プロローグ
「毎日ゲームばかりしてるのに、成績が伸びるなんて不思議なものねえ」
オフ会を兼ねた合宿から2週間後、真宮家のリビングには堂々と胸を張る涼美と、苦笑する勇治の姿があった。
先日行われた学校のテストで涼美は高得点を叩き出し、勇治も妹ほどではないが底辺から脱出して平均点以上。
この結果は素晴らしいのだが、なぜ成績が伸びたのか母親にはまったく分かっていない。
理由はとても簡単。涼美には将来の目標ができたのだ。
行くあてなどなく、どこへ進めばよいのかも分かっていない状態では、成績を伸ばすことに意味を見出だせない子供も多い。
しかし、涼美には追いかけたい背中がある。一緒にいたい仲間もいる。
そして何より、タワーマンションで街を見下ろしながら暮らすような、すごい大人になりたいのだ。
一方、勇治はサブリーダーを任されたことで責任感が芽生えた。
ソロで遊んでいた時期とは違い、今は後輩たちの面倒を見ながら自分なりに強くあろうとしている。
これまで距離を置いていた妹と接する機会が多くなり、負けっぱなしではいられなくなったのも大きい。
「まあ、結果が出ているなら問題ないわね。
分かってると思うけど、あまりやりすぎないこと。
あと、ごはんのたびに起こしに行くのは大変だから、ちゃんと時間を決めて台所に来てちょうだい」
「「はーい」」
かくして親の承諾を得た兄妹は、今後もVRに打ち込める環境を手に入れた。
新しいデッキの構築や冒険、そして発表されたゲーム内イベントと、やりたいことは山積みだ。
■ ■ ■
「というわけで――これが周回の成果であります!」
いつものコテージで行われた、テスト期間が明けて最初のミーテイング。
リーダーのクラウディアを中心にテーブルを囲むのは計6名。リンとユウ、魔女のステラ、巫女のサクヤ。
そして、最年少のソニアが立ち上がり、新しく手に入れた1枚のカードを掲げてみせる。
Cards―――――――――――――
【 エアリアル・グリフォン 】
クラス:レア★★★ タイプ:飛行
攻撃2200/防御2100
効果:このユニットは常に【タイプ:飛行】以外のユニット全てに攻撃と防御-1000を与える。
スタックバースト【裂空波】:瞬間:フィールド上に存在するユニット以外のカード全てを破棄する。
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「おお~っ、こいつは強いな!」
「ソニアちゃんは飛行ユニットしか使わないので、一方的に攻めていけますね」
上半身がワシ、体がライオンという半獣半鳥のユニット、グリフォン。
ステータスは控えめだが、そのサポート能力は広範囲に及ぶ。
対戦相手どころか自分のユニットにまで弱体化を与え、スタックバーストで何もかもを吹き飛ばす番狂わせな存在。
空軍の設立を目指すソニアは【タイプ:飛行】のカードしか使わないため、とりあえず出しておくだけでも優位性が増す。
「この『フィールド上に存在するユニット以外のカード』って、リンクカードのこと?」
「それに加えて、効果を発揮しているプロジェクトカードやカウンターも含まれるわ。
上手く使えば『ターン終了まで』と書いてあるような持続性のカードを、無理やり中断させることも可能よ」
「それはヤバイね! ただでさえ飛行ユニット以外は弱体化するのに……」
さすがは知名度が高いグリフォン。強力なサポーターとしてデッキの要になってくれるだろう。
中高生のメンバーたちがテストに集中している間、ソニアはずっと山岳に通い続けていたらしい。
「捕獲作戦の間、熱砂殿とギルドの方々には大変お世話になったのです。
襲い来る魔物を次々と蹴散らし、グリフォンの目撃状況まで提供してくれたほどで」
「かなり手厚く援護してくれたみたいね。いずれ何かでお返しをしないといけないわ」
山のキャンプ場で出会った赤髪の女性、『熱砂のフレア』は豪気にして明朗快活。
彼女が率いるギルドも、気の良さそうなメンバーばかり。
ギルド【ロック・ザ・バーガンディー】との交流は良い結果につながったようだ。
「恩返しができるかどうかは分からないが、今度のイベントは集団戦だ」
「集団戦って初めてなんだけど、どんな感じで戦うの?」
「めっちゃおもろいで! ミッドガルドみたいな広い場所でプレイヤー同士が戦う、いわゆるPVPやな。
周りの全員と戦えるから、ほんまに戦場みたいでド派手なんよ」
「ただ、デッキの制限もかなりきついです。ポイントが美味しいのは確かですけど」
「3回も開催される人気イベントだから、参加者も多くなると思うわ。
イベントの詳しい告知が来るまでは、各自デッキの準備や強化。
リアルでのスケジュール調整もしておいてね」
「「「「「了解~!」」」」」
運営が開催を宣言した次回のイベント『デュエル・ウォーズ III』。
一体どのように複数のプレイヤーと戦うのか、リンには想像もつかない。
パックを購入して新しいカードを得るも良し、ミッドガルドでモンスターを探すも良し。
いずれにせよ、まずはイベントで使えそうなカード探しから始めることにした。




