第9話 大雪嶺に竜を求めて その4
【アンフィスバエナ(頭)】
攻撃10000/HP8200
【アンフィスバエナ(尻尾)】
攻撃10000/HP1400
【 リン 】 ライフ:4000
プリンセス・ドレイク
攻撃2200(+3800)/防御2200(+2000)
ブラックバーニング・アロサウルス
攻撃2500(+3800)/防御1500(+2000)
【 ソニア 】 ライフ:4000
スカイグリード
攻撃1600(+1500)/防御1600
分身デコイ
攻撃0/防御0
奇怪な双頭の蛇竜【アンフィスバエナ】。実装されたばかりの★4野生モンスターであり、遭遇する機会は極めて低い。
襲われたプレイヤーたちの悲鳴を聞き逃していたら、おそらく出会えなかっただろう。
ミッドガルドの仕様によって4倍に強化されたステータスと、数々の凶悪な能力。
そんな相手に戦いを挑み、ソニアは1ターンで5桁ものHPを削り取った。
さらには頭部にまでダメージを拡散させ、自分自身を守れるようにデコイを設置。
戦闘していないメンバーからの支援があったとはいえ、この活躍には姉も腕組みしながら目を細める。
「正直、あの子がここまでやるとは思わなかったわ」
「先攻1ターンで、ほとんど勝ちを決めちゃいましたよね。
今日はお姉さんも見てくれてますし、いつも以上に頑張ってるみたいです。
あとはリンのほうですけど……まずは敵側が動くターン」
1万という、おおよそ通常の決闘では見ることがない攻撃力。先ほど襲われていたギルドの人々が全滅してしまったのも無理はない。
両腕の鎌を振り上げた蛇竜に対し、リンは自身のユニットに指示を出す。
「プリンセスちゃん、ガードをお願い!」
「がうっ!」
初めて戦闘の指示を受けたプリンセスは、前進してドラゴンのような両腕を突き出した。
我がままではあるが、決闘ではユニットとして従ってくれている。
「まさか、【プリンセス・ドレイク】で受けるつもり?
攻撃は強化が乗って6000だけど、防御は4200しかないわよ」
「強化効果を防御に集中させる【タクティカル・ディフェンス】でも、プリンセスは耐えられませんね。
ここは【ワールウィンド】で回収して、2200ダメージで済ませるのが妥当でしょうか」
ステラたちが予想したのは、どちらもリンが使い込んできた定番のカウンター。
しかし、彼女のデッキはすでに大きく組み変わっていた。
竜タイプを主軸にしたことにより、使うカードも今までとはまったく違うものになる。
「ドラゴンデッキを使うのは初めてだけど――見よう見真似!
カウンターカード、【ウォール・オブ・ドラゴン】!」
Cards―――――――――――――
【 ウォール・オブ・ドラゴン 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:自プレイヤーが所有する【タイプ:竜】1体を目標に発動。
ターン終了時まで、目標のユニットの攻撃力を防御力に加算する。
その後、次の自ターン終了時まで、目標のユニットは攻撃力がゼロまで低下する。
――――――――――――――――――
かつてサクラバが使い、スピノサウルスの突進を防ぎきった1枚。
攻撃力がそのまま加算されるため、【プリンセス・ドレイク】の防御力は10200という驚異的な数値に達した。
「がぁうっ!」
ガードの体勢に入ったプリンセスが左右に手をかざすと、障壁のように赤い水晶塊が展開される。
彼女のモチーフである水晶竜の力。どうやら自身の手足ではなく、硬質化した結晶を操って戦うようだ。
「シャアアアアーーーーーーーッ!」
真正面から障壁を破壊せんと大鎌を振るう【アンフィスバエナ】。
巨大かつ歪な蛇竜と、人間の子供くらいしかない水晶竜の姫。
ゴォオオンと甲高い音が響き、激突する5桁のステータス。
鋼鉄だろうと切り裂いてしまいそうな★4モンスターの強撃を、わずか200の差で水晶塊が防ぎきる。
「竜タイプ専用のカウンターカード!
外的な要素が加わったとはいえ、攻撃力1万を耐えましたか……!」
「なるほど、主力が変わればカードも変わる。これまでとは違う動きを模索しているみたいね」
【ウォール・オブ・ドラゴン】は強力な反面、次のターンに攻撃できなくなるというデメリットがあるのだが、【プリンセス・ドレイク】の効果によって竜タイプのユニットは弱体化を受けない。
こういった部分もサクラバを模倣した戦略だ。リンはたった一度の試合から学び、得た知識を自分のものにしようとしている。
が――しかし、モンスターの効果までは防げなかった。
【アンフィスバエナ】が大きく羽ばたくと、プリンセスは強制的にリンの手札へと戻されてしまう。
「おおっと、ほんとに厄介な能力だよね。でも、これでそっちの行動は終わりでしょ?
プリンセスちゃん、もう1回出てきて! あたしのターンだよ!」
「がううううっ!」
自分の行動が回ってきたリンは、真っ先にプリンセスを召喚して戦線を立て直す。
ターンが切り替わったことで、クラウディアがたちが支援してくれたカードの効果はなくなり、今は竜タイプの強化効果だけが頼りだ。
「このままだと足りないから、アロサウルスにリンクカードを装備! 【エレメンタル・コア】!」
Cards―――――――――――――
【 エレメンタル・コア 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装着時に攻撃力+600か防御力+600の一方を選ぶ。
【タイプ:竜】のユニットに装備させた場合、両方の強化効果を得られる。
――――――――――――――――――
これもサクラバから譲り受けた1枚、エネルギーを帯びた結晶体のような装備品で、属性の力を引き出す効果がある。
かつてクラゲ型のユニット【ポイズンヒドロ】に装備させたときは、青い水の力。
そして今回、灼熱に燃えるアロサウルスの胸部に埋め込まれたコアは、炎の力を受けて真っ赤に発光した。
「アロさん! 手札に戻されても大丈夫だから、思いっきりやっちゃって!」
「ゴガァアアアアアアアーーーーーッ!!」
プリンセスによる支援と、コアの強化が乗った火炎放射。
さすがに尻尾のほうまでは届かなかったが、蛇竜の頭から5100ものHPを削り取る。
「ギェエエエエエーーーーーーーッ!!」
絶叫しながらもカウンターで羽ばたき、アロサウルスを手札に戻す【アンフィスバエナ】。
攻撃や防御のたびにユニットが戻されるため、長期戦になるとプレイヤー側は追い詰められてしまう。
しかし、仲間たちの支援もあって、もはや蛇竜の頭に残されたHPは3100。
竜タイプのユニットが1体減ったことで強化効果は下がったものの、【プリンセス・ドレイク】の攻撃力は――3200。
「これでとどめ! プリンセスちゃん、攻撃宣言!」
「がぁあ~~~~……」
腕を高く振り上げ、攻撃のモーションに入ったプリンセス。なんとも可愛らしい予備動作だが――
「うっ!」
彼女が地面に両手を叩きつけた瞬間、【アンフィスバエナ】の真下から巨大な水晶が突き上がる。
まるで自然のパイルバンカー。強烈な一撃を受けた蛇竜の頭は、全てのHPを失って沈黙した。
「うわ~、思ったより派手な攻撃するね……ソニアちゃん、あとは任せたよ!」
「了解であります! まずは【分身デコイ】でガード!」
「ギシャオオオオーーーーーーーーッ!!」
ソニアのほうは今、蛇竜の尻尾が攻撃しているターン。
2体いるかのように見える【スカイグリード】に向かって攻撃力1万、かつ防御無視という凶悪な酸のブレスが吹き付けられる。
無論、そんなものはまともに受けていられない。
酸を浴びて溶けながら消滅したのは、前のターンに仕込んでおいたデコイであった。
「わたしのターン! あとは1発殴るだけで終幕!
リン殿のように、いっぺん叫んでみたかったのです!」
そして、最後の一撃はソニアに託される。相手の残りHPは1400なため、もはや何の小細工もいらない。
粒子化して消えゆくデコイの後ろから現れ、猛然と突撃するワシのユニット。ダメ押しで乗った【アネモイの祝福】が烈風を呼ぶ。
「【スカイグリード】で攻撃宣言! これが! わたしの!
ん、ん……んんんんん~っ……ファイナルアターーーーーーーーーーーーーック!!」
「あたし、そんなに溜めてから叫んでるかな?」
一陣の風が吹き抜けるかのように、蛇竜の体を貫いて最後のダメージを与える【スカイグリード】。
膨大なHPを誇っていた2つの部位が撃破され、★4モンスター【アンフィスバエナ】は断末魔を上げながら消えていく。
「ギィエエエエエェェェーーーーーーーー…………」
その消滅演出は他のモンスターよりも長く、蛇竜が特別な徘徊ボスであることを表していた。
強大な敵を倒し、それが虚空へと消えていく瞬間まで見届けた少女たちの顔は――
戦闘終了と同時に、一気に華やかな笑顔へと変わったのだった。




