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第12話 夜の小話

 がらんと静まり返ったミッドガルドのコテージで、ただひとり椅子に座る影。

 リンたちが合宿を楽しんでいる一方、ユウは誰もいない拠点でコーヒーを飲んでいた。


「おやおや~? こんなところでサボッとるヤツがおるなぁ」


「ログインしてる時点で、お互い様だろ。息抜きだよ、息抜き」


 そこにやってきたのは、同じくオフ会に参加しなかったサクヤ。

 いつものように感情にあわせて動くキツネの耳と、腰の後ろで揺れるフサフサの尻尾。

 他に誰もいないコテージの中で、彼女の姿はよく目立つ。


「コーヒー飲むか? サクヤが緑茶派なのは知ってるけど」


「別に嫌いやないで、おおきに」


「リンたちは楽しくやってるみたいだな。そっちにも送られてきただろ?」


「山で撮った写真なぁ。ほんま、楽しそうでうらやましいわ」


「まったく、人の気も知らないで……★4の野生モンスターに金色のブランクカード。

 ずいぶんと重要な情報まで、盛大によこしてくれたもんだ」


「ほんま、うちらには毒よな~。

 テストが終わったら、パーッと冒険して探しに行こか!」


「おう! こんな面白そうなものを見せられて、黙ってられるかよ!」


 ユウはリンから、サクヤはステラから、遠征やオフ会の様子を写真で知らされている。

 参加せずにテスト勉強をしていた2人には、たまったものではない。

 かといって、妹や後輩が心底楽しそうなので怒ることもできず、とりあえずログインして気を紛らわせていた。


「リアルの様子も送られてきたけど、ほんま、いつもの顔と全然変わらんなぁ。可愛らしい子たちやわ」


「ステラちゃんが魔女じゃないのは新鮮だったけどな」


「ああ、他の服を見たことないんか。

 あの子にとって魔女の服は『自分』を引き出す大事なもんやからな。

 3ヶ月も毎日()うてたら、何となく分かるやろ?」


「そうだな、ステラちゃんは少し優しすぎるところがある。

 それは決して悪いことじゃないんだが、カードゲームをする上では欠点になりがちだ。

 だから魔女の姿になって、足りない部分を補ってるのか」


 ステラは”良い子”だが、それを演じているわけではなく、彼女自身の性格として定着させてしまっている。

 人間的には大きな信頼につながり、関わる人々からも好感を得られるはずだ。


 だが、世の中にはお行儀の悪さや物事の後先などまったく考えずに、ガンガン突き進んでいったほうが良い場合もある。

 リンがまさにそれであり、両者は親友でありながら対象的な生きかたをしていた。


「イノシシみたいに突っ込んでいくウチの妹に、しっかり者のステラちゃん、みんなの頭脳(ブレイン)になるクラウディア。

 いいバランスだと思うぞ、このギルドのJCたちは」


「ふふふっ、よう見とるな~。

 あんたに年下の子を任せとるおかげで、うちは自由にやらせてもろてるし。いつも感謝してんで」


「そ、そうか? まあ、世話が焼ける年下の扱いなら、歴10年以上のキャリアだからな。

 ところで――せっかく会ったんだし、少し遊んでいかないか?」


「何かしたいことでもあるん?」


「もちろん、決闘(デュエル)に決まってるだろ! 1戦だけでいいから付き合ってくれよ」


「好っきやなぁ~。実際、それくらいしかできることもあらへんけど。

 まあ、ええわ。試してみたいカードもあるし、息抜きに1戦だけやで?

 この『禍巫女(まがみこ)サクヤ』に勝負を挑んだからには、ボコボコにされても文句言わんといてや」


「へぇ、へぇ、お手柔らかに」


 それぞれ飲み物を片付けて、コテージから移動することにした2人。

 サクヤが入口のドアまで進んだところで、ふと背後にいたユウが声をかける。


「なあ、サクヤ」


「ん~?」


「住んでる場所が遠いから、難しいとは思うけどさ。

 またオフ会があったら来てみないか?

 リンやステラちゃんも喜ぶだろうし、俺も参加すれば全員揃うだろ?」


「ふぅ~ん? そんなにリアルでも、うちと会いたいん?」


「いや、そ……そういうつもりで言ったわけじゃなくてだな!」


「クスッ、まあ考えとくわ。

 ただ……リアルやと”これ”は付いとらんから、期待したらあかんで」


 言いながら、キツネの尻尾を左右に振ってみせるサクヤ。

 そんなものが付いていたら人間ではないのだが、妖狐に化かされているのではないかと思うほど掴みどころがないのも事実。


 先ほどの挑発も、どこまでが本気なのかは分からない。

 クスクスと無邪気な笑顔でコテージを出ていく彼女の姿に、ユウも苦笑しながら足を進めたのだった。



 ■ ■ ■



「う~~~~~~~~んんん、最っ高の朝だね!」


「こうして街を見下ろすと、まるで天下を取ったように感じますな」


 自宅から持ってきたパジャマ姿のまま、リビングの窓辺で大きく背伸びするリンとソニア。

 ガラス越しに見える街は、さわやかな朝を迎えたところだった。


「ソニア軍曹、今日の予定は?」


「はっ! 午前中に勉強を終わらせて、お昼を食べたら山へ遠征!

 リン殿は引き続きドラゴンを探し、わたしはグリフォンを見つけ次第、しばくであります!」


「よろしい、今日もみんなで勝利を掴み取ろうではないか!

 わーーーーっはっはっはっ!!」


「わーーーーっはっはっはっ!!」


 昨夜は寝室で女子トークをしているうちに、いつの間にかぐっすりと寝入ってしまった。

 よって、体力は完全回復。2人とも起きたばかりとは思えないテンションで、腰に手を当てながら朝日に向かって笑う。


「朝から何を騒いでるのよ……妹が2人に増えたみたい」


「ふふっ、こんなに賑やかな朝は初めてです」


 呆れた顔のクラウディアと、友人と共に迎えた朝を楽しんでいるステラ。

 ユウが語ったように性格はバラバラだが、不思議と相性が良い少女たち。


 合宿2日目の朝。大きな窓から射し込む太陽は、人々に希望と活力を与えているようだった。

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