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第19話 デンジャラス・ゾーン その6

 ドワーフの財宝が眠る強欲の城キャッスル・オブ・グリードまで、あと少しのところで始まった乱戦。

 ここは中級者以上でも全滅の可能性がある、かなり危険な地域だ。

 城に近付く者は、すぐさまドラゴンの配下である【ドラゴニュート】の航空部隊に襲われる。

 彼らが騎乗している【リンドブルム】は中型のワイバーンだが、騎乗者との連携によって★3に匹敵するほどの力を持つ。


 敏捷で上回るドラゴンの軍勢は、空中から6回もの猛攻撃を仕掛けてきた。

 【リンドブルム】が吐くブレスは増幅された熱量によってプラズマジェットと化し、まっすぐな光線となって降り注ぐ。

 さらに【ドラゴニュート】の効果で攻撃力を800増して再攻撃。


「カウンターカード、【ウォール・オブ・ドラゴン】!」


 どの攻撃も6000から7000ダメージという壮絶な火力だが、リンはプリンセスに防壁を張らせることで(しの)いだ。

 1ターン限りとはいえ、防御力8600を誇る水晶壁は滅多に破られない。


「はぁ~、どうにかなったけど次のターンが問題だなぁ。

 あの上に乗ってる人型の竜さん、武器は持ってないよね?」


「5周年よりも前からいる野生モンスターは、リンクカードを持っていません。

 【ドラゴニュート】は人型ですけど、人間じゃなくて二足歩行の竜という感じですね」


「なんだか、ややこしいなぁ……でも、そういうことなら【プリンセス・ドレイク】にリンクカードを装備、【エクシード・ユニオン】!

 媒体にするのは――【水晶ヤモリ】!」


 ★1のユニットを装備に変えてしまう新世代のリンクカード。

 その効果によって【タイプ:動物】を得たプリンセスは、姿を変貌させていく。

 頭からはフェネックを思わせる大きなケモノ耳が生え、ドラゴンの尻尾もフサフサで柔軟なものへと変わり、衣服の一部が毛皮に置き換えられた。


「がおぉ~~う!」


「わあああ~っ、何この可愛い生き物!? 普段の姿でも十分愛くるしいのに、モフモフになるなんて!

 うぐぐ……撫でてあげたいけど、今は戦いに集中しなきゃ。

 これで防御は大丈夫だから、アロさんで1組ずつまとめて焼いてくよ!」


「ゴガァアアアーーーーーーーーーッ!!」


 【水晶ヤモリ】の効果によって、プリンセスはリンクカードを装備していない相手からのダメージが半減する。

 こうなれば、あとは2体を同時攻撃できるアロサウルスで撃破していくだけだ。


「【オボロカヅチ】! 迎撃せよ!」


 一方、ソニアは襲いくる翼竜の群れと対峙していた。

 【ディモルフォドン】は敏捷240という飛び抜けた素早さを武器に、★2以下のユニットを確実に仕留めてしまう。

 その能力をどうにかするか、★3で応じるしかないのだが、スタックバーストによって群れの1匹ごとに攻撃が400増加。

 しっかり3体いるので、与ダメージは4200まで上昇している。


 だが、この戦いはソニアのほうが有利だ。

 相手は飛行タイプなので【オボロカヅチ】の効果によってステータスは半減。

 そのまま耐えきって、雷撃で撃ち落としてしまえば問題ない。


 リンの火炎とソニアの雷、それらが戦場を薙ぎ払うたびにモンスターは数を減らし、ドラゴンの軍勢は3ターンで壊滅してしまった。


「やった! 1体気絶してる!」


「こっちもであります!」


 戦闘が終わった後、地面に落ちて気絶していたモンスターは2体。

 まずはリンがブランクカードで新たなユニットを入手する。


Cards―――――――――――――

【 リンドブルム 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:竜

 攻撃1800/防御1400

 効果:召喚されたとき、このユニットに【小型】かつ【人型】のユニット1体を、手札から騎乗させることが可能。

 装備品ではなく個別のユニットとして扱われ、騎乗する側の召喚は別枠扱いになる。

 スタックバースト【騎乗戦闘】:永続:騎乗しているユニットの【基礎ステータス】を自身に加算する。

――――――――――――――――――


捕獲(インプリント)完了! へぇ~、珍しい能力だね。

 この手のユニットは装備品としてセットするものだけど、これは……逆みたい?」


 【リンドブルム】は珍しい効果を持っており、この竜に他のユニットを乗せる仕組みだ。

 スタックバースト効果も自身のステータスではなく、騎乗している側の攻撃や防御を【リンドブルム】側へ加算する。

 つまり、乗せるユニットが強ければ強いほど効果も高い。


「この【小型】とか【人型】って、どういう基準なの?」


「【人型】は原則的に二足歩行をしている生き物よ。

 人間や狼男、ヴァンパイア、機械タイプのアンドロイドとか、動物タイプの類人猿も含まれるわ」


「じゃあ、ネレイスちゃんみたいな人魚は?」


「そういうタイプは【人型】と【水棲型】を両方持っていたりするの。

 サイズについては、口で説明するよりTipsを見たほうが早いわね」


Tips――――――――――――――

【 ユニットのサイズ 】

 カードにユニットの大きさが記されている場合は、以下の分類を用いる。

 ユニット個々の正確な大きさについては、カードデータの詳細で確認可能。

 3m以下:小型

 3~8m:中型

 8~13m:大型

 13m以上:超大型

――――――――――――――――――


「3m以上なんて、もう巨人じゃん……サクヤ先輩が持ってるサソリのお姉さんも中型かな?

 とりあえず、あたしの【人型】ユニットは全部乗せてあげられそうだね。もちろん、プリンセスちゃんも!」


「がぁ~う」


 ようやく獣化したプリンセスを撫でることができたリンは、手に伝わる”モフみ”に癒やされる。

 【リンドブルム】に乗せても絵になるし、お互いの効果で強力なペアになるだろう。


「こうなると、スタックバーストのぶんも欲しいですよね。

 ところで、ひとつ素敵なお知らせがあります。

 ミッドガルドの中では、プレイヤーが飛行生物に乗ることはできないのですが」


「まあ……乗れたら気持ちいいだろうけど、お山のてっぺんまでビューンだもんね。

 探索の難易度が変わりすぎてヤバそう」


「でも、それはあくまでもミッドガルドのルールです。つまり、自分のルームの中では――」


「えっ!? もしかして、あたしが乗れちゃうの?」


 微笑みながら(うなず)くステラと、まさか自分が乗れるとは思っていなかったリン。

 【リンドブルム】が乗せられるのはユニットだけではないのだ。


「ありがとう、最高の情報だよ! さっそく後で試してみるね!」


「むむ……そう聞くと、わたしも空軍を目指す者として、自分が乗れる飛行ユニットが欲しいであります。

 ですが、とりあえず今日はこの子!」


 そう言って、生成されたばかりのカードをビシッと見せてくるソニア。

 そこに描かれているのは、少し小柄なジュラ紀の翼竜だ。


Cards―――――――――――――

【 ディモルフォドン 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:飛行

 攻撃1500/防御1200

 効果:★2以下のユニットとバトルした場合、結果に関わらず双方が破棄される。

 スタックバースト【群がる翼竜】:特殊:スタックバーストを行う際に使用した【ディモルフォドン】のカードをフィールドに置き、別個体のユニットとして扱う。この効果は召喚とは別枠になる。

――――――――――――――――――


 【ディモルフォドン】はアロサウルスと同じ時代に生息していた翼竜。

 スマートな体に対して大きなクチバシを持ち、コウモリに似た皮膜で空を飛ぶ。

 鳥のようだが鳥ではない。その証拠としてクチバシに細かい牙が並んでおり、現代の鳥類には歯が生えていないのだ。


「ちょっと小さすぎて、乗るのはわたしでも難しそうです。

 でも、これは戦略的なミサイルになりそうですな」


「★2までなら確実に倒すし、沼の毒ガエルみたいにスタックバーストで増えるんだ……状況次第だけど、ハマると強そうだね」


「上手く使うためには、わたしもスタックバーストのぶんが欲しい!

 グリフォンも欲しい! フェニックスも欲しい! あれもこれも魅力的で、やることが多すぎなのです!」


「あたしも1枚しか持ってないカードばかりだから、色々と欲しいなぁ。

 頑張って集めよー!」


「おおー!」


 お互いの手を合わせて、タッチしながら励ましあう2人。

 この遠征で着実にカードを回収し、バトルなどの経験を積んで強く成長している。

 実際に先ほどの乱戦は待機していたクラウディアたちの手を借りることなく、お互いの力で撃破したのだ。


「それじゃ、あのお城に行ってみようか」


「あ、行くんですね」


「無論、ここまで来たら行くしかないのです!」


「まあ……止めはしないわよ。どういう場所なのか知るのも需要だし」


 勝利の勢いに乗り、意気揚々と進んでいく一行。

 竜に狙われるほどの財宝が眠るという城まで、あと300m。この状況で行かないという選択肢はない。

 リンたちが進んでいく後方で、クラウディアとステラは顔を見合わせながら苦笑していた。


 そうして足を進めていくこと数歩――リンはとうとう、”彼”のテリトリーに踏み入ってしまう。


「うわっ! 何の音!?」


「これは空襲警報……敵機来襲であります!」


 耳を押さえたくなるほどの大音量で、ウウウウーーーッと鳴り響いた警報音。

 またドラゴンの配下が攻めてくるのかと思ったが、むしろ周囲の鳥やモンスターたちは一目散に逃げ出していく。


 そこでリンの脳裏に蘇ったのは、今まで見てきた危機的な光景。

 このミッドガルドにおいて、他の生き物たちが逃げ出すということは、つまり――


「来てしまったわね。ここが強欲の城よ」


 クラウディアがそう言った直後、城の中から空に向かって巨大な影が飛び出した。

 全身が白銀に輝き、頭には雄牛を思わせる2本の角。

 その顔は悪鬼がごとく全てのものを(にら)みつけ、大雪嶺山脈(アルペン・ベルク)の美しい風景を背に両翼を広げる。


「ド……ドドドド、ドラゴン!?」


「もしかして……『ご本人さま登場のコーナー』です!?」


 ソニアが言ったとおり、今度は配下の軍勢などではない。

 古城の宝を守るネームドモンスターが、直々に侵入者を始末しに来たのだ。

 そのステータスを見たリンは、自分の喉がヒュッと音を立てるのを感じた。


Enemy―――――――――――――

【 大爆撃竜”ゾッド・ギュラス” 】

 クラス:??? タイプ:竜

 攻撃128600/HP112200/敏捷150

 効果:バトル開始時、およびこのモンスターのターン開始時に発動。

 攻撃範囲内に存在する全てのユニット、プレイヤー、野生モンスターに【基礎攻撃力】と同数のダメージを与える。

 スタックバースト【???】

――――――――――――――――――


 かつて繁栄を極めたドワーフ王国を滅ぼし、貯め込まれた財宝を守る伝説の白銀竜。

 強欲という人間の愚かな罪を裁くかのように、ネームドモンスターが天から舞い降りてきた。

 推定40m前後。その巨大さの前では、ジュラ紀を支配していたアロサウルスですら小さく見えてしまう。


「ちょ……え? ちょっと待ってよ! どーすんの、アレ!?」


「た、たぶん、万物創世全知全能のお姉さまなら、なんとか……!」


「どうにもならないわ」


「出会った時点でおしまいです」


「「そんなーーーーーーっ!?」」


「ウウオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!!」


 再び大音量で響き渡る空襲警報。

 いや――警報ではない。その轟音は【ゾッド・ギュラス】の口から発せられる咆哮であった。


 巨大なドラゴンは一旦遠くまで飛んでいき、地面と水平に翼を広げながら滑空して戻ってくる。

 その姿は、まさに爆撃機。

 ステルスやナイトホークを思わせる、現代型の航空兵器を彷彿(ほうふつ)とさせた。


 そして、バトル開始時に効果発動。

 容赦なく口から放たれる、数えきれないほどの爆裂火球。

 地上のあらゆる存在を焼き尽くす絨毯爆撃が、128600というオーバーキルな火力でリンたちに迫り来る。


「「終わったぁあああああああああ!!」」


 上げた悲鳴までもが、一瞬で飲み込まれて消える絶対的な破壊。

 出会ってしまった時点で――”彼”のテリトリーに踏み込んだ時点で、もはや命運が尽きていたのだ。


 この日、リンは初めてミッドガルドでゲームオーバーになり、外へ放り出されるという結末を体験したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「巣に近寄ったら爆撃」ということは…… "戦う"にはまず城に入らないといけないのかな? 「あくまで効果」ってんならどうしようもないけど。 普通に考えて飛べる高さが無いなら空爆できない…
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