第18話 デンジャラス・ゾーン その5
「がぁう」
「がうがう?」
「がうう、がう」
プリンセス同士にしか分からない言葉で、何やら話しあっている2体。
【ダークネス・ゲンガー】とケンカを始めることもなく、竜の少女たちはお互いの姿を不思議そうに見ていた。
その様子を眺めるリンの顔も、つい緩んでしまう。
「はぁあ~、双子ちゃんみたい……かぁいいなあ~」
「リンって小さい子が好きですよね」
「あたしは末の妹だからさ。上はもう足りてるけど、自分より下の子が家にいなくて」
「なるほど、私はひとりっ子なので、そもそも兄弟がいるということに憧れます」
そうしてステラが視線を向けた先には、クラウディアとソニアが並んで歩いていた。
元気が良すぎる妹に手を焼いている姉だが、つながりの深さはまさしく姉妹。
それに対し、ステラはいつも独りで過ごしている。
街を見下ろす自宅は広く、色々な食べ物をタブレットひとつで注文できるが、家族と顔を合わせる時間は少ない。
彼女がVRに入り浸っているのは、拭いきれない寂しさを埋めるためだろうか。
「リン、もうすぐ目的地よ」
「あ、うん……って、お城じゃーん!」
見えてきたのは、山の中腹に建つ西洋の古城。そびえるような石造りの建造物が、圧倒的な存在感でリンたちを出迎える。
「すっご~い! 完全にファンタジーの世界だよ!」
「あれは強欲の城、かつてはドワーフの王国として繁栄の限りを尽くしたそうよ。
城の地下は坑道につながっていて、そこから大量の金や宝石を掘り出したけれど……」
「国は豊かに栄えたのですが、財宝を好むドラゴンを呼び寄せることになってしまいました。
結果的に、お城は山ごと竜たちに乗っ取られて、ドワーフの繁栄は幕を閉じたそうです」
「それで強欲なわけですか……う~む、諸行無常を感じるのです」
無論、これらはラヴィアンローズの中で起こった繁栄と滅亡ではなく、そういったバックボーンストーリーが用意されている。
ドラゴンとドワーフ王国の因縁は、とある有名な物語がモデルになっているらしい。
かつて栄えたであろう城は堅牢で立派だが、人の気配はなく不気味な静けさを湛えていた。
「ってことは、あのお城の中には金とか財宝がいっぱいあるのかな?」
「あるけれど、換金は不可。単なるコレクターアイテムよ。宝石なら火山で大量に掘ったでしょ?」
「いやー、あれ全部プリンセスちゃんにあげちゃって。
可愛い見た目だけど、この子たちも【竜】だから光り物が大好きなんだよね」
「がうがう」
「が~う!」
財宝の話に食いついてきた2体のプリンセス。
宝物を追加できるなら、ここで採取しておきたいところだが――
「持って帰るのは難しいかもしれません。すごく強いドラゴンが宝物を守っていますし」
「宝物を守るドラゴン?
あ~、なんとなく話が見えてきた。この山のネームドモンスター、まだ見てないよね」
「だんだん察しがよくなってきたわね。
大雪嶺山脈はとても広いから、複数のネームドがいるけど……
そのうちの1体が古城のドラゴン。あれがいる限り、金貨1枚ですら盗み出せないわ」
「リン殿! 9時の方角より飛行モンスターが接近中であります!」
「おおっと、のんびり話もしてられないね」
ドラゴンたちに乗っ取られてしまった王国。その城へと近付きつつあるリンたちに、先兵が飛来してきた。
『竜の巣へ行く』と聞かされていたが、先ほどの崖に住んでいたのは下位のワイバーン。
この城に巣食う強者たちこそが、山の中腹で最も驚異的な相手である。
「ん……? 竜の上に誰か乗ってるような」
Enemy―――――――――――――
【 ドラゴニュート 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:竜
攻撃2800/HP2400/敏捷80
効果:他のモンスターに騎乗しているとき、代わりに攻撃を行わせることができる。
スタックバースト【連携攻撃】:永続:他のモンスターの後に攻撃すると攻撃+800、上記の効果にも適応可。
【 リンドブルム 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:竜
攻撃3600/HP2800/敏捷140
効果:このモンスターは群れの上限を超えて接敵し、他のモンスターを騎乗させることができる。
スタックバースト【騎乗戦闘】:永続:自身に騎乗しているモンスターの【基礎ステータス】を加算する。
――――――――――――――――――
先鋒として攻めてきたのは、まさしく兵士。
人間と同じく二足歩行に進化した竜人【ドラゴニュート】と、ウマのように鞍や手綱をつけた飛竜【リンドブルム】。
その2体がペアになって3組、合計6体ものモンスターが空中から攻めてくる。
「わあ~、何あれ!? 人っぽい竜が、竜に乗ってる!」
「助太刀したいところですが……くっ、リン殿!
どさくさにまぎれて、後ろからも来ているのです!」
城の航空部隊とは別に、後方からも襲ってくる野生モンスターが3体。
コウモリのように羽ばたいているが、実際には翼竜という古代生物。
有名なプテラノドンよりは小柄で翼長は1.5mほど。牙の生えた大きなクチバシが特徴的だ。
Enemy―――――――――――――
【 ディモルフォドン 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:飛行
攻撃3000/HP2400/敏捷240
効果:★2以下のユニットとバトルした場合、結果に関わらず双方が破棄される。
スタックバースト【群がる翼竜】:永続:同じ群れに属する【ディモルフォドン】の数だけ攻撃+400。
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「そっちは任せたよ、ソニアちゃん!」
「了解! これはまさに入れ食いですなあ!」
「ここがお待ちかねのポイント、竜も飛行も狩り放題よ」
「私たちは下がっているので、頑張ってくださいね~」
名残惜しいが、色違いのプリンセスを眺めている場合ではない。
ステラは自身のユニットを回収して下がり、竜はリン、飛行はソニアが担当して迎え撃つ。
城に近付く侵入者を排除する竜たちと、乱戦にまぎれ込む野生モンスター。
いずれも厄介な敵ばかりだが、1枚でも多くのカードが欲しいリンたちにとっては絶好の狩り場であった。
2022/03/29 ドラゴニュートとリンドブルムの効果を変更。




