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第5話 待ちに待った5周年 その1

「今こそ目覚めよ、隠されしユニットの力!

 戦いの時代を切り開くのは(いにしえ)の勇者か、新しき星々か。

 ラヴィアンローズ新規追加カードシリーズ、『リミテッド・ユニオン』。

 GO ON SALE」


「というわけで~! みなさ~ん、こんにちは~!」


「おはようとか、こんばんわかもしれないけど、ついにこの日がやってきたのだ!」


 その日、ラヴィアンローズ公式から配信された映像は、新規追加カードのプロモーション映像から始まった。

 続いてハイテンションに登場したのは、毎度お馴染みのイベント担当キャラクター、スーツに身を包んだウェンズデー。

 そして、日本ワールドのマスコット、小柄なキツネの姿をしたコンタロー。


「みなさんにご愛好いただいているラヴィアンローズも、ついにサービス開始から5年目を迎えました」


「まさに感謝感激! たくさんの人たちに楽しんでもらえて、ボクたちも本当にうれしいのだ」


「先日行われた前夜祭イベント、『ファイターズ・サバイバル』も盛り上がりましたよね~!

 決闘(デュエル)で使われていたカードの数々が印象的でしたが――」


「そのカードに新しいシリーズが追加、本日の正午12時より『リミテッド・ユニオン』が発売するのだ~!」


「これから2週間、スムーズに購入できるように各地に出張ショップが設置されますが、コンソールから買うことも可能です。

 すぐに買いたい方はデータ通信で、お店で買いたい方はショップでお求めいただけます」


 21世紀ともなれば、もはやゲームは店舗探しや行列待ちといった(わずら)わしさに悩まされず、発売日に購入できる。

 ラヴィアンローズのカードは全てデータであるため、買い占めや発送遅れもなく、わざわざショップへ行く必要もない。

 しかし、新発売のパックを自分の手で買い、ショップの賑わいを実感したいという者もいるため、店頭での販売も行われていた。


「わぁ~! 特設のお店なのに、すごい人だかりだね!」


「新しいカードの発売は、それ自体がイベントみたいなものですからね」


 この日は休日なので、リンはとステラ午前中からショップの行列に並んでいる。

 中央公園(セントラルパーク)に設営された多数の仮設ショップは、どこも列待ちの状態。

 つい先日、大会があって賑わったばかりだというのに、大勢の人々が集まってきていた。


 初心者であるリンは、その雰囲気を体験するべくショップで購入することにしたのだ。

 大会3位になったため、その気になれば大量に買い込めるほどのポイント資産を持っているが、この日の購入は1ボックスのみ。

 賞品としてもらったボックスと合わせて、2箱開ける予定である。


 その待ち時間にも、公園のモニターに5周年記念の映像が流れ続けているため退屈はしない。


「さて、今回は5周年を記念して、より皆さんに楽しんでいただけるように大規模なアップデートが行われます!

 そのひとつが新しい追加シリーズとなる『リミテッド・ユニオン』!」


「今作のコンセプトは、ずばり新と旧。

 まったく新しい効果を持つものから、これまでのカードを強化するものまで、色々なカードが実装されるのだ。

 スタッフいわく、かなりテクニカルな内容になっているそうだけど、これが新しい風を吹かせるシリーズになることを期待しているのだ~」


「追加されたカードの詳しい情報は、実際にみなさんの目で見ていただくとして……

 続いて、こちらのアップデート! まずは、映像をご覧ください!」


 ウェンズデーの合図と共に流された映像は、広大なミッドガルドの大自然。

 深い森林の中で小型の恐竜や肉食獣たちがなわばりを争い、ひときわ立派な体格のサーベルタイガーが他の生物を追い払って勝ち残る。

 我こそが支配者といわんばかりに咆哮する密林の猛獣。


 しかし、その咆哮を上から塗り潰すかのように、すさまじい怒声が森の奥から響き渡った。

 大地を揺らし、樹木をなぎ倒しながら突進してくる何者かの影。

 やがて、サーベルタイガーの前に飛び出したのはたくましい銀色の獣。1頭のゴリラであった。

 現実世界のゴリラとは、大きさから筋肉の量まで何もかもが違う別格の存在。


 にらみあった両者は威嚇し、闘争本能をむき出しにして激しく吠える。

 結果的に、先ほどまで勝者であったサーベルタイガーは戦うことすらなく逃げ出してしまった。


 両手で胸を叩き、強者として密林を支配するゴリラ。

 そして、空には巨大なプテラノドンに似た翼竜が、洞窟には紫色の舌を口から出した大蛇が、険しい山岳にはドラゴンのような生物が潜んでいる。

 ここで映像は終了したが――最後に表示された文字の存在感が、プレイヤーたちを熱狂の渦へと引き込んだ。


『ミッドガルド大型アップデート! ★4野生モンスター、解禁!』


 まったく事前に出回っていなかった、サプライズな情報。

 人々の反響はまたたく間に日本ワールドを染め尽くし、拍手と驚きの声が駆け抜ける。


「は~い、ということで! みんな大好きミッドガルドにも、アップデートが入りま~す!」


「★3レアモンスターよりも強力な★4の実装、ステータス倍率はなんと……めちゃくちゃ強力な4倍!」


「4倍! ★3のステータス3倍ですら強敵なのに4倍ですよ!

 これらの強力な野生モンスターは、ミッドガルドのどこかにいるようですが、出現率はかなり低いようです」


「こんなバケモノが何匹もうろついてたら、危険すぎて探索できなくなってしまうのだ。

 みんな会いたがってるかもしれないけど、出会ってしまったら激戦は必至。戦いを挑む場合は十分な準備が必要なのだ」


「ところで、この★4モンスター……まさか、捕獲してカードにできたりは……」


「残念ながら、ネームドと同じく捕獲は不可。

 でも、これらの強敵を倒すと他では得られない貴重な報酬が手に入るのだ。

 実際に何がもらえるのかは、そのときのお楽しみ!」


 がっかりしつつも、興奮にざわめくプレイヤーたちの声。

 捕獲することはできないが、ネームドと違った強敵として追加される新モンスター。

 カードの発売を待つ人混みの中で、リンとステラも歓喜の声を上げている。


「すご~い! めっちゃ面白そう!」


「ものすごく強そうですけど、戦ってみたいですよね!」


「ミッドガルドか~。しばらく大会で忙しかったし、またみんなで行きたいなぁ」


「火山に行こうっていう話になってましたよね。リンが拾ったアレのために」


「そうそう、マグマ岩が必要みたい」


 再び始まるであろう大冒険への期待。

 2人が楽しげな会話をしている間にも映像は進み、引き続きアップデートの内容が告知されていく。


「ミッドガルドの大きな変更点が、もう1件。

 5周年アップデート以降、全てのモンスターとユニットに【敏捷】というステータスが設定されます。

 これまで野生モンスターとの戦闘では、先攻と後攻がランダムで決まってましたよね」


「今後はお互いの【敏捷】によって決まるのだ。

 この変化によって単純な攻撃と防御だけではなく、速さに長けたユニットを使う意味も出てくるのだ」


「ちなみに複数のユニットがいる場合、【敏捷】は平均値を参照します。

 強い代わりに遅いユニットのサポートとして、速い子を編成するのも戦略になりますね。

 ミッドガルド関連は以上になりますけど、次の情報も超重要! ラヴィアンローズに求められていた、夢の機能が実装します!」


「それでは、再びプロモーション映像。

 特別ゲストとして、あの方に出演してもらったのだ~!」


 再び流れ始めた映像。初心者として日が浅いリンは、このとき初めて彼女の姿を見ることになる。

 モニターの向こうで豪華な椅子に座す、優雅なアイスブルーのドレスをまとった女性。

 その美しさに見とれるよりも早く、リンの中でゾクッと直感が告げる。彼女はただ者ではないと。


 それもそのはず、彼女こそが最強を冠する者。

 3代目ワールドチャンピオン――千花女王クイーン・オブ・ガーデン、ガートルードであった。

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