第8話 大雪嶺に竜を求めて その3
【アンフィスバエナ(頭)】
攻撃10000/HP12000
【アンフィスバエナ(尻尾)】
攻撃10000/HP11400
【 リン 】 ライフ:4000
プリンセス・ドレイク
攻撃2200(+2000)/防御2200(+2000)
ブラックバーニング・アロサウルス
攻撃2500(+2000)/防御1500(+2000)
【 ソニア 】 ライフ:4000
スカイグリード
攻撃1600/防御1600
オボロカヅチ
攻撃1700/防御2500
ドラゴンと昆虫を混ぜ、長い尻尾の先端から第2の頭部が生えているモンスター。
なんとも奇怪な姿の【アンフィスバエナ】は、怪女メドゥーサの血液から生まれたといわれる蛇竜だ。
そこに地方伝承から取り入れた『蟻の王』の要素を加えたことで、虫のような姿になったらしい。
先ほど男性を切り裂いた両腕に指はなく、死神のごとく鋭い大鎌が光るのみ。
リンたちに気付いた怪物は、恐ろしい雄叫びを上げながら飛来してきた。
「ギシェエエエエーーーーーーーッ!!」
「いやぁ~っ! 見た目が気持ち悪ぃいいいいい~~~~っ!!」
「私たちもユニットを展開……くっ、間に合わないわ!」
虫が混ざった竜なためか、【アンフィスバエナ】は異様に素早い。
頭と尻尾は別の個体扱いになっているようで、実質的には★4モンスター2体と同等。両方を相手にすれば勝ち目はない。
突っ込んでくる双頭の蛇竜に対してクラウディアたちは対応が間に合わず、リンの正面に巨体が迫る。
「【スカイグリード】、尻尾を押さえるのです!」
「キェエエエーーーーーアッ!」
しかし、ソニアが使役するワシ型のユニット【スカイグリード】が追いついて、背後を取ることに成功。
咄嗟の機転が功を奏し、リンは頭、ソニアは尻尾に接敵して戦力を分散させた。
「ソニアちゃん、ナイスぅ!」
「飛行ユニットの強みは高水準の素早さ! 空軍からは逃れられないと知るがいい、です!」
いつもと同じく、バサッとマントをひるがえしてポーズを取るソニア。
最年少の小学生でありながら、いざ戦線に出たときの勇ましさは姉に引けを取らない。
このバトルはかなり特殊な状況になっており、頭と尻尾の動きが独立した【アンフィスバエナ】には、部位ごとに違うプレイヤーで挑むことができる。
ただし、尻尾側のユニット効果によって群れとしては同一。
さらに頭側の効果で守られ、プロジェクトとカウンターの効果を一切受け付けない。
「なんだか、ややこしいことになったね……ソニアちゃんは先攻で、あたしは後攻かぁ。
最低でも1ターンは耐えなきゃいけないけど、スタックバーストが厄介だな~」
「2人とも、助けは必要かしら?」
「厳しいようなら言ってください。できる限りサポートします!」
「じゃあ、攻撃力を上げてもらえると助かるかも。
ソニアちゃんのほうは、火力が足りてないでしょ?」
「むむっ、たしかに竜が相手では分が悪い……ですが、リン殿のほうも防御の強化が必要なのでは?」
「こっちは大丈夫だから、気にしないで。かなりギリギリだけど……あんまりターンをかけたくない相手だし」
【アンフィスバエナ】の攻撃と防御は、どれも1万を超える。
そんなステータスで2つの部位から殴ってくるのは、もはや★4というクラスの暴力でしかない。
特に深刻なのはスタックバーストが常時発動しているという点。頭はユニットの強制排除、尻尾は防御貫通ダメージと、いずれも凶悪極まりない効果だ。
どちらか片方を倒してしまえば有利になりそうだが、そのためには相当な火力が必要となる。
中途半端な攻撃で時間をかけていたら、プレイヤー側の防御がもたないだろうと。リンはそう判断した。
「分かったわ。カウンターカードが効かないというのも、それはそれで有り難いのよね。
フィールド全域に発動、【千年帝国の圧政】!」
Cards―――――――――――――
【 千年帝国の圧政 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、全てのユニットは★1つにつき攻撃+300を得る。
――――――――――――――――――
同じギルドに所属している場合のみ、戦闘に参加していないメンバーはカードを使って支援することができる。
ただし、ユニットやモンスターを直接指定するものは無効。
クラウディアが発動させたのは全域に影響を及ぼすカウンターであり、ユニットたちの火力が一気に跳ね上がった。
そして、その効果から【アンフィスバエナ】は除かれる。
「そっか、この竜にはカウンターが効かないから、あたしたちだけ強くなるんだ!」
「さすが、クラウディア。しっかりと場を見ていますね。
私も続きますよ――【カウンターリフレクション】!
【千年帝国の圧政】をコピーして、効果を2倍にします!」
Cards―――――――――――――
【 カウンターリフレクション 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:相手プレイヤーが使用を宣言、または破棄したカウンターカードを指定し、対象と同じ効果のカードとして発動する。
――――――――――――――――――
さらに、ステラが支援を重ねて効果倍増。水晶洞窟の奥でも使った2人がかりの連携サポートだ。
これで★3ユニットは攻撃力が1800も増加、★2の【スカイグリード】は1200の強化を受ける。
「なんと素晴らしき共闘! お姉さま、ステラ殿、支援感謝であります!
わたしからも1枚――翼あるものに風神の加護を授けん、【アネモイの祝福】!」
Cards―――――――――――――
【 アネモイの祝福 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:永続効果。フィールドに存在する【タイプ:飛行】のユニット全てに攻撃+300。
――――――――――――――――――
ソニアの手から発動したのは、飛行デッキを補強する永続プロジェクト。
風の神々アネモイの加護により、わずかに攻撃力が上乗せされる。
かくして準備は整った。
このターン、リンは頭に対して後攻だが、素早いソニアは真っ先に開戦の狼煙を上げる。
「それでは、わたしから先制! 【スカイグリード】で攻撃宣言!
さらにスタックバースト、【エアリアル・スラッシュ】!」
「キェエエエーーーーーーーアッ!」
【スカイグリード】はバースト効果によって、防御と引き換えに攻撃力を2倍にする。
通常は3200ダメージを与えるのだが、今は強化効果が乗りに乗った状態。
【アネモイの祝福】に加え、2枚ぶん発動している【千年帝国の圧政】。
それら全てを含めた攻撃力が倍になり、この瞬間――鋭い刃と化して突っ込んだ【スカイグリード】の一撃は、6200という★2アンコモンらしからぬ数値を叩き出した。
真空の刃で斬りつけられた蛇竜の尻尾は、口から酸性のよだれを垂らしながら絶叫。威嚇するかのように大顎をガチガチと開閉させる。
「ギェエエエエエエーーーーーッ!!」
「おお~、めちゃくちゃ効いているであります! さらに追撃、【オボロカヅチ】で攻撃宣言!
”向こう”まで届くのかは不明なのですが――いざ放たん!」
カードを手に持ったソニアは、自身にアクセサリーとして装着している『属性ヲ開眼セシ者ノ左目』を発動。
左目から派手な稲妻のエフェクトが放たれ、それと同時に【オボロカヅチ】も高圧電流を身にまとう。
「全方位範囲攻撃! スタックバースト、【朧雷鳴閃】!」
「ウルォオオオオーーーーーーーーッ!!」
そして、薙ぎ払われた電光放射。ごく一部のユニットにしかできない全体攻撃。
【オボロカヅチ】は★3ではあるものの、基礎攻撃力が1700と低めに設定されている。
それを補って有り余る固有能力は、特定のタイプに対する弱体化と非常に広い攻撃範囲。
通常の戦闘では他のプレイヤーのバトルに割り込むことはできないが、今回は『同一の群れ』になっているため、両方の部位に等しく電撃が到達する。
「グェエエエエーーーーーーッ!!」
「ギィイイイイイイーーーーーーッ!!」
2つの頭から叫び声を響かせ、各部位に3800ダメージを受けた【アンフィスバエナ】。
上手くいったとガッツポーズを取るソニアだが――しかし、攻撃に反応した蛇竜の翼が大きく羽ばたく。
「あれ……? う、うわぁ~~~~っ!?」
自身に対して攻撃や防御が行われたときに発動する【アンフィスバエナ(頭)】のスタックバースト能力。
烈風を伴う羽ばたきによって【オボロカヅチ】の召喚が強制的に解かれ、ソニアの手札に戻されてしまう。
「なんと……こういう形で戻されるのですか。
しかし、もはや尻尾のほうは残りHP1400! 虫の竜だけに虫の息!
次のターンは自力で乗り切るので大丈夫ですぞ。ユニット召喚!」
まだ召喚行動を残していたソニアは、手札から新たな手駒を呼び出す。
戻された【オボロカヅチ】の再召喚も可能だったが、尻尾側のスタックバースト効果は一撃必殺。
次のターンで攻撃そのものを回避する必要があるため、彼女はここで策を講じた。
Cards―――――――――――――
【 分身デコイ 】
クラス:コモン★ タイプ:機械
攻撃0/防御0
効果:このユニットは攻撃宣言できない。このユニットがバトルしたとき、貫通ダメージを無効化する。
スタックバースト【コンテージョン・トラップ】:瞬間:このユニットが受けているステータス変化を消去し、バトル相手に移し替える。
――――――――――――――――――
まるで【スカイグリード】が2体に増えたかのように、戦場を撹乱するデコイが出現。
戦う力をまったく持たない代わりに、どれほど強力な攻撃でも1回だけ無効化できる。
たとえ防御力を無視する1万ダメージであろうと、通らなければ問題ない。
「以上で、わたしのターンは終了!」
「すっご~い! ソニアちゃん、大活躍じゃん!
頭のほうまで削ってくれて、ありがとう。あたしも頑張らないとねっ」
「ギシャオオオーーーーーーーーッ!!」
ソニアから大ダメージを受けた【アンフィスバエナ】は、怒り狂ったかのように左右の腕を振り上げる。
人間など一瞬で両断されてしまう大鎌。相手の先攻ターンを切り抜けるべく、リンもカードを手に動き出した。




