第14話 楽しい食材集め その4
「フゴーーーーーッ!」
虫とキノコたちが共生する終焉の地。この墓場で襲いかかってくるのは、昆虫タイプだけではない。
毒の胞子を撒き散らしながらモンスター化したキノコが立ち上がり、ハエトリ草のような食虫植物までプレイヤーを襲う。
「おっしゃあ、ガンガン蹴散らすぜぇ!」
この日はユウが絶好調。昆虫タイプにはカマキリが、植物にはカブトムシの特効が見事に刺さり、さらにトンボのおかげで先攻も取りやすい。
使い始めたばかりの昆虫ユニットたちが、次から次へとモンスターを撃破していく。それらのカードを勧めたリンですら、圧倒的な光景に唖然とするしかなかった。
「うわ~……あたしの出番、ほとんどなさそう。今のうちにリンクカードを装備させなきゃ」
一方のリンは久々に【アルテミス】主体の編成に変えたせいか、やや立ち上げに手こずっている。
スピノ親分をスタックバーストさせておけば何とかなってくれた水棲デッキと違い、実戦投入したときの感覚がまるで違うのだ。
ユニット3体で行っていた物資収集も1体でしかできなくなり、【アルテミス】に特化しすぎているためアタッカーが限定される。
しかし、それでもリンにとっては己を導く光であり、運命によって手に入れた★4スーパーレア。
「とりあえず、ステータスの確認だね。
【アルテミス】の敏捷は遅いわけじゃないけど、特別早いわけじゃないのかな?」
Cards―――――――――――――
【 月機武神アルテミス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神
攻撃2600/防御2600/敏捷80
効果:リンクカードを何枚でも装備できる。
スタックバースト【超次元射撃】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。
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新たに追加されたステータス”敏捷”を見てみると、女神は平均値よりも少し上。
素早いモンスターには追い抜かれるが、ほぼ先手を取れる数値である。
意外なことに、それをカバーしているのが新しい主力カードの【エクシード・ユニオン】。
装備品として選んだ★1ユニットの基礎ステータスが上乗せされるのだが、ミッドガルド限定で敏捷もステータス扱いになっている。
Cards―――――――――――――
【 水晶ヤモリ 】
クラス:コモン★ タイプ:動物
攻撃100/防御500/敏捷100
効果:リンクカードを装備していないユニットから受けるダメージが半分になる。
スタックバースト【擬態】:永続:このユニットがガードを行ったとき、3分の1の確率で相手ユニットの攻撃を無効化する。
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現在装備している【水晶ヤモリ】は非常に素早い。
【アルテミス】の合計ステータスは攻撃2700、防御3100、敏捷180となり、よほどのことがない限りは常に先攻だ。
「攻撃と防御のリンクカードを半々で付けて、【水晶ヤモリ】もスタックバースト!
これで【エクシード・ユニオン】の効果を全部使えるね」
もはや、リンにとってはお得意の戦法。【アルテミス】に数々のリンクカードを持たせて小型要塞にしてしまう。
さらにヤモリの効果が付随して、リンクカードを装備していない相手からの被ダメージ半減。そして、3分の1の確率で攻撃を完全回避。
見違えるほど頼もしくなり、アタッカー兼タンクとして安定感のある強さを誇る。
「あれ? ワイバーンちゃん、けっこう早い?」
「ピャア~ウ」
Cards―――――――――――――
【 ブリード・ワイバーン 】
クラス:コモン★ タイプ:竜
攻撃300/防御300/敏捷120
効果:自プレイヤーのターン開始時に成長し、攻撃と防御の『基礎ステータス』が2倍になる。この効果は2回まで行われる。
スタックバースト【突然変異】:永続:1回成長する。この効果は上限に含まれない。
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先ほどからリンの隣りを飛んでいるワイバーンの敏捷は、なんと120に達していた。
さすがに敏捷特化の【メガニューラ】には負けるが、それでも非常に高く設定されている。
問題は、まったく戦力にならないことだろう。
このミッドガルドでワイバーンは成長しない。ターンが進むたびにステータスが上昇するタイプの効果は、全て封じられてしまっているからだ。
編成に組み込んで敏捷の平均値を底上げできるものの、【アルテミス】はすでに十分早い。
「んん~……悩ましいね、キミは。
せっかくの敏捷だから有効に使ってあげたいんだけど……」
「お~い、リン! 準備ができてるなら手伝ってくれ!」
「あっ! はいは~い!」
虫や植物のモンスターを蹴散らしていたユウだが、戦闘の連続で疲れが見え始めた。
リンも参戦し、兄妹2人がかりで立ちはだかる敵を倒していく。
それほど虫が嫌いではないリンも、さすがに巨大昆虫の群れには目を背けたくなるのだが、助けに来てくれた兄のためにも頑張らなければいけない。
初心者にとっては難易度が高すぎる深き墓場。その景色は幻想的で、頭上を仰ぐとはるか高所に崖の亀裂が走っている。リンはあそこから落ちてきたのだ。
まるで夜の蛍光灯のように、その亀裂の隙間から日光が射しているのが見えた。
しかし、谷の底までは光が届かないため、水晶やキノコの淡い明かりを頼りに進むしかない。
「このルートだと、あそこを通ることになるか……回り道をしてたらポーションが切れそうだし、仕方ないな」
「何かヤバイ場所があるの?」
「見れば分かる。急いで通り抜けるから、はぐれるなよ」
「うん……っ」
強運に愛されたリンといえども、兄の案内がなければ脱出は不可能だろう。岩や植物が入り組んだ自然の迷路を抜けると、急に視界がひらけて広い場所に出た。
そこは墓場の中心地、いたる場所に転がる骨、骨、骨。
かつて地上を跋扈していたであろう巨獣や竜が朽ち果て、赤黒い骨となって風化している。
「うえぇ……たしかにヤバそう!」
「ここは『死の大広間』。地上で生を終えたモンスターが辿り着く場所らしいが、こいつらの仲間にはなりたくないな」
足下に転がる骨に気を付けながら、兄妹は足早に駆け抜けた。
これが盛者必衰というものなのだろう。眠りについた数多くの骨たちは、生命の終わりそのものだ。
まるで、地上で生を謳歌した強者が自らの意志で墓場を選んだかのような大広間。そこは死で満ちていたが、ある種のロマンを感じさせる場所でもあった。
――しかし、ノスタルジーに浸っている暇もなく、積み重なった骨の一部がグラグラと揺れ始める。
「わっ、な、何!?」
「くそっ、見つかったか……!」
食物連鎖の頂点に立つ者も、いずれは朽ちて土に還るのが世の定め。
ここまでの道では虫やキノコが掃除人となって腐肉を処理していたが、この大広間には彼らの姿がない。
ならば、かつて強者であった偉大なる骨たちを、一体”何が”土へと還しているのか。
その答えを知ったとき、リンの顔は再び恐怖で青ざめたのだった。




