第19話 深き森の魔女 その4
【 リン 】 ライフ:4000
ガラクタコロガシ
攻撃400(+300)/防御1400
装備:汎用アタッチメント・ブレード
ブリード・ワイバーン《成長1回/バースト2回》
攻撃2400/防御2400
【 ステラ 】 ライフ:2600
ダークネス・ゲンガー《成長1回》
攻撃600/防御600
「グォオオオーーーーーーッ!」
リンがターン終了を宣言すると、相手側にいた漆黒のワイバーンが青年期まで成長した。
浮気をするわけではないが、黒もかっこいいなと思ってしまう気持ちは否めない。
ターンが回ってきたステラの手には、大量のカードがそろっている。
しかし、彼女のフィールドにいるのは攻防600の黒いワイバーンだけ。
攻めにも守りにも欠ける以上、何らかの動きがあるはずだ。
「ドロー! 私の手札は7枚。
これだけあると、いろいろできちゃいますね」
「ただでさえカードを多く引けるハイランダーなのに後攻。
あの手札の多さは厄介だな」
「いいな~、あたしは2枚しかないのに」
お互いが持つ手札の枚数は、開示された情報である。
【物資取引】で妨害したものの、それがどのように影響したのかは分からない。
やがて――ついに魔女が動き出した。
「私はこのユニットを召喚します!」
Cards―――――――――――――
【 土星猫 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔
攻撃1000/防御1000
効果:このユニットは他のユニットに融合させることができる。融合するとリンクカードと同様にステータスが加算されるが、攻撃されたときの貫通ダメージが2倍になる。
スタックバースト【侵略者】:永続:このユニットは【タイプ:動物】からのダメージを受けない。融合していても発動可。
――――――――――――――――――
ステラが魔法陣から召喚すると、ニャオンと鳴きながら1匹のネコが現れる。
その姿にはリンも見覚えがあった。
「あ、さっきルームにいたネコちゃん!」
「可愛い見た目にだまされるな、妹よ。
あいつは地球を支配するために来た悪魔、外宇宙からの侵略者だ!」
「だから、何なの……その設定」
元はクトゥルフ神話の創始者であるラヴクラフト氏が、大のネコ好きだったことに始まる。
原典では神々と同じく、かなり名状しがたい姿をしているらしい。
このラヴィアンローズにおける【土星猫】は、見た目こそ地球のネコに似ているものの、邪悪な宇宙生物という設定は変わらない。
それゆえ、スタックバーストすると地球の【動物】からダメージを受けなくなる。
「【土星猫】、融合!
対象は私の【ダークネス・ゲンガー】!」
ステラが指示を出すとネコはワイバーンに飛びつき、そのままズブズブと体内に潜り込んでしまった。
その直後、ワイバーンは全身を震えさせながら異形の化け物へと変貌していく。
皮膚からは竜の鱗が消え、昆虫のように黒光りする強靭な外骨格へ。
両目は完全に退化して消滅。
無数の牙が生えた口からは、紫色の長い舌がズルズルと伸びる。
「キュルルルル! キシャアアァーーーッ!」
融合が完了したとき、そこには外宇宙からの侵略者が姿を現していた。
かくして、森で始まったクラスメイト同士の決闘は、『三頭ワイバーンVS宇宙ワイバーン』という怪獣大決戦へと発展したのである。
「可愛くなーーーーーい!!」
「この状況を見た第一声がそれかよ!」
「どうして……!?
かっこいいワイバーンと、可愛いネコちゃんが合体したのに、どうしてこんな姿に!?」
「まあ……ネコちゃんのほうは宇宙生物だからな」
ステラのフィールドにいる【ダークネス・ゲンガー】は、リンのワイバーンから姿と能力をコピーし、さらに宇宙ネコと融合して異形へと変貌した。
その恐ろしげな姿は、コウモリとトカゲと虫の遺伝子を組み合わせたような感じで、とてもネコが混ざっているとは思えない。
そして、そんな凶悪な生物を従えておきながら、リンと対峙したステラはニコニコと笑っている。
まさに深淵の魔女と呼ぶべき対戦相手は、6枚の手札を見せつけるように掲げた。
「さて、このターン……
私は残りの手札を全部使って、リンを仕留めます」
「仕留めるって……こっちのライフは4000も残ってるよ?
三本首のワイバーンだっているし、ステラはスタックバーストが使えないはずなのに。
それとも、同じカードが2枚なくてもバーストできる方法があるの?」
「いや、ない。
スタックバーストの発動には必ず2枚の同種同名ユニットが必要だ。
同じカードが入っていないハイランダーは、バーストを封印されている。
だが、気をつけろ……相手はそれを前提にデッキを組んでるはずだ」
兄の言葉に、リンはフィールドと自分の手札を確認しながら身構えた。
元々のステータスが600しかないワイバーンだけで、しかも【土星猫】に召喚の枠を使ったステラ。
そんな状態から、一体どうやって火力を出すというのか。
「まずはこれです。
プロジェクトカード発動、【同族殺しの大罪】!」
Cards―――――――――――――
【 同族殺しの大罪 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:ターン終了まで、同じタイプのユニットとバトルした場合、ユニットの攻撃ステータスは2倍になる。
――――――――――――――――――
「こ、攻撃力が2倍!?」
「やっぱり、使ってきたか!
相手と同じタイプに化ける【ダークネス・ゲンガー】には、最高に相性がいいカードだ」
現在、フィールドで睨みあっているワイバーン2体は、どちらも【タイプ:竜】。
【ダークネス・ゲンガー】はステータスや能力の他にも、相手のタイプをコピーすることができる。
このままバトルすれば宇宙ワイバーンの火力は跳ね上がり、リンは主力を失うことになるだろう。
よって、ワイバーン同士で戦うという選択肢はない。
いや、奪われたのだ。
「(あたしのフィールドにいる【ガラクタコロガシ】は【タイプ:動物】。
ワイバーン同士で戦わなければ大丈夫だよね)」
「次は、このカードです。【使い魔の助力】!」
Cards―――――――――――――
【 使い魔の助力 】
クラス:コモン★ プロジェクトカード
効果:★1かつ【タイプ:悪魔】のユニットを手札から召喚する。この効果は通常の召喚に含まれない。
――――――――――――――――――
★1コモンに限定されているが、別枠で悪魔族のユニットを召喚できるカード。
当然ながら、ステラの手札にはユニットが確保されていた。
Cards―――――――――――――
【 トリック・デーモン 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃200/防御200
効果:このユニットがガードした場合、自プレイヤーへの貫通ダメージが無効化される。
後攻効果:自プレイヤーのユニットが貫通ダメージを与えたとき、このユニットの攻撃を上乗せする。
スタックバースト【バイバイ☆】:瞬間:このユニットを持ち主の手札に戻す。
――――――――――――――――――
「キシシッ☆」
魔法陣からフィールドに現れたのは幼年期の子供。
女の子の姿をしているが、頭には角、腰からは悪魔の尻尾。
そして、背中に生えた翼でパタパタ飛んでいる。
ニヤリと不敵に笑う姿は、まさにイタズラ好きな小悪魔という感じだ。
「うわ~、可愛い!
けど……えぐい能力してるね」
「私は後攻なので、もちろん効果が発動します」
「くっ、貫通ダメージを受けたら攻撃力ぶん上乗せ……
その上、こっちの攻撃は1回だけ実質的に無効化されるって、ひどくない?
さっきのネコちゃんといい、可愛いカードなのに凶悪だよ~!」
「可愛いから凶悪とは限りませんけど……
ほら、この子たちは【タイプ:悪魔】ですから。
じゃあ、次のカードを使いますね」
Cards―――――――――――――
【 マンドラゴラ・ポーション 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:自プレイヤーのライフを1000ポイント回復させる。4000以上にはならない。
このカードは1ゲームに1回しか使えず、相手よりもライフが多い場合は発動できない。
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『ステラ、残りライフ3600』
「あっ、ちょっ、回復!?」
「いい状況で使ったな~。
このゲームには回復カードもあるが、かなり制約がきついんだ」
【マンドラゴラ・ポーション】はライフを1000も回復させる強力なカードだ。
ただし、1ゲームに1回という使用制限があり、かつ自分が勝っている側だとまったく役に立たない。
それゆえ、使う場合はデッキに1枚だけ入れておくようなカードなのだが、そもそもハイランダーは全てのカードが1枚ずつなので問題ない。
「このポーション、実は【物資取引】で引いたんです。
前の手札なら、もっと火力を出せたはずですが……
カード3枚の強制交換は、さすがに計算が狂いました」
「あ、ちゃんと効いてたんだ」
「はい、今からリンに与えるダメージが500くらい減ったと思います」
「うげっ! 危なかった~!
でも、いろいろ使ったみたいだし、残りの手札は2枚だよね?
今の状態だと、あたしを仕留められないと思うんだけど」
「ここまでは配置と数字の調整でしたからね。
この2枚が本命、とっておきの切り札です。
じゃあ、いきますよ――私が持つ最高のリンクカード!
【魔導書『ネクロノミコン』】!」
Cards―――――――――――――
【 魔導書『ネクロノミコン』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:このカードを装備させるとき、自分のライフを半分まで支払える。
支払ったライフと同数の攻撃ステータスを、装備したユニットに追加する。
――――――――――――――――――
カードを発動させた直後、ステラの前に1冊の古びた本が現れた。
クトゥルフ神話の中でも特に有名であり、非常に危険とされる禁断の【魔導書『ネクロノミコン』】。
あまりにも常軌を逸した内容は、読んだ者を発狂させるほどだという。
本に邪悪な魂が宿っているとも言われ、持っているだけで命を吸われる危険物。
その魔導書に向かってステラが手をかざすと、ものすごい勢いでライフカウンターが減っていく。
「この本にライフの半分を捧げます!」
『ステラ、残りライフ1800』
「回復させたライフを、また減らした!?」
「いや、ここで少しでも多く捧げるための回復だったんだ。
あれがネクロノミコン……★3レアカードか!」
兄妹が驚愕する向かい側で、ステラの生命力を吸った魔導書が変形していく。
それはドロドロと溶けるように液状化して赤黒い血の塊になり、宇宙生物と化した【ダークネス・ゲンガー】の上に垂れ落ちた。
「キシャアアアアァーーーーーッ!!」
契約者の血を浴び、ひときわ大きな咆哮を放った宇宙ワイバーンは、青白いオーラを身にまとう。
その攻撃力――3400。
しかも、このターンは【同族殺しの大罪】により、ワイバーン同士で戦うと攻撃が2倍になる。
「ええええ~~~っ、うっそでしょ!
ワイバーンでガードしたら……攻撃力6800!?」
さすがのリンも、これには青ざめた。宣言どおりの確殺。
もはやワイバーンでガードしたら、オーバーキルもいいところだ。
必然的に【ガラクタコロガシ】でやり過ごすことになるのだが、それでも貫通ダメージは2000。
兄との戦いで800くらいのダメージをやり取りしていたのが遠い過去のように感じる。
「驚くのは早いですよ。
これが最後の1枚……リンクカード、【調停者のガベル】!」
Cards―――――――――――――
【 調停者のガベル 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装備されているユニットの攻撃ステータスをXにする。
Xは『対戦者のライフ-自分のライフ』の値に等しく、ゼロ以下にはならない。
――――――――――――――――――
今度は小さな悪魔【トリック・デーモン】の手に、木製のハンマーが握られた。
ガベルとは、法定で裁判長が『静粛に!』と言いながらガンガン叩くハンマーのこと。
本来ならライフの差に基づいて公平な審判が下されるはずだが、よりにもよってガベルを持ったのは悪魔。
そして、ステラは自分からライフを減らしまくったため――
「あのデーモンの効果で……
か……貫通ダメージに上乗せ2200……」
「はははは……笑うしかないな、こりゃ」
あまりの数字に、リンは愕然とするしかなかった。
これで完全に一撃必殺の射程圏内。
ターン開始時には攻防600のユニットが1体いるだけだったのに、ステラは7枚もの手札を注ぎ込んで布陣を完成させたのだ。




