第8話 待ちに待った5周年 その4
「へぇ~、このカードは……ふむ……」
「ソニアちゃん、★2の飛行ユニット引いたんだけど、いる?」
「当然至極! 見せてほしいであります!」
仲間たちと一緒に、にぎやかなパック開封。決闘とは違ったカードゲームの楽しさを満喫しながら、リンは1箱目を開けきった。
良さげなカードは何枚か入手できたし、そもそも持っているカードが少ないリンには十分な戦力強化だ。
しかし、やはり欲しいのはデッキの要となるレア。
ユウは運良く1ボックスで引いたが、★3など滅多に出るものではない。
「よ~し、この箱に期待だね!」
これから開ける箱は、イベントの上位報酬としてもらった★3以上確定ボックス。
★4など狙って出るものではないので、実質、レアが必ず1枚手に入ると考えればよいだろう。
先ほどサクヤが賞品の箱を開け、実際に強力なユニット【ナラシンハ】を引き当てている。
当のサクヤは、すでに2箱目の開封に着手していた。
彼女はレア確定ボックスを2つ持っていたため、当然――
「よっしゃ、★3来たでー! せやけど、ほほう……これはなんとも」
再び引いたカードを見せてくれたサクヤだが、その効果を見た一同は息をのむ。
明らかに強さが分かる★3リンクカード。
新シリーズ『リミテッド・ユニオン』の特徴である【タイプ】の操作を取り入れつつ、目に見える形で強化する1枚。
Cards―――――――――――――
【 航宙型新式機関バーニア 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:【タイプ:機械】のみ装備可能。このカードを装備したユニットに【タイプ:飛行】を追加する。
該当のユニットはバトル以外のダメージを受けなくなり、さらに他のリンクカードを1枚追加で装備できる。
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なんと、宇宙船の動力エンジンと噴射口である。
宇宙航行すら可能になる装備品であり、当然ながら機械タイプにしか扱えない。
そして、カードを目にした全員の視線が一点に集中した。
機械ユニットを扱う者といえば、やはり彼女を置いて他にはいないだろう。
「なるほどね……サクヤ、後であなたにトレードを申し込みたいんだけど、いいかしら?」
「ん~、コイツはけっこうお高いで? 最終兵器をブッぱなすような、やんちゃな子もおるしなぁ」
「私もそれなりにカードを持っているから、ご希望に添えるとは思うわ」
「ほほ~! ほんなら、後で相談っちゅうことで」
やっぱり、そうなるかと。居合わせた全員が納得してうなずく。
クラウディアのことだ、このカードを誰よりも上手に使うに違いない。
サクヤとしても、より自分向けのカードと交換できるならプラスになるはずだ。
「(ああ~……きっついなぁ)」
当然ながら、頭を抱えたのはリンである。
先の『ファイターズ・サバイバル』では実現しなかったとはいえ、正面からぶつかりあったら苦しいクラウディア。
そもそも彼女のデッキは防御力が高くて【全世界終末戦争】が効きにくいのに、これで完全に防がれてしまう。
「さすが世界の冠たるお姉さま!
わたしが空軍を目指している間に、大気圏を越えて宇宙へ行こうとしているであります!
1歩先どころか、これでは1万光年も先! 火星に行くなら、じゃがいもを持っていくのです!」
なぜ火星にじゃがいもなのかは不明だが、姉を敬愛するソニアは大はしゃぎ。
あの巨大ロボット【ダイダロス】が宇宙船になって飛ぶ姿は、ちょっと気になる。
しかし、さすがにリンは手放しで笑っていられなかった。
「(これでサクヤ先輩、クラウディア、兄貴まで一気に強くなっちゃうのか~。
ほんと、3位になったくらいじゃ、うかうかしてられないね。
あたしにも、いいカード来ないかな……)」
必ずレアが引けるボックスとはいえ、こうも周りが成果を上げていくと焦ってしまう。
次々とパックを開封していくが、出てくるのはコモンやアンコモンばかり。2箱も開けているため、だんだん同じカードが被るようになる。
――が、通常なら何も引けずに終わってしまうボックスも、今回ばかりは特別仕様。
「ん…………んん~~~~???」
「お、どうした?」
「いや……★3を引いたんだけど」
「確定枠が来たんですね。おめでとうございます!」
「ああ……うん、たしかにレア……レアだけど、ちょっと待ってね」
リンが手に入れたのは、★3のリンクカード。
レアリティ相応に、他にはない非常にユニークな効果が書かれている。
Cards―――――――――――――
【 エクシード・ユニオン 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:このカードを装備させるとき、使用者のデッキの中から★1ユニット1枚を選択して媒体にする。
媒体となるユニットの【基礎ステータス】を強化効果として付与。これには【敏捷】も含める。
さらにタイプとユニット効果を矛盾しない限り付与し、可能であればスタックバーストも発動できる。
――――――――――――――――――
かなり珍しく、★1のユニットを装備してしまうという不思議な1枚。
装備品としての強化効果は、★1のステータスを上乗せする程度なので高くはない。
注目するべき点は【タイプ】とユニット効果を、他のユニットに移すことができるという点だ。
「お、おお~……これは……」
「テクニカルですけど、ものすごく可能性を秘めたカードですね」
「いや、めちゃくちゃ強いで?」
「そうね、たしかに強いわ。使いこなせたらだけど」
【全世界終末戦争】を引いたときの大騒ぎに比べたら、メンバーたちの反応は静かなもの。このカードは万人が強さを実感できるものではない。
通常のリンクカードと違い、これ1枚では何の役にも立たないからだ。
しかし、使いこなすことができれば可能性は無限大。
プレイヤーがどれだけ★1ユニットを熟知し、その力を引き出せるのかに懸かっている。
「んんんん~~~~~~……」
リンは自分が所有する★1ユニットが装備品になった場合、どんな利点があるのかを考えてみた。
たしかに、しっかりとカードを選んでデッキを組めば強い。
しかし、弱点もある。
効果を得るためにリンクカードの枠を使用してしまうので、それ以上は装備品を持たせて強化することができないのだ。
「(あれ? 待てよ……これを使った上で他のリンクカードも装備できるユニット、うちにいたよね!?)」
そのとき、リンはひとつの答えにたどり着く。
大会ではあまり活躍させてあげられず、悔しい思いをすることになった1枚のカード。
リンクカードを無限に装備できる彼女なら、何も問題なく使いこなしてくれるはずだ。
「きた……きたきたきたああああああああああああっ!!」
そして、天啓が舞い降りた。
リンを戦いへと導いてくれた女神と、これまで可愛がってきた★1ユニットの共存。
それを可能にする魔法のような1枚が今、手の中に来てくれたのだ。




