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第19話 スーパーヒート・ボルケーノ その2

「めっちゃ火山じゃん……」


 日本は地球上でも指折りの火山大国である。複数の海底プレートに囲まれているため、いつ噴火や地震が起きてもおかしくない。

 しかし、そんな日本人でも実際に火を吹く山を見たことがある者は少数だろう。


 長い移動距離を経て、火山に最も近い休憩所に着いた一行。

 彼女たちの目に映るのは、空を覆うほどの黒煙を上げながらマグマを垂れ流す活火山であった。

 かなり離れているはずなのに、灼熱の大気が伝わってくるかのような光景。人工的に整地された平坦な場所まで来ると、クラウディアはそこにテントを設置する。


「遠征のときに使うことになるから憶えておいて。ここが休憩所。

 エリア内は地形の影響を受けないし、モンスターも襲ってこないから安全よ。

 テントが消えるまでの10日間、この場所をセーブポイントとして保持できるわ」


Tips――――――――――――――

【 休憩所 】

 安全が確保された共用エリア。

 野営テントを設置することで10日間、休憩所をセーブポイントとして使える。

 デッキの組み換えは不可だが、日付が変わるとプレイヤーのライフと使用済みのカードが全回復。

 探検隊(エクスペディション)に所属するメンバー全員が利用可能。探検隊(エクスペディション)ひとつにつき、同一の休憩所に設置できるテントは1個まで。

――――――――――――――――――


「同じ探検隊、つまりはギルドに入ってると共有されるんだね。

 でも、これって10日過ぎたときに誰かがテントを置けば、ずっとセーブしておけるんじゃない?」


「Tipsには書いてないが、同じ場所にテントを設置する場合は5日間のクールタイムがあって、その制限もギルド内で共有されるんだ。

 一番気を付けなきゃいけないのは、現地に行ったことがない人にはテントが使えないっていう仕様だな」


「そうしないと、初心者がいきなり遠い場所までワープできちゃいますからね」


「昔は色々と抜け穴があったんやけど、片っ端から対策されてしもた。

 テントを置く人だけギルドから抜けさせて、いっぺん無所属にしてから設置後に再加入とか、あの手この手を使ってな。

 そういうズルい方法は今じゃまったく通用せえへんから、妙な悪だくみをしたらあかんで」


 経験者たちは新人に教えるように、それぞれの知識を語っていく。

 初心者の2人にとっては初めての大規模遠征。この世を焼き尽くすかのような光景に気圧(けお)されるリンと、片足を岩に乗せて火山を見上げるソニア。


「おお、紅蓮の息吹! 地球(ほし)の鼓動! ソロモンよ、わたしはこの地までやってきた!」


「こんな火山の近くでキャンプするなんて、普通じゃ考えられないよね」


 と、壮大な景色を眺めている最中に、ドォオオンと腹の底にまで響くような爆発音。

 火口から炎に包まれた火山弾が噴出され、派手な衝撃を発生させながら地面に着弾する。

 クラウディアが言うように休憩所までは届かないが、これでは戦艦から砲撃を受けている戦場を歩いていくようなものだ。


「ちょ、ちょっと! あれって当たったらどうなんの!?」


「火山弾は1発あたり9999の固定ダメージです。5桁くらい防御力があるユニットなら耐えられますけど、プレイヤーは即死ですね」


「いやいや……平然と答えないでよ、ステラ。

 この休憩所から先に進んだら、火の玉が降ってくるってことだよね?」


「まあ、しばらく見とき。花火大会とおんなじや。

 今はガンガン打ち上がっとるけど、何事にもインターバルっちゅうもんがある」


 本当に花火でも楽しむかのように、扇子を広げて山の噴火を眺めるサクヤ。

 いくらなんでもマイペースすぎるだろうとリンは思ったが、やがて少しずつ天然の艦砲射撃が収まっていく。

 灼熱に燃え上がっていた火山は急激に冷え込み、光り輝く溶岩も真っ黒に変色していった。


「よしっ、今なら行けそうだな。ここでは噴火が収まる周期を見極めて行動するんだ。

 グズグズしてると探索の時間が減るぞ! 急げ!」


「ええ~っ、ほんとに行っても大丈夫なの!?」


 時間がもったいないとばかりに、すぐさま出発する一同。噴火が収まって冷えたといっても、人間には十分すぎるほど暑い。

 地面はひたすら黒く染まり、丈の低い草がまばらに生えている以外は樹木らしきものが見当たらない。

 鼻を突く硫黄のにおいに、そこらじゅうの地面から吹き上がる水蒸気。

 毒ガスが充満している場所もあるとのことで、リン以外のメンバーは防護用にポーションを持ち込んでいる。


「こんな場所だと、たぶん生き物も少ないよね」


「普通の火山ならそうだけど、ここはミッドガルドの火山。

 新しいモンスターも追加されたみたいだし、私の【ゴリアテ】だけでは少し不安かもしれないわね。

 各自、1体ずつユニットを召喚しておいて」


「おうよ、ユニット召喚! 【シャドーブレイダー】!」

「【キラージョー】!」

「【デスモドゥス】!」


 クラウディアは引き続き戦車を盾にして先頭を進む。

 戦線を強化するためにユウはカマキリを、ソニアは金属で覆われた機械のサメを、ステラは洞窟の大コウモリを召喚した。


「ほな、うちも参戦しよか。ユニット召喚――【ナラシンハ】!」


「ガォオオオオーーーーーーウウ!」


 それらに加えて、サクヤは先日引いたばかりの★3レアユニットを惜しげもなく投入。

 古代インドで鬼を討ち果たしたライオンの獣人、【ナラシンハ】が雄叫びを上げながらカードから飛び出す。

 岩すら砕きそうな太い腕に、恐ろしくも神々しい獣の頭部。その姿にユウとソニアは同時に感嘆の声を上げた。


「「かっこいい~~~~~っ!!」」


「おおきに。せやけど、自分のユニットも可愛がってあげんと()かれてまうで」


「わぁ~、サクヤ先輩がユニット連れて歩いてるとこ、初めて見たかも」


「ふふふ、発売日のときに引いた子やし、お披露目にはちょうどええ思てなぁ」


 今や新鋭ギルドと評される【鉄血の翼】。そこに所属する面々が使役する強力なカードたち。

 これだけ多様なユニットが並んでいるのに、彼女らはまだ本気を出していない。

 さらなる強化も可能だが、すでに戦力は十分そろっていると感じたリンは、少し悩んだ後でクラウディアに相談する。


「えっと……あたしは採取用のユニットを出してもいいかな?」


「そうね。こうして火山まで来た目的は、リンが【マグマ岩】を採取すること。

 もちろん探検隊としての活動で経験を積んでもらうことも兼ねているけど、達成すべき目的を優先しても構わないわ」


「うんっ! じゃあ、ユニット召喚――【タイニーコボルド】!」


Cards―――――――――――――

【 タイニーコボルド 】

 クラス:コモン★ タイプ:悪魔

 攻撃400/防御200/敏捷60

 効果:このユニットがバトルによって破棄されたとき、相手プレイヤーに防御力と同数のダメージを与える。

 スタックバースト【鉱脈への導き】:瞬間:デッキからカードを1枚ドローする。

――――――――――――――――――


「わぉ~~~~ん!」


 リンの召喚に応じて、可愛らしい犬の姿をした半獣半人の少女が現れる。

 サクヤのユニットと同じく獣人なのだが、こちらは鉱石の採取が得意な★1ユニット。

 こう見えても種族は悪魔であり、土の元素を象徴する精霊ともいわれている。


「今回は火山だよ、コボルドちゃん。珍しい鉱石がいっぱいあると思うから、頑張って探そうね!」


「わうっ!」


 リンに懐いているコボルドは、パタパタと尻尾を振りながら元気よく答えた。

 彼女たちが危険極まりない火山を訪れた目的。それは【マグマ岩】を採取し、水晶洞窟の奥で発見した謎の卵を孵化させること。

 大会や5周年があったため先延ばしになってしまったが、リンたちは再び探検隊として謎の解明に挑むのだった。

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