第21話 マイルーム拡張計画
「う~ん、いい感じ!」
テスト期間が終わった後、リンはすぐにマイルームの拡張工事を行った。
★4野生モンスターを討伐したときのポイント収入で、まずは30mほどの小さな島を追加する。
歩いて渡れるくらいの浅瀬で陸続きになっている小島は、ほぼアロサウルス専用の場所。
そして、同じような小島を反対の方角に作り、そこをスピノサウルスのなわばりにした。
リンの拠点となる家が建っている中央島を挟んで、それぞれ逆の方向に小さな島が2つ。
これで全員招集でもしない限りは、ケンカしていた恐竜たちが顔を合わせることもない。
領土問題が解決したところで、次に大きめの地下室を追加。
家具アイテムの名称は『汎用地下格納庫(小)』となっており、本来は兵器などを保管しておくシェルター。
それゆえ内部は意外と広く、そこにプリンセスを住まわせるとガランとして広すぎるほどだ。
「思ったより大きいなぁ~。内装は後で作るから、しばらくこれで我慢してね」
「が~う」
ロフト住まいでは限界が来るだろうと考えたリンは、プリンセスを地下へと移住させた。
宝石の山も運んでやり、合宿のとき手に入れた大イノシシの毛皮を床に敷くと、それっぽいドラゴンの王室が出来上がる。
元は水晶洞窟の最深部にいたドレイクなので、姫さまは地下のほうが落ち着くようだ。
「それじゃあ、次!」
今回、最もポイントを浪費した工事だったが、島から少し離れた海に大きな岩山を置いた。
海面から20m以上も高くそびえる岩は、翼を持つ生物でなければ登れない。
上のほうは数ヶ所が平らになっているため、飛竜や鳥などが住まうには絶好の地形だ。
景観などを考えながら、海から突き出る岩山を設置し終えたリンは、続いてコンソールからひとつのアイテムを取り出す。
Tips――――――――――――――
【 集合ホイッスル 】
どれだけ遠くにいても聞こえるホイッスル。
吹くと所有しているペットを自分のところに呼び寄せる。
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このアイテムは、不用意に吹くと周囲にいるペットが大集合してしまう。
しかし、実はペットに対する個別設定ができるようになっていたことを、リンは最近ようやく知った。
ピリリッと吹き鳴らしてから数秒後、大きな翼を広げて飛来してきたのは、合宿で捕まえたばかりの【リンドブルム】。
竜らしいモスグリーンの体色をしたワイバーンで、背中にはウマのような鞍が装着されている。
Pets――――――――――――――
【 リンドブルム 】
竜族や高位魔族の居城、人間の王宮などで飼われている騎乗用ワイバーン。
主人に忠実で賢く、戦闘能力も高いため重宝される。
多くの騎士にとっては天馬【ペガサス】と共に、夢とあこがれの象徴。
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「よ~し、どうどう……ウマですら一度しか乗ったことがないからなぁ。
しかも、小学校の遠足で牧場に行ったときのポニーだし。
ちゃんと飛んでくれるといいんだけど……」
厚い鱗に覆われた竜の体を撫でてやると、グルルと喉を鳴らしながら反応してくれる。
色々なモンスターやペットと触れあってきたリンは、生物ごとに性格や気性の違いがあることを学び始めた。
この【リンドブルム】は知的でおとなしく、とても扱いやすい。
リンが背中に登りやすいように自分から体勢を低くしてくれるほどであり、苦労することなく鞍にまたがることができた。
「それじゃ、飛んでみよ……うわわわわわわっ!!」
手綱を掴むと、飛竜は大きな翼を広げて宙に浮く。
操作方法は現実のウマよりも簡単。頭の中で『こう動いてほしい』と思うだけでよい。
「わっははーーーーーい!」
そうして、ついにリンは風を受けながら飛ぶことになった。
少し慣れが必要だったが、コツさえ掴んでしまえば子供でも乗れる設定になっている。
旋回も急加速も思いのまま、プラズマジェット――いわゆる『怪獣光線』のようなものを口から吐かせることも可能だ。
ぐんぐんと高いところまで上昇すると、視野の360度に広がる水平線。
「最っ高だね~! 海しかないのが残念なくらい。
今の拠点から離れたところに、他の島を作るのもいいかな。
山とかジャングルみたいな、ちょっと変わった環境にして、今よりもっと大きな感じの島を……
あと、海もなぁ~。今はただの水たまりだから、きれいなサンゴ礁とか欲しいし」
ラヴィアンローズ界隈でも”ヤバイ沼”のひとつ、それがマイルーム。
ここでは好きなように空間を創造できるが、相応にポイントが掛かる悩ましいコンテンツでもある。
現実世界で家1軒を建てられる額の課金をした猛者もいるほどで、とある女性はガーデニングが好きすぎて世界チャンピオンになってしまった。
特に素晴らしいルームには『蒼薔薇の女王』が直々に訪れ、彼女が監修しているルーム専門誌で紹介してもらえるという。
庭自慢のガチ勢にとっては最高の名誉であり、カードゲームなどそっちのけで家具の収集ばかりしているプレイヤーもいるらしい。
「ふぅ~、着陸っと。ここを自由に使って住んでいいからね」
そうして降り立ったのは、先ほど設置した岩山の上。
ここに来られるのは飛竜くらいなので、ほぼ彼らの棲み家になるだろう。
【リンドブルム】の他にも、カラスを思わせる青黒い鱗のワイバーンが翼を休めている。
Pets――――――――――――――
【 レイヴン・ワイバーン 】
山岳のふもと付近に多く生息するワイバーン。
肉や野菜だけでなく、毒キノコから腐ったものまで何でも食べてしまう悪食。
たまに人里まで飛んできて危害を及ぼすため、冒険者ギルドで討伐依頼が出されることも。
――――――――――――――――――
「キミ、けっこう悪い子だったんだね。スピノ親分たちとケンカしちゃダメだよ?」
「ギュルルルッ」
レイヴンは三角形の頭が特徴的な、とても素早いワイバーンだ。
岩山の上は広くて高低差もあるため、今のところ棲み分けはできている。
あと1種類くらいは竜が増えても問題ないだろう。超大型でなければ。
「これで、今回の工事は終わりっと。
はぁ~……またポイントが減っちゃったよ。
前の大会から1ヶ月くらい経ったし、そろそろ何かイベントが来ないかな?
できれば、ドーンと稼いでおきたいよね。この子たちのためにも」
言いながら生の骨付き肉を投げてやると、ワイバーンたちは骨ごとボリボリ食べてしまう。
食費はそこまで気にならないのだが、何か捕まえてくるたびに飼う場所が増えていく。
兄から幼稚園などと揶揄されたルームは、今や恐竜とワイバーンの博物館だ。
――と、そこでコンソールに通信が入り、発信者の欄にステラの名前が表示された。
「やっほ~、ステラ! ルームの拡張が終わったとこだよ!」
「ふふっ、さっそくやってますね。後で見に行きます。
こっちも新しいペットが増えましたよ、ほらっ」
「キュロロロロロロララララッ」
ステラがカメラを向けた先では、例の実験体が蠢いていた。魔女のペットとしては、いささか過激すぎる。
くぱあっと開いた口の中から何本もの舌が伸びてくる姿は、友人でなければ直視に耐えない。
「あ、あはは……そっちもやってるねぇ」
「それで、要件なんですけど――発表されましたよ、次のイベントが!」
「おお~! マジで!?」
「マジです。あとでクラウディアから招集が掛かるかもしれません」
「了解、すぐに確認してみるよ」
手短に通信を終えたリンは、そのままコンソールを操作して運営からの告知情報を開いた。
つい先ほどイベントが発表されたらしく、新しい画像や説明文が追加されている。
Notice――――――――――――
【 期間限定イベント『デュエル・ウォーズ III』開催のお知らせ 】
激戦と興奮に満ちたデュエル・ウォーズ、3度目の開催!
戦場を駆ける兵士となり、より多くのライバルを撃破せよ。
勝利するたびにポイント報酬あり。撃破数上位者には特別報酬も!
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「わあああ~、勝つたびにポイントだって! みんなで勝ちまくらなきゃ!」
岩山の上でワイバーンたちに囲まれながら、リンは新たな戦いに奮起した。
彼女にとって初めてとなる大規模な集団戦。
新しいデッキを試し、大量のポイント報酬を得る機会が、今まさにやってきたのだった――
以上で第7章完結となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
次回からは新イベント、『デュエル・ウォーズ編』の開幕となります。
いつもと同じように7章の手直し、および次章の準備期間を取り、数日後に再開する予定です。
詳細については活動報告のほうで告知いたします。




