リンクカード、【ストームブリンガー】!」
Cards―――――――――――――
【 破滅の剣『ストームブリンガー』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されたユニットに攻撃力+X。Xはユニットを所有するプレイヤーのライフに等しい。
攻撃宣言をした瞬間、このカードは破棄され、所持プレイヤーはXに等しいダメージを受ける。
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さらに世界をも滅ぼす暗黒の魔剣、それ自体が生きている【ストームブリンガー】を装備。
イベントのルールにより、リンは4000のライフを持っているため、チンチラと合わせて攻撃力が4200も増加。
攻撃宣言した瞬間にリンは負けてしまうが、6800という異様なステータスに跳ね上がる。
「認識完了。
マルチプル・リンクビット、展開します」
【アルテミス】に与えたリンクカードは、姿を変えるようなものでない限り、彼女の周囲に浮遊するビットに装着されるようだ。
この魔剣も例外ではなく、機械的なパーツとドッキングして宙に浮いていた。
「おお~、進化したみたいでかっこいいね!
さらに手札から4枚目! もっと装備させちゃうよ――【レールガン・タレット】!」
Cards―――――――――――――
【 自動迎撃式レールガン・タレット 】
クラス:レア★★★ リンクカード
このカードを装備したユニットは、攻撃宣言できなくなる。
カウンターカードを使用したプレイヤーに対し、このカードを装備したユニットに付与されている【攻撃力の強化値】と同数のダメージを与える。
効果が発動した場合、トリガーとなった相手のカウンターカードは破棄される。
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波乱がありながらも、どうにか成果を得た交換交流会。
リンはパックから引いた★3の【戦線補給契約】を手放し、代わりにこのリンクカードを手に入れていた。
トレード相手は優しそうな中年男性で、『こんな使いにくそうなカードを交換するなんて、本当にいいのかい?』と言っていたが、しかし――
リンのデッキは、この1枚で非常に恐ろしいことになってしまった。
「わあ~、いいね、いいね! これもかっこいいよ!
以上で準備は完了~!」
【自動迎撃式レールガン・タレット】は、4門の砲身を備えた超長距離射撃兵器。
電磁加速によって発射される弾丸はマッハ8に達し、ミサイル駆逐艦ですら一撃で貫通するという。
かなり大きな砲身がビットで宙に浮かされ、個々に自立して動く姿はロボットアニメさながらだ。
最新鋭の科学兵器や、伝説の魔剣、そして獣の毛皮を装備した女神【アルテミス】。
これだけ大量のリンクカードを扱えるユニットは、ラヴィアンローズの中でも彼女しかいないだろう。
準備を終えてしばらく待っていると、進行役のウェンズデーが語りかけてきた。
「まもなく、カウントダウンが終了します。準備はよろしいですか?」
「はーい、大丈夫です!」
「試合時間は1時間。敗退してしまっても、めげずに次の試合で頑張ってくださいね。
それでは、転送まで残り5秒……4、3、2、1、いってらっしゃいませ~!」
表示されているカウントにゼロが並び、リンと【アルテミス】は淡い光に包まれた。
その眩しさも、ほんの一瞬。
すぐに足の下で地面を感じるようになり、温かい風が吹き抜けていく。
目を開けると、そこは広大なサバンナエリア。
アフリカの動物はいないが、特徴的なアカシアやバオバブの木が生えている。
転送されたのはリンだけではなく、ユニットを連れた他の参加者たちも次々と姿を現していた。
「おお~! なんだか、サファリパークに来たみたい!
でも、これって遠足じゃないんだよね……」
「ん? そこにいるのはリンじゃないか?」
「おい、『大物殺し』がいるぞ!」
「な……なんだ、あのユニットは……」
有名人のリンは、あっという間に見つかって囲まれてしまった。
彼女以上に大型の砲身を4門も操る女神のほうがド派手で、やたらと目立ちまくるのも原因だ。
しかし、戦う準備はすでに完了している。
正確には――”戦わないための準備”だったのだが。
「先手必勝、これが最後の手札! プロジェクトカード、いっくよーーーっ!!」




