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第1話 ちょっとだけパックを買ってみました

「う~ん……どれがいいかな?」


 その日、ラヴィアンローズの世界にやってきたリンは、自動販売機の前で悩んでいた。

 自販機といっても飲み物を売っているわけではなく、ずらりと並んでいるのは5枚入りのカードパック。


 この世界には主に2種類のパックがある。

 今までに発売された全シリーズのカードが入った『統合(インテグレイト)パック』。

 最初期から新発売のカードまで全てミックスされているので、とりあえず迷ったらこれを買っておけば間違いない。


 それに加えて、シリーズごとに追加されてきた『新段(アディショナル)パック』も個別に買うことができる。

 最近発売された『リミテッド・ユニオン』も、かれこれ16段目となるシリーズだ。

 特定のカードを狙って引きたい場合は、こちらのほうが効率は良い。


「どのパックに何が入ってるのかなんて、全然把握してないからなぁ。

 やっぱり手堅く統合パックか……全然知らないパックに挑戦するべきか。

 ええ~い! 見ないで押しちゃえ!」


 そうしてリンは目をつぶり、適当にボタンを押して買うという暴挙に出た。

 いかにも子供らしい決定法だが、彼女が現役の中学2年生だということを忘れてはいけない。


 やがて、ブーンと音を立てながら出てきたのは、新段(アディショナル)パックの第8弾。

 『インヴェイダー・バーサス・(ディフェンス)フォース』というシリーズで、宇宙からの侵略者と地球防衛軍の戦いがテーマになっている。


「うわぁ……なんか、過激そうなの引いちゃった。気持ち悪いエイリアンとか、出てこないよね?」


 ラヴィアンローズのパックには、シリーズごとに魔術や機械、動物などのコンセプトがあるようだ。

 今回買ったのはSF映画さながらの地球防衛戦争。敵となる宇宙人や兵器、防衛軍側の勢力などがカード化されている。


「まずは1枚……お、おお~!? これは!」


Cards―――――――――――――

【 ウェポン・リロード 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:自プレイヤーのフィールド上にあるリンクカード1枚を手札に戻す。

――――――――――――――――――


 とてもシンプルな効果の★1プロジェクト。

 ユニットに装備できるカードは1枚のみで、付けてしまったら外せないため、こういったカードを使って回収することになる。

 そもそも装備させるユニットを間違えなければ、これらの保険がデッキに入ることもないのだが、リンには特殊な使い道があった。


「このカードを使えば【エクシード・ユニオン】を回収して、付け直すことができるよね。

 媒体にする★1を、コボルドちゃんからネレイスちゃんに変えるとか。

 んん~、我ながらいい作戦! もう少し買ってみよ~っと!」


 すぐさま同じパックを買い、パッケージを開封するリン。

 【エクシード・ユニオン】の効果を戦況に合わせて変えられるため、2枚くらいはデッキに入れておきたい。

 実際のところ、新しいデッキのユニットは充実してきているので、欲しいのはこういったプロジェクトやリンクカードだ。


 1パックあたり150ポイント。中学生でもジュース感覚で購入できる。

 ――が、複数のパックを開けるということは、好ましくないカードも出るということ。


「うえぇ……出ちゃった……」


Cards―――――――――――――

【 ユゴス星の菌類 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:植物

 攻撃1300/防御1300

 効果:自身が攻撃する代わりに【タイプ:人間】のユニット1体を操り、任意の目標に攻撃できる。

 対戦相手のフィールドにユニットがいない場合は、プレイヤーに対して直接攻撃させることが可能。

 スタックバースト【洗脳強化】:瞬間:ターン終了まで、上記効果で操ったユニットに攻撃力+800。

――――――――――――――――――


 背中にコウモリの翼を生やしたトンボの幼虫、いわゆるヤゴを思わせる醜悪な怪物。

 全身が濡れた海藻のようにドロドロで、眼球のない頭部には菌糸の根がびっしりと生えている。


 見た目以上に恐ろしいのが、カードに書かれている効果。

 人間ユニット1体を操り、相手のフィールド内で同士討ちをさせてしまう。

 まさしく外宇宙から飛来してきたインヴェイダーによる地球侵略。このシリーズのコンセプトに忠実な1枚といえる。


「いや、使わないって……強いのは分かるけど」


 見た目がグロテスクすぎて完全にステラ案件だ。この手のクリーチャーは大抵、あの魔女が何とかしてくれるはず。


 気を取り直して同じパックを買い続け、さほど散財せずに2枚目の【ウェポン・リロード】を確保する。

 と、この瞬間――リンの運勢が奇跡を引き起こしてしまった。


「うわああああ~~~っ!! ★3出た!

 やった~~~~…………けど…………あ、あれ?」


 パックからは滅多に出てこない★3レアカード。ポイント交換や野生モンスターを除くと、ようやく3枚目になる貴重品。

 プレイヤーの運命すら左右する1枚なのだが、その効果を読んだ彼女は次第に消沈していく。


Cards―――――――――――――

【 戦線補給契約(ウォリアーズ・ライン) 】

 クラス:レア★★★ プロジェクトカード

 効果:永続効果。自プレイヤーが所有する【タイプ:人間】のユニットが3体以上いる場合のみ効果を発揮。

 使用者のユニットが破棄されたとき、デッキまたは手札から同種同名のカードを即座に召喚して配置する。

 この効果によって召喚されたユニットは、破棄されたユニットから強化効果と装備品を引き継ぐことができる。

――――――――――――――――――


 強い、決まってしまえば非常に強い。

 ユニットがやられても即座に再配置。それだけでも便利なのに、強化や装備品まで引き継げてしまう。


 ただし、前提条件として人間タイプのユニットが3体も必要だ。

 【人間】という種族は基本的にパックでしか入手できず、5周年になってようやくミッドガルドに追加された。

 リンが所有している人間タイプは非常に少ないため、今すぐ使えるカードではない。


「うわぁ~、せっかくの★3なのに……ギルドの中にも、人間ユニットをたくさん使う人はいないし。

 なんで、こんなところで運を使っちゃうんだろう」


 貴重なレアカードを見つめ、がっくりと肩を落とすリン。

 間違いなく強いのだが、自分のところに来られても困る。TCGではよくあることだ。


 しかし、こういった問題を解決する手段が、ラヴィアンローズの世界には用意されていた。

 すぐにポジティブな考えに思い至った彼女は、明るい笑顔へと切り替わる。


「そうだ! あそこに持っていこう!」

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