第21話 スーパーヒート・ボルケーノ その4
火山のあちこちに見られた特殊な地形は、やがて真っ黒な岩場へと統一されていく。
ここから先は本格的な山登り。どうにか戦車でも通れそうな道に沿って、マグマが煮えたぎる火口を目指す。
活発に噴火している山に一般人が登るなど、現実世界では考えられないことだ。
もはや気温は人間が耐えられる限界を超えており、空気を吸い込んだだけで呼吸器官が焼けただれてしまう。
各員が【熱耐性のポーション】を使用して防護する中、データ上でパワードスーツを着たことになっているリンだけが平然としていた。
「おお~、ほんとに何ともないよ! 体もライフも異常なし!」
「永続効果とはいえ、ポーション数千本ぶんのお値段ですからね……パワードスーツ」
「がっつり探索せんと、もったいないなぁ。
ところで、そろそろアレが出てくる頃や。気ぃ引き締めて用心しとき」
サクヤに言われて見回してみると、真っ黒な岩の間で何かが動いていた。
現実であれば耐熱防護スーツを着て登るような場所だが、こんな高熱の中でも何本かのシダ植物が生えている。
そんな限られた食料を求めて、モグモグと地面を食んでいる生物。
Enemy―――――――――――――
【 ロック・ガゼル 】
クラス:コモン★ タイプ:動物
攻撃300/HP300/敏捷90
効果:このモンスターは【タイプ:植物】からのダメージを受けない。
スタックバースト【軽やかな跳躍】:瞬間:このモンスターが受けたダメージを1回だけ半減する。
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ガゼルと呼ばれるシカに似た草食動物。砂漠やサバンナといった局地で見られる一方、植物が豊かな森などにはいない。
断崖絶壁のヤギなどもそうだが、どうしてそんな場所を生息地に選んでしまったのかは大自然の謎である。
この【ロック・ガゼル】は中型犬くらいのサイズで、頭に生えた2本の角も短い。
人間ならとっくに倒れているような危険地帯でも、野生動物はたくましく生きているようだ。
「気を引き締めろって言われたけど……なになに!? 子鹿みたいで可愛いじゃな~い!
植物耐性とダメージ軽減があるのもいいね。【アルテミス】のために捕まえておこうっと」
「カードにするんですか?」
「うんっ、こういうときのための『ちょっといいブランクカード』でしょ?」
ステラに笑いかけながらリンはコンソールを操作し、巨虫を倒して手に入れた【ハイグレード・ブランクカード:★1】を用意する。
これを★1モンスターに使えば、必ず気絶して捕獲できるという便利アイテムだ。
――が、危険を察したガゼルはビクッと顔を上げると、一目散に逃げ出してしまう。
「ああっ!? ちょっ、待ってよ~!」
慌てて追いかけたものの、人間の足では敏捷90の生物に敵うはずもなく。
ぴょんぴょんとジャンプして逃げるガゼルは、岩場の影響を受けないかのように一瞬で走り去ってしまった。
「くぅう~、せっかく可愛かったのに……」
「おーい、リン! 1人だけ離れたら危ないぞー!」
「はいはーい! すぐ戻るよー!」
ガゼルを追いかけ、隊列から離れてしまったリンを兄が呼び戻す。
しぶしぶと引き返して戻り始めたとき――彼女は地面がグラッと揺れるのを感じた。
サクヤが用心しろと言ったのは、可愛い草食動物に対してではない。
そして、ガゼルが逃げ出した理由はリンを恐れたからではない。
全ては自然の摂理。草を食べる生物がいれば、さらにそれを捕食する存在が食物連鎖の上に立つ。
「あ……この感じ、ヤバイかも」
行く先々で最大級の危険に巻き込まれてきたリンには、もはや慣れつつある感覚。
ズシン、ズシンと足音を立てながら斜面を登ってくる巨大な影。
その第一印象は冷えて黒く固まった溶岩のようであった。
しかし、実際には強靭な2本の足で立ち、全身に赤い模様が走った肉食恐竜。
火山らしく、炎の属性が付与された古代生物がリンの眼前に現れる。
Enemy―――――――――――――
【 ブラックバーニング・アロサウルス 】
クラス:レア★★★ タイプ:竜
攻撃7500/HP4500/敏捷80
効果:このモンスターの攻撃がガード宣言されたとき、自身のレアリティ未満のユニット1体に対して追加で攻撃宣言できる。
スタックバースト【爆炎吼】:瞬間:このモンスターの【基礎攻撃力】と同数のダメージをユニット1体に与える。
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肉食恐竜といえば、まず思いつくのがティラノサウルスやスピノサウルスといった代表格たちだろう。
だが、大量に繁殖して栄え、1000万年も続く王国を築き上げていた覇者といえば、アロサウルスに並ぶ種はいない。
ティラノサウルスが誕生する1億年も前のジュラ紀、すでに殺戮マシーンとして完成されていた彼らは、思うがままに地球を支配していた。
それを裏付けるかのように数百体もの化石が発掘され、すさまじい生息数だったことを物語っている。
そんなジュラ紀の支配者に、あろうことか炎属性を付与。原種の生物を超越してしまったため、タイプも動物から【竜】に変化。
全身を覆う鱗は冷えた溶岩のように黒く染まり、その隙間に赤く輝く模様が走っている。
「ボォアアアアアアアーーーーーーーーッ!!」
大音量の咆哮と共に、背中や尻尾に炎を灯すアロサウルス。まるで火が着いた石炭のごとく、漆黒から紅蓮の姿へ。
最悪なことに、すでにバトルが始まってしまっていた。
しかも、敏捷80なため先手を取られ、こちらのユニットは★1の【タイニーコボルド】だけ。
「リン! 大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃなーい! めちゃくちゃヤバいって!」
「どうして、お前はいつもそんなことになるんだよー!?」
「あたしが聞きたいよぉおおおおおおお!!」
どう考えても、このままでは勝ち目がない。一撃でも受けた瞬間に終わる。
ギルドの仲間たちが戦闘に備えてユニットを並べている中、探索するために★1を選んだリンだけが狙われるという見事な悪運。
先制攻撃を仕掛けてきたアロサウルスは、恐竜でありながら火炎のブレスを放とうとしていた。




