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第17話 デンジャラス・ゾーン その4

【実験体M-16号 ”ナイアーラホテップ”】

 攻撃7200/HP6600


【 ステラ 】 ライフ:4000

バイコーン

 攻撃1400/防御1200

ダークネス・ゲンガー(プリンセス・ドレイクをコピー)

 攻撃2200(+1000)/防御2200(+1000)

 【ダークネス・ゲンガー】はステラが持つ代表的な★3レアユニットだ。

 スーパーレアですら完全にコピーし、自分のユニットにしてしまう反則級の1枚。

 ただし、その場に応じた臨機応変なプレイングと戦略性が求められるため、やや使い手を選ぶカードでもある。


Cards―――――――――――――

【 ダークネス・ゲンガー 】

 クラス:レア★★★ タイプ:X

 攻撃X/防御X

 効果:召喚するときに相手プレイヤーのフィールドにいるユニット1体を指定し、そのユニットと同じタイプ・基礎ステータス・効果を得る。

 スタックバースト【バーストキャプチャー】:特殊:上記の効果の対象になったユニットと同じスタックバーストを発動する。

――――――――――――――――――


「がああ~~~う!」


 可愛い雄叫びを上げながら完成したのは、リンが所有している【プリンセス・ドレイク】のコピー体。

 本物は白い肌と赤い結晶体だが、こちらは褐色の肌に青い結晶体。

 まさに色違い個体として登場したプリンセス――改めダークプリンセスは、【バイコーン】と並んで戦陣に加わる。


「うわ~! 色違いのプリンセスちゃんも、かっわいい~~~!

 でも、なんで【オボロカヅチ】にしなかったの?」


「たしかに【オボロカヅチ】は飛行に対して有利です。

 ただ、それはソニアちゃんが使った場合の話で……私のデッキなら、こっちのほうが火力を出しやすいんですよ」


「キュラォオオオオオーーーーッ!!」


 準備を終えたステラが(あい)まみえると、大きく裂けた【ナイアーラホテップ】の口から何本もの舌が這い出る。

 夏の海岸でヒトデを拾い上げ、その裏側を見てしまったかのような嫌悪感。

 リンたちは背筋をゾクッとさせたが、しかし――


 4人の中で唯一、ステラには効かない。

 あらゆる恐怖や生理的嫌悪に対する完全耐性という、神からの祝福(ギフト)を得て生まれた彼女にとって、相手は珍しい新種のモンスターでしかなかった。


「【ダークネス・ゲンガー】、攻撃宣言!」


「がぁああ~…………うっ!」


 大きな予備動作と共に両腕を振り上げたダークプリンセスは、地面を叩くように打ち下ろす。

 その直後、巨大な青水晶のパイルバンカーが地面から出現。美しい花びらを散らしながら、強烈な一撃が怪物を突き上げる。


「キシェエエエエエーーーーーーーーーッ!!」


 すぐに体勢を立て直し、ジュルジュルと粘液を垂らしながら吼える【ナイアーラホテップ】。

 場に出るだけで攻撃力が3200に強化されるプリンセスは、敵の体力を半分ほど削り取ってしまった。


 たしかにステラが言うように、【プリンセス・ドレイク】をコピーしたほうが火力は出る。

 そして、その能力は攻撃した後でも利用可能だ。


「続いて【バイコーン】で攻撃宣言! カウンターカード、【エナジー・フロウ】!」


Cards―――――――――――――

【 エナジー・フロウ 】

 クラス:コモン★ カウンターカード

 効果:自プレイヤーが所有するユニット2体を指定して発動。

 ターン終了まで、目標の【タイプ】を相互に入れ替える。

――――――――――――――――――


「おお~、あのカードは……!」


「なるほど、上手いわね」


 ステラが発動させたのは、5周年で実装されたばかりの新しいカード。

 手に入りやすい★1コモンだが、使い方次第では戦況をひっくり返すほどの力を秘めている。


「【ダークネス・ゲンガー】がコピーした竜タイプと、【バイコーン】の悪魔タイプを入れ替えます。

 これでプリンセスちゃんの効果が適応されて、さらに【バイコーン】自身の能力で全ての強化効果を攻撃ステータスに変換!

 最終的な攻撃力は――3400!」


 『プレイヤー自身が所有する【タイプ:竜】の数だけ、竜ユニットの攻撃と防御を1000ずつ強化させる』というプリンセスの効果。

 その文面をよく理解すれば、このような戦略を取ることも可能だ。


 つまるところ――攻撃を終えた【プリンセス・ドレイク】自身は、竜タイプである必要がない。


「ヴヒヒヒヒヒーーーーーーン!!」


 ファイナルアタックを指示された黒いウマは、双角の間で電流のように闇エネルギーを収縮させた。

 VR世界の魔女が打ち立てた戦略による、見事なまでの速攻ワンターンキル。

 暗黒の稲妻がほとばしり、【ナイアーラホテップ】に何もさせないまま体力をゼロまで削りきってしまう。


「キュルルルルルロロロロロロロ…………ッ」


 何本もの触手や腕をくねらせながら、力を失って花園に墜落する怪物。

 残留した闇エネルギーによって黒い煙を上げているが、その姿は――なんと、消えないまま残っていた。


「え……? もしかして、これって……!」


「魔物が気絶しているのでは!?」


「1体倒しただけで!? それって、すごい確率なんじゃ……」


 ★3レアモンスターは最も気絶しにくいため入手困難。普通なら何体も倒す周回プレイが必要だ。

 初見の1体を倒しただけで気絶するというのは、パックからレアカードを引くのと同等の幸運。

 ぐったりして動かない【ナイアーラホテップ】の取得権は無論、倒したステラにある。


「あ、えっと……すみません、今回はリンとソニアちゃんのための遠征だったのに」


「き、気にしないでいいよ! あたしたちにゲットする権利があったとしても、正直困ってたと思うし……」


(しか)り、(しか)り! むしろ、この場にステラ殿がいてくれてよかったと思うのです!」


 青い顔でステラを説得する2人。狂気的でグロテスクな怪物を捕獲するなど、リンたちにできるはずがない。


「クラウディアはどう思いますか?」


「ふぇっ!? い、いいんじゃないかしら……今後、ステラと決闘(デュエル)をすると、”それ”が出てくることのほうが問題ね。

 もちろん、戦略的な面での話よ……ええ」


「じゃあ、申し訳ないのですが、私がブランクカードを使いますね」


 少し(うわ)ずった声のリーダーからも了承を得て、ステラは気絶したモンスターを取得する。

 やがて新しく生成されたカードの絵柄には、奇怪で恐ろしい姿の怪物が描かれていた。


Cards―――――――――――――

【 実験体M-16号 ”ナイアーラホテップ” 】

 クラス:レア★★★ タイプ:人間/動物/植物/飛行/竜/水棲/昆虫

 攻撃2400/防御2200/敏捷70

 効果:1ターンに1回使用可能。フィールド上にいるユニット1体と同じ【タイプ】を得る。

 スタックバースト【禁断の生命】:永続:このユニットの攻撃と防御が『所有する【タイプ】×300』上昇する。

――――――――――――――――――


捕獲(インプリント)完了です! 効果が変わりましたよ!」


「おめでと~! これだけタイプを持ってるのに、まだ増えるんだ……」


「サクヤが引き当てた【ナラシンハ】と同じように、複数のタイプを持つユニットね。

 5周年アップデートが来る前にはなかった新しい要素よ。

 界隈では『ハイブリッド』なんて呼ばれ始めてるけど、これも新規追加のモンスターみたい」


「どうして、こんな怪物が山にいたのです? さすがに場違いだと思うのですが」


「タイプに竜が含まれてるし、この山でワイバーンとかを捕まえて研究してる施設が、どこかにあるのかも?」


「告知なしで隠しダンジョンを追加……ここの運営なら、十分ありえるわね」


 山のどこかに禁断の遺伝子研究をしているマッドな施設があり、そこから実験体が逃げ出したのではないかという仮説。

 実際、竜を捕獲するには良い場所なので可能性は否定しきれない。


「まあ、仮にそんな場所があったとしても、探すのはしばらく先よ。

 今回は時間が限られているし、リンとソニアの強化も進めないと」


「すみません、私の強化が進んじゃって……でも、この子を使うのは面白そうです」


「能力的にもステラ向きだよね。戦略の幅が広がりそうで」


「見た目の破壊力も、本当にやばいのです……」


 以前、谷底で見た【グレイブキーパー】も恐ろしい姿だったが、まだ生き物のカタチをしていた。

 それに比べたら、ステラが新しく手に入れたユニットは地球生命の枠からはみ出している。


 美しい高山植物の花園を見ながら、リンたちは思い知った。

 このミッドガルドという冒険の地に、約束された平穏などないのだと。

 運営のちょっとした悪戯(サービス)でモンスターが追加され、色々な意味で楽しませてくれるのだから。

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