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第25話 どうしてこうなった

 火山探索の最終日。今日も今日とて危険な噴火口まで登ったリンは、赤熱した岩を叩き続ける。

 アロサウルスなどの新しいユニットは手に入ったものの、ここへ来た目標は成し遂げていない。


「えいっ! それっ!」


「ムゥムー」


 岩にピッケルを打ち下ろすリンと、マイペースに歩いている野生モンスターの【ムゥムー】。

 このおとなしい生物が周囲を歩いているのは安全な証拠だ。逆に何かに怯えて逃げ出した場合は、近くにいるプレイヤーにも危機が降りかかる。

 リンは着実に、このミッドガルドで生存していくための知識を学び得ていた。


「わう、わ~う!」


「お、今度はそこかな? ここ掘れワンワンってね」


 主人を呼び、モフモフの手で岩場を指し示すコボルド。探索中にユニットを連れていると、プレイヤーをアイテムのところまで導いてくれることがある。

 特に【タイニーコボルド】は鉱石探しが得意だ。たまに美しい宝石なども採掘できるのだが、残念ながら用途はほとんどないらしい。


「アレが1個あればいいのにな~。そろそろ見つかってほしいんだけど」


 たったひとつあればいいのに、なかなか出てこない。あるいは残り1個で揃うはずのものが、さっぱり出てこない。

 ゲームの世界での『ひとつ足りない』は鬼門だ。物欲が関係しているらしいが、なぜ入手確率が下がるのかは不明である。


 ……が、毎日のように彫り続けたことで、ようやくリンにも周回から開放される日がやってきた。


「ん? んんんんん~~~~~?

 すごく光ってる……もしかして、これがそうなのかな?」


Tips――――――――――――――

【 マグマ岩 】

 火山の溶岩地帯から、ごくまれに採掘できる珍しい岩。

 永久に熱を保ち続けているといわれ、これを家宝にする鍛冶職人も多いらしい。

 非常に高温なので取り扱い注意!

――――――――――――――――――


 オレンジ色の輝きを放つ、カボチャくらいの小ぶりな岩石。見事なほど完璧に発熱していて、輝いていない部分が一片もない。

 これこそが今回の目標、【マグマ岩】の採掘に成功したのである。


「やったぁ~! ついに見つけたよ~!」


「わあうぅ~~~!」


 コボルドと共に喜び、ようやく目的を達成したリン。

 無限に熱エネルギーを発生させ続ける物体など、現実に存在していたら永久機関である。

 こんなものを持ち帰るのは苦労しそうだが、ピッケルの先端でつつくだけで所持アイテムに収納された。


 これにて、10日間の探索は終了。

 上空を舞う不死鳥や、巨大な溶岩クジラなどのエンドコンテンツを残しつつ、ギルド【鉄血の翼】は火山から帰還する。



 ■ ■ ■



「みんな~! 新しいお友達を連れてきたよ!」


 少しだけ広くなった南の孤島。マイルームへと戻ったリンは、さっそく所持アイテムから必要なものを取り出す。

 苦労の末に採掘したばかりの【マグマ岩】と、水晶洞窟の最深部でコボルドが拾ってきた【赤晶竜の卵】。


Tips――――――――――――――

【 赤晶竜の卵 】

 こっそり盗んできた卵。

 料理に使ってもいいが、【マグマ岩】を使って温めれば孵化させることもできる。

 このアイテムを持っていると野生の赤晶竜が激怒し、優先的に襲われる。

――――――――――――――――――


「いよいよですね」


「おお~、それが詳細不明といわれている珍しい竜の卵!

 このような瞬間に立ち会えるとは感激であります!

 お姉さまも、きっと草葉の陰から見守ってくれているに違いありません」


「せやな……まさかリーダーが火山で足を踏み外して、あんなことになるなんて。

 って、生きとるわーい! 今日は来られんかっただけやろ!」


 危険な火山から打って変わって、ノリツッコミが交わされる平和な南国のビーチ。

 竜の卵が孵化するかもしれない希少な機会だが、クラウディアとユウは用事があって来ていない。

 現在はステラ、ソニア、サクヤがリンのルームを訪問しており、竜の卵が砂浜に置かれたところだった。


 ダークレッドの殻に黒い亀裂が入った、1mほどもある大きな卵。

 なぜこれを入手できたのか、まったくもって不明。

 【赤晶竜の卵】を所有している者は、ラヴィアンローズをプレイしている全世界のプレイヤーを含めて、ほとんどいないとされている。


「これに【マグマ岩】を使えばいいのかな?

 消費アイテム扱いになっちゃうみたい。なんだか、もったいないね」


「その岩自体、かなり貴重ですからね。竜の卵はさらに輪をかけて貴重……」


「ゴクリ……きっと、歴史的な瞬間を見ることになるのです」


「リン、他所(よそ)には流さんから撮影してもええか?」


「あ、うん。後であたしにも見せてね」


 この貴重な瞬間をサクヤは逃さず、一部始終を記録することにした。

 リンが【マグマ岩】を選択して使用すると、パキィンと乾いた音が響いて卵に火の粉が降り注ぐ。

 アイテムとして消費された岩は、(はかな)く砕け散ってしまったようだ。


「あ……ああああ~、苦労して掘ってきた岩が!」


 リンはこのとき初めて、希少な素材を使用するというゲーム特有の感覚を味わった。

 しかし、無駄に消滅したわけではない。火の粉を浴びた卵は光の明滅を繰り返しながら、1.5倍ほどの大きさに膨らんでいく。


「わああ~~っ、これってもしかして!」


「ついに卵が孵って……」


「卵が(かえ)……」


「いや……孵らんなぁ」


 膨らんだ卵は明滅しなくなったが、殻が割れるような気配はない。

 そのまま1分、3分、5分と過ぎていくうちに、集中していたリンたちの緊張が解けていく。


「なんだか、止まっちゃったみたい。すぐに孵るんじゃなくて、時間が掛かるのかな?」


「そうだとしても、どれくらい掛かるのか分からないですよね」


「偉大なる竜の卵。孵るのは1分後か……それとも1000年後か」


「1000年後まで続くんかいな、このゲーム」


 じっと見つめていても、まるで進行する様子がない卵。

 日差しが降り注ぐ砂浜なら冷えてしまうことはなさそうなのだが、どうも何かが足りないような気がする。


「まあ、孵るまで見てるだけじゃ退屈だし、新しいペットを作ろっか。

 ソニアちゃんは、それを見に来たんでしょ?」


(しか)り! (しか)りであります!」


 両目をキラキラと輝かせて話に飛びつくソニア。

 ユニットカードに特殊なクリスタルを使用すると、自分のルームで飼えるペットを作り出せる。

 新しく入手したカードを取り出したリンは、最初に緑色のクリスタルを埋め込んだ。


「まずは、この子からね。ガゼルちゃん!」


Cards―――――――――――――

【 ロック・ガゼル 】

 クラス:コモン★ タイプ:動物

 攻撃300/防御300

 効果:このユニットは【タイプ:植物】からのダメージを受けない。

 スタックバースト【軽やかな跳躍】:瞬間:ターン終了まで、このユニットが受けるダメージを半減する。

――――――――――――――――――


「ピィーーーッ」


 カードから飛び出したのは、しなやかな4本の足を持つ動物。

 子鹿のように愛嬌のある優しげな顔と、お尻の上でピコピコ動く短い尻尾が可愛らしい。


 すでに【アルテミス】のサポート役として活躍している【渓谷チンチラ】は、完全回避ができる代わりに1回の攻撃しか無効化できない。

 その点、ガゼルは半減なため確実性は下がるが、1ターン持続する上に攻撃以外のダメージにも対応できる。

 植物耐性という利点もあるので、状況次第で使い分けができそうだ。


「よろしくね、ガゼルちゃん。みんなと仲良くするんだよ」


「ピィッ」


 新しい仲間が現れたため、興味津々で集まってくるリンのペットたち。草食のガゼルはとても温厚なので、島の仲間に馴染んでくれるだろう。


「さて、次はお待ちかねの★3レアカード! 親分~、恐竜のお友達だよ~!」


「グルルル……」


 リンが海に向かって声をかけると、水中から巨大なワニのような顔が浮かび上がった。

 現在はルームで休息中の【パワード・スピノサウルス】。リンを全国3位にまで引き上げた立役者である。


 そんな水辺の王者が見ている前で、新たな恐竜がペットとして加わった。

 水晶洞窟の奥まで行かなければ手に入らない赤いクリスタルを使い、リンは【ブラックバーニング・アロサウルス】をペット化させる。


「ゴガァアアアアアーーーーーッ!」


「うはぁ~! やっぱり、かっこいいであります!

 漆黒の体に(くれない)の炎、まさに古代の暗黒騎士!」


 雄叫びを上げながらペットとして新生したアロサウルス。

 体から発火するという生物の常識を超えてしまった存在だが、紛れもなく地球の支配者であったジュラ紀の王。


 一方、海の中から姿を現したのは、かのティラノサウルスに匹敵するといわれている水辺の最強生物。

 生きていた時代に1億年の差があるため、決して出会うことがなかった両者。


 王と王が視線を交わし、そして――


「オオオオオオオーーーーーーッ!!」

「グルァアアアアアーーーーーーーッ!!」


 アロサウルスは激しく炎を噴き出し、スピノサウルスは大きな背びれを立てながら咆哮した。

 明らかに仲良くしてくれそうな雰囲気ではない。

 どちらも生態系の頂点。負け知らずの支配者であったがゆえに、相手のことを受け入れられないのだ。


「ええっ!? ちょっと、ケンカはダメだってば!」


「ああっ、やばいです! 恐竜大戦争が始まるのですーーーっ!」


「グォオオオオオオオオーーーーッ!」


 リンの制止も聞かず、口の中に火炎を溜めるアロサウルス。

 小さなペットたちが慌てて逃げ惑う中、灼熱の火炎放射が島を薙ぎ払う。


 その炎を回避してスピノサウルスは水中に潜り、素早い泳ぎで回り込んだ。水中に引きずり込んでしまえば、スピノに勝てる生物はいない。

 それを本能で察したアロサウルスは激しく抵抗し、両者の攻防は取っ組み合いの大げんかに発展してしまう。


「こらーーーっ! やめ……やめなさーい!

 あたしの家が壊れちゃうってば! どうして言うことを聞いてくれないの!?」


「リン、解除や! カードの中に戻したれ!」


「う……うん!」


 まさに恐竜時代のような激闘が行われている中、リンは2枚のカードを取り出して両者を収納した。

 どうにか戦いを中断させることはできたが、島の一部が巻き込まれて家屋が破損している。


「ウソでしょ……どうして、こんなことに……」


「どっちも強い恐竜なので、相手を認めたくなかったんでしょうか……壊れた部分はすぐに戻るので大丈夫ですよ」


「この島、恐竜を2匹飼うには狭すぎたんちゃうか?」


「んん~、これ以上広くするのは難しいんだよね。拡張したばかりだし、火山に行く準備でポイントも使っちゃったから」


 ここに来て響いてくる、高価なパワードスーツを買ってしまった反動。

 サクヤが言うように2体の恐竜が十分に距離を取れるような環境なら、同時に飼えるのかもしれない。


 やがて、戦いで壊れた部分の自動修復が始まった。ここが仮想世界でなければ、甚大な被害になっていたところだ。

 幸いにも他のペットたちに怪我はなく、リンの周囲に集まってくる。


「リン殿、ふと思いついたことがあるのですが」


「あ、ケンカをさせない方法がありそう?」


「いえ、スピノ氏とアロ氏のことではなく、卵の件であります。

 先ほど、赤き水晶の欠片でカードに命を与えていたのですが、もしかして……

 あの卵が孵るには、それが必要なのでは?」


「「「………………っ!」」」


 完全に盲点であった。

 この島にいるペットたちは、クリスタルの効果によって出現している。

 新たに卵からユニットが出てくるのならば、それはリンのルームに存在するペットでなければいけない。


「ほんとだ! 卵に向かって使えるよ、赤いクリスタル!」


「っちゅうことは、生まれてくるのは★3か! 名推理やで、ソニアちゃん!」


「ほんと……すごい思いつきをしますよね。その発想はなかったです」


 小学生ゆえの柔軟さか、あるいはシルフィードの血統なのか。

 いずれにせよ、ソニアの思いつきは正解だったらしく、リンは卵に向かって赤いクリスタルを使用する。

 ここまで完全にノーヒント。いったいどれだけのプレイヤーが竜の卵を発見し、孵化まで辿り着けたというのか。


 正解の道を選んでしまうと、そこから先は早かった。

 今まで微動だにしなかった卵の殻にパキッと亀裂が入り、この仮想世界で新しい生命が誕生する。


 【赤晶竜の卵】とあるが、中から現れたのはリンに襲いかかってきたドレイクでも、巨大な【ズユューナク】の幼体でもない。

 見た目はコボルドと同じく人型で、とても可愛らしい女の子の姿をしていた。


「……がぁう」


Cards―――――――――――――

【 プリンセス・ドレイク 】

 クラス:レア★★★ タイプ:竜

 攻撃2200/防御2200

 効果:自プレイヤーが所有する【タイプ:竜】のユニット全ては、ステータス低下の効果を受けない。

 自プレイヤーが所有する【タイプ:竜】のユニット全ては、自プレイヤーのフィールド上に存在する【タイプ:竜】のユニット1体ごとに攻撃と防御+1000を得る。

 スタックバースト【竜の勅令】:瞬間:デッキから【タイプ:竜】のユニット1体を任意に召喚する。

――――――――――――――――――


「うわぁあああ~~~、かっわいい~~~~~!!」


 誕生したのは翼を持たない竜、いわゆるドレイクの姫君。

 人間の女の子をベースに、手足は途中から鱗に覆われた竜のものになり、頭からは赤い水晶の角が生えている。

 まさに、水晶洞窟で戦ったドレイクたちを擬人化したかのような姿だ。


 その能力も非常にユニークかつ強力。全ての効果が【タイプ:竜】に限定されるものの、召喚しただけで大いに恩恵がある。

 これでまた1枚、リンの戦力に新たな★3レアカードが加わった。


「卵から女の子が生まれるなんて、思わなかったよ~!

 プリンセスちゃんも、これからよろしくねっ」


「がう」


 生まれたばかりの【プリンセス・ドレイク】の前でしゃがみ込み、優しく頭を撫でてやるリン。まるで母親になったかのような気分だ。

 幼い竜の姫君は、主人の姿を美しい真紅の瞳で見つめ――


 そして、思いっきり彼女の手に食らいついたのだった。

以上で6章完結となります。お読み頂き、本当にありがとうございました。

いつものように手直しの期間を数日ほど頂き、再び7章へ繋げていく予定です。

詳しくは、後ほど更新する活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイプ竜ってことは恐「竜」に効果かかるのかな? それだったらデッキとしてもいい塩梅になりそうだけど恐竜集めたけど、龍デッキに変更になりそうな気もする
[良い点] ぅゎょぅι゛ょっょぃ ドレイクちゃん自身の効果でバブが乗るからドレイクちゃんだけでも実質攻防3200のユニットになるのか。つよい [一言] フィールドに2体のドレイクちゃんを並べた場合、双…
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