表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/297

第14話 デンジャラス・ゾーン その1

 【バジリスク】は西欧の魔物の中でも有名な種である。

 いわく、空を飛ぶ鳥を地上から(にら)んだだけで石化させる。

 いわく、勇敢な騎士が馬上から槍で突いたところ、毒が槍を伝わって騎士を殺し、さらにウマにまで毒が届いて死んだ。

 とにかく状態異常のエキスパートであり、近似種には【コカトリス】という魔物もいる。


Enemy―――――――――――――

【 バジリスク 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔

 攻撃3000/HP2800/敏捷80

 効果:プレイヤーが所有するユニットに対してのみ有効。

 このモンスターとバトルした相手は、ターン終了まで効果とスタックバーストの全てを失う。

 スタックバースト【石化の魔眼】:永続:【呪い】に耐性がないプレイヤー全ては行動不能になり、一切の宣言ができなくなる。

――――――――――――――――――


「クワクワクワッ」

「コケェエエエーーーーーーッ!」


 リンの前に降り立った2体の【バジリスク】。鳴き声は完全にニワトリだ。

 クラウディアたちは慣れているため、咄嗟(とっさ)に視線をそらして対呪のポーションで身を守った。

 しかし、何も知らないソニアは正面から魔眼を受けてしまったらしく、石像のように固まって動かない。


「うわぁ~、効果は悪魔タイプになった【ポイズンヒドロ】って感じだけど、スタックバーストが凶悪すぎだよ。

 いきなりソニアちゃんがやられちゃったし……これって、どうなるの?」


「石化を解く方法は3つあるわ。

 【バジリスク】を倒すか、ソニアのライフが尽きるか、効果時間が過ぎるまで待つだけ」


「大抵の場合、2番目になるんですけどね。動けない状態で攻撃されますから」


「石化して動けない相手を攻撃するとか、えげつないモンスターだね……

 なんで、こんな昼間から清々(すがすが)しい山の中を悪魔が飛んでんの。

 あたしたちより、ステラが欲しそうなタイプだけど……いる?」


「欲しいとは思いますけど、すでにリンが接敵しているので難しそうです」


「ああ~、もうあたしがやるしかないのかぁ」


 【バジリスク】を倒すこと自体は実に簡単だった。

 下手に戦うとユニット効果を失うため、プリンセスは後方で待機。あとは攻防2000の上昇を得たアロサウルスで焼き尽くすだけだ。

 範囲攻撃は封じられてしまったが、ステータスさえ上回っていれば問題ない。


「コケェーーーーーー…………」


 火炎放射の中で焼き鳥にされ、粒子化して消えていくモンスター。

 残念ながら入手できなかったものの、戦闘終了と同時にソニアの石化が解けて息を吹き返す。


「ぷはぁ~っ! 生まれて初めて石化したのです!」


「そりゃ、普通はそうだよ。治ってよかったね~」


「今回は仲間がいたけれど、ソロで探索すると一瞬の油断が命取りになるわ。

 でも、それ自体は問題じゃない。

 今みたいに石化させられたことを憶えておけば、いつか知識が役に立つはずよ。

 たくさんのことを経験しなさい、ソニア」


「はっ! 何事も経験!

 今後も石にされようと犬にされようと、わたしはめげないのであります!」


 石像になるという貴重な体験をしたソニアだが、立ち直りは早かった。

 一行が再び歩みを進めると、やがて風景は丈の低い草と岩だらけの丘陵に変わっていく。

 かつて古代の建物があったのだろうか。今も苔むした石柱などが残っており、ファンタジックな雰囲気をかもし出している。


「おお~、いかにもドラゴンがいそうな場所になってきたけど、カードの収穫はさっぱりなんだよね。

 この山で会った竜タイプの野生モンスターって、細長いヘビっぽいのばかりだし」


「蛇竜、いわゆるワームもドラゴンの仲間ですけど、一般的なイメージとは違いますよね」


「わたしもリン殿に同感であります。

 もっと、こう……おみやげ屋のキーホルダーにくっついてるような、いかにもドラゴンらしい魔物を見てみたいのですが」


「そういうことなら、朗報よ。喜んでいいのかは分からないけれど。

 徘徊していた★4を除けば、ここまでのモンスターは小手調べ。

 この『遺跡丘陵』から先は、さらに危険度が増すわ」


 目があった瞬間に石化させてくる【バジリスク】ですら、この山岳地帯では小手調べだという。

 実際、リンたちがいるのは山のふもとから中腹へと向かう丘陵。

 はるか遠くにそびえ立つ山頂付近には、どれほどの怪物が(ひそ)んでいるのか想像もつかない。


「そういえば、ミッドガルドってさ。ラヴィアンローズとは違う会社が作ってたんだよね?」


「そうです。前にも話しましたけど、このオープンワールドは本物そっくりの恐竜と触れあうための世界でした。

 その開発が中止になってしまった結果、ウィルズが買い取ったと聞いています」


「ウィルズ……ウィルズカンパニーだっけ?

 あたし、このゲームを3ヶ月もやり込んでるのに、開発会社のことは全然知らなくて」


「『Will’s』はアメリカで産声を上げたカードゲームとVR産業の会社。

 創始者はウィリアム・ウォルター。伝説のカードゲームプレイヤーで、今でも右に出る者はいないといわれるほど強かったそうよ」


「ウィリアム――ああ、『ウィルの会社』っていう意味なんだね。ウィルズカンパニーは」


「彼は色々なカードゲームで莫大な賞金を稼いだ後、現役を引退してウィルズを設立。

 最初はTCG専門の会社だったけれど、VRの技術を取り入れて5年前にラヴィアンローズを完成させたの。

 でも、ウィリアム本人がこの世界を見ることはなかったわ……サービス開始を前にして、彼は亡くなってしまったのよ」


「そんな! せっかく、すごい世界を作り上げたのに……」


 リンが見上げる大連峰は、普通なら女子中学生が自分の足で来られる場所ではない。

 ウィルズカンパニーが技術の限りを尽くして完成させ、こうして提供してくれているから遊べるのだ。

 この世界の創始であった偉大な人物は、すでに亡き人。

 ラヴィアンローズという素晴らしい遺産を残して、今もリンたちを楽しませてくれている。


「そういう話を聞くと、すごく有り(がた)みが増すね。

 本当の意味で、この世界を創った神さまだよ」


「伝説のカードゲーマーと呼ばれた男が、晩年の生涯をかけて創り上げた世界。

 熱いロマンを感じるのです! この山も、あの空も、全てはウィリアム氏が創造せしもの!

 あそこで飛んでるワイバーンだって――」


「「「…………ワイバーン!?」」」


 その一言で、全員の動きがピタリと止まる。

 ソニアが見上げる視線の先で、たしかに竜たちが風を切って飛んでいた。


「マジで!? ワイバーンちゃん、いるの? あたし、絶対欲しいんですけど!」


「落ち着いて、リン。あんな高いところにいる竜を、どうやって捕まえるつもり?」


「うぐぐ、たしかに……今だけでいいから翼がほしい」


「仮にリンが飛べたとしても、プリンセスちゃんとアロサウルスは飛べませんね……

 でも、竜を捕まえるには良い方法があります」


「あ、何か攻略法みたいなのがあるの?」


「攻略法というか――行けばいいんですよ。あの竜たちのところまで」


「…………はい?」


 可憐な顔でニコッと笑いながら、非常に恐ろしいことを言い出したステラ。

 クラウディアの表情も真面目そのもの、どうやら冗談ではないらしい。


 伝説のカードゲーマー、ウィリアム・ウォルターが創り出した幻想世界。

 そこにはもちろん、危険極まりない竜の巣だって存在するのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 話の途中で悪いが、ワイバーンだ!!(集中線)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ