表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/297

第19話 深き森の魔女 その4

【 リン 】 ライフ:4000

ガラクタコロガシ

 攻撃400(+300)/防御1400

 装備:汎用アタッチメント・ブレード

ブリード・ワイバーン《成長1回/バースト2回》

 攻撃2400/防御2400


【 ステラ 】 ライフ:2600

ダークネス・ゲンガー《成長1回》

 攻撃600/防御600

「グォオオオーーーーーーッ!」


 リンがターン終了を宣言すると、相手側にいた漆黒のワイバーンが青年期まで成長した。

 浮気をするわけではないが、黒もかっこいいなと思ってしまう気持ちは(いな)めない。


 ターンが回ってきたステラの手には、大量のカードがそろっている。

 しかし、彼女のフィールドにいるのは攻防600の黒いワイバーンだけ。

 攻めにも守りにも欠ける以上、何らかの動きがあるはずだ。


「ドロー! 私の手札は7枚。

 これだけあると、いろいろできちゃいますね」


「ただでさえカードを多く引けるハイランダーなのに後攻。

 あの手札の多さは厄介だな」


「いいな~、あたしは2枚しかないのに」


 お互いが持つ手札の枚数は、開示された情報である。

 【物資取引(トランザクション)】で妨害したものの、それがどのように影響したのかは分からない。


 やがて――ついに魔女が動き出した。


「私はこのユニットを召喚します!」


Cards―――――――――――――

【 土星猫(サタンキャット) 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔

 攻撃1000/防御1000

 効果:このユニットは他のユニットに融合させることができる。融合するとリンクカードと同様にステータスが加算されるが、攻撃されたときの貫通ダメージが2倍になる。

 スタックバースト【侵略者】:永続:このユニットは【タイプ:動物】からのダメージを受けない。融合していても発動可。

――――――――――――――――――


 ステラが魔法陣から召喚すると、ニャオンと鳴きながら1匹のネコが現れる。

 その姿にはリンも見覚えがあった。


「あ、さっきルームにいたネコちゃん!」


「可愛い見た目にだまされるな、妹よ。

 あいつは地球を支配するために来た悪魔、外宇宙からの侵略者だ!」


「だから、何なの……その設定」


 元はクトゥルフ神話の創始者であるラヴクラフト氏が、大のネコ好きだったことに始まる。

 原典では神々と同じく、かなり名状しがたい姿をしているらしい。


 このラヴィアンローズにおける【土星猫(サタンキャット)】は、見た目こそ地球のネコに似ているものの、邪悪な宇宙生物という設定は変わらない。

 それゆえ、スタックバーストすると地球の【動物】からダメージを受けなくなる。


「【土星猫(サタンキャット)】、融合!

 対象は私の【ダークネス・ゲンガー】!」


 ステラが指示を出すとネコはワイバーンに飛びつき、そのままズブズブと体内に潜り込んでしまった。

 その直後、ワイバーンは全身を震えさせながら異形の化け物へと変貌していく。


 皮膚からは竜の鱗が消え、昆虫のように黒光りする強靭な外骨格へ。

 両目は完全に退化して消滅。

 無数の牙が生えた口からは、紫色の長い舌がズルズルと伸びる。


「キュルルルル! キシャアアァーーーッ!」


 融合が完了したとき、そこには外宇宙からの侵略者が姿を現していた。

 かくして、森で始まったクラスメイト同士の決闘(デュエル)は、『三頭(トライヘッド)ワイバーンVS宇宙(スペース)ワイバーン』という怪獣大決戦へと発展したのである。


「可愛くなーーーーーい!!」


「この状況を見た第一声がそれかよ!」


「どうして……!?

 かっこいいワイバーンと、可愛いネコちゃんが合体したのに、どうしてこんな姿に!?」


「まあ……ネコちゃんのほうは宇宙生物だからな」


 ステラのフィールドにいる【ダークネス・ゲンガー】は、リンのワイバーンから姿と能力をコピーし、さらに宇宙ネコと融合して異形へと変貌した。

 その恐ろしげな姿は、コウモリとトカゲと虫の遺伝子を組み合わせたような感じで、とてもネコが混ざっているとは思えない。


 そして、そんな凶悪な生物を従えておきながら、リンと対峙したステラはニコニコと笑っている。

 まさに深淵の魔女と呼ぶべき対戦相手は、6枚の手札を見せつけるように(かか)げた。


「さて、このターン……

 私は残りの手札を全部使って、リンを仕留めます」


「仕留めるって……こっちのライフは4000も残ってるよ?

 三本首のワイバーンだっているし、ステラはスタックバーストが使えないはずなのに。

 それとも、同じカードが2枚なくてもバーストできる方法があるの?」


「いや、ない。

 スタックバーストの発動には必ず2枚の同種同名ユニットが必要だ。

 同じカードが入っていないハイランダーは、バーストを封印されている。

 だが、気をつけろ……相手はそれを前提にデッキを組んでるはずだ」


 兄の言葉に、リンはフィールドと自分の手札を確認しながら身構えた。

 元々のステータスが600しかないワイバーンだけで、しかも【土星猫(サタンキャット)】に召喚の枠を使ったステラ。

 そんな状態から、一体どうやって火力を出すというのか。


「まずはこれです。

 プロジェクトカード発動、【同族殺しの大罪】!」


Cards―――――――――――――

【 同族殺しの大罪 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:ターン終了まで、同じタイプのユニットとバトルした場合、ユニットの攻撃ステータスは2倍になる。

――――――――――――――――――


「こ、攻撃力が2倍!?」


「やっぱり、使ってきたか!

 相手と同じタイプに化ける【ダークネス・ゲンガー】には、最高に相性がいいカードだ」


 現在、フィールドで(にら)みあっているワイバーン2体は、どちらも【タイプ:竜】。

 【ダークネス・ゲンガー】はステータスや能力の他にも、相手のタイプをコピーすることができる。


 このままバトルすれば宇宙ワイバーンの火力は跳ね上がり、リンは主力を失うことになるだろう。

 よって、ワイバーン同士で戦うという選択肢はない。

 いや、奪われたのだ。


「(あたしのフィールドにいる【ガラクタコロガシ】は【タイプ:動物】。

 ワイバーン同士で戦わなければ大丈夫だよね)」


「次は、このカードです。【使い魔の助力】!」


Cards―――――――――――――

【 使い魔の助力 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:★1かつ【タイプ:悪魔】のユニットを手札から召喚する。この効果は通常の召喚に含まれない。

――――――――――――――――――


 ★1コモンに限定されているが、別枠で悪魔族のユニットを召喚できるカード。

 当然ながら、ステラの手札にはユニットが確保されていた。


Cards―――――――――――――

【 トリック・デーモン 】

 クラス:コモン★ タイプ:悪魔

 攻撃200/防御200

 効果:このユニットがガードした場合、自プレイヤーへの貫通ダメージが無効化される。

 後攻効果:自プレイヤーのユニットが貫通ダメージを与えたとき、このユニットの攻撃を上乗せする。

 スタックバースト【バイバイ☆】:瞬間:このユニットを持ち主の手札に戻す。

――――――――――――――――――


「キシシッ☆」


 魔法陣からフィールドに現れたのは幼年期の子供。

 女の子の姿をしているが、頭には角、腰からは悪魔の尻尾。

 そして、背中に生えた翼でパタパタ飛んでいる。

 ニヤリと不敵に笑う姿は、まさにイタズラ好きな小悪魔という感じだ。


「うわ~、可愛い!

 けど……えぐい能力してるね」


「私は後攻なので、もちろん効果が発動します」


「くっ、貫通ダメージを受けたら攻撃力ぶん上乗せ……

 その上、こっちの攻撃は1回だけ実質的に無効化されるって、ひどくない?

 さっきのネコちゃんといい、可愛いカードなのに凶悪だよ~!」


「可愛いから凶悪とは限りませんけど……

 ほら、この子たちは【タイプ:悪魔】ですから。

 じゃあ、次のカードを使いますね」


Cards―――――――――――――

【 マンドラゴラ・ポーション 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:自プレイヤーのライフを1000ポイント回復させる。4000以上にはならない。

 このカードは1ゲームに1回しか使えず、相手よりもライフが多い場合は発動できない。

――――――――――――――――――


『ステラ、残りライフ3600』


「あっ、ちょっ、回復!?」


「いい状況で使ったな~。

 このゲームには回復カードもあるが、かなり制約がきついんだ」


 【マンドラゴラ・ポーション】はライフを1000も回復させる強力なカードだ。

 ただし、1ゲームに1回という使用制限があり、かつ自分が勝っている側だとまったく役に立たない。

 それゆえ、使う場合はデッキに1枚だけ入れておくようなカードなのだが、そもそもハイランダーは全てのカードが1枚ずつなので問題ない。


「このポーション、実は【物資取引(トランザクション)】で引いたんです。

 前の手札なら、もっと火力を出せたはずですが……

 カード3枚の強制交換は、さすがに計算が狂いました」


「あ、ちゃんと効いてたんだ」


「はい、今からリンに与えるダメージが500くらい減ったと思います」


「うげっ! 危なかった~!

 でも、いろいろ使ったみたいだし、残りの手札は2枚だよね?

 今の状態だと、あたしを仕留められないと思うんだけど」


「ここまでは配置と数字の調整でしたからね。

 この2枚が本命、とっておきの切り札です。

 じゃあ、いきますよ――私が持つ最高のリンクカード!

 【魔導書『ネクロノミコン』】!」


Cards―――――――――――――

【 魔導書『ネクロノミコン』 】

 クラス:レア★★★ リンクカード

 効果:このカードを装備させるとき、自分のライフを半分まで支払える。

 支払ったライフと同数の攻撃ステータスを、装備したユニットに追加する。

――――――――――――――――――


 カードを発動させた直後、ステラの前に1冊の古びた本が現れた。

 クトゥルフ神話の中でも特に有名であり、非常に危険とされる禁断の【魔導書『ネクロノミコン』】。

 あまりにも常軌を逸した内容は、読んだ者を発狂させるほどだという。


 本に邪悪な魂が宿っているとも言われ、持っているだけで命を吸われる危険物。

 その魔導書に向かってステラが手をかざすと、ものすごい勢いでライフカウンターが減っていく。


「この本にライフの半分を捧げます!」


『ステラ、残りライフ1800』


「回復させたライフを、また減らした!?」


「いや、ここで少しでも多く捧げるための回復だったんだ。

 あれがネクロノミコン……★3レアカードか!」


 兄妹が驚愕(きょうがく)する向かい側で、ステラの生命力を吸った魔導書が変形していく。

 それはドロドロと溶けるように液状化して赤黒い血の塊になり、宇宙生物と化した【ダークネス・ゲンガー】の上に垂れ落ちた。


「キシャアアアアァーーーーーッ!!」


 契約者の血を浴び、ひときわ大きな咆哮を放った宇宙ワイバーンは、青白いオーラを身にまとう。

 その攻撃力――3400。

 しかも、このターンは【同族殺しの大罪】により、ワイバーン同士で戦うと攻撃が2倍になる。


「ええええ~~~っ、うっそでしょ!

 ワイバーンでガードしたら……攻撃力6800!?」


 さすがのリンも、これには青ざめた。宣言どおりの確殺。

 もはやワイバーンでガードしたら、オーバーキルもいいところだ。


 必然的に【ガラクタコロガシ】でやり過ごすことになるのだが、それでも貫通ダメージは2000。

 兄との戦いで800くらいのダメージをやり取りしていたのが遠い過去のように感じる。


「驚くのは早いですよ。

 これが最後の1枚……リンクカード、【調停者のガベル】!」


Cards―――――――――――――

【 調停者のガベル 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットの攻撃ステータスをXにする。

 Xは『対戦者のライフ-自分のライフ』の値に等しく、ゼロ以下にはならない。

――――――――――――――――――


 今度は小さな悪魔【トリック・デーモン】の手に、木製のハンマーが握られた。

 ガベルとは、法定で裁判長が『静粛に!』と言いながらガンガン叩くハンマーのこと。


 本来ならライフの差に(もと)づいて公平な審判が下されるはずだが、よりにもよってガベルを持ったのは悪魔。

 そして、ステラは自分からライフを減らしまくったため――


「あのデーモンの効果で……

 か……貫通ダメージに上乗せ2200……」


「はははは……笑うしかないな、こりゃ」


 あまりの数字に、リンは愕然(がくぜん)とするしかなかった。

 これで完全に一撃必殺の射程圏内。

 ターン開始時には攻防600のユニットが1体いるだけだったのに、ステラは7枚もの手札を注ぎ込んで布陣を完成させたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ