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第10話 夢のシステムキッチン

 ギルド【鉄血の翼】が拠点にしているミッドガルドのコテージ。

 定期的なポイントの支払いで維持するレンタルスペースであり、賃貸の継続日数によって特典が開放されるようになっている。


「早いもので、50日目の継続特典が開放されたわ。

 このコテージに追加される機能は『スペース拡張』と『10個までの家具の配置』。

 人員を増やす予定はないし、今は拡張しなくてもいいわよね?」


 その日はメンバー全員が出席して、ミーティングから始まった。

 クラウディアの言葉に異を唱える者はおらず、建物の内部を広くする拡張工事は見送られる。


「配置できる家具が10個って、ちょっと少なくない?」


「賃貸契約がなくなると、コテージに置いた家具は消滅するからな。

 事前に回収することは可能なんだが、間に合わないと消える危険性がある。

 そのリスクを最小限にするために、置ける家具の数は少しずつ解放されていくんだ」


 リンの問いに答えたのは、サブリーダーを任されているユウ。初期に置ける家具が少ないのはプレイヤーへの配慮である。

 賃貸契約が危うくなるとメンバー全員に通知が送られるため、よほどのことがない限りは急な引っ越しにならないのだが。


「まあ、私がいる限りは(とどこお)りなく契約し続けるから、その点は安心して。

 今回はサクヤからの申し出があって、3つの家具を置くことになったわ。

 システムキッチンと食器棚、そして冷蔵庫」


「「「「おおおーーーーーーーっ!!」」」」


 5周年アップデートで実装された調理器具の数々。品質によって作れる料理の幅が違い、高級なものほど多種多様なものが作れる。

 システムキッチンは高価だが、プロ仕様の料理以外はほぼ製作可能。

 棚にはメンバーたちが使う食器を、冷蔵庫には食材を入れておけるようだ。


「全部サクヤが出資して買い揃えてくれたのよ。感謝して大切に使いましょう」


「いいんですか、サクヤさん!?」


「大会の報酬があったから、ど~んと払ったったわ!

 うちは年長やのに、面倒事はリーダーとユウに任せっきりやし。可愛い後輩たちのためにも、ひと肌脱いだろ思うてな」


「わぁ~! ありがとう、サクヤ先輩!」


「大会で成果を上げ、その報酬で仲間を(うるお)す! まさしく、ノブレス・オブリージュであります!」


 ノブレス・オブリージュとは『高貴な身分の者ほど、民衆への責務を果たすべき』という(いまし)めのような格言。

 自由人のサクヤには、むしろ説教になってしまうのだが、ソニアはまったく意味を理解していない。

 サクヤもそれは分かっているので、『可愛いなぁ』と笑いながら受け入れている。


 ミーティングは以上となり、さっそく導入された家具を見に行く面々。

 未成年の中高生にとって、自分たちが好きに使えるキッチンは新鮮そのものだった。


「食器棚は空っぽだね。自分が使うものを入れておけるのかな?」


「そうみたいですね。食器は自分たちで用意するとして、冷蔵庫は――」


「そこに食材を入れておけば、誰でも使えるように共有されるわ。

 他の人に食べられたくないなら、自分のコンソールに入れて持ち歩くこと。

 食べ物のトラブルは起こさないようにね」


「あ~、戦争の火種になるヤツだ。ウチのバカ兄貴がよくやるよ」


「お前だって常習犯だろうが! 最近はバレないように、ほんの少しだけ盗み食いする手口まで覚えやがって!」


「あはは……指摘されてる時点でバレてますね」


 VRなので汚れることはなく、ステンレス製のキッチンは傷ひとつないピカピカの状態。

 食器棚や冷蔵庫も今は空っぽで、これからメンバーたちが物を入れていく。

 現実世界とは違い、飲食物に消費期限はないし鮮度も落ちない。


「食材って、お店で売ってるのかな?」


「店売りの商品もあるし、ミッドガルドから取ってきたもんも使えるらしいで」


「そうそう、探索が面白くなりそうなんだよね!

 とりあえず、これまで集めてきたものを入れてみよ~っと」


 リンはコンソールを開いて、現時点で持っている飲食物を確認する。

 肉や魚、果実などはいくつかあるが、そのほとんどがペットたちに与えるエサだ。


 他に持っているのは、コボルドが洞窟で捕まえた大きなカエル。

 これも食材扱いのようだが、メンバーが共有する冷蔵庫に入れるわけにはいかない。


「あ……! あのさ、マグロ入れていい? クロマグロ、丸ごと1匹」


「「「「「は……?」」」」」


 リンの所有アイテムの中に眠っていたのは、海釣りをしたときにスピノサウルスが採取したクロマグロ。

 そのサイズ、なんと3m。重さ400kg。

 解体には熟練の技術を要する上に、家庭用の冷蔵庫では収納しきれないのだが、ここは物理法則が無視された世界だ。


「別にいいけれど、マグロって……ツナ缶にでもなるのかしら?」


「ツキジ! スシ! サシミであります!」


「寿司か~。米だったら、あてがあるぞ。

 ルームで田んぼをやってるフレンドが大量に持ってるはずだ」


「あとはお酢と、お醤油。どっちもお店に行けばありそうです」


「ええやん、トロ寿司の食べ放題!」


「マグロだけだと飽きちゃうかもしれないし、もう少し食材を集めてくるものいいかも。

 エビとか、卵とか、イクラとか」


「イクラ……あるんでしょうか、この世界に?」


 これまで持て余していたマグロも、食べられるとなれば価値が変わる。

 とりあえず、この日は解散して各自で食材を探し、寿司パーティーをしてみようということで話がまとまった。

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